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1話 宇宙人
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「こいつオタクじゃん、きっも」
「へえ、アニメなんて好きなのかよ。見た目通りにダサい奴だな」
「で、金あんの?」
オレこと檜山時実はいじめられっ子の地味なメガネ野郎だ。小学校時代からずっと嫌な連中に虐められている。
理由は簡単。
『オタクだから』
これだけである。
オレをいじめるのは金髪ギャルの藤宮涼菜と、その取り巻きの男である京本大河と進藤結城の二人だ。
こいつらはタチの悪い連中として有名であり、
「……無いです」
オレの財布にはほとんど金が入っていない。それもそのはず、こいつらに恫喝されて親の金をちょろまかしたのがバレてしまい、こっ酷く怒られた。
結果お金は貰えず、こうして正直に話して許しを乞うことしかできないのが現状であるが、当然許してもらえるはずもなく殴られる。
「とりあえず財布出せ」
「えっとぉ、1000円くらいしか無いわ」
「マジかよ。カラオケ行くのに全然足りないじゃん」
オレの財布から残りの金は全部むしられ、体にはたくさんのあざがつくほどに殴られたり蹴られたりと、彼らの気が晴れるまでサンドバッグとして扱ってもらうことになった。
「行きましょうよ。もう嬲っても何も出ないわ」
「ちっ、お前の脳みそ並みにしけてやがんな」
「次はちゃんと金持ってこいよ」
オレには友達もおらず、学校では常に孤立している。友達作りが昔から下手なのもあるが、藤宮涼菜のグループに目を付けられ、ああしていじめを受けているのがここでの生活における終焉を意味している。
彼女の勢力は教師陣にも顔が利くほど巨大であり、学校内でオレのような弱い立場にある生徒は彼女に逆らうことはできない。
「大体、いじめられるのはあなたが悪いのよ。いつまでもビクビクしてさ」
教師に落ち込んでいるところを見られてはこうしてオレが悪いと説教を垂れてくる。
「はい……すいません」
「なんで謝るの? あなたは私に悪い事をしたわけじゃないんだけど」
この女は自分が正しいと思い込んでそれを他人に押し付けるタイプだ。こういう輩が一番厄介なのは言うまでもない。
「そうやって卑屈だからいじめられるんでしょ! もっとシャキッとしなさい!」
バシッという音と共に頬に強い痛みを感じ、地面に倒れ込む。これが最近の日常風景の一部となっている。
オレが教室に戻るといつものようにクラスメイト達から蔑んだ視線を浴びることになるのだが、それすらも慣れてしまった。そこには涼菜たちのグループもおり、にやにやとオレの方を見つめては笑い合っている。
オレは辛いことばかり考えてもつまらないと思い、今朝見たニュースのことを考える。
「UFO、か」
ニュースの内容はオレの住むこの街の近郊に、なんとUFOと思われる未確認飛行物体が落下したことである。
それは見たところ、これまでに想像されていたUFOそのもので、墜落してなお形を綺麗に残しており、外観には傷一つさえ付いていなかったという。
相当な耐久性であり、人類の科学力を容易に飛び越えた文明の予兆には、多くの人間の関心を集め、早速UFOの研究が始められることとなる。
「UFOが出たって?」
「宇宙人は?」
「乗組員は今のところ見当たらないらしい」
「そんな馬鹿な」
「でもあのUFOだぜ? あれだけの大きさだったらかなりの人数乗れるんじゃないのか?」
「じゃあ宇宙人が侵略に来ていて、見つからないよう、人間たちが来る前に降りちまったんじゃないのか?」
「それならUFO以外痕跡の一つも無いのはおかしいよな」
生徒たちの間では様々な憶測が飛び交っており、中には宇宙人とのコンタクトを望む者も少なくなかった。
しかし大半の人間は宇宙人などいないと考えているようで、ただ単に話題性があるから騒いでいるだけのようだ。
「……」
もし本当に宇宙人がいるとしたならば、それはそれで興味深い話ではある。だが今の世の中ではその可能性を否定する意見の方が多く、宇宙人の存在を信じているのは一部のマニアだけだ。
テレビもテレビで大概胡散臭いし、メディアの力でUMAを解明するのは相当に困難であろう。
『えー、私たちはただいま現場に到着したところです。深夜墜落したと思われるこの未確認飛行物体の付近において、なおも乗組員の行方が捜索されていますが、目立った情報は入ってきておりません』
ホームルーム前に、オレはUFOの中継をスマホを通して視聴していた。
『私はここにいます。ご覧ください、この謎の物体。大きさは恐らく直径50m程でしょうか。我々の常識を超えた技術で作られたものであることは間違いありません』
山中に落下したUFOは地面を抉り、木々を枝のように薙ぎ倒しており、その光景はまさしく異常であった。
『我々には宇宙からの来訪者に心当たりがあります。彼らはおそらく私たちと同じ地球と似たような惑星に暮らし、地球人と同様の言語を用いてコミュニケーションを図ってきたのです。そして彼らの目的は分かりませんが、その圧倒的な力は、これまで数々の偉業を成し遂げてきたのでしょう。UFOの墜落は単なる偶然ではありません!』
リポーターの興奮する声はスタジオに伝わり、視聴者たちに緊張感を与えるには十分すぎるほどのものだった。
「まさかこんなことが……」
「おい、これマジっぽいぞ」
「マジかよ! ヤベーじゃん!」
「え? 何? UFOって本当なの?」
話題作りのためとはいえ、こんなにインパクトのある内容は視聴者たちの目を釘付けにするのに十分な内容だった。
「どうせ嘘だろ」
「だよな。絶対CGとか使ってるわ」
「でも、もしも本物だとしたら……」
「怖いよね。宇宙人が攻めて来たら日本はおしまいだね」
生徒たちの反応も二分している。
オレはどちらとも言えない気持ちではあるが、実際にこんなものを見せられたらもしかすると宇宙人が実在するかもしれないという可能性は否定できない。
「おい、ホームルームを始めるぞ」
教室はUFOや宇宙人といったオカルトの話題で持ちきりだったが、それを気怠そうに首を揺らしながら入ってきた担任教師が断ち切ってきた。
「宇宙人なんかいるわけないだろ。くだらないことを話している暇があったら席に戻れ」
「ええ、宇宙人はいるしー」
「そうだそうだ」
「だから、いるかっての」
担任はあくまでもマイペースであり、宇宙人の話をする生徒達に呆れた様子を見せていた。
「はい、静かにしろ!今日はテストをやるぞ」
教室中がざわつく。この担任、抜き打ちテストが大好きで、事前に予告をした試しがない。
「お前らは授業中に居眠りばかりしてるからな。今回は特に厳しくいくから覚悟しておけよ」
生徒たちはため息をつくが、それを気にせず、先生はプリントを配り始める。
配られたプリントの内容はとてつもなく難しい。オレは居眠りなどはしていないのに、なぜこんなに問題が難しいのだろうか。
「よし、全員に配ったな。じゃあこれから10分間は問題を解いておけ。ホームルーム終了間際に問題は回収するからな」
「ええー」
「うそぉ」
「早く終わってくれぇ」
みんな文句を言いながらも必死に問題を解いている。
オレは難しいとは思いながらも問題を地道に解いていき、後は一限に向けての休憩に回す。その間に考えていたのは宇宙人のこと。
正直なところ、侵略してきたんじゃないかという宇宙人と思しき存在に、この腐った世の中を直してもらいたかった。
「神頼み、なんかな」
UFOはあっても、宇宙人は影も形も無い。オレの願いはまさに神頼みにも等しく、それこそ馬鹿げた行為だろう。
「ふぅ」
結局、答えは分からず、チャイムが鳴ると同時に解答用紙が集められる。
「はい、時間切れ。じゃあ解答用紙を回収するから」
「待てよ、まだ全部書いてねえよ」
「時間切れと言っただろうが、ほらよ」
「くそがっ!」
そんな涼菜の取り巻きである男の一人、進藤結城はオレのことを睨みつける。これはまたオレがサンドバッグにされるだろうと思わされる。
「おい、面貸せ」
放課後、オレは涼菜たちに呼び出され、鬱憤晴らしの暴力に巻き込まれる。何度も何度も殴られたり蹴られたりし、全身傷だらけだ。
「おい、起きろよ」
倒れたところに腹を踏まれ、オレの口からは胃液が吐き出された。
「きったねぇなぁ!こっちまで吐きそうになるわ」
「さすがにやりすぎだろ。あははは!」
「あたしにも、蹴らせなさいよ!」
「ああいいぜ! 俺もこいつの顔がもっとボコボコになるところが見てみたいぜ!」
「ぎゃははははははははは!!」
笑いながら蹴り続ける涼香たち。この光景を偶然見た見たクラスメイトたちは、何も言わずに遠目で眺めていた。
「おい、もう飽きたから行くぞ」
「おう」
「次の授業は体育だったよね?」
「だりぃけど、仕方ないか。行くか」
「うん」
やっと終わったと思い立ち上がろうとすると、今度は頭を蹴られる。
「寝てんじゃないよ、このクソ野郎が」
「死ね」
「……」
痛い。苦しい。辛い。悲しい。なんでこんな目に遭わなければならないんだろう。
ようやく気が晴れたのか、彼女たちはボロ雑巾のように成り下がったオレを尻目に、その場を去っていった。
「うぐ……」
身体中が痛み、立ち上がるのすらままならない。だがこのまま倒れていると、誰かに見つかれば何を言われるか分からない。
「……帰ろう」
帰ったら何か言い訳を考えておかないといけないだろう。前に傷を見られた時の、酷く怒られた苦い経験が蘇る。
辺りは日が暮れており、夕焼けが帳を下ろそうとしている。
こんな世界でなければ、きっと美しい景色に見えるはずなのに、今のオレにはそれが苦痛でしかない。
「神様なんて、いないのかな」
オレが呟いたその言葉は、この広い街中で誰にも聞かれることなく、ただ虚しく消えていくだけだった。
雑踏に紛れながら歩いていると、しきりに他人からの視線を感じる。オレが受けている傷がよほど目立つのだろう。中には見窄らしいと嗤う人間さえいる。
オレはそこから、周りの笑い声が全て敵であると思い始め、逃げるように走り始めた。
人影がみんな化け物に見える。
オレが何をしたっていうんだ。
オレの、あるはずの無い罪を指を差して、咎めてくる。
「はぁ……はぁ」
いもしない敵影に追い立てられるように無我夢中で走っていたせいなのか、気が付くといつの間にか公園に来ていた。
息を切らしながらベンチに腰掛けると、途端に疲労感が襲ってくる。
「これからどうしよう」
こんな世界に救いはない。
家に帰ったところで誰も助けてくれないし、明日だってまたサンドバッグにされるのは目に見えている。
高学歴で順風満帆な両親はオレに対し、舐められる方が悪いと言ってきた。よくあるいじめられる方にも問題があるという、オレのことについて何も知らない連中の唱える薄い理屈だ。
親の理解を得られない以上、家に帰っても辛いだけなので、オレはわざとトボトボと帰ることにした。
「はぁ、帰るの嫌だな」
オレはその最中、建設現場の前を通りかかる。今の時間帯は誰もおらず、閑散としていて然るべきだろう。
だが、見かけた入口の扉は壊されており、誰もいないはずの工事現場では人影が蠢いていた。
「誰だ?」
まず、壊された扉の形が尋常ではないことに驚かされる。紙屑のようにくしゃくしゃに捩じ切られていた。
まるで巨大な力で捻じり潰したような跡があった。
次に、その惨状を作ったであろう張本人と思われる存在を見て、オレは絶句する。
それは人の形をしていたものの、おそらく人間ではない。
「ボクはただ、ご飯をもりもり食べたかっただけなんだよ? それをさぁ、どけって酷いよね?」
「ただベンチを占拠していたのを単に邪魔だって言っただけじゃない!」
オレは声の主たちを追い掛けるように建設現場に侵入し、大量に散らかっている機材を隠れ蓑にしながら奥へと進む。
奥の方では、二人の女性がいた。
二人とも見たことがある顔だ。一人はUFOの中継で見た美人のニュースキャスター。長い黒髪に眼鏡を掛けており、OLのようなスーツに身を包んでいるため、いかにも知的な雰囲気を醸し出している。彼女は中継の時と違ってやたらと子供っぽく、もう一人に対してかなり怒っているようだ。
「野蛮な地球人は矯正しないといけないよね」
「なんなのよあんた! いきなり怒ったと思ったら追い掛け回してさぁ!」
「あいつは涼菜!?」
もう一人の方は、クラスメイトの藤宮涼菜だった。
「へえ、アニメなんて好きなのかよ。見た目通りにダサい奴だな」
「で、金あんの?」
オレこと檜山時実はいじめられっ子の地味なメガネ野郎だ。小学校時代からずっと嫌な連中に虐められている。
理由は簡単。
『オタクだから』
これだけである。
オレをいじめるのは金髪ギャルの藤宮涼菜と、その取り巻きの男である京本大河と進藤結城の二人だ。
こいつらはタチの悪い連中として有名であり、
「……無いです」
オレの財布にはほとんど金が入っていない。それもそのはず、こいつらに恫喝されて親の金をちょろまかしたのがバレてしまい、こっ酷く怒られた。
結果お金は貰えず、こうして正直に話して許しを乞うことしかできないのが現状であるが、当然許してもらえるはずもなく殴られる。
「とりあえず財布出せ」
「えっとぉ、1000円くらいしか無いわ」
「マジかよ。カラオケ行くのに全然足りないじゃん」
オレの財布から残りの金は全部むしられ、体にはたくさんのあざがつくほどに殴られたり蹴られたりと、彼らの気が晴れるまでサンドバッグとして扱ってもらうことになった。
「行きましょうよ。もう嬲っても何も出ないわ」
「ちっ、お前の脳みそ並みにしけてやがんな」
「次はちゃんと金持ってこいよ」
オレには友達もおらず、学校では常に孤立している。友達作りが昔から下手なのもあるが、藤宮涼菜のグループに目を付けられ、ああしていじめを受けているのがここでの生活における終焉を意味している。
彼女の勢力は教師陣にも顔が利くほど巨大であり、学校内でオレのような弱い立場にある生徒は彼女に逆らうことはできない。
「大体、いじめられるのはあなたが悪いのよ。いつまでもビクビクしてさ」
教師に落ち込んでいるところを見られてはこうしてオレが悪いと説教を垂れてくる。
「はい……すいません」
「なんで謝るの? あなたは私に悪い事をしたわけじゃないんだけど」
この女は自分が正しいと思い込んでそれを他人に押し付けるタイプだ。こういう輩が一番厄介なのは言うまでもない。
「そうやって卑屈だからいじめられるんでしょ! もっとシャキッとしなさい!」
バシッという音と共に頬に強い痛みを感じ、地面に倒れ込む。これが最近の日常風景の一部となっている。
オレが教室に戻るといつものようにクラスメイト達から蔑んだ視線を浴びることになるのだが、それすらも慣れてしまった。そこには涼菜たちのグループもおり、にやにやとオレの方を見つめては笑い合っている。
オレは辛いことばかり考えてもつまらないと思い、今朝見たニュースのことを考える。
「UFO、か」
ニュースの内容はオレの住むこの街の近郊に、なんとUFOと思われる未確認飛行物体が落下したことである。
それは見たところ、これまでに想像されていたUFOそのもので、墜落してなお形を綺麗に残しており、外観には傷一つさえ付いていなかったという。
相当な耐久性であり、人類の科学力を容易に飛び越えた文明の予兆には、多くの人間の関心を集め、早速UFOの研究が始められることとなる。
「UFOが出たって?」
「宇宙人は?」
「乗組員は今のところ見当たらないらしい」
「そんな馬鹿な」
「でもあのUFOだぜ? あれだけの大きさだったらかなりの人数乗れるんじゃないのか?」
「じゃあ宇宙人が侵略に来ていて、見つからないよう、人間たちが来る前に降りちまったんじゃないのか?」
「それならUFO以外痕跡の一つも無いのはおかしいよな」
生徒たちの間では様々な憶測が飛び交っており、中には宇宙人とのコンタクトを望む者も少なくなかった。
しかし大半の人間は宇宙人などいないと考えているようで、ただ単に話題性があるから騒いでいるだけのようだ。
「……」
もし本当に宇宙人がいるとしたならば、それはそれで興味深い話ではある。だが今の世の中ではその可能性を否定する意見の方が多く、宇宙人の存在を信じているのは一部のマニアだけだ。
テレビもテレビで大概胡散臭いし、メディアの力でUMAを解明するのは相当に困難であろう。
『えー、私たちはただいま現場に到着したところです。深夜墜落したと思われるこの未確認飛行物体の付近において、なおも乗組員の行方が捜索されていますが、目立った情報は入ってきておりません』
ホームルーム前に、オレはUFOの中継をスマホを通して視聴していた。
『私はここにいます。ご覧ください、この謎の物体。大きさは恐らく直径50m程でしょうか。我々の常識を超えた技術で作られたものであることは間違いありません』
山中に落下したUFOは地面を抉り、木々を枝のように薙ぎ倒しており、その光景はまさしく異常であった。
『我々には宇宙からの来訪者に心当たりがあります。彼らはおそらく私たちと同じ地球と似たような惑星に暮らし、地球人と同様の言語を用いてコミュニケーションを図ってきたのです。そして彼らの目的は分かりませんが、その圧倒的な力は、これまで数々の偉業を成し遂げてきたのでしょう。UFOの墜落は単なる偶然ではありません!』
リポーターの興奮する声はスタジオに伝わり、視聴者たちに緊張感を与えるには十分すぎるほどのものだった。
「まさかこんなことが……」
「おい、これマジっぽいぞ」
「マジかよ! ヤベーじゃん!」
「え? 何? UFOって本当なの?」
話題作りのためとはいえ、こんなにインパクトのある内容は視聴者たちの目を釘付けにするのに十分な内容だった。
「どうせ嘘だろ」
「だよな。絶対CGとか使ってるわ」
「でも、もしも本物だとしたら……」
「怖いよね。宇宙人が攻めて来たら日本はおしまいだね」
生徒たちの反応も二分している。
オレはどちらとも言えない気持ちではあるが、実際にこんなものを見せられたらもしかすると宇宙人が実在するかもしれないという可能性は否定できない。
「おい、ホームルームを始めるぞ」
教室はUFOや宇宙人といったオカルトの話題で持ちきりだったが、それを気怠そうに首を揺らしながら入ってきた担任教師が断ち切ってきた。
「宇宙人なんかいるわけないだろ。くだらないことを話している暇があったら席に戻れ」
「ええ、宇宙人はいるしー」
「そうだそうだ」
「だから、いるかっての」
担任はあくまでもマイペースであり、宇宙人の話をする生徒達に呆れた様子を見せていた。
「はい、静かにしろ!今日はテストをやるぞ」
教室中がざわつく。この担任、抜き打ちテストが大好きで、事前に予告をした試しがない。
「お前らは授業中に居眠りばかりしてるからな。今回は特に厳しくいくから覚悟しておけよ」
生徒たちはため息をつくが、それを気にせず、先生はプリントを配り始める。
配られたプリントの内容はとてつもなく難しい。オレは居眠りなどはしていないのに、なぜこんなに問題が難しいのだろうか。
「よし、全員に配ったな。じゃあこれから10分間は問題を解いておけ。ホームルーム終了間際に問題は回収するからな」
「ええー」
「うそぉ」
「早く終わってくれぇ」
みんな文句を言いながらも必死に問題を解いている。
オレは難しいとは思いながらも問題を地道に解いていき、後は一限に向けての休憩に回す。その間に考えていたのは宇宙人のこと。
正直なところ、侵略してきたんじゃないかという宇宙人と思しき存在に、この腐った世の中を直してもらいたかった。
「神頼み、なんかな」
UFOはあっても、宇宙人は影も形も無い。オレの願いはまさに神頼みにも等しく、それこそ馬鹿げた行為だろう。
「ふぅ」
結局、答えは分からず、チャイムが鳴ると同時に解答用紙が集められる。
「はい、時間切れ。じゃあ解答用紙を回収するから」
「待てよ、まだ全部書いてねえよ」
「時間切れと言っただろうが、ほらよ」
「くそがっ!」
そんな涼菜の取り巻きである男の一人、進藤結城はオレのことを睨みつける。これはまたオレがサンドバッグにされるだろうと思わされる。
「おい、面貸せ」
放課後、オレは涼菜たちに呼び出され、鬱憤晴らしの暴力に巻き込まれる。何度も何度も殴られたり蹴られたりし、全身傷だらけだ。
「おい、起きろよ」
倒れたところに腹を踏まれ、オレの口からは胃液が吐き出された。
「きったねぇなぁ!こっちまで吐きそうになるわ」
「さすがにやりすぎだろ。あははは!」
「あたしにも、蹴らせなさいよ!」
「ああいいぜ! 俺もこいつの顔がもっとボコボコになるところが見てみたいぜ!」
「ぎゃははははははははは!!」
笑いながら蹴り続ける涼香たち。この光景を偶然見た見たクラスメイトたちは、何も言わずに遠目で眺めていた。
「おい、もう飽きたから行くぞ」
「おう」
「次の授業は体育だったよね?」
「だりぃけど、仕方ないか。行くか」
「うん」
やっと終わったと思い立ち上がろうとすると、今度は頭を蹴られる。
「寝てんじゃないよ、このクソ野郎が」
「死ね」
「……」
痛い。苦しい。辛い。悲しい。なんでこんな目に遭わなければならないんだろう。
ようやく気が晴れたのか、彼女たちはボロ雑巾のように成り下がったオレを尻目に、その場を去っていった。
「うぐ……」
身体中が痛み、立ち上がるのすらままならない。だがこのまま倒れていると、誰かに見つかれば何を言われるか分からない。
「……帰ろう」
帰ったら何か言い訳を考えておかないといけないだろう。前に傷を見られた時の、酷く怒られた苦い経験が蘇る。
辺りは日が暮れており、夕焼けが帳を下ろそうとしている。
こんな世界でなければ、きっと美しい景色に見えるはずなのに、今のオレにはそれが苦痛でしかない。
「神様なんて、いないのかな」
オレが呟いたその言葉は、この広い街中で誰にも聞かれることなく、ただ虚しく消えていくだけだった。
雑踏に紛れながら歩いていると、しきりに他人からの視線を感じる。オレが受けている傷がよほど目立つのだろう。中には見窄らしいと嗤う人間さえいる。
オレはそこから、周りの笑い声が全て敵であると思い始め、逃げるように走り始めた。
人影がみんな化け物に見える。
オレが何をしたっていうんだ。
オレの、あるはずの無い罪を指を差して、咎めてくる。
「はぁ……はぁ」
いもしない敵影に追い立てられるように無我夢中で走っていたせいなのか、気が付くといつの間にか公園に来ていた。
息を切らしながらベンチに腰掛けると、途端に疲労感が襲ってくる。
「これからどうしよう」
こんな世界に救いはない。
家に帰ったところで誰も助けてくれないし、明日だってまたサンドバッグにされるのは目に見えている。
高学歴で順風満帆な両親はオレに対し、舐められる方が悪いと言ってきた。よくあるいじめられる方にも問題があるという、オレのことについて何も知らない連中の唱える薄い理屈だ。
親の理解を得られない以上、家に帰っても辛いだけなので、オレはわざとトボトボと帰ることにした。
「はぁ、帰るの嫌だな」
オレはその最中、建設現場の前を通りかかる。今の時間帯は誰もおらず、閑散としていて然るべきだろう。
だが、見かけた入口の扉は壊されており、誰もいないはずの工事現場では人影が蠢いていた。
「誰だ?」
まず、壊された扉の形が尋常ではないことに驚かされる。紙屑のようにくしゃくしゃに捩じ切られていた。
まるで巨大な力で捻じり潰したような跡があった。
次に、その惨状を作ったであろう張本人と思われる存在を見て、オレは絶句する。
それは人の形をしていたものの、おそらく人間ではない。
「ボクはただ、ご飯をもりもり食べたかっただけなんだよ? それをさぁ、どけって酷いよね?」
「ただベンチを占拠していたのを単に邪魔だって言っただけじゃない!」
オレは声の主たちを追い掛けるように建設現場に侵入し、大量に散らかっている機材を隠れ蓑にしながら奥へと進む。
奥の方では、二人の女性がいた。
二人とも見たことがある顔だ。一人はUFOの中継で見た美人のニュースキャスター。長い黒髪に眼鏡を掛けており、OLのようなスーツに身を包んでいるため、いかにも知的な雰囲気を醸し出している。彼女は中継の時と違ってやたらと子供っぽく、もう一人に対してかなり怒っているようだ。
「野蛮な地球人は矯正しないといけないよね」
「なんなのよあんた! いきなり怒ったと思ったら追い掛け回してさぁ!」
「あいつは涼菜!?」
もう一人の方は、クラスメイトの藤宮涼菜だった。
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