妹ばかりを贔屓する王子に婚約破棄されました。行く当ての無いわたしを拾ったのは、平民上がりの公爵様です

パックンフラワー

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1話 浮気王子

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「好きだ、結婚しよう」
「あなたとなら、どこまでも行けそうです」

 わたしことクレア・イグニスはレオナルド・デオドール伯爵と婚約することになった。
 レオナルド伯爵はその性格を簡単に言えば、誰にでも優しく接する人間の鏡である。
 実際、彼との生活は当初から順風満帆で、喧嘩などは全く無く日にちは過ぎ去っていく。

「不満は無いはずなのに、その、はずなんだけど」

 わたしは不可解な気持ちを胸に抱いている。それは王子と話している相手に対して向けられていた。

「お義兄様、今日は何をして遊んでくださいますか?」
「リーンは外が好きだし、出て遊ぼうか」

 わたしには血の繋がった妹がいて、名をリーン・イグニスという。
 まだまだ未熟な子で見ていて危なっかしい彼女にも、わたしと同等以上の慈しみを向けている。
 
「わーい、お義兄様ありがとう!」
「あんまりはしゃがないようにね」

 遠目に彼らが遊んでいるのを、わたしは捉えていた。
 わたしには目もくれずリーンと遊んでいるレオナルドが気に食わないのだ。理由はこのように至極単純であり、それが気になり仕方がない。
 いつまでもリーンと遊び、わたしのことなんか見向きもしない。

 リーン、リーン、リーン。婚約が控えたわたしを差し置いてリーンばかりを可愛がるレオナルドを、わたしは遠くから睨み付けていた。

「リーンばっかりずるい」

 レオナルドはリーンにこだわり何日も過ぎる。リーンが可愛いのは分かるけど、婚約を予定している人をほったらかしにするのはあんまりだろう。

「わたしも見てよ」

 建物の影に隠れて王子の様子を伺うわたしは、レオナルドに振り向いてもらうことを求めていた。
 それでもわたしの欲求に反してリーンばかりを寵愛するレオナルドに、いよいよ我慢の限界を迎えそうになる。

「リーンばっかり、そんなにリーンが好きなら」

 リーンと結婚すればいいのに。

「あっ……」

 口を突いて出て来そうになった本音が出ないように口を塞ぐ。
 レオナルドに向けていた好意が音を立てて崩れる。普遍となるはずだった想いが終焉を迎えようとしていた。

「ほら、お花を持って来たぞ」
「わー、可愛い!」

 わたしが掴んでいた柱がひびを作っているのを見て気付くまでに、そう時間は掛からない。
 食事の時もわたしがいなかったように振る舞われ、彼への心象は悪くなる一方だった。

「こうなったら……わたしだって!」




 このままではいけないと思ったわたしは行動を起こすことにした。
夜中にこっそり部屋を出て、屋敷の外に出る準備をする。誰にも気付かれないよう細心の注意を払ってだ。

「よしっ!行くしかないよね」

 決意を固めると自室から出て玄関に向かう。そして扉を開ける前に深呼吸して心を落ち着かせる。
(大丈夫)
 自分に言い聞かせるように呟くとドアノブに手を掛けて外に出ようとした時だった。
「どこに行こうとしているんだ?クレア」
 後ろを振り向かずとも声の主はすぐに分かった。
「あ……えっと」
 振り返ってみるとそこには腕を組んで仁王立ちしている婚約者の姿があった。
「こんな時間に外出とは感心できないなぁ」
 彼は怒っている様子はなくいつも通り優しい笑みを浮かべているが、どこか威圧的な雰囲気を感じる。

「ごめんなさい」

 すごい剣幕にただ謝ることしか出来ず、その場に立ち尽くすしかなかった。

「まあいいか、俺と一緒に寝よう」
「はい……」

 結局この日は一緒に眠ることになった。
 次の日からわたしはあまり彼に近付かなくなった。あからさまにリーンを贔屓しているからだ。
 朝早く起きて朝食を食べ終えてからすぐに部屋に閉じこもり、昼食の時間まで出てこない。
 夕食だけは一緒だが会話らしいものは殆どなく、終始無言のまま食べ終えた後はさっさと自分の部屋に戻っていく。
 当然、婚約の話なんて出るわけもなく、わたしはレオナルドとの溝を深めていくばかりだった。

「もう限界だよ」

 わたしの心は悲鳴を上げていた。
 レオナルドはリーンのことを一番大事にしている。それは誰が見ても明らかで、この婚約は破棄されるのだろうと確信に近い思いを抱いていた。
 そうなれば必然的にわたしはフリーになるのだが、レオナルドはきっと別の女性と結婚することになる。
 わたしじゃない誰かと幸せになっている彼を想像すると胸が締め付けられるような痛みに襲われる。

「どうしたらいいのかな」

 わたしは自分の気持ちに気付いた。だけどそれをどうやって伝えればいいのか分からない。
 だからわたしは私と仲のいい侍女ランドに相談することにした。

「ランド、ちょっと相談があるんだけど」
「なんですか?」

 彼女はわたしの部屋で掃除をしていた。

「あのね、その……」

 いざ話そうとすると緊張してしまい上手く言葉が出て来なかった。

「ゆっくりでいいですよ」

 ランドが優しく微笑んでくれると、少しだけ気持ちが落ち着くことが出来た。
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