1 / 229
第一話 生と死の狭間でおっちゃんは足掻く
しおりを挟む
森林を切り裂く演奏者。後ろからキーキーっと伴奏が流れる。 静岡音茶(しずおかおとちゃ)は走りながらアンサンブルを続ける。演奏が止まれば即ち死……伴奏を奏でる小鬼の晩飯となる。小鬼を振り切ることは出来ないが、森を抜ければ彼らは追ってこないそれがこの世界の理。
心の中で何度もくそったれと毒づきながら走る走る走る。
視界から木々が消え、自分が晩飯にされることが無くなったことに安心できるはずだったが……キーキーとした声はまだ後ろから聞こえる。一瞬だけ自分の死を感じたが、小鬼の数は半分になっている。足を止め右手に持った薙刀を軽く打ち下ろす。反撃を想定していなかった一匹の小鬼の身体が自ら刃に飛び込む。
「あと三匹!」
片手で持っていた薙刀を両手に持ちなおし、刃を右から左へ大きく走らす。小鬼はその早さに反応が遅れ地面にひれ伏した。
晩飯にならずに済んだことを確信して、二匹の小鬼を蹴散らす。彼らとのアンサンブルはそこで終わる。ネズミ色の固まりと化した死体から魔核を取り出す。逃げるときにほっぽり出したソリを今は取りに行くことは出来ない――今日は完全な赤字だ。
ギルドに戻ると窓口で魔核を金に換え、小鬼の群れに出会ったことを受付のマリーサさんに伝える。
「上級の冒険者にそちらのコースから出立するようにお願いします」
笑顔で俺をねぎらう。後ろからそのやり取りを聞いていた冒険者達が、小鬼ぐらい全部片付けて行けと俺を魚に酒を楽しむ。
「おっちゃんも飲んでいけよ♪」
と、誘われたが
「ソリをなくして小鬼4匹では飲み代も出ないわ」
そう返すと
「そりゃそうだ」
片手に持ったジョッキをテーブルに叩きつけゲラゲラと彼らは笑った。
静岡音茶は冒険者仲間からおっちゃんと呼ばれる。おとちゃという名前が発音すると、こちらの住人には『おっちゃん』に聞こえるらしい。俺のもといた世界で大阪弁でおっちゃん=おっさんなので気に食わない呼び名だが、事実おっさんには間違いないので仕方がないか……。
おっちゃんの仕事は冒険者。ギルドで依頼をうけたり、山で獲物や薬草を狩ってくるのが仕事。獲物で生計を立てられるほど腕はないので、冒険者というより薬草取りのおっさんというスタンスでギルド内では通っている。
上級者が小鬼におそわれた場所で小鬼の群れを殲滅したと聞いて、無くしたソリを探しに行く。この世界でのソリとは半畳ぐらいの大きさで、地面から荷台が20cmほど浮いている荷物を載せる魔道具。これは100kgぐらいの重さは抵抗なく引っ張れるすぐれた道具だが、欠点として歩く早さを超えると沈んでしまう。荷台の大きさは半畳以上はないので、馬に引かせたりすることが出来ない。この世界で一番安価な魔道具だ。まあ、安価といっても中古で金貨数枚は軽くするのだが……。
ソリはすぐに見つかり安堵する。積んでいた薬草もしなびてはいるが売るには問題がなさそうだ。そりを引くと近くにきらりと光るプレートを見つけて拾い上げる。冒険者を証明する身分証だ。これがあるということは、この近くで誰かが死んだ可能性が高い。死体や骨が見つからなくても、このプレートが唯一冒険者の証ともいえる。プレートは結構いい金で換金できるので、おっちゃんとしては臨時ボーナスになる。もし捜査依頼が出ている冒険者の持ち物であればさらに報奨金がつく。
冒険者を始めて数年たった頃、あまりにもプレートを見つけてくるので連続殺人鬼の疑いをかけられたことがあった。ギルドから内偵を受け誤解を解くのに苦労したものだ。普通の冒険者は薬草取りはすぐに卒業して、狩りや依頼を中心にするから、ベテランプレート拾い職人に育ったおっちゃんはギルド内で異質な存在。本人のあずかり知らないことではあるが……。
昨日は自分がこのプレートの持ち主のようになるかもしれないところだった。そんなことは完全に忘れて、今日誘われたら一杯ぐらいならお酒につきあってもいいと、足取り軽くギルドに帰るのであった。
冒険者を続けて何年にもなるが慣れないことがある。薬草を探していて、草むらからガサリと音がすると心臓がキュンと縮まってしまう。冒険者としては悪いことではないが、小動物でビクビクする自分が嫌なのである。
今日もそんなガサリとした音に必要以上に驚く。薙刀を構えて音のする方に身体を向けると、そこには狸を少し大きくしたモフモフの動物がこちらを見ている。大熊の子供だ ! 近くに親がいれば大惨事だが、数日前にこの辺で大熊を狩った冒険者が意気揚々とギルドに帰ってきたことを思い出す。たぶんこの熊はその子供だろう……クーンと鳴いておっちゃんにすり寄ってくる。この世界にきて久々に感じるモフモフ成分。「おまえもこの世界でひとりぼっちか……」しばらく堪能して帰路につく。
今日は美味しい熊鍋だ♪ この世は弱肉強食。熊が鍋を背負ってきた話。
これから異世界で足掻くおっちゃんの物語を最初から話そうと思う。
心の中で何度もくそったれと毒づきながら走る走る走る。
視界から木々が消え、自分が晩飯にされることが無くなったことに安心できるはずだったが……キーキーとした声はまだ後ろから聞こえる。一瞬だけ自分の死を感じたが、小鬼の数は半分になっている。足を止め右手に持った薙刀を軽く打ち下ろす。反撃を想定していなかった一匹の小鬼の身体が自ら刃に飛び込む。
「あと三匹!」
片手で持っていた薙刀を両手に持ちなおし、刃を右から左へ大きく走らす。小鬼はその早さに反応が遅れ地面にひれ伏した。
晩飯にならずに済んだことを確信して、二匹の小鬼を蹴散らす。彼らとのアンサンブルはそこで終わる。ネズミ色の固まりと化した死体から魔核を取り出す。逃げるときにほっぽり出したソリを今は取りに行くことは出来ない――今日は完全な赤字だ。
ギルドに戻ると窓口で魔核を金に換え、小鬼の群れに出会ったことを受付のマリーサさんに伝える。
「上級の冒険者にそちらのコースから出立するようにお願いします」
笑顔で俺をねぎらう。後ろからそのやり取りを聞いていた冒険者達が、小鬼ぐらい全部片付けて行けと俺を魚に酒を楽しむ。
「おっちゃんも飲んでいけよ♪」
と、誘われたが
「ソリをなくして小鬼4匹では飲み代も出ないわ」
そう返すと
「そりゃそうだ」
片手に持ったジョッキをテーブルに叩きつけゲラゲラと彼らは笑った。
静岡音茶は冒険者仲間からおっちゃんと呼ばれる。おとちゃという名前が発音すると、こちらの住人には『おっちゃん』に聞こえるらしい。俺のもといた世界で大阪弁でおっちゃん=おっさんなので気に食わない呼び名だが、事実おっさんには間違いないので仕方がないか……。
おっちゃんの仕事は冒険者。ギルドで依頼をうけたり、山で獲物や薬草を狩ってくるのが仕事。獲物で生計を立てられるほど腕はないので、冒険者というより薬草取りのおっさんというスタンスでギルド内では通っている。
上級者が小鬼におそわれた場所で小鬼の群れを殲滅したと聞いて、無くしたソリを探しに行く。この世界でのソリとは半畳ぐらいの大きさで、地面から荷台が20cmほど浮いている荷物を載せる魔道具。これは100kgぐらいの重さは抵抗なく引っ張れるすぐれた道具だが、欠点として歩く早さを超えると沈んでしまう。荷台の大きさは半畳以上はないので、馬に引かせたりすることが出来ない。この世界で一番安価な魔道具だ。まあ、安価といっても中古で金貨数枚は軽くするのだが……。
ソリはすぐに見つかり安堵する。積んでいた薬草もしなびてはいるが売るには問題がなさそうだ。そりを引くと近くにきらりと光るプレートを見つけて拾い上げる。冒険者を証明する身分証だ。これがあるということは、この近くで誰かが死んだ可能性が高い。死体や骨が見つからなくても、このプレートが唯一冒険者の証ともいえる。プレートは結構いい金で換金できるので、おっちゃんとしては臨時ボーナスになる。もし捜査依頼が出ている冒険者の持ち物であればさらに報奨金がつく。
冒険者を始めて数年たった頃、あまりにもプレートを見つけてくるので連続殺人鬼の疑いをかけられたことがあった。ギルドから内偵を受け誤解を解くのに苦労したものだ。普通の冒険者は薬草取りはすぐに卒業して、狩りや依頼を中心にするから、ベテランプレート拾い職人に育ったおっちゃんはギルド内で異質な存在。本人のあずかり知らないことではあるが……。
昨日は自分がこのプレートの持ち主のようになるかもしれないところだった。そんなことは完全に忘れて、今日誘われたら一杯ぐらいならお酒につきあってもいいと、足取り軽くギルドに帰るのであった。
冒険者を続けて何年にもなるが慣れないことがある。薬草を探していて、草むらからガサリと音がすると心臓がキュンと縮まってしまう。冒険者としては悪いことではないが、小動物でビクビクする自分が嫌なのである。
今日もそんなガサリとした音に必要以上に驚く。薙刀を構えて音のする方に身体を向けると、そこには狸を少し大きくしたモフモフの動物がこちらを見ている。大熊の子供だ ! 近くに親がいれば大惨事だが、数日前にこの辺で大熊を狩った冒険者が意気揚々とギルドに帰ってきたことを思い出す。たぶんこの熊はその子供だろう……クーンと鳴いておっちゃんにすり寄ってくる。この世界にきて久々に感じるモフモフ成分。「おまえもこの世界でひとりぼっちか……」しばらく堪能して帰路につく。
今日は美味しい熊鍋だ♪ この世は弱肉強食。熊が鍋を背負ってきた話。
これから異世界で足掻くおっちゃんの物語を最初から話そうと思う。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。
↓
PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる