働くおじさん異世界に逝く~プリンを武器に俺は戦う!薬草狩りで世界を制す~

山鳥うずら

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第三十一話 ドワーフ王国【完結編】

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 何事もなく家に帰れたものの、翌日から俺の周りには護衛という名目で憲兵が常時つくことになった。外に出なければ何も問題はないのだが、憲兵を引き連れて、リズと一緒に買い物に行こうとしたら流石に嫌がれてしまった。憲兵と仲良くなろうとしたが、日替わりで人が代わるので気まずい日が続く。

 遂に念願の種籾を手に入れた。しかし、この後の使い道は全く考えていなかった。タリアに帰ったからといって、米農家になるという選択など出来はしない。ここで、この種籾を買ったことが大切なのだ。この国を離れてしまえば、次に訪れることはないかもしれない。種籾を買わずに後悔するぐらいなら、種が腐るまで持っていたほうが気が楽になると選択しただけだ。袋に入った種籾を見つめながら、一つの苗さえ作ることの出来ない俺には、異世界に移転した素人がノーフォーク農法で農地改革する話なんて嘘っぱちに思えた。

 リズから武器が出来たという言付けを貰い武器屋に出かける。店に入ると直ぐに職人が薙刀を持って来てくれた。俺は武器が扱える別室に連れられ、新しい薙刀を手渡された。持った瞬間その軽さに驚く。そして先に付いている刃は黒光り輝き、中二心にビンビン響く武器になっていた。

「刀を振ってみてくれんかの」

 俺は薙刀を八相の構えから、上下、斜めと連続で振ってみた。大げさに例えるなら、いつもの二倍の早さで刀が扱える。刃と柄のバランスが絶妙に合っている。俺の試し振りを横見していた、ドワーフのどや顔気だけ気に入らなかった。

「素晴らしい刀だな!」

「そう言ってもらえると嬉しいぞ」

 俺は刃を上にして、柄の先を地面に押しつけ柄の感触を確かめた。

「おもいっきり力を入れても大丈夫か?」

「地面を無理に叩いたぐらいじゃ柄は折れんぞ」

 彼の説明によると、柄は木材を使わず金属にしたという。金属の名前を聞いたが俺の知らない名前であった。触った感触はカーボン素材に酷似していた。その後、切れ味を知るために試し切りをさせて貰ったが、その切れ味は見事と言うしかない。俺は職人と店員に深々と頭を下げ店から出た。あまりにも嬉しかったので、道すがら憲兵に刃を向けてちょっかいを掛けたらキレられた。

 ノエルからオフレコでリザードマンと開戦したことを告げられる。もうこの国に来て三週間以上が立っていた。ここに来るまでの日数をたせば、ほぼ一月の間タリアの町に帰っていないことになる。ギルドでは俺が死んだことになっているのは言わずもがななので、無事に帰った暁には、くだを巻いて酒を飲んでいるオットウの後ろから絶対に脅かしてやろうと決意した。

 数日後、ドワーフ国が開戦したという情報が国中に行き渡る。しかし、町はこれといった変化もなく、ただノエルの工場の仕事が少しばかり減ったぐらいだ。リズの手料理を毎日食べるだけでは悪いので、俺が手料理でもてなすことにした。

 初めて台所を預かるにあたり一番驚いたことは火周りだ。異世界にきてから釜戸の火は炭なので、油で揚げる料理は火加減が恐ろしいほど難しかった。今では自分自身に炭火マイスターをあげるほど上手く調節できる腕前になった。ところが、ドワーフの釜戸は簡単に火力が調節できる仕組みになっていた。ガスや魔石燃料を使って作動する仕組みなのかはさっぱり分からないが、そんなことは関係がない――ただ、ただ楽に調理を進めることが出来るのに感動した。

 揚げ物マイスターでもある俺は、いつものように唐揚げから始まる、天ぷら、えびふりゃー、肉カツの揚げ物尽くしで彼らをもてなした。

「なかなかやるではないか!」

「太らせてどうするつもりです」

 笑顔の晩餐に、料理の腕をふるったかいがあった。全員がかなり酒が入っていたので、デザートを出すか迷ったが折角なので出してみた。リズの食いつきはすさまじく、レシピをしつこく聞かれた。完璧なケーキがこの国に存在していたので、口直しのつもりだったのだが……

 ドワーフ国プリン伝説の始まりになった――――

            *      *     *

 昨夜は深夜まで盛り上がったので、朝食を抜いて貰う約束になっていたはずなのだが朝早くから、リズにたたき起こされた。俺は寝ぼけ眼のまま服を着せられている。着替えが終わり居間に行くと見た顔が待っていた。

「おっちゃん、久しぶりだな」

 コメットが居間に座って俺に挨拶をした。俺は何が何だか分からず

「ああ、おはよう」

 そう返すのが精一杯だった。詳しいことは馬車で話すと言われて、彼と一緒に馬車に乗せられた。

「戦争があったのは知ってるな。そこであの兵器を使った作戦が戦争で使われたのだ。トカゲの野郎はその罠に面白いように引っかかり、こちらの完勝という形で終結した」

「それと俺が馬車に乗せられる意味が全く繋がらないのだが……」

「我が国は戦争で活躍した人物を高く評価する。普通なら戦った兵がその対象になるのが当たり前の話だが、今回は全くちがうのだ。鐙、クロスボウ、有刺鉄線しかも坑道を掘ったあの作戦には文句の付けようのない評価になった」

 彼の説明を聞いているうちに馬車が止まった。馬車から降りると、国技館のような形の建物が目の前に鎮座していた。俺は彼と一緒にその中に入っていった。そこには軍服を着たドワーフが綺麗に整列しており、彼らの拍手に迎えられた。俺は完全なドッキリに仕掛けられたと確信した。

「待ってましたよ人間」

 そういって、王冠をかぶり白いドレスで着飾った女性のドワーフが近づいてきた。俺は少し戸惑いながらも

「静岡音茶だ、おっちゃんと呼んでくれ」

「失礼でしたねおっちゃんさん……私はこの国を司るキャゼルヌと申します」

 俺は深々と頭を下げる。『頭をお上げてください』とテレビでしか聞いたことのない言葉が上からに聞こえた。

「失礼ながら俺はこの国の住人でもなく、呼ばれる必要があるとは思えないのだが」

「ホホホホ、何を謙遜しますの。貴方の働きは我が国におおいなる勝利をもたらしました。そこで褒美を与えたいと思い貴方を呼び出しました」

「素直に貰いたいが、貴国が戦いに勝ったとはいえ、領土を勝ち得るまではいってないように思えるのだが」

「貴族の捕虜の賠償金、これからの講和その他諸々を鑑みれば十分おつりが出ます。もう少し詳しく話せば、この戦争を有利に終わらせることこそ事の本質でした。それが我が国の圧勝で領土以上の宝を手に入れたのです」

「そこまでいって頂けるなら有り難く頂きます」

 もう一度、頭を恭しく下げる。

「本来なら土地やお金を報償にするのですが、交易をしていないので通貨が違うでしょう。そこでこの宝剣を与えます」

 それは見るからに高そうな刀であった。しかもドワーフサイズでないことに驚きを隠せなかった。

「我が国は工業を中心に交易しており、数多くの刀工がおります。その中でも選りすぐりの一本を選び抜きました」

「これは本当に凄い物を頂き感謝する。我が国では包丁一本でさえ切れ味が悪くて難儀しております。よろしければ刀匠を一人連れて帰りたいぐらいですな」

「面白い事を言う御方、刀匠は貸せませんが国一番の刀匠に包丁を打たせましょう」

 俺は冗談ですよと言えなくなってしまった。

「女王様、貰ってばかりですまないが一つお願いがあるのだが聞いて欲しい」

「いいでしょう」

 何も聞かないままの二つ返事に彼女に気っぷの良さを感じる。

「俺はこの国に偶然来てしまった。もう国に来て一月たつ。正直に話すと、ここから一人で荷物を抱えて無事に帰れる自信がないので、誰か近くまで一緒に付き合って欲しいのだが」

 彼女は俺を無事に国まで送る事を約束して、この授与式は無事に終わった。最後に彼女はこれを見せればいつでも国に入れますといい、刻印の入った綺麗な金属プレートを手渡してくれた。

 二日後、俺はこの地を去る事になった。沢山の服ともち米を積み終えた。

「二人とも世話になったな」

 リズは少しだけ涙を見せながら抱きついてきた。

「また来るとは言えないが、機会があれば一番に寄らせて貰う」

「こんどきたら料理はすべて貴方に任せるわよ」

 俺は馬車に乗り込み、椅子に座りながら目を閉じ長かった冒険の終わりを噛みしめた。馬車はその気持ちを乗せたまま動き出す。

 「楽しかったぞ」

――――俺の横には何故かノエルが座っていた。
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