働くおじさん異世界に逝く~プリンを武器に俺は戦う!薬草狩りで世界を制す~

山鳥うずら

文字の大きさ
46 / 229

第四十六話 料理の鉄人Ⅱ

しおりを挟む
 レイラ達と夕飯を食べていると玄関の呼び鈴が鳴った。誰も席を立たないので、仕方なしに自分で玄関に行って扉を開けた。玄関先で宗教を勧誘する人が立っていた。

「そういうの、いりませんから」

 そういって直ぐにドアを閉めたら、何度もしつこく扉を叩かれた。もう一度扉を開くと

「宗教の勧誘と違うんだから!」

 いつぞやのエルフの少女が顔を真っ赤にして怒っていた。うちは新聞を読まないんでと被せようとしたが、異世界に新聞配達がない事に気がつき扉を閉めるのを止めた。

「何しに来たんだ?」

 俺はあからさまに嫌な顔をして理由を尋ねた。クリオネは俺に大きな壺を手渡した。

「あんたに貰った調味料の数倍美味しい物を持って来てあげたんだから」

「ありがとうね」

 一言お礼を言ってパタンと扉を閉めてやったら、また扉を激しく叩かれる。俺はあまりにも五月蝿いので家に入れてやった。

「あんた馬鹿なの! せっかく私がこれを持って来たんだから味の感想ぐらい言いなさいよ」

 テーブルに座ってぷりぷり怒る。

「お前も折角だから夕飯食ってくか?」

「えっ!?頂いても良いの」

  大きな皿に山盛りの焼きそばを彼女に取り分けて出してあげた。彼女は皿に乗せた焼きそばを全部食べてから――

「まあまあね」

 そういって俺の前に空になった皿を差し出した。ルリも中身の無くなった茶碗を俺に見せた。

「プリンのおかわり頂戴」

「一日二個までと約束したよね」

 彼女はプイと横を向き自分でプリンを取りに行った。

「オレらも食べたいから持って来てよ」

 レイラがルリの後ろ姿に声をかけた。

 三人がプリンを美味しそうに食べている姿を、物欲しそうにクリオネが見つめた。

「それも一応食べても良いかも」

 俺は黙って自分のプリンを彼女に献上した。彼女はプリンの入った器を受け取り、鼻を近づけ匂いを嗅ぐ。そしてゆっくり匙をプリンに沈めてすくい取り不思議そうに見つめた。匙に乗せたプルプル震えるプリンを口に運ぶ。

「ん~~甘いでふぅ」

 ウットリとした表情を作る。

「やっぱりプリンは正義」

 ルリが何かいっている……

「このレシピなんて知りたくないんだから!」

 大きな目に涙を一杯ためながら身体を震わす。俺は何にもしていないのに、また彼女たちに白い目で見られた。

 台所で卵をかき混ぜながら、クリオネとプリンを一緒に作る。卵のかき混ぜ方がなっていないとずいぶん叱られた。卵と砂糖と牛乳だけでプリンが出来るのを知って目を丸くした。プリンを蒸すとき

「こんな釜戸でよく料理が出来るわね」

 いつもの調子が出てきたのを見て、怒られているのになんだか嬉しくなった。プリン繋がりで砂糖の代わりに出汁で味付けをする茶碗蒸しのレシピも献上した。

 数日後――

 扉を開けると知らない男が数人たっていた。

「頼まれた仕事できました」

 俺はこの人達に仕事を頼んだ覚えが一つもなかった。

「すまんが俺は仕事を頼んでないので間違った家に来てるぞ」

「えーすいません! ここはおっちゃんさんの家では無かったんですか?」

「いや、おっちゃんですが……」

 そういうと、ガタイの良い職人達が大きな荷物を抱えて家に入ってきた。しかも、数人の男は大きなハンマーを肩に担いでいる。俺は訳が分からないまま、この侵入者を呆然と見送った。

 部屋の奥からガゴンという大きな音が響いた。慌てて部屋に入ると大きなハンマーで釜戸を潰していた。

「何しやがるんだ!」

 俺が大声を出すと、職人達は一斉に手を止めた――

「台所を新調してるのが、何か問題でもあんのか?」

「そんなこと頼んでないぞ!」

「はぁ!?この魔道具の代金は貰っているぞ」

 職人が指さした魔道具は、大きさは違えど日本では当たり前の様に使っていたコンロにそっくりであった。俺は冒険に行く事も出来ずに、ぼんやりとその作業を見ていた。日本にいれば冷蔵庫からお茶を一杯差し出すのにと、そんな呑気なことを考えていた。台所での作業は半日で終えた。俺は何となく釈然としないまま職人に頭を下げ見送った。

 真新しくなった台所にコンロが置かれている。カラーボックスを二つ足した大きさのコンロには、火の出るところが三つある。中央部下に取っ手がついており、それを引くと魔石をいれる仕組みになっていた。俺は家にある魔石をその引き出しの中に入れると、ゴロゴロと魔石がぶつかりながら消えていく。見た感じ魔道具の使い方は難しそうになかった。点火ボタンらしき出っ張りを押すとボワンという音と共に火がついた。上部についているレバーを動かすと思った通り、火が大きくなったり小さくなったりした。俺はその火を眺めながら懐かしさを覚えた。

 日が沈む頃、まず最初にルリが家に帰ってきた。俺は彼女を台所に連れて行く。

「これを買ってくれたのはルリなのか?」

 彼女はコンロを不思議そうな目で見ながら首を横に振った。扉の開く音が大きく聞こえ、ドタバタと足音がした。誰が帰ってきた事を見なくても分かる……。

「ただいまーーー」

 元気な声が後ろから聞こえ、彼女も物珍しそうにコンロを触る。

「レイラはこの釜戸の事を知っていたか?」

「えー! これ釜戸だったの!」

 びっくりして目を大きく見開いた。二人にコンロの使い方を説明すると、不思議そうな顔をしながら火をつけたり消したりしていた。玄関の呼び鈴がけたたましく鳴った。玄関にクリオネが立っており、出るのが遅いのよといって部屋に入ってきた。

「立派な魔道コンロでしょう」

 彼女は手を腰に当てて宣言した……俺はこめかみに指をあて首をがっくりと落とす。

 「で、このコンロは何なんだ?」

「私が料理するために買ってきたのよ」

 さもありなんと納得してしまう自分が悲しかった。クリオネは今日は私がご馳走を作るから楽しみにしていなさいよといい、自分で持って来た食材を使って料理を作りだした。俺は彼女を好きにさせるほうが問題ないと思い部屋で待つ事にする。風呂場からレイラとルリが楽しそうにはしゃぐ声が聞こえた――おっちゃんも入って来いよという声は聞こえないふりをした……。

 湯上がり姿の女を見るのは良い物だなと、レイラとルリを見ながらニヤニヤしていたら、クリオネが俺たちを呼びに来た。テーブルの上には今まで見た事の無いようなご馳走が所狭しと並んでいた。

「これは美味そうだな!」

「私が作ったんだから当たり前でしょ!」

 鼻をぷくっとさせて小さな胸を張った。さすが宮廷料理人、美味しい居酒屋料理と比ぶべくもなく美味かった。まあ、ジャンルが全く違うので一概に言える訳ではないが、自分では到底作れない料理に舌鼓を打つ。うちの雛鳥たちもその料理を一心不乱に食べていた。

 お腹もふくらみひ人心地ついたのでクリオネに話しかけた。

「料理の腕が見せたくて俺の家に来たのか?」

 彼女はハッとして台所に走っていく…テーブルに綺麗なグラスに入ったデザートをトンと置いた。

「これを食べてみなさいよ!」

 どうやら彼女は俺にプリンを見せたくて、これほど大きな舞台・・を用意したらしい。俺は深いため息を一つだけついた。

 彼女の作ったプリンを口に入れると芳醇な香りと、きめ細やかな食感が舌に広がった。俺の作ったプリンとは次元が違うほど良くできていた。彼女は俺をどや顔で見つめている……。わざと敗北宣言しようとしたときルリが爆弾を落とした!

「あなたのプリンは出来損ない」

「な、なんですって!!」

 ルリを大きな目で睨み付けた。ルリは冷蔵庫から俺の作ったプリンを彼女に差し出した。

「食べてみると良い」

「先日、食べましたわ」

 そういいながらプリンを食べ始めた。なんだかんだ言っても素直になるツンデレエルフは可愛い。

 カタン――彼女の手からスプーンが滑り落ちた。

「なんなの、これは!」

 クリオネの顔が真っ青になり肩が震える。

「あなたのプリンには真心が入っていないのよ……カラメルソースという真心がね」

 俺は真心を二回言ったルリを見ながら、何の茶番劇だと天井を見上げた。

「こんなソースはレシピになかったはずよ!」

 彼女は大きな目に涙を浮かべながら俺を睨み付けた。実はプリンにカラメルソースが無くても美味しく食べる少数派であった。あと、火加減の難しい釜戸でカラメルソースを作るのも手間が掛かる。彼女に教えたレシピの中に、カラメルソースがなかったのはそんな理由である。

「分かったわね! あなたの完敗」

 彼女が頑泣きする事は避けられない。俺は頭を抱える――

 その寸劇を特等席で見ていたレイラは腹を押さえて笑い転げていた――
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。 PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。 ↓ PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

処理中です...