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第四十六話 料理の鉄人Ⅱ
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レイラ達と夕飯を食べていると玄関の呼び鈴が鳴った。誰も席を立たないので、仕方なしに自分で玄関に行って扉を開けた。玄関先で宗教を勧誘する人が立っていた。
「そういうの、いりませんから」
そういって直ぐにドアを閉めたら、何度もしつこく扉を叩かれた。もう一度扉を開くと
「宗教の勧誘と違うんだから!」
いつぞやのエルフの少女が顔を真っ赤にして怒っていた。うちは新聞を読まないんでと被せようとしたが、異世界に新聞配達がない事に気がつき扉を閉めるのを止めた。
「何しに来たんだ?」
俺はあからさまに嫌な顔をして理由を尋ねた。クリオネは俺に大きな壺を手渡した。
「あんたに貰った調味料の数倍美味しい物を持って来てあげたんだから」
「ありがとうね」
一言お礼を言ってパタンと扉を閉めてやったら、また扉を激しく叩かれる。俺はあまりにも五月蝿いので家に入れてやった。
「あんた馬鹿なの! せっかく私がこれを持って来たんだから味の感想ぐらい言いなさいよ」
テーブルに座ってぷりぷり怒る。
「お前も折角だから夕飯食ってくか?」
「えっ!?頂いても良いの」
大きな皿に山盛りの焼きそばを彼女に取り分けて出してあげた。彼女は皿に乗せた焼きそばを全部食べてから――
「まあまあね」
そういって俺の前に空になった皿を差し出した。ルリも中身の無くなった茶碗を俺に見せた。
「プリンのおかわり頂戴」
「一日二個までと約束したよね」
彼女はプイと横を向き自分でプリンを取りに行った。
「オレらも食べたいから持って来てよ」
レイラがルリの後ろ姿に声をかけた。
三人がプリンを美味しそうに食べている姿を、物欲しそうにクリオネが見つめた。
「それも一応食べても良いかも」
俺は黙って自分のプリンを彼女に献上した。彼女はプリンの入った器を受け取り、鼻を近づけ匂いを嗅ぐ。そしてゆっくり匙をプリンに沈めてすくい取り不思議そうに見つめた。匙に乗せたプルプル震えるプリンを口に運ぶ。
「ん~~甘いでふぅ」
ウットリとした表情を作る。
「やっぱりプリンは正義」
ルリが何かいっている……
「このレシピなんて知りたくないんだから!」
大きな目に涙を一杯ためながら身体を震わす。俺は何にもしていないのに、また彼女たちに白い目で見られた。
台所で卵をかき混ぜながら、クリオネとプリンを一緒に作る。卵のかき混ぜ方がなっていないとずいぶん叱られた。卵と砂糖と牛乳だけでプリンが出来るのを知って目を丸くした。プリンを蒸すとき
「こんな釜戸でよく料理が出来るわね」
いつもの調子が出てきたのを見て、怒られているのになんだか嬉しくなった。プリン繋がりで砂糖の代わりに出汁で味付けをする茶碗蒸しのレシピも献上した。
数日後――
扉を開けると知らない男が数人たっていた。
「頼まれた仕事できました」
俺はこの人達に仕事を頼んだ覚えが一つもなかった。
「すまんが俺は仕事を頼んでないので間違った家に来てるぞ」
「えーすいません! ここはおっちゃんさんの家では無かったんですか?」
「いや、おっちゃんですが……」
そういうと、ガタイの良い職人達が大きな荷物を抱えて家に入ってきた。しかも、数人の男は大きなハンマーを肩に担いでいる。俺は訳が分からないまま、この侵入者を呆然と見送った。
部屋の奥からガゴンという大きな音が響いた。慌てて部屋に入ると大きなハンマーで釜戸を潰していた。
「何しやがるんだ!」
俺が大声を出すと、職人達は一斉に手を止めた――
「台所を新調してるのが、何か問題でもあんのか?」
「そんなこと頼んでないぞ!」
「はぁ!?この魔道具の代金は貰っているぞ」
職人が指さした魔道具は、大きさは違えど日本では当たり前の様に使っていたコンロにそっくりであった。俺は冒険に行く事も出来ずに、ぼんやりとその作業を見ていた。日本にいれば冷蔵庫からお茶を一杯差し出すのにと、そんな呑気なことを考えていた。台所での作業は半日で終えた。俺は何となく釈然としないまま職人に頭を下げ見送った。
真新しくなった台所にコンロが置かれている。カラーボックスを二つ足した大きさのコンロには、火の出るところが三つある。中央部下に取っ手がついており、それを引くと魔石をいれる仕組みになっていた。俺は家にある魔石をその引き出しの中に入れると、ゴロゴロと魔石がぶつかりながら消えていく。見た感じ魔道具の使い方は難しそうになかった。点火ボタンらしき出っ張りを押すとボワンという音と共に火がついた。上部についているレバーを動かすと思った通り、火が大きくなったり小さくなったりした。俺はその火を眺めながら懐かしさを覚えた。
日が沈む頃、まず最初にルリが家に帰ってきた。俺は彼女を台所に連れて行く。
「これを買ってくれたのはルリなのか?」
彼女はコンロを不思議そうな目で見ながら首を横に振った。扉の開く音が大きく聞こえ、ドタバタと足音がした。誰が帰ってきた事を見なくても分かる……。
「ただいまーーー」
元気な声が後ろから聞こえ、彼女も物珍しそうにコンロを触る。
「レイラはこの釜戸の事を知っていたか?」
「えー! これ釜戸だったの!」
びっくりして目を大きく見開いた。二人にコンロの使い方を説明すると、不思議そうな顔をしながら火をつけたり消したりしていた。玄関の呼び鈴がけたたましく鳴った。玄関にクリオネが立っており、出るのが遅いのよといって部屋に入ってきた。
「立派な魔道コンロでしょう」
彼女は手を腰に当てて宣言した……俺はこめかみに指をあて首をがっくりと落とす。
「で、このコンロは何なんだ?」
「私が料理するために買ってきたのよ」
さもありなんと納得してしまう自分が悲しかった。クリオネは今日は私がご馳走を作るから楽しみにしていなさいよといい、自分で持って来た食材を使って料理を作りだした。俺は彼女を好きにさせるほうが問題ないと思い部屋で待つ事にする。風呂場からレイラとルリが楽しそうにはしゃぐ声が聞こえた――おっちゃんも入って来いよという声は聞こえないふりをした……。
湯上がり姿の女を見るのは良い物だなと、レイラとルリを見ながらニヤニヤしていたら、クリオネが俺たちを呼びに来た。テーブルの上には今まで見た事の無いようなご馳走が所狭しと並んでいた。
「これは美味そうだな!」
「私が作ったんだから当たり前でしょ!」
鼻をぷくっとさせて小さな胸を張った。さすが宮廷料理人、美味しい居酒屋料理と比ぶべくもなく美味かった。まあ、ジャンルが全く違うので一概に言える訳ではないが、自分では到底作れない料理に舌鼓を打つ。うちの雛鳥たちもその料理を一心不乱に食べていた。
お腹もふくらみひ人心地ついたのでクリオネに話しかけた。
「料理の腕が見せたくて俺の家に来たのか?」
彼女はハッとして台所に走っていく…テーブルに綺麗なグラスに入ったデザートをトンと置いた。
「これを食べてみなさいよ!」
どうやら彼女は俺にプリンを見せたくて、これほど大きな舞台を用意したらしい。俺は深いため息を一つだけついた。
彼女の作ったプリンを口に入れると芳醇な香りと、きめ細やかな食感が舌に広がった。俺の作ったプリンとは次元が違うほど良くできていた。彼女は俺をどや顔で見つめている……。わざと敗北宣言しようとしたときルリが爆弾を落とした!
「あなたのプリンは出来損ない」
「な、なんですって!!」
ルリを大きな目で睨み付けた。ルリは冷蔵庫から俺の作ったプリンを彼女に差し出した。
「食べてみると良い」
「先日、食べましたわ」
そういいながらプリンを食べ始めた。なんだかんだ言っても素直になるツンデレエルフは可愛い。
カタン――彼女の手からスプーンが滑り落ちた。
「なんなの、これは!」
クリオネの顔が真っ青になり肩が震える。
「あなたのプリンには真心が入っていないのよ……カラメルソースという真心がね」
俺は真心を二回言ったルリを見ながら、何の茶番劇だと天井を見上げた。
「こんなソースはレシピになかったはずよ!」
彼女は大きな目に涙を浮かべながら俺を睨み付けた。実はプリンにカラメルソースが無くても美味しく食べる少数派であった。あと、火加減の難しい釜戸でカラメルソースを作るのも手間が掛かる。彼女に教えたレシピの中に、カラメルソースがなかったのはそんな理由である。
「分かったわね! あなたの完敗」
彼女が頑泣きする事は避けられない。俺は頭を抱える――
その寸劇を特等席で見ていたレイラは腹を押さえて笑い転げていた――
「そういうの、いりませんから」
そういって直ぐにドアを閉めたら、何度もしつこく扉を叩かれた。もう一度扉を開くと
「宗教の勧誘と違うんだから!」
いつぞやのエルフの少女が顔を真っ赤にして怒っていた。うちは新聞を読まないんでと被せようとしたが、異世界に新聞配達がない事に気がつき扉を閉めるのを止めた。
「何しに来たんだ?」
俺はあからさまに嫌な顔をして理由を尋ねた。クリオネは俺に大きな壺を手渡した。
「あんたに貰った調味料の数倍美味しい物を持って来てあげたんだから」
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「まあまあね」
そういって俺の前に空になった皿を差し出した。ルリも中身の無くなった茶碗を俺に見せた。
「プリンのおかわり頂戴」
「一日二個までと約束したよね」
彼女はプイと横を向き自分でプリンを取りに行った。
「オレらも食べたいから持って来てよ」
レイラがルリの後ろ姿に声をかけた。
三人がプリンを美味しそうに食べている姿を、物欲しそうにクリオネが見つめた。
「それも一応食べても良いかも」
俺は黙って自分のプリンを彼女に献上した。彼女はプリンの入った器を受け取り、鼻を近づけ匂いを嗅ぐ。そしてゆっくり匙をプリンに沈めてすくい取り不思議そうに見つめた。匙に乗せたプルプル震えるプリンを口に運ぶ。
「ん~~甘いでふぅ」
ウットリとした表情を作る。
「やっぱりプリンは正義」
ルリが何かいっている……
「このレシピなんて知りたくないんだから!」
大きな目に涙を一杯ためながら身体を震わす。俺は何にもしていないのに、また彼女たちに白い目で見られた。
台所で卵をかき混ぜながら、クリオネとプリンを一緒に作る。卵のかき混ぜ方がなっていないとずいぶん叱られた。卵と砂糖と牛乳だけでプリンが出来るのを知って目を丸くした。プリンを蒸すとき
「こんな釜戸でよく料理が出来るわね」
いつもの調子が出てきたのを見て、怒られているのになんだか嬉しくなった。プリン繋がりで砂糖の代わりに出汁で味付けをする茶碗蒸しのレシピも献上した。
数日後――
扉を開けると知らない男が数人たっていた。
「頼まれた仕事できました」
俺はこの人達に仕事を頼んだ覚えが一つもなかった。
「すまんが俺は仕事を頼んでないので間違った家に来てるぞ」
「えーすいません! ここはおっちゃんさんの家では無かったんですか?」
「いや、おっちゃんですが……」
そういうと、ガタイの良い職人達が大きな荷物を抱えて家に入ってきた。しかも、数人の男は大きなハンマーを肩に担いでいる。俺は訳が分からないまま、この侵入者を呆然と見送った。
部屋の奥からガゴンという大きな音が響いた。慌てて部屋に入ると大きなハンマーで釜戸を潰していた。
「何しやがるんだ!」
俺が大声を出すと、職人達は一斉に手を止めた――
「台所を新調してるのが、何か問題でもあんのか?」
「そんなこと頼んでないぞ!」
「はぁ!?この魔道具の代金は貰っているぞ」
職人が指さした魔道具は、大きさは違えど日本では当たり前の様に使っていたコンロにそっくりであった。俺は冒険に行く事も出来ずに、ぼんやりとその作業を見ていた。日本にいれば冷蔵庫からお茶を一杯差し出すのにと、そんな呑気なことを考えていた。台所での作業は半日で終えた。俺は何となく釈然としないまま職人に頭を下げ見送った。
真新しくなった台所にコンロが置かれている。カラーボックスを二つ足した大きさのコンロには、火の出るところが三つある。中央部下に取っ手がついており、それを引くと魔石をいれる仕組みになっていた。俺は家にある魔石をその引き出しの中に入れると、ゴロゴロと魔石がぶつかりながら消えていく。見た感じ魔道具の使い方は難しそうになかった。点火ボタンらしき出っ張りを押すとボワンという音と共に火がついた。上部についているレバーを動かすと思った通り、火が大きくなったり小さくなったりした。俺はその火を眺めながら懐かしさを覚えた。
日が沈む頃、まず最初にルリが家に帰ってきた。俺は彼女を台所に連れて行く。
「これを買ってくれたのはルリなのか?」
彼女はコンロを不思議そうな目で見ながら首を横に振った。扉の開く音が大きく聞こえ、ドタバタと足音がした。誰が帰ってきた事を見なくても分かる……。
「ただいまーーー」
元気な声が後ろから聞こえ、彼女も物珍しそうにコンロを触る。
「レイラはこの釜戸の事を知っていたか?」
「えー! これ釜戸だったの!」
びっくりして目を大きく見開いた。二人にコンロの使い方を説明すると、不思議そうな顔をしながら火をつけたり消したりしていた。玄関の呼び鈴がけたたましく鳴った。玄関にクリオネが立っており、出るのが遅いのよといって部屋に入ってきた。
「立派な魔道コンロでしょう」
彼女は手を腰に当てて宣言した……俺はこめかみに指をあて首をがっくりと落とす。
「で、このコンロは何なんだ?」
「私が料理するために買ってきたのよ」
さもありなんと納得してしまう自分が悲しかった。クリオネは今日は私がご馳走を作るから楽しみにしていなさいよといい、自分で持って来た食材を使って料理を作りだした。俺は彼女を好きにさせるほうが問題ないと思い部屋で待つ事にする。風呂場からレイラとルリが楽しそうにはしゃぐ声が聞こえた――おっちゃんも入って来いよという声は聞こえないふりをした……。
湯上がり姿の女を見るのは良い物だなと、レイラとルリを見ながらニヤニヤしていたら、クリオネが俺たちを呼びに来た。テーブルの上には今まで見た事の無いようなご馳走が所狭しと並んでいた。
「これは美味そうだな!」
「私が作ったんだから当たり前でしょ!」
鼻をぷくっとさせて小さな胸を張った。さすが宮廷料理人、美味しい居酒屋料理と比ぶべくもなく美味かった。まあ、ジャンルが全く違うので一概に言える訳ではないが、自分では到底作れない料理に舌鼓を打つ。うちの雛鳥たちもその料理を一心不乱に食べていた。
お腹もふくらみひ人心地ついたのでクリオネに話しかけた。
「料理の腕が見せたくて俺の家に来たのか?」
彼女はハッとして台所に走っていく…テーブルに綺麗なグラスに入ったデザートをトンと置いた。
「これを食べてみなさいよ!」
どうやら彼女は俺にプリンを見せたくて、これほど大きな舞台を用意したらしい。俺は深いため息を一つだけついた。
彼女の作ったプリンを口に入れると芳醇な香りと、きめ細やかな食感が舌に広がった。俺の作ったプリンとは次元が違うほど良くできていた。彼女は俺をどや顔で見つめている……。わざと敗北宣言しようとしたときルリが爆弾を落とした!
「あなたのプリンは出来損ない」
「な、なんですって!!」
ルリを大きな目で睨み付けた。ルリは冷蔵庫から俺の作ったプリンを彼女に差し出した。
「食べてみると良い」
「先日、食べましたわ」
そういいながらプリンを食べ始めた。なんだかんだ言っても素直になるツンデレエルフは可愛い。
カタン――彼女の手からスプーンが滑り落ちた。
「なんなの、これは!」
クリオネの顔が真っ青になり肩が震える。
「あなたのプリンには真心が入っていないのよ……カラメルソースという真心がね」
俺は真心を二回言ったルリを見ながら、何の茶番劇だと天井を見上げた。
「こんなソースはレシピになかったはずよ!」
彼女は大きな目に涙を浮かべながら俺を睨み付けた。実はプリンにカラメルソースが無くても美味しく食べる少数派であった。あと、火加減の難しい釜戸でカラメルソースを作るのも手間が掛かる。彼女に教えたレシピの中に、カラメルソースがなかったのはそんな理由である。
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