80 / 229
第八十一話 車窓の旅
しおりを挟む
犯罪者と一緒にこんな快適な旅をして良いのだろうか――
数日前の苦労が嘘だった様に思える。
昔はエルフと交流があったのを証明するかのように、荷馬車が通れるぐらいの幅で、舗装された道が何処までも続いている。
車窓から干し肉をかじりながら風景を堪能する。テトラも釘付けで、窓に顔をくっつけてこの旅を楽しんでいた。
「おっちゃん、でっかい魔獣が見えた!」
象とワニを足したような魔獣が数頭、群れをつくって走っている。
「嬢ちゃん、ガバガなんて良く見つけられたな! 素人なら自然と溶け込んでるから分かりにくいんだが……」
片目に大きな古傷が入った男がテトラを褒めた。
「探査魔法が使えるからね」
鼻をぷくっと膨らませ自慢する。
「すげーでかいな! こっちにきたら馬車は全滅だぞ」
しれっと、死亡フラグを立てて、同乗の男にギロリと一睨みされた。
「中鬼や小鬼の大きな群れはちょくちょく襲ってくるが、一番怖いのは同族だ。この荷を狙って待ち伏せされたらかなりヤバイぞ」
「盗賊の上前をはねるなんて、ドワーフの世界も世知辛いねぇ~」
「いやぁ、全くだぜ! ただ、俺たちの組織を狙う奴は早々居ないので、大船に乗ったつもりで安心してくれ」
彼から頼もしい一言を頂きました。
車窓の旅は快適だったが、昼食を挟んで出発した時点で景色に飽きてきた。魔獣も毎度見られる訳でもなく、延々と同じ景色が続いた。
絶えず動く景色は次々と後方へ流れて、電車に乗っている子供が車窓を見てキャッキャッと騒いでいたが直ぐにあきるの如く……。
馬車はいつの間にか揺りかごに変わり、俺たちは気持ちよさそうに船を漕いでいた。
同乗者の男に揺り起こされたときには、もう日が完全に傾いていた。彼らは野営の準備をテキパキとこなして、俺たちは何もすることもなく辺りを散策するしかなかった。
「この辺に、小動物が居ないか探知してくれ」
「了解……右の茂みに何か隠れているわね!」
俺は茂みの裏に回り、獲物を追い出す。テトラはそれをいとも簡単に魔法で仕留めた。
彼女の探査魔法のお陰で運良く、小動物を数匹狩り面目躍如となった。
俺たちは荷物といっても冒険者なので、夜の見張りはこなすことになっている。テトラと俺は真っ暗な森を見ながら空を見上げる。木々の隙間から沢山の星が降り注ぐように見えた。
「星がこんなにあるなんて気が付きもしなかった」
「同感だ……何だかんだで余裕のある旅ではなかったな」
「ううん……普通に生きてきて夜空をじっくり見るなんてしなかった」
二人は静かに星を見続けた……。
俺が方角を確認するのに、星空を見ていたことは内緒のはなし――
二日目、昨日とは打って変わって悪路になった。馬車は上下に揺れ、テトラは真っ青な顔になっていた。
「ウップ……もう駄目……限界」
馬車を止め、彼女はよろよろしながら藪に向かい隠れて嘔吐した。
「もう三回目だぞ!」
同乗していた男は、怒気をはらんだ声で俺に怒りをぶつけた。
「かなり前方ですが、茂みに沢山の気配がします」
彼女は弱々しい小さな声を絞り出した。
俺は大慌てで危険を知らせる。
「早くリーダーに伝えろ! 魔物か何かがこの馬車を狙っている可能性が大きい」
「何故そんなことが判る!?」
俺の言葉を全く信じていないことがありありと見える。
「テトラは探査魔法が使える」
それを聞いた男は、コージーの乗った馬車に連絡を繋ぐため走っていった。
「何事だ! ジジラス」
「向こうの大岩の辺りに、何かが待ち伏せしていると此奴らが言うもんで……」
――――コージーは俺たちの元に駆けつけてきた。
「その話しを信じて良いのか!?」
「何かが待ち構えているのは確かだ、このまま突っ込むのはリスクが高すぎる。今は休憩の振りをして対策を考えるのが先決だ」
「すまないが、もう少し情報が欲しいので、探査魔法で絞れるか?」
「うんやってみる・・・・・・・・・・数は十七、八かしら、魔物や野獣というより中鬼か人の集団……」
それを聞いたコージーは息を飲んだ。
「たぶん盗賊だろう……こちらは荷物の二人を加えて十人か……どうしたものか」
「回り道で、回避は出来ないのか?」
「此処は一本道だ……だからこそ網が張りやすい」
道の両端は木々が生い茂り、馬車を迂回させるには無理があった。
「荷を捨てるという選択はないか、荷より命が優先だ」
「それは無理だな。ここで俺たちを狙うと言うことは、魔物や野獣のせいにして全員殺すつもりだ」
俺はそれを聞いて暫く考えた。
「俺たちに命を預けるなら、案がある」
コージー達は一斉に注目した。
「全員、馬車から降りて戦う」
当たり前の作戦を聞いて、皆は一様に目を見張った。
「いや、俺たちはこの位置から歩いて迂回し、奴らが網を張っている所を後ろから攻撃する」
「ははっ! 机上の空論過ぎて笑えん」
白けた空気が広がる。
「こちらは居場所が探知出来る秘密兵器があるじゃないか」
男たちの行動は早かった。馬から荷台を切り離し、木に馬をくくりつける。
「ボウガンは全員に行き渡る数は十分にある。三人は普通の弓も使える」
コージーは自信に満ちた声で、戦力の話しをする。
( 俄然、勝機が出てきたな……)
「テトラはかなり強い攻撃魔法が使えるので、上手く当たれば一度に数人はやれるはずだ。俺は彼女の盾になるから、攻撃の人数には加えないでくれ。弓矢で急襲して奴らを殲滅する」
「命の掛かった戦いに巻き込まれたが、行けそうか?」
「さっきポーションを飲んだから大分ましになった……魔法が打てないほど弱ってないわ」
「それを聞いて安心した」
彼女の頭をなでると、子供扱いしないでと上目使いで怒られてしまう。
密輸をしている組織だけあって、積んでいた武器はかなり余裕がある。
両手でボーガンを抱えながら、後ろの背中にボウガンをもう一つ担いでいる。しかも、連射機能があると移動しながら自慢された。
俺たちは藪漕ぎをしながら、ゆっくりと前に進む。暫くの間、藪など見たくもなかったが……。
これから起こる戦闘に大きなため息をひとつつく。
「馬車に近づく反応はあるか?」
「今のところはゼロよ」
「俺たちは攻撃に極振りしたので、斥候が来たら作戦を早めるしかない。此処まで来たら斥候の探知、網を張っている人の動きを優先してくれ」
「了解したわ」
彼らが網を張る場所に近づくと、敵の全貌が見えた。ドワーフの集団が武器を持ちながら地面に腰掛け談笑している、
盗賊だ――
「なんとか、やれそうだ……」
静かに呟いた。
ヒュンという弓の音が耳に響く。少しだけ、時間をずらしたテトラの魔法が盗賊の集団にぶつかる。彼らは一瞬何が起こったのか理解出来ずに狼狽えた。しかし、すぐに武器を持ち立ち上がり、弓が放たれた方向に身体を向けた。
その身体に容赦ない二度目の攻撃が降り注ぐ。
ボウガンを撃ち尽くしたドワーフは、腰に刺している剣に持ち替えた。二十人いた略奪者はもう半分以下になっている。
まだ、こちらと相手の距離はかなり空いている。三回目のテトラの魔法と弓矢で体制は完全に逆転した。
生き残った数人のドワーフはコージー達に囲まれ斬り殺されるか、武器を捨て降参した。俺は乱戦にならなかったことに心から安堵した。
盗賊団を撃退し浮かれていたので
「馬車が空なのを忘れたか!!」
俺はドスの利いた声で叱咤した。
なごやかだった場の空気が、その一言で冷たくなった。コージーは部下に直ぐさま指示を出した。
動かなくなった盗賊を道の端に転がし、その場に残った全員で弓矢を集める。暫くすると馬車が現れ、安堵の空気が広がった。
そうして何事もなかったように馬車は出発する――
「な、なんだこの乗り心地の良さは」
「嘘みたいに、揺れが少ないです!!!!」
俺たちの荷の価値が変わり、ランクアップした馬車に乗せられていた。隣にはリーダーのコージーが座っている。
「初めからここに乗せろよ!」
「助けて貰った礼だと思ってくれ」
わざとらしく済まなさそうな顔を作る。
「違うだろ……テトラの探知魔法を優先してこの馬車に乗せた」
「察しの良い奴は嫌いだぜ」
コージーは俺に暗い陰を覗かせる。
翌日も馬車は順調に悪路を進む。時折、中鬼の集団が荷馬車を狙って襲いかかってくるが、事前に察知されているので相手にもならなかった。大型獣や大鬼の反応もなく、十分な距離を稼ぐことが出来た。
四日目、最後の拠点を後に馬車に乗車した。人間(エルフ)は悲鳴を上げる。
「もう馬車には乗りたくない!」
振動でおしりをやられたらしい……。
「これほど安全に来られたのは、お前ら二人のお陰だ、礼を言うぜ」
俺は満面に笑みを浮かべて言う。
「なら、運賃は全額返金だな」
「何言ってんだ、お前らの力量込みでこの値段だぞ」
ニヤリと笑い返してきた。
「機会があればまたお願いする、ただしテトラは居ないからな!」
「それじゃあ、残念ながら乗車賃は倍だぜ」
俺たちは上を向きながら爆笑した。
遠目に、ぼんやりとした都市が見えてきた。やがてその建物の輪郭がはっきりしてくる。
エルフ皇国まであと間近の所に迫り馬車が停止した。
「エルフ皇国の手前だがここでお別れだ、俺たちは中に入れないからな」
俺たちはコージーたちに礼を言い、荷物と一緒に馬車から降りた。
―――――エルフ皇国に続く街道をゆっくりと歩く。
「いい人たちで良かったね」
「違うぞ……俺たちは一歩間違えば殺されていたさ」
「え、え~~~~~~~~~~~~~~ッ!!」
彼女は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
「テトラの種族はなんだ?」
「エルフだけど……」
「彼らはエルフ皇国の隙を見て密輸で儲けている。もしエルフに密告される可能性があったとしたら、どうなるかは火を見るよりも明らかだ 。ノエルの力、俺の名声そして最後はテトラの屈託のない笑顔と強さで、彼らは俺たちを天秤に掛けたのさ」
彼女は目をぱちくりさせながら『ふへー』と息を吐いた。
「城門が見えてきたぞ」
その言葉に、テトラは喜びが弾け、一直線に勝手知ったる道を走り出す……。
俺たち二人の旅は終わりに近づく――
数日前の苦労が嘘だった様に思える。
昔はエルフと交流があったのを証明するかのように、荷馬車が通れるぐらいの幅で、舗装された道が何処までも続いている。
車窓から干し肉をかじりながら風景を堪能する。テトラも釘付けで、窓に顔をくっつけてこの旅を楽しんでいた。
「おっちゃん、でっかい魔獣が見えた!」
象とワニを足したような魔獣が数頭、群れをつくって走っている。
「嬢ちゃん、ガバガなんて良く見つけられたな! 素人なら自然と溶け込んでるから分かりにくいんだが……」
片目に大きな古傷が入った男がテトラを褒めた。
「探査魔法が使えるからね」
鼻をぷくっと膨らませ自慢する。
「すげーでかいな! こっちにきたら馬車は全滅だぞ」
しれっと、死亡フラグを立てて、同乗の男にギロリと一睨みされた。
「中鬼や小鬼の大きな群れはちょくちょく襲ってくるが、一番怖いのは同族だ。この荷を狙って待ち伏せされたらかなりヤバイぞ」
「盗賊の上前をはねるなんて、ドワーフの世界も世知辛いねぇ~」
「いやぁ、全くだぜ! ただ、俺たちの組織を狙う奴は早々居ないので、大船に乗ったつもりで安心してくれ」
彼から頼もしい一言を頂きました。
車窓の旅は快適だったが、昼食を挟んで出発した時点で景色に飽きてきた。魔獣も毎度見られる訳でもなく、延々と同じ景色が続いた。
絶えず動く景色は次々と後方へ流れて、電車に乗っている子供が車窓を見てキャッキャッと騒いでいたが直ぐにあきるの如く……。
馬車はいつの間にか揺りかごに変わり、俺たちは気持ちよさそうに船を漕いでいた。
同乗者の男に揺り起こされたときには、もう日が完全に傾いていた。彼らは野営の準備をテキパキとこなして、俺たちは何もすることもなく辺りを散策するしかなかった。
「この辺に、小動物が居ないか探知してくれ」
「了解……右の茂みに何か隠れているわね!」
俺は茂みの裏に回り、獲物を追い出す。テトラはそれをいとも簡単に魔法で仕留めた。
彼女の探査魔法のお陰で運良く、小動物を数匹狩り面目躍如となった。
俺たちは荷物といっても冒険者なので、夜の見張りはこなすことになっている。テトラと俺は真っ暗な森を見ながら空を見上げる。木々の隙間から沢山の星が降り注ぐように見えた。
「星がこんなにあるなんて気が付きもしなかった」
「同感だ……何だかんだで余裕のある旅ではなかったな」
「ううん……普通に生きてきて夜空をじっくり見るなんてしなかった」
二人は静かに星を見続けた……。
俺が方角を確認するのに、星空を見ていたことは内緒のはなし――
二日目、昨日とは打って変わって悪路になった。馬車は上下に揺れ、テトラは真っ青な顔になっていた。
「ウップ……もう駄目……限界」
馬車を止め、彼女はよろよろしながら藪に向かい隠れて嘔吐した。
「もう三回目だぞ!」
同乗していた男は、怒気をはらんだ声で俺に怒りをぶつけた。
「かなり前方ですが、茂みに沢山の気配がします」
彼女は弱々しい小さな声を絞り出した。
俺は大慌てで危険を知らせる。
「早くリーダーに伝えろ! 魔物か何かがこの馬車を狙っている可能性が大きい」
「何故そんなことが判る!?」
俺の言葉を全く信じていないことがありありと見える。
「テトラは探査魔法が使える」
それを聞いた男は、コージーの乗った馬車に連絡を繋ぐため走っていった。
「何事だ! ジジラス」
「向こうの大岩の辺りに、何かが待ち伏せしていると此奴らが言うもんで……」
――――コージーは俺たちの元に駆けつけてきた。
「その話しを信じて良いのか!?」
「何かが待ち構えているのは確かだ、このまま突っ込むのはリスクが高すぎる。今は休憩の振りをして対策を考えるのが先決だ」
「すまないが、もう少し情報が欲しいので、探査魔法で絞れるか?」
「うんやってみる・・・・・・・・・・数は十七、八かしら、魔物や野獣というより中鬼か人の集団……」
それを聞いたコージーは息を飲んだ。
「たぶん盗賊だろう……こちらは荷物の二人を加えて十人か……どうしたものか」
「回り道で、回避は出来ないのか?」
「此処は一本道だ……だからこそ網が張りやすい」
道の両端は木々が生い茂り、馬車を迂回させるには無理があった。
「荷を捨てるという選択はないか、荷より命が優先だ」
「それは無理だな。ここで俺たちを狙うと言うことは、魔物や野獣のせいにして全員殺すつもりだ」
俺はそれを聞いて暫く考えた。
「俺たちに命を預けるなら、案がある」
コージー達は一斉に注目した。
「全員、馬車から降りて戦う」
当たり前の作戦を聞いて、皆は一様に目を見張った。
「いや、俺たちはこの位置から歩いて迂回し、奴らが網を張っている所を後ろから攻撃する」
「ははっ! 机上の空論過ぎて笑えん」
白けた空気が広がる。
「こちらは居場所が探知出来る秘密兵器があるじゃないか」
男たちの行動は早かった。馬から荷台を切り離し、木に馬をくくりつける。
「ボウガンは全員に行き渡る数は十分にある。三人は普通の弓も使える」
コージーは自信に満ちた声で、戦力の話しをする。
( 俄然、勝機が出てきたな……)
「テトラはかなり強い攻撃魔法が使えるので、上手く当たれば一度に数人はやれるはずだ。俺は彼女の盾になるから、攻撃の人数には加えないでくれ。弓矢で急襲して奴らを殲滅する」
「命の掛かった戦いに巻き込まれたが、行けそうか?」
「さっきポーションを飲んだから大分ましになった……魔法が打てないほど弱ってないわ」
「それを聞いて安心した」
彼女の頭をなでると、子供扱いしないでと上目使いで怒られてしまう。
密輸をしている組織だけあって、積んでいた武器はかなり余裕がある。
両手でボーガンを抱えながら、後ろの背中にボウガンをもう一つ担いでいる。しかも、連射機能があると移動しながら自慢された。
俺たちは藪漕ぎをしながら、ゆっくりと前に進む。暫くの間、藪など見たくもなかったが……。
これから起こる戦闘に大きなため息をひとつつく。
「馬車に近づく反応はあるか?」
「今のところはゼロよ」
「俺たちは攻撃に極振りしたので、斥候が来たら作戦を早めるしかない。此処まで来たら斥候の探知、網を張っている人の動きを優先してくれ」
「了解したわ」
彼らが網を張る場所に近づくと、敵の全貌が見えた。ドワーフの集団が武器を持ちながら地面に腰掛け談笑している、
盗賊だ――
「なんとか、やれそうだ……」
静かに呟いた。
ヒュンという弓の音が耳に響く。少しだけ、時間をずらしたテトラの魔法が盗賊の集団にぶつかる。彼らは一瞬何が起こったのか理解出来ずに狼狽えた。しかし、すぐに武器を持ち立ち上がり、弓が放たれた方向に身体を向けた。
その身体に容赦ない二度目の攻撃が降り注ぐ。
ボウガンを撃ち尽くしたドワーフは、腰に刺している剣に持ち替えた。二十人いた略奪者はもう半分以下になっている。
まだ、こちらと相手の距離はかなり空いている。三回目のテトラの魔法と弓矢で体制は完全に逆転した。
生き残った数人のドワーフはコージー達に囲まれ斬り殺されるか、武器を捨て降参した。俺は乱戦にならなかったことに心から安堵した。
盗賊団を撃退し浮かれていたので
「馬車が空なのを忘れたか!!」
俺はドスの利いた声で叱咤した。
なごやかだった場の空気が、その一言で冷たくなった。コージーは部下に直ぐさま指示を出した。
動かなくなった盗賊を道の端に転がし、その場に残った全員で弓矢を集める。暫くすると馬車が現れ、安堵の空気が広がった。
そうして何事もなかったように馬車は出発する――
「な、なんだこの乗り心地の良さは」
「嘘みたいに、揺れが少ないです!!!!」
俺たちの荷の価値が変わり、ランクアップした馬車に乗せられていた。隣にはリーダーのコージーが座っている。
「初めからここに乗せろよ!」
「助けて貰った礼だと思ってくれ」
わざとらしく済まなさそうな顔を作る。
「違うだろ……テトラの探知魔法を優先してこの馬車に乗せた」
「察しの良い奴は嫌いだぜ」
コージーは俺に暗い陰を覗かせる。
翌日も馬車は順調に悪路を進む。時折、中鬼の集団が荷馬車を狙って襲いかかってくるが、事前に察知されているので相手にもならなかった。大型獣や大鬼の反応もなく、十分な距離を稼ぐことが出来た。
四日目、最後の拠点を後に馬車に乗車した。人間(エルフ)は悲鳴を上げる。
「もう馬車には乗りたくない!」
振動でおしりをやられたらしい……。
「これほど安全に来られたのは、お前ら二人のお陰だ、礼を言うぜ」
俺は満面に笑みを浮かべて言う。
「なら、運賃は全額返金だな」
「何言ってんだ、お前らの力量込みでこの値段だぞ」
ニヤリと笑い返してきた。
「機会があればまたお願いする、ただしテトラは居ないからな!」
「それじゃあ、残念ながら乗車賃は倍だぜ」
俺たちは上を向きながら爆笑した。
遠目に、ぼんやりとした都市が見えてきた。やがてその建物の輪郭がはっきりしてくる。
エルフ皇国まであと間近の所に迫り馬車が停止した。
「エルフ皇国の手前だがここでお別れだ、俺たちは中に入れないからな」
俺たちはコージーたちに礼を言い、荷物と一緒に馬車から降りた。
―――――エルフ皇国に続く街道をゆっくりと歩く。
「いい人たちで良かったね」
「違うぞ……俺たちは一歩間違えば殺されていたさ」
「え、え~~~~~~~~~~~~~~ッ!!」
彼女は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
「テトラの種族はなんだ?」
「エルフだけど……」
「彼らはエルフ皇国の隙を見て密輸で儲けている。もしエルフに密告される可能性があったとしたら、どうなるかは火を見るよりも明らかだ 。ノエルの力、俺の名声そして最後はテトラの屈託のない笑顔と強さで、彼らは俺たちを天秤に掛けたのさ」
彼女は目をぱちくりさせながら『ふへー』と息を吐いた。
「城門が見えてきたぞ」
その言葉に、テトラは喜びが弾け、一直線に勝手知ったる道を走り出す……。
俺たち二人の旅は終わりに近づく――
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。
↓
PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる