働くおじさん異世界に逝く~プリンを武器に俺は戦う!薬草狩りで世界を制す~

山鳥うずら

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第百十話 ギルドデビュー

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 ソラが生まれてから一月近く経つが、山には入っていない。ソラの食事代でギルドに預けていたお金が、かなり溶けかけてきた。外の世界にも慣れてきたので、一度ソラを連れて薬草狩りに行くことにする。ソラの食事とソラを乗せて、ソリを引いてみる。嫌がって荷から飛び降りるかと思ったが、バランス良く荷の上で一緒に運ばれる。

 野草の群生地に着いたのでソラをソリから降ろした。リードを腰に巻き、薬草を狩り始めた。最初は俺の横で、リードの届く範囲でうろうろしながら一人で遊んでいた。それもすぐに飽きたのか、狩り取る手にじゃれついて仕事の邪魔をする。ここでちゃんと躾が出来なければ、最後の手段として誰かに預けるしかない。

 そんな悩みなど知ったこっちゃないと言わんばかりに、「キューキュー」とご飯をねだり始めた。

 持ってきた食事を与えると、腹を満たされたソラがうとうとし始める。俺はソラを鞄につめ背負うことにした。ソラの重みがズシリと肩に来る。薬草狩りを再開して動き回るが、ソラは静かに鞄の中で眠っていた。数時間、薬草狩りを続けていたら、鞄の中からソラの鳴き声が聞こえてきた。

 俺は鞄の中からソラを取り出し遊んでやる。そして食事を与えるとまた眠りにつく。思った以上にこのパターンがはまり安堵する。もう少し慣れれば、ソリの上にソラを寝かしつけることも出来るかもしれない。まだ一月ちょっとの子供なので無理は出来ない。まあ、ここに連れてきていることも、親としては失格だと自覚はしていた。

 とりあえず初日の成果としては成功だったと思う。狩った薬草とソラを連れてギルドに向かう。

「薬草の換金を頼む」

 ギルドには、家庭の事情で当分来られない旨を伝えていた。だからといってマリーサさんの居る窓口で換金するのは、何故だかためらってしまう。わざと彼女のいない窓口に並び、薬草の買い取りをして貰う。

 その後、もう一つの用事が残っていたので、ギルドの酒場に立ち寄った。

「マスターを呼んでくれ」

 多くの人たちで賑わう酒場で、給仕を捕まえ声を掛けた。

「あら、久し振りですね、オットウさんが寂しそうにしてましたよ」

 そう言って、酒場の店主を呼びに行った。

「何のようじゃ?」

 少し白髪の交じった小太りの男が、面倒臭そうな顔をしながら俺の所にやってきた。

「もう少し愛想良くしろよな」

「底辺冒険者に媚びを売っても、儲けの足しにもならんさ。どうせまた、一銭にもならない厄介ごとを、持ってきただけだろう」

 俺はソラを抱え上げマスターに見せつけた。ソラは店主に向かって「キューン」と鳴く。

「卵から、こいつが産まれたぞ」

「お、おい! まさか腹に抱えていた卵が孵ったというのか!?」

 マスターが、とても不満そうな表情でソラを見た。

「その、まさかだよ」

「あの卵から産まれたとしても、大きすぎやしないか?」
 
「産まれてから一月たつしな……が、産まれてすぐの子供を持ってくるバカは居ないことを先に言っとくぞ」

「そ、そりゃそうだな……しかしそれを証明するものが何処にあるというのだ?」

「ハハハ……賭の対象になってただろ。俺はこの件に何も関わっていないのに、親切心で、一番最初に知らせてやったんだぜ。銀貨一枚貰ってもおかしくないわな」

 枯れた笑いをしながら、用件を済ませた。酒場のマスターは、胴元ではないが、ギルド内の賭け事には大概関わっている。

「悪かったというか、何というか……」

 頭をボリボリ掻きながら、ばつの悪そうな顔をした。

 俺は酒場から出ようとしたら、このやりとりを見ていた冒険者達がわらわらと俺の周りに集まってきた。

「キュピーーッッ」

 初めて見る沢山の男たちに囲まれたソラは、驚いて俺の身体にしがみついてきた。

「こいつが卵から生まれたって!?」

「こいつじゃなくて、ソラだ!」

 俺は面倒臭さそうになる前に、椅子に腰掛けソラをどんとテーブルの上に載せた。

「このトカゲ、凄い綺麗な色をしてるよな!」
 
「どこかで拾ってきたんだろ」

「うわー大金すっちまったよ!!」

「 鳥の卵じゃなかったのかよ!? 」

 信じるかは別に俺には関係ないことをしっかり説明し、孵化に成功したことを冒険者仲間に伝えた。俺は答えられる範囲の質問には、対応することにしたら、一時、ざわめいた酒場も落ち着きを取り戻す。

 給仕から俺に頼んでもいないお酒が届けられる――

「あちらの方からです」

 給仕が指した先にオットウが、親指を立てにやけ顔を向けている、

「ソラちゃん誕生に乾杯ーーーい!!」

 オットウが突然、乾杯の音頭を取った。ノリの良い冒険者たちはそれに答える。

「「「「「「「「「「かんぱーーーーーーい!!」」」」」」」」」」

 ソラを肴に即席の誕生会が開かれた。適当に騒いでいる冒険者は楽しいが、それに巻き込まれた俺たちには迷惑でしかない。

 「エー、この子ソラちゃんで言うんだぁ~」

 若い女の冒険者がソラを取り囲む。必然的に俺はおっぱいに挟まれることになった。

 「マスター!  ソラちゃんにサラダと生肉お願いね」

 注文の無茶振りを笑顔で対応する 。何故なら若い女冒険者が飲んでくれることで、ギルドの酒場も活性するからだ、以前はタバコと男ばかりの酒場だったが、女性目線の改革によって売り上げが数倍伸びていた。そんな上客に逆らうほど馬鹿な経営者ではなかった。きっちりとお金を頂きながら、顧客を喜ばせる敏腕マスターであった。俺も迷惑だと言いながら、若い女に囲まれて鼻の下が伸びっぱなしだった。

  沢山の食事と女の子に満足したのか、ソラは眠り始めた。俺はソラを抱きかかえ、まだ遊び足りなさそうな冒険者に別れを告げて酒場をお後にした。

 何となくデレデレしたソラを見ていると、此奴は男ではないかと思いながらの寝顔を見つめた。
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