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第百四十四話 その妖精、凶暴につき
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いつものように、右手でロープを握りしめ繋いだソリを引きながら大通りの道を歩く。ただ一つだけ違うとすれば、一匹の妖精が俺の周りを飛び回っていることだけだ。
「もう、頭に乗ってくれても構わないので、目の前を飛び回るのは止めてくれ!」
「こんなに良い天気なのに、飛ばないなんておかしいとは思わない?」
「おかしいのは、お前の方だよ!」
「アハハハハハ、おっちゃんに怒られちゃった」
全く反省することなく、チックは喋りながら飛び続けた。
(くーー絞め殺してやりたい)最初に会話したとき腹が立ったが、今思えば、会話が成立しただけ百倍ましだった……。
武器や防具を扱う店が建ち並ぶ商店街に着くまで、極度のストレスで今にも倒れそうな気分になった。
いつも利用する道具屋に着いた俺は、チックが入らないように扉を素早く開けて店の中に入った。
「わわわ、ぴかぴか光る、沢山光る」
チックは物珍しそうに、壁に掛かった防具をべたべたと触る。
「勘弁してくれ!!」
大声で怒鳴り散らした。
「なんだか分からないが、わしが悪かった……」
レジ前に座っていた防具屋の店主が、申し訳なさそうに謝った
「親父さん……突然、声を張り上げて悪かった」
俺は狼狽しながら、顔を真っ赤にして頭を何度も下げた。
「ワハハハハ、まあ人間たまには、そんなときもあるわな。で、それはそうと頼まれておった物はそろえたぞ」
そう言って、それを俺に手渡した。
「流石。親父さん注文通りに仕上がっている」
代金を支払い、防具を身体に装着し、その他の道具を革ジャンの内ポケットに押し込んだ。
「ソラちゃんは元気してると良いな」
親父はもう何年もあって居ないような感じで話す。
「あいつなら、向こうでも可愛がられているさ」
そう言って、会話を終わらして店から出た。
「元気なら良いよね! 私も元気だよ! おっちゃんも元気だしなよ!」
一緒に店を出たつもりは無かったチックは、俺の顔の前でホバリングしながら喋り続けていた。防具屋を後に、のろのろと山に向かう。チックが喋りかけてくるので、適当に相づちを打ちながら道を進む。否応なしにチックの後ろに、雲一つ無い空が飛び込んでくる。そういえば最近下を向いて歩いていた気がすると、うるさい彼女に教えられた気がしてむかついた。
山には入って薬草狩りを始めると、チックは野草の花に頭を突っ込みながら飛んでいる。ひとしきり蜜を吸い終わると、俺の頭に止まって休息を取りに来る。頭の上から花粉がパラパラと落ちてきてくしゃみが止まらない……。
「頭に乗るな、せめて肩にしてくれ」
「クハハハ、もっと動いて! 楽しいよ」
俺の髪の毛をつかみ、乗馬運動するロデオマシーンから、振り落とされない様にバランスをとって乗りこなそうとはしゃいでいた。小さいので重みは感じないが、耳元で壊れたラジオのように話すのは勘弁して欲しい。俺は薬草狩りを続けることだけに専念した。
「ほら! その草を取り忘れてる」
頭の上から現場監督が監視を続ける――
「監督~そろそろ飯にするんで降りて下さい」
流石に頭に妖精を乗せたまま飯を食べる気にはならなかったので、頭を振ってチックを振り落とす。それも遊びの一環ととらえて、もう一回やれと催促してきた……。俺の心が折れるまでチックは、飽きることなく絡んでくる。
「もう、勘弁して下さい」
今日の昼食は、少しだけしょっぱい味がした。
「もう、頭に乗ってくれても構わないので、目の前を飛び回るのは止めてくれ!」
「こんなに良い天気なのに、飛ばないなんておかしいとは思わない?」
「おかしいのは、お前の方だよ!」
「アハハハハハ、おっちゃんに怒られちゃった」
全く反省することなく、チックは喋りながら飛び続けた。
(くーー絞め殺してやりたい)最初に会話したとき腹が立ったが、今思えば、会話が成立しただけ百倍ましだった……。
武器や防具を扱う店が建ち並ぶ商店街に着くまで、極度のストレスで今にも倒れそうな気分になった。
いつも利用する道具屋に着いた俺は、チックが入らないように扉を素早く開けて店の中に入った。
「わわわ、ぴかぴか光る、沢山光る」
チックは物珍しそうに、壁に掛かった防具をべたべたと触る。
「勘弁してくれ!!」
大声で怒鳴り散らした。
「なんだか分からないが、わしが悪かった……」
レジ前に座っていた防具屋の店主が、申し訳なさそうに謝った
「親父さん……突然、声を張り上げて悪かった」
俺は狼狽しながら、顔を真っ赤にして頭を何度も下げた。
「ワハハハハ、まあ人間たまには、そんなときもあるわな。で、それはそうと頼まれておった物はそろえたぞ」
そう言って、それを俺に手渡した。
「流石。親父さん注文通りに仕上がっている」
代金を支払い、防具を身体に装着し、その他の道具を革ジャンの内ポケットに押し込んだ。
「ソラちゃんは元気してると良いな」
親父はもう何年もあって居ないような感じで話す。
「あいつなら、向こうでも可愛がられているさ」
そう言って、会話を終わらして店から出た。
「元気なら良いよね! 私も元気だよ! おっちゃんも元気だしなよ!」
一緒に店を出たつもりは無かったチックは、俺の顔の前でホバリングしながら喋り続けていた。防具屋を後に、のろのろと山に向かう。チックが喋りかけてくるので、適当に相づちを打ちながら道を進む。否応なしにチックの後ろに、雲一つ無い空が飛び込んでくる。そういえば最近下を向いて歩いていた気がすると、うるさい彼女に教えられた気がしてむかついた。
山には入って薬草狩りを始めると、チックは野草の花に頭を突っ込みながら飛んでいる。ひとしきり蜜を吸い終わると、俺の頭に止まって休息を取りに来る。頭の上から花粉がパラパラと落ちてきてくしゃみが止まらない……。
「頭に乗るな、せめて肩にしてくれ」
「クハハハ、もっと動いて! 楽しいよ」
俺の髪の毛をつかみ、乗馬運動するロデオマシーンから、振り落とされない様にバランスをとって乗りこなそうとはしゃいでいた。小さいので重みは感じないが、耳元で壊れたラジオのように話すのは勘弁して欲しい。俺は薬草狩りを続けることだけに専念した。
「ほら! その草を取り忘れてる」
頭の上から現場監督が監視を続ける――
「監督~そろそろ飯にするんで降りて下さい」
流石に頭に妖精を乗せたまま飯を食べる気にはならなかったので、頭を振ってチックを振り落とす。それも遊びの一環ととらえて、もう一回やれと催促してきた……。俺の心が折れるまでチックは、飽きることなく絡んでくる。
「もう、勘弁して下さい」
今日の昼食は、少しだけしょっぱい味がした。
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