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第百六十六話 亡国の姫君【其の九】
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「こんにちは」
玄関の扉からおかっぱ頭の小さな女の子が、笑顔で覗いている。
この数日の間で、いつもと大きく変わった点がある。それは玄関の呼び鈴がガランと鳴った途端、スカーレットが真っ先に玄関まで飛び出すのが、当たり前の光景になっていた事だ。
「レミちゃん、こんにちは」
スカーレットはちゃん付けで、レミを呼んでいる。それだけで二人の関係性が縮まっているのが、すぐに分かった。彼女はすでに外出の準備を終えており、そのまま家から飛び出した。
俺はいつものように彼女たちの後ろから、お菓子屋について行く。警護のために近くに寄っていたのだが、レミと仲良くなった途端、会話を聞かれたくないのか「もう少し離れて下さる」と、嫌そうな顔で注意されてしまう。今では、彼女たちが楽しそうに笑い声を上げている話しの内容が、聞こえない位置に追いやられていた。
「これなんか美味しそうですわ……」
「私も食べたことがないので、籠に入れるの」
二人は楽しそうにお菓子を手に持って、各々の籠に放り込む。
「スカーレットちゃん、これは一押しのお菓子なの」
彼女は串に刺された、粉まみれのお菓子を指差した。
「レミちゃんの一押しは、沢山ありすぎて迷ってしまいます」
スカーレットは、穏やかな表情でクスクスと笑う。
「どれも美味しいから、仕方がないの!」
レミは鼻の穴をぷくっと広げて、怒った振りをした。
「おばさん、お会計して下さいなの」
そう言って、彼女は一押しの沢山詰まった籠を、店主に差し出しお代を払った。
「私もお願いしますわ」
スカーレットも同じように、お菓子の詰まった籠と一緒にお代を払おうとしたとき問題が起こる。
「お嬢さん、お金が足らないので、もう二枚黄銅貨を出して頂戴ね」
彼女は一瞬、何を言われたのか分からなかった。しかし先日稼いだ小銭を適当に渡して、お釣りを貰っていたことに気が付いた。
「あの……もうお金が無くなりました」
そんなことが言えずに、押し黙ってしまう。
「おばさん、これで丁度よね」
そう言って、小さな手を店主にのばして、スカーレットの代金をレミが代わりに精算した……。
「こんなことをして貰う筋合いはないですわ!」
スカーレットは強い口調で、レミの行為を拒もうとした。
「フフフ、こんな時のために、私の秘密袋が役に立つの」
彼女は懐から、小銭のつまった小さな袋をジャラリと鳴らして見せた。
「あのね、おっちゃんが沢山お金を使うところを、見せると良くないと教えてくれたの。だからこれからはスカーレットちゃんが、お金を払ったと言うことにするの」
小さな女の子にお金を出して貰った上に、自分がおごった事にしてくれた彼女の気遣いが、無神経で許せなかった……。しかしレミの屈託のない笑顔を見ると、彼女の周りの大人たちの様な自分に対する忖度した言葉ではない。彼女の言葉には全く裏がない、純粋に私と一緒にお菓子を買って、楽しんでいるのが理解出来た。
「ありがとう、早くお菓子を食べましょう」
違う言葉が、喉まで出掛かったのをぐっと押さえて、彼女の親切に答えた。
「もうお腹がぺこぺこなの」
にぱぱと笑って、ポッコリとしたお腹をさすって見せた。
お菓子屋の前に備え付けられた、長椅子に二人で座りながらお菓子を頬張る。まさか自分が王女としてこんな振る舞いをするなんて思いもしなかった。国を出てから一度も休まることがなかった心が、小さな友達に癒される喜びを噛みしめた。
スカーレットの心の中の苦い気持ちが、甘く蕩けていく――
玄関の扉からおかっぱ頭の小さな女の子が、笑顔で覗いている。
この数日の間で、いつもと大きく変わった点がある。それは玄関の呼び鈴がガランと鳴った途端、スカーレットが真っ先に玄関まで飛び出すのが、当たり前の光景になっていた事だ。
「レミちゃん、こんにちは」
スカーレットはちゃん付けで、レミを呼んでいる。それだけで二人の関係性が縮まっているのが、すぐに分かった。彼女はすでに外出の準備を終えており、そのまま家から飛び出した。
俺はいつものように彼女たちの後ろから、お菓子屋について行く。警護のために近くに寄っていたのだが、レミと仲良くなった途端、会話を聞かれたくないのか「もう少し離れて下さる」と、嫌そうな顔で注意されてしまう。今では、彼女たちが楽しそうに笑い声を上げている話しの内容が、聞こえない位置に追いやられていた。
「これなんか美味しそうですわ……」
「私も食べたことがないので、籠に入れるの」
二人は楽しそうにお菓子を手に持って、各々の籠に放り込む。
「スカーレットちゃん、これは一押しのお菓子なの」
彼女は串に刺された、粉まみれのお菓子を指差した。
「レミちゃんの一押しは、沢山ありすぎて迷ってしまいます」
スカーレットは、穏やかな表情でクスクスと笑う。
「どれも美味しいから、仕方がないの!」
レミは鼻の穴をぷくっと広げて、怒った振りをした。
「おばさん、お会計して下さいなの」
そう言って、彼女は一押しの沢山詰まった籠を、店主に差し出しお代を払った。
「私もお願いしますわ」
スカーレットも同じように、お菓子の詰まった籠と一緒にお代を払おうとしたとき問題が起こる。
「お嬢さん、お金が足らないので、もう二枚黄銅貨を出して頂戴ね」
彼女は一瞬、何を言われたのか分からなかった。しかし先日稼いだ小銭を適当に渡して、お釣りを貰っていたことに気が付いた。
「あの……もうお金が無くなりました」
そんなことが言えずに、押し黙ってしまう。
「おばさん、これで丁度よね」
そう言って、小さな手を店主にのばして、スカーレットの代金をレミが代わりに精算した……。
「こんなことをして貰う筋合いはないですわ!」
スカーレットは強い口調で、レミの行為を拒もうとした。
「フフフ、こんな時のために、私の秘密袋が役に立つの」
彼女は懐から、小銭のつまった小さな袋をジャラリと鳴らして見せた。
「あのね、おっちゃんが沢山お金を使うところを、見せると良くないと教えてくれたの。だからこれからはスカーレットちゃんが、お金を払ったと言うことにするの」
小さな女の子にお金を出して貰った上に、自分がおごった事にしてくれた彼女の気遣いが、無神経で許せなかった……。しかしレミの屈託のない笑顔を見ると、彼女の周りの大人たちの様な自分に対する忖度した言葉ではない。彼女の言葉には全く裏がない、純粋に私と一緒にお菓子を買って、楽しんでいるのが理解出来た。
「ありがとう、早くお菓子を食べましょう」
違う言葉が、喉まで出掛かったのをぐっと押さえて、彼女の親切に答えた。
「もうお腹がぺこぺこなの」
にぱぱと笑って、ポッコリとしたお腹をさすって見せた。
お菓子屋の前に備え付けられた、長椅子に二人で座りながらお菓子を頬張る。まさか自分が王女としてこんな振る舞いをするなんて思いもしなかった。国を出てから一度も休まることがなかった心が、小さな友達に癒される喜びを噛みしめた。
スカーレットの心の中の苦い気持ちが、甘く蕩けていく――
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