働くおじさん異世界に逝く~プリンを武器に俺は戦う!薬草狩りで世界を制す~

山鳥うずら

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第百九十二話 王女、エルフ皇国を去る

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 エルフ皇国の宮殿に入ってまず驚かされたことは、その天井の高さである。自国の城の大広間と比べても二倍は超えている。しかもその天井には、この国の歴史をなぞったような、美しい絵が描かれていた。床には植物がタイルで表現され、これだけで一つの芸術品だといえた。そしてそれ以上に驚いたことは、エルフ親子が食べる食事の量であった――

「ぐへーーもう食べられない」

 貴賓室に戻り、私はぎちぎちになったドレスを押さえる。

「あれだけの料理をよく食べきったよな。俺なんてテトラに半分以上差し出したよ」

「えっ!? そんな失礼なことをしましたの!!」

「彼女は喜んで食べてくれたけどな。ドラゴニア皇国へ出立する時間まで、テトラが俺たちと付き合うそうなので、彼女が呼びに来るまでゆっくりしようや」

 おっちゃんは私の肩をぽんぽんと叩いて、ケタケタと笑う。

 テトラ王女に街を案内して貰えることになり、馬車から宮殿から出ると、皇国の町並みが目に飛び込んでくる。煉瓦のような青白い石で規則正しく積まれている建物が、大きな道路をはさんで永遠と続く。その青で統一された世界が、城塞都市だと聞かされてまた驚いた。ラミア王国も素敵な国だと思ったが、エルフ皇国はそれに負けず劣らず美しい国であった。

 これだけの建築技術が進んでいる国に、新兵器が一つあるからといって戦争に勝てる気が全くしない。このことを祖国に知らせたいが、聞く耳を持たない兄だと分かっているので、自分の小さな世界を守ることに専念するしかないと決意した。

「怖い目をして、何が見えるのかしら」

 テトラ王女は目を細めて尋ねる。

「この美しい町並みに目を奪われて、見入ってしまいました」

 私は慌てて言い訳をした……。

「最初はどの店に寄りたいか教えてくれない?」

「テトラ王女のお薦めの店ならどこでも」

 その言葉を受けて、間髪入れずにテトラは言った。

「それじゃあ、美味しいピザの店にしましょう」

 にぱっと、満面の笑みを私に向けた。

「ふはっ……」

「じょ、冗談に決まっているでしょう」

 目を泳がせながら、彼女は言い訳をした。

「この化け物め……」

 私はおっちゃんがぼそりと吐いた一言を聞き逃さなかった……。そうこうしているうちに馬車は皇国の中心街に到着した。馬車から降りると、沢山のエルフたちが忙しそうに大通りを往来している。私たちは従兵に守られながら街を散策する。

 おっちゃんにラミア国より街が発展しているとは聞いていたが、実際に皇国の街中を歩くと、文明の高さに目を見張る。どの店も自分たちが普段通っている、王家御用達と認められる商店より、品揃えや品質が明らかに上に見えた

「この店に入りましょう」

 テトラ王女が一件の建物を指差した。その店は色取り取りの布を扱う生地屋であった。店に入ると店員が、私たちに深々と挨拶し奥の部屋に通された。そこでテトラ王女の前に、次々とカラフルな布を並べ始める。

「今日はこの方が、客なので要望を聞いてあげてちょうだい」

 店員に少し怒気を孕んだ声で言った。

「し、失礼しました」

 店員は並べた布を引っ込めて、私に話しかけてくる。

「先ほどは大変申し訳ありませんでした。どのような商品をご所望でしょうか?」

「すいませんが、お店に並べてある生地を、一通り見させて頂けないかしら」

 私は店の布地を選ぶことになった。生地の品質は自国とあまり変わらないと思ったが、その染色は段違いで美しく布が染め上げられていた。他にも今まで見たこともないような繊細な編み方で布が織られていて目移りしてしまう。私は王女と身体に布を宛がいながら、生地選びを楽しんだ。時間を掛けて数本に絞った結果、テトラ王女はそれを全て包んで欲しいと、店員に布を差し出した。

「これは土産代わりに、持ち帰って下さい」

 そう言ってテトラ王女は、私に白い歯を見せた。

「この気配りに感謝申し上げます」

 私は彼女の優しさを受け取った。

 店を出ようと出口に近づくと、店内に備え付けられていた椅子に腰掛けていたおっちゃんが眠りこけていた。

「ああ、用事は済んだのか」

 口から涎が出ているのを袖でふきながら、寝ぼけ眼で起きてきた。

「こんな店で眠るなんて信じられない」

 テトラ王女は、おっちゃんの足をゲシゲシと蹴りつけているのを見て笑ってしまう。

「お二人は仲良しなんですね」

「「そんなわけがない!」」

 と、二人は同時につばを飛ばす勢いで否定した。そんなテトラ王女の顔が、みるみる赤く染まって、とても可愛く思えた。

 その後、色々な雑貨店を巡りいつの間にか、お昼をとっくに過ぎていた。テトラ王女のお腹がぐぐっと鳴ったのを気付かない振りをしたが、おっちゃんが指摘してしまい台無しに終わる。

 私たちは一軒のピザ屋に入った。テーブルの上には、大皿に乗せられたピザが置かれる。

「さあ食べましょう」

 テトラ王女は、大皿からピザを摘んで私のお皿に乗せてくれた。

 それを一口かじると違和感を感じた。いつものピザはカリッとした生地なのに、この店のピザは全く違う。生地の表面はかりっとしていて、中はもっちりとした食感の、初めて味わう料理といえた。

「ふんわり食感で、なんて美味しいピザなのかしら」
 
 私はもう一枚ピザを手にとって、不思議そうにそれを見つめていた。すると店の奥から、店主が現れ私たちに挨拶をした。

「皆様お口に合いましたでしょうか、特におっちゃん様」

 店主は揉み手をせんばかりの笑顔で言った。

「完璧なイタリアンだ!」

 おっちゃんは、店主に聞き慣れない言葉を送った。

「それは嬉しいですな! この店はイタリアンピザ発祥の地と言われて、おっちゃん様のお陰ですぞ」

 店中に響くくらい大きな声で、店主は話した。

「そう言ってくれるのはありがたいが、ここまで形に出来たのは、店主とピザ職人たちが試行錯誤が形になってこそだ」

 おっちゃんが手を叩いて、彼らを絶賛した。

「私もこの生地作りに全面協力したのよ」

 テトラ王女は鼻をプクッと膨らませ、椅子から立ち上がる。

「はい、姫様には沢山のピザを食べて貰いました」

 店主は冗談交じりに話すと、厨房からも笑い声が起きた。テトラ王女は恥ずかしそうに、次のピザを注文していた。

 ピザ屋でゆっくりと時間を過ごし、私たちは王宮に戻ることにした。貴賓室で持ち帰った荷物を整理し、荷造りを終えると、メイドから呼び出しがかかる。

「パトリシア王女様、おっちゃん様、こちらの準備が整ったので来て下さいと、エルゾナ皇妃様より言付けを受けとって参りました」

 私とおっちゃんはメイドに連れられて、皇妃のいる転移門まで案内される。

「旅立つ準備が出来たのでどうぞこちらへ」

 エルゾナ皇妃が、地面に描かれた魔方陣を指し示した。

「お二人には心から感謝申し上げます。返す物が無いのは心苦しですが、何かありましたら全力でこの恩を返させて頂きます」

「パトリシアちゃんたら、そんなに堅苦しく考えないで。お土産に貰ったお酒で十分ですわ」

 皇女は優しく微笑んで、私の頭をやんわりとなでてくれた。その手の温かさに思わず涙ぐみ、目から涙が零れ落ちるのをぐっと我慢した。私たちは王女の後について魔方陣の中に足を運ぶ。

 テトラ王女も、そんなの気にしないでといいながら、おっちゃんに駆け寄った。そうしてテトラ王女がおっちゃんの耳許に口を寄せる。

「実はね……私、転移の魔法を覚えたの」

 おっちゃんの耳元でそっと囁いたのが聞こえた――

 その瞬間、私たちは緑の光に包まれ、次の目的地ドラゴニア王国へと運ばれていった。
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