勇者の友人はひきこもり

山鳥うずら

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第十六話 決戦

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 大草原の中、東西に向かい合った両陣営が、じりじりとした時間を共有している。バルザ王国軍はこの戦で、魔王軍との戦力差を逆転出来るほど、兵力を立て直していた。勇者を召還して十年以上の月日が経つ。指揮官の横には勇者がいるとはいえ、この決戦に勝てるという確信は持てなかった。何故なら魔人たちは、勇者の遠距離魔法に対応するため、障壁魔法を使い攻撃を防ぎ始めだからである。

「すさまじい数ですな」

 指揮官は顔をしかめたまま、前方の魔王軍を見遣みやった。

「はい、この魔王軍を叩けば僕たちは、魔王を落とせます」

 僕はけろりとした顔で答える。

「しかし……この作戦が失敗したらと思うと……」

「作戦通り、号令と同時に魔法を発動させますから安心して下さい」

「勇者様……お願いいたします」

 司令官の号令と共に、バルザ王国軍が大きなうなり声を上げ、地面を蹴り上げ前に進む。

 魔王軍はそれを受けるように、魔人たちが動き出した。このままがっつりと、両陣営が真っ向からぶつかり合うはずが――

 何も無かった魔王軍の後方から、突如として王国軍が現れた。魔王軍は弓と魔法の波状攻撃を後から受けた。前後からの王国軍の挟撃に合い、魔人たちの足並みが大きく崩れる。

「見事な転移魔法です!!」

 指揮官が感嘆の声を漏らした。

「流石にこの数を転移させたので、大型魔法を打ち込むことが出来ませんでした」

「ははは、これだけの事をして頂いて、さらに勇者様に魔法を求めるのは……」

 少し声を詰まらせた指揮官は、乾いた笑い声を発する。

「大きな魔法は暫く打てませんが、身体は十分動きます」

 僕は乱戦の中に飛び込んでいく。魔王軍にはもう僕の怖さは十分知れ渡っていた。七色に輝く鎧を纏い、剣を振り回すと劣勢だった魔王軍は更に瓦解し始めた。

勇者こいつさえ討ち取れば、人間なんぞお終いだ!」

 咆哮しながら、全身褐色の大型魔人が、僕の前に立ちはだかる。

 「魔王軍四天王の一人、ダークネスがお前を討ち取る」

 両手に国刀を握りしめ名乗りを上げて襲い掛かってくる。

「情報では、この戦で三人の四天王と呼ばれるネームド魔人がいると聞いていましたが、ダークネスさん貴方一人では役不足ですよ。他の二人はどうしたのですか?」

 王国のバックアタックで、二人が戦死していることをサーチ魔法で知りながら、ダークネスを煽る

「き、貴様……わざと言ってやがるな」

 ダークネスは刀剣を乱舞させ、僕を仕留めに掛かる。僕は彼の太刀を全て受けきり、はじき返そうとした。しかし今までの魔人とは違い、押し返すことが出来なかった。

「ぐははは、勇者と呼ばれていたが、この程度の力とは笑わせる。魔法力の高さで俺たちは誤魔化されていたんだな」

 ダークネスは吐き捨てるように勇者をなじった。

「くうう……」

 僕は悔しさに思わず声が震えた……。

「死にさらせ!!!」

 受け損なった剣が、僕の腹を貫いた。「ゴフッ」口から大量の血を吐いて、地面に崩れ落ちた。

「勇者の命、我が取ったり!」

 戦場にダークネスの勝利の雄叫びが響き渡る――


――――「どうでしたか、勝利の味は――。ベタな魔法で申し訳ないのですが、分身の勇者を一人切ったくらいで、勝利宣言されても困ってしまいます」

 ポリポリと頭を掻きながら、魔人の背後から声を掛けた。

 ダークネスは身体を反転させ、僕の顔を見る……しばし視線を宙に漂わせて、ぽかんとした表情を作る。

「なっ!? 確かに手応えは感じたはずだ!! 」

 やっと我に返ったように、魔人が悲鳴じみた叫び声をあげた。

「だから、僕の一人を貴方に切らせてあげたんですよ」

 僕は表情も変えずに冷たく笑う。

「ちっ! なら……お前も切り裂いたら終わりではないか」

 強い言葉を吐きながら、勇者の言葉に、ダークネスは背筋を震わせた。

「ボイストラス・ダンシングソード」

 僕は呟くような声で魔法を詠唱すると、戦場に落ちていた剣がダークネスの身体に向かって、一斉に襲いかかる。

 褐色の魔人の背中に、数十本もの剣がハリネズミのように突き刺さる。一瞬の出来事に、目をカッと見開いたままダークネスは絶命した。勝利の声で注目を集めた戦場だったが、彼の死で魔王軍は一気に戦意を失う。挟み撃ちになった魔人たちは完全にすり潰され、バルザ王国軍の完勝でこの決戦は幕を閉じた。
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