勇者の友人はひきこもり

山鳥うずら

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第三十四話 ひきこもり、勿体ぶる

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 ベッドの傍らに置いてあるスマホから、最近殆ど鳴ら無くなった着信音が聞こえてきた。画面を見ると、知らない番号からの電話であった。

 「……」

 電話には出たものの、暫く無言で押し通す。

「あ、あの~異次元まこと様ですよね……」

 耳元で不安げに尋ねてくる、男の声が聞こえてきた。

「そうですが……」

「あっ……私、テレビ夕日の吹雪和宣です」

 そこで、超常現象Xファイルを担当していたADだと、遅まきながら気が付いた。

「先日は、ありがとうございました」

 もう数ヶ月も前の出来事であったが、どう話して良いか分からず、スマホ越しで頭を下げてみる。

「こちらこそ助かりました。実はですね……あの番組が好評だったもので、今度また特番をやることが、正式に決まったんですよ。そこで異次元さんには、またゲストとして番組に参加して欲しいんです」

「はあ……」

 俺は突然の連絡に、歯切れの悪い返事をしてしまう。

「今回は『異世界レジスタンス』と超常現象否定派との討論を、ワンコーナー全部使って、収録する予定です。そこで、ユーチューブに上げられていた、写真の画像、異世界の通貨、革の服を科学的に解析する動画を、スタジオにて公開する形になります」

「あの……通貨と服などは、自分の持ち物では無いんですよね……」

 「そうなんですか……。今回は出演料を十万円お払いしますので、是非ともそれこみで、お願い出来ないものでしょうか……」

 申し訳なさそうな声で、吹雪さんが話す。

「即答出来ませんが、数日後までにこちらから連絡させて頂きます」

「是非ともお願いいたします! 『異世界レジスタンス』の反響が大きく、恥ずかしながら自分の評価も上がり、このコーナーを一つ任されることになったんですよ。前向きでよろしく検討して下さい」

「そうですか……では後日……」

 俺は肯定も否定もせずに、通話を終わらせた。そして、直ぐに健ちゃんに連絡を取り、貸し出しの許可を貰う。心の中では、電話を貰った時から参加する事は決まっていたが、出演を検討すると夕日テレビのADには、勿体ぶって依頼を即答しなかった。

 数日後、異世界通貨と革の服を丁寧に梱包して、夕日テレビに発送することが決定した――
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