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第二章 日本編一
渋谷頁 美しすぎる後継者
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入院して数日がたった。ベッドサイドにひとりの見知らぬ青年が私を訪ねてきた。渋谷頁との出会いであった。山崎賢人に似た長身の美形男子。ドレッドが自然で、とても似合っていた。
「おいページ、ジャマイカのカズさんがうちの病院に入院されている。今戻って来れるか?」と彼の父、渋谷太朗から連絡があったそうだ。
ページは国立大学の医学部三年生で、将来はこの病院の院長。
四分の一ジャマイカ人の血が入っていると、彼は言った。
この病院の創設者、渋谷正太郎は祖父にあたる。そして祖父が当時付き合っていた彼女がジャマイカ人だった。文部省のジェットという英語教育補助というシステムで日本に来て、正太郎と知り合った。
一緒に生活していた頃、二人の間に、父親と叔父が誕生した。父親と、この病院を運営している理事長の叔父がハーフだ。しかし見たところ彼らは完全な日本人。本人たちはこの見かけを非常に残念がっている。
父と叔父は日本人の女性と結婚した。叔父には子供がいなかったので、ページを我が子のように可愛がってくれた。正太郎は亡くなって、もうこの世にはいない。祖母はジャマイカのどこかにいるかも知れない。だが連絡も取れていない。
何か事情があったのだろうなと思う。父、叔父、ページには共通した思いがある。正太郎と彼が愛しただろう祖母を、部分的にでもジャマイカ人の血を待たせてもらったことに感謝している。何せ、足が速い。そしてレゲエのビートに自然に反応する。
父親がカテーテルを施すときのバックグラウンドミュージックは決まってレゲエ。院長室、理事長室にもレゲエが流れている。
「僕、漢字で頁と書いてページと読みます。父が、ハーフジャマイカンなのにロックも大好きで、中でもレッド・ツェッペリンを愛して止まない。ギターのジミー・ペイジから名前を取ったそうです。
院長の一人息子で、今大学で医学部に通っています」ページは簡単に、自身のこと、父のこと、叔父のこと、家族のことを私に話した。
「そうですか、初めまして、みんなからカズさんって呼ばれています。私もツェッペリン大好きですよ。愛して止みません」
「カズさんのことはよく知っています。レゲエ界ではレジェンドです。カズさんプロデュースの作品もたくさん持っています」
「ありがとう、ページ」
「母とは早くに死別し、小中学校のほとんどを父の友人、医者の家ですが、ニューヨークで過ごしました。英語をネイティブに話せるようになれって。それとピアノを習っていました。クラシックですが、面白いことを感じていました。微妙にクラシックのリズムと自分のピアノ演奏にズレを感じました。
先生から、この方もその世界では有名なピア二ストですが、自分はページのリズムを真似できない。クラシックっぽくないけどノリがいい。きっとジャマイカ人の遺伝子だろうな、って言われました」。彼は、誇らしげに語った。
「それは絶対にあります。私も大使館勤務の時、ジャマイカで一、ニを争うギターリストのアール・スミスから、簡単なコードを使って、レゲエのカッティングを習いました。
でも、彼は、私にタイミングが違うと、いつも言っていました。いくらやってもダメでした。私には当然ですがジャマイカ人固有の遺伝子が組み込まれていません。聞く所によるとウサイン・ボルトからジャマイカ人にしか見られない、速く走るために必要な固有の遺伝子が見つかったそうです」
一つ呼吸があった。
「まだ専攻は決めていません。臨床でなく遺伝子の研究もやってみたくなりました。まあ、将来的にこの病院を継ぐとなると、そうも言っていられない、かもしれません」ページはさらっと言った。
「医学は宿命だと思っています。嫌いでもないし。でもレゲエシンガーになる夢も諦めきれません。グリーーンの方々のように両立できればいいのですが、僕は一年間大学を休学して、その間にレゲエが出来ればそれでいいと思っています。それから後、どうするかは状況次第です。音楽業界、特にレゲエ業界はまだ非常に厳しいと聞いています」
私は、ページのルックスと声に、驚きと期待で、直ぐにでも彼の歌声を聴きたいと、欲望を押さえきれなくなっていた。
「屋上に行きましょうか」
日差しは強かった。コンクリートジャングルにそびえ立つビル群。屋上の照り返しはキングストンと似て湿気を帯びていた。
「何か歌ってもらえますか? カバーでもオリジナルでも結構です」
ページは、ブルーノ・マーズの曲を歌った。感情を込め過ぎず、声の質と英語の発音を聞かせるような上手な歌い方だった。
「うまいですね、まるでいつもビルボードのチャート上位にいるアーティストの歌を聞いているようでした。今まで私が会ったアーティストの中で一番大きな可能性、そうですね、世界に羽ばたける、そんな可能性をとても強く感じました。さて私に何ができるのでしょうか? 」
「君の希望も、君を取り巻く環境もわかりました。簡単にお話します。レコード会社、特にアメリカですが、すでに売れているアーティストは別として、新人にはお金をかけません。リスクを先に考えます。まず自分で売ってくれ、売れて、やっと契約書にサインです。ビジネスだから仕方ありません。数字がすべてです」
「アーティストとしての実力と輝きがあれば、売れるかどうか、あとは使える金額と運しだいです。私は、君に凄いポテンシャルを感じています。ここ数年音楽から離れていて、もう半ば諦めていました」
「でも、君を見て情念みたいなものが涌いて来ています。音楽、一緒にやってみたいという情念です。よろしければ君に関するできるだけ多くの情報をビジュアル、オーディオ、何でもいいからすべてのデータを頂けますか?」
ページの口を挟ませないように続けた。
「ご存知だと思いますが、私のリンクにはスライとロビーがいるので、ベーシックなトラックまでは自分たちで作れます。でも、正直最初で最大の問題点、その後のお金がありません。もし最初からレコード会社が絡んでくれたとしても、期待できる額は僅かなものでしょう」
今度は、ページが私の口を遮った。
「生意気言うようですが、うちの病院、もの凄くうまくいっています。それと父も叔父も、レゲエをやれるチャンスがあれば、学校はひとまず休んででも、やってみろと言ってます。レコード会社の関わりがあっても無くても構いません。病院にお金、二億円出させます。足りますか?まあビジネス的に言えば権利は病院が持つと言うことで、売れればそのお金も戻って来るし」
簡単に言い切った。
「あと二つ条件っていうか、お願いがあります。一つは、カズさんの得意分野グラミー賞、僕にも取らせてください。いや、ノミネートだけでもいいです」
「ブラックタイでレッドカーペットの上を歩いてみたい。これって他のプロデューサーにできないでしょう?それと僕、二人組のユニットでレゲエをやりたいです」
「カズさんのいる病棟とは別の病棟担当なので、会ってないと思いますが、素敵な看護師がいます。大きな目、歯並びのきれいな小さな顔、タイトなミニが似合う真っすぐのびた長い脚、音楽センス、本当全てが抜群な女の子がいます。帰国子女で英語はネイティブ、そしてレゲエが大好きです」
「大事なことだと思いますが、今二人ともお互いに彼氏、彼女的な人はいます。でも、経済的な問題もなくて、自分ファースト的な考え方をしています。カズさん、彼女、僕以上に衝撃を受けますよ」
二人組ユニットについては意外な提案だった。
「今、電話してみます」
すぐに話がついたようだ。
「今日は日勤で、五時半終わり。六時にはここに来れそうです」
「おいページ、ジャマイカのカズさんがうちの病院に入院されている。今戻って来れるか?」と彼の父、渋谷太朗から連絡があったそうだ。
ページは国立大学の医学部三年生で、将来はこの病院の院長。
四分の一ジャマイカ人の血が入っていると、彼は言った。
この病院の創設者、渋谷正太郎は祖父にあたる。そして祖父が当時付き合っていた彼女がジャマイカ人だった。文部省のジェットという英語教育補助というシステムで日本に来て、正太郎と知り合った。
一緒に生活していた頃、二人の間に、父親と叔父が誕生した。父親と、この病院を運営している理事長の叔父がハーフだ。しかし見たところ彼らは完全な日本人。本人たちはこの見かけを非常に残念がっている。
父と叔父は日本人の女性と結婚した。叔父には子供がいなかったので、ページを我が子のように可愛がってくれた。正太郎は亡くなって、もうこの世にはいない。祖母はジャマイカのどこかにいるかも知れない。だが連絡も取れていない。
何か事情があったのだろうなと思う。父、叔父、ページには共通した思いがある。正太郎と彼が愛しただろう祖母を、部分的にでもジャマイカ人の血を待たせてもらったことに感謝している。何せ、足が速い。そしてレゲエのビートに自然に反応する。
父親がカテーテルを施すときのバックグラウンドミュージックは決まってレゲエ。院長室、理事長室にもレゲエが流れている。
「僕、漢字で頁と書いてページと読みます。父が、ハーフジャマイカンなのにロックも大好きで、中でもレッド・ツェッペリンを愛して止まない。ギターのジミー・ペイジから名前を取ったそうです。
院長の一人息子で、今大学で医学部に通っています」ページは簡単に、自身のこと、父のこと、叔父のこと、家族のことを私に話した。
「そうですか、初めまして、みんなからカズさんって呼ばれています。私もツェッペリン大好きですよ。愛して止みません」
「カズさんのことはよく知っています。レゲエ界ではレジェンドです。カズさんプロデュースの作品もたくさん持っています」
「ありがとう、ページ」
「母とは早くに死別し、小中学校のほとんどを父の友人、医者の家ですが、ニューヨークで過ごしました。英語をネイティブに話せるようになれって。それとピアノを習っていました。クラシックですが、面白いことを感じていました。微妙にクラシックのリズムと自分のピアノ演奏にズレを感じました。
先生から、この方もその世界では有名なピア二ストですが、自分はページのリズムを真似できない。クラシックっぽくないけどノリがいい。きっとジャマイカ人の遺伝子だろうな、って言われました」。彼は、誇らしげに語った。
「それは絶対にあります。私も大使館勤務の時、ジャマイカで一、ニを争うギターリストのアール・スミスから、簡単なコードを使って、レゲエのカッティングを習いました。
でも、彼は、私にタイミングが違うと、いつも言っていました。いくらやってもダメでした。私には当然ですがジャマイカ人固有の遺伝子が組み込まれていません。聞く所によるとウサイン・ボルトからジャマイカ人にしか見られない、速く走るために必要な固有の遺伝子が見つかったそうです」
一つ呼吸があった。
「まだ専攻は決めていません。臨床でなく遺伝子の研究もやってみたくなりました。まあ、将来的にこの病院を継ぐとなると、そうも言っていられない、かもしれません」ページはさらっと言った。
「医学は宿命だと思っています。嫌いでもないし。でもレゲエシンガーになる夢も諦めきれません。グリーーンの方々のように両立できればいいのですが、僕は一年間大学を休学して、その間にレゲエが出来ればそれでいいと思っています。それから後、どうするかは状況次第です。音楽業界、特にレゲエ業界はまだ非常に厳しいと聞いています」
私は、ページのルックスと声に、驚きと期待で、直ぐにでも彼の歌声を聴きたいと、欲望を押さえきれなくなっていた。
「屋上に行きましょうか」
日差しは強かった。コンクリートジャングルにそびえ立つビル群。屋上の照り返しはキングストンと似て湿気を帯びていた。
「何か歌ってもらえますか? カバーでもオリジナルでも結構です」
ページは、ブルーノ・マーズの曲を歌った。感情を込め過ぎず、声の質と英語の発音を聞かせるような上手な歌い方だった。
「うまいですね、まるでいつもビルボードのチャート上位にいるアーティストの歌を聞いているようでした。今まで私が会ったアーティストの中で一番大きな可能性、そうですね、世界に羽ばたける、そんな可能性をとても強く感じました。さて私に何ができるのでしょうか? 」
「君の希望も、君を取り巻く環境もわかりました。簡単にお話します。レコード会社、特にアメリカですが、すでに売れているアーティストは別として、新人にはお金をかけません。リスクを先に考えます。まず自分で売ってくれ、売れて、やっと契約書にサインです。ビジネスだから仕方ありません。数字がすべてです」
「アーティストとしての実力と輝きがあれば、売れるかどうか、あとは使える金額と運しだいです。私は、君に凄いポテンシャルを感じています。ここ数年音楽から離れていて、もう半ば諦めていました」
「でも、君を見て情念みたいなものが涌いて来ています。音楽、一緒にやってみたいという情念です。よろしければ君に関するできるだけ多くの情報をビジュアル、オーディオ、何でもいいからすべてのデータを頂けますか?」
ページの口を挟ませないように続けた。
「ご存知だと思いますが、私のリンクにはスライとロビーがいるので、ベーシックなトラックまでは自分たちで作れます。でも、正直最初で最大の問題点、その後のお金がありません。もし最初からレコード会社が絡んでくれたとしても、期待できる額は僅かなものでしょう」
今度は、ページが私の口を遮った。
「生意気言うようですが、うちの病院、もの凄くうまくいっています。それと父も叔父も、レゲエをやれるチャンスがあれば、学校はひとまず休んででも、やってみろと言ってます。レコード会社の関わりがあっても無くても構いません。病院にお金、二億円出させます。足りますか?まあビジネス的に言えば権利は病院が持つと言うことで、売れればそのお金も戻って来るし」
簡単に言い切った。
「あと二つ条件っていうか、お願いがあります。一つは、カズさんの得意分野グラミー賞、僕にも取らせてください。いや、ノミネートだけでもいいです」
「ブラックタイでレッドカーペットの上を歩いてみたい。これって他のプロデューサーにできないでしょう?それと僕、二人組のユニットでレゲエをやりたいです」
「カズさんのいる病棟とは別の病棟担当なので、会ってないと思いますが、素敵な看護師がいます。大きな目、歯並びのきれいな小さな顔、タイトなミニが似合う真っすぐのびた長い脚、音楽センス、本当全てが抜群な女の子がいます。帰国子女で英語はネイティブ、そしてレゲエが大好きです」
「大事なことだと思いますが、今二人ともお互いに彼氏、彼女的な人はいます。でも、経済的な問題もなくて、自分ファースト的な考え方をしています。カズさん、彼女、僕以上に衝撃を受けますよ」
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