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第五章 マイアミ編
第二日目 素晴らしきかなミックス
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ミックスが始まった。ニューヨークから呼んだシェーンとローリーが並んでマウスやフェーダーをいじっている。
シェーンがアメリカのメインストリームで流れている音を作り、ローリーがレゲエのエッセンスを加えていった。二時間が過ぎようとしているが、まだヴォーカルには手を付けていない。ドラムとベースのバランスに対して、二人の意見が異なっている。
スライとロビーにとって長年の課題でもある。スライが中心の音作りはドラムが全面に出ている。一方ロビーの方はベースがとてもよく聞こえる。
妥協点が決まったようだ。いよいよヴォーカルの処理にかかった。リードもバクグラウンドも音程に関しては、ほとんど手を加えない。素のままにした。
シェーンはやや深めのコンプをかけ、イコライザーで最良のポイントをさがしている。リバーブとディレイはコンピューターのプラグインは使わずに、ヴィンテージな機材を利用した。
プラグインのエミュレーターは存在するので、ローリーは機材の数値を記録しておいた。一旦、全員別室に移りコーヒータイムを取った。ロビーが来た。
「カズ、ローリー、ベランダ」ロビーは煙草を吸いながら話かけて来た。
「ミックスはどうだ?」
「いい。後は一ミリ以下の調整だ。時間はかからないと思う」ローリーは心の中でロビーがベースを上げ過ぎないように祈った。
「随分前のことになるが、グラミー賞を受賞したアルバムにローリング・ストーンズのサティスファクションをカバーして収録した」
「そのミックスをした時の話をだが、当時は2インチのアナログテープだけだった。ドラム、ベース、キーボードとラフヴォーカルだけを録音したテープにロスのスタジオでキースがギターを4トラック弾いてくれた」「
「自分たちの代表曲に、しかもタダで。カズが、ニューヨークまで送られてきたテープを引き取りに行ったことを覚えているキースヴォーカルのレコーディングが終わり、ミックスに入った」
「終盤に入ってきたが、聞こえてくるのはベースばかり。キースのギターがほとんど聞こえてこない。ロビーのミックスには誰も口を挟まないが、さすがにロックも好きなカズは黙っていられなかったようだった。
「キースのギターもう少し出した方がよくない?」横にいたオレもロビーに頷いた「わかった。ローリー、キースのギター四つとも少しだけ上げてくれ」あの時を思いだしたようだようにシェーンに語りだした。
この後、スライも加わり「もっとキックの音を出して」といつものリクエストがあった。いろんなやり取りがあり、何とか平穏にミックスは終了した。トータルリコールという言葉さえ、まだ存在していなかった時代のことである。あのミックスには再現性はなかった。
なお、この時のミックスはユーチューブで、トヨタ、ヴォクシー、トータス松本で検索すれば日本でのコマーシャルで使われたバージョンを聞くことができる。
スタジオに入って、ロビーがニアフィールドモニターでミックスを一度だけ聞いた。
「ベースをほんの気持ち上げてくれ。それで大丈夫だ。俺はもう帰る。チヨ、お前が一番気に入った。じゃあ」別に何があったわけではないが、千代が恥ずかしそうにうつ向いている。
さっきロビーが入って来た時に、一言「もっとロビーのベースを出した方がいい」と言っただけだった。千代は今でもこの一瞬の出来事を誇りに思い、誰かれ構わず自慢げに話していた。もちろん、多少の尾ひれを付け加えている。
明日は一応振替日として一日余裕を取っていた。飛行機やホテルの変更も大変だったので終日マイアミを見て回った。
ただ、沙良だけが「ページ、あなたの衣装少し足りなさそうなので、ここで買い足しておきたいの。付き合ってくれる?カズさん、いいでしょう?タクシー使って移動します。夕食までには戻ります」返事も聞かず、ページの腕を取ってタクシーに乗り込んでしまった。
「大丈夫。今朝、くぎを刺しておいたから。せいぜいフィッティングルームをのぞき込まれるくらいよ、きっと」タヨは少しイラっとした表情を浮かべていた。
「ページどう?サイズはいいと思うけど」沙良がフィッティングルームのカーテンの端から顔を入れてたずねて来た。ちょうどズボンをはき替えている最中だった。
「ちょうどいいけど。これ必要?」
「そうね。いらないか」二人はホテルからさほど離れていないバルハーバー・ショッピングセンターにいた。
「せっかくバルハーバーに来たんだし、買い物でもするか。夕食まで時間はあるし」
「そうしましょう。私、日本に水着忘れて来たの。一緒に選んでもらえる?」
「もちろん。沙良には漆黒でエグめのビキニが似合うと思う」
「ありがとう。じゃあこの店でいいかな」二人は高級そうな店を選んで、腕を組んで入っていった。
日本を発ってまだ数日しか経っていないが、中田社長の「今夜は和食」で夕食が決まった。
千代はバードストリートにある評判のいい店を予約できたと、みんなに六時半ホテルに集合の連絡を入れた。シェーン、ローリーも同じホテルなので一緒にどうかと誘った。
人が多く集まる場所が嫌いなロビーも日本食なら、と合流することになった。ただし、千代の隣の席を空けておくようにとの指示があったらしい。
中田社長の乾杯の音頭で夕食会が始まった。確かに刺身やお寿司はとても美味しいかった。ロビーは大トロばかりを口に入れ、千代と楽しい会話を楽しんでいる。ページはタヨの隣にすわった。
恋人同士ともユニットの相棒とも取れるような距離感で。彼らも静かに大トロばかりを食べていた。一人取り残された感のある沙良が、大きめな声で誰に話かけるでもなく発した一言に、私たちはみんな固まってしまった。
ロビーには千代が、シェーンとローリーには私が通訳した。
「今日ページに水着を買ってもらったの。漆黒のエグイビキニ」
シェーンがアメリカのメインストリームで流れている音を作り、ローリーがレゲエのエッセンスを加えていった。二時間が過ぎようとしているが、まだヴォーカルには手を付けていない。ドラムとベースのバランスに対して、二人の意見が異なっている。
スライとロビーにとって長年の課題でもある。スライが中心の音作りはドラムが全面に出ている。一方ロビーの方はベースがとてもよく聞こえる。
妥協点が決まったようだ。いよいよヴォーカルの処理にかかった。リードもバクグラウンドも音程に関しては、ほとんど手を加えない。素のままにした。
シェーンはやや深めのコンプをかけ、イコライザーで最良のポイントをさがしている。リバーブとディレイはコンピューターのプラグインは使わずに、ヴィンテージな機材を利用した。
プラグインのエミュレーターは存在するので、ローリーは機材の数値を記録しておいた。一旦、全員別室に移りコーヒータイムを取った。ロビーが来た。
「カズ、ローリー、ベランダ」ロビーは煙草を吸いながら話かけて来た。
「ミックスはどうだ?」
「いい。後は一ミリ以下の調整だ。時間はかからないと思う」ローリーは心の中でロビーがベースを上げ過ぎないように祈った。
「随分前のことになるが、グラミー賞を受賞したアルバムにローリング・ストーンズのサティスファクションをカバーして収録した」
「そのミックスをした時の話をだが、当時は2インチのアナログテープだけだった。ドラム、ベース、キーボードとラフヴォーカルだけを録音したテープにロスのスタジオでキースがギターを4トラック弾いてくれた」「
「自分たちの代表曲に、しかもタダで。カズが、ニューヨークまで送られてきたテープを引き取りに行ったことを覚えているキースヴォーカルのレコーディングが終わり、ミックスに入った」
「終盤に入ってきたが、聞こえてくるのはベースばかり。キースのギターがほとんど聞こえてこない。ロビーのミックスには誰も口を挟まないが、さすがにロックも好きなカズは黙っていられなかったようだった。
「キースのギターもう少し出した方がよくない?」横にいたオレもロビーに頷いた「わかった。ローリー、キースのギター四つとも少しだけ上げてくれ」あの時を思いだしたようだようにシェーンに語りだした。
この後、スライも加わり「もっとキックの音を出して」といつものリクエストがあった。いろんなやり取りがあり、何とか平穏にミックスは終了した。トータルリコールという言葉さえ、まだ存在していなかった時代のことである。あのミックスには再現性はなかった。
なお、この時のミックスはユーチューブで、トヨタ、ヴォクシー、トータス松本で検索すれば日本でのコマーシャルで使われたバージョンを聞くことができる。
スタジオに入って、ロビーがニアフィールドモニターでミックスを一度だけ聞いた。
「ベースをほんの気持ち上げてくれ。それで大丈夫だ。俺はもう帰る。チヨ、お前が一番気に入った。じゃあ」別に何があったわけではないが、千代が恥ずかしそうにうつ向いている。
さっきロビーが入って来た時に、一言「もっとロビーのベースを出した方がいい」と言っただけだった。千代は今でもこの一瞬の出来事を誇りに思い、誰かれ構わず自慢げに話していた。もちろん、多少の尾ひれを付け加えている。
明日は一応振替日として一日余裕を取っていた。飛行機やホテルの変更も大変だったので終日マイアミを見て回った。
ただ、沙良だけが「ページ、あなたの衣装少し足りなさそうなので、ここで買い足しておきたいの。付き合ってくれる?カズさん、いいでしょう?タクシー使って移動します。夕食までには戻ります」返事も聞かず、ページの腕を取ってタクシーに乗り込んでしまった。
「大丈夫。今朝、くぎを刺しておいたから。せいぜいフィッティングルームをのぞき込まれるくらいよ、きっと」タヨは少しイラっとした表情を浮かべていた。
「ページどう?サイズはいいと思うけど」沙良がフィッティングルームのカーテンの端から顔を入れてたずねて来た。ちょうどズボンをはき替えている最中だった。
「ちょうどいいけど。これ必要?」
「そうね。いらないか」二人はホテルからさほど離れていないバルハーバー・ショッピングセンターにいた。
「せっかくバルハーバーに来たんだし、買い物でもするか。夕食まで時間はあるし」
「そうしましょう。私、日本に水着忘れて来たの。一緒に選んでもらえる?」
「もちろん。沙良には漆黒でエグめのビキニが似合うと思う」
「ありがとう。じゃあこの店でいいかな」二人は高級そうな店を選んで、腕を組んで入っていった。
日本を発ってまだ数日しか経っていないが、中田社長の「今夜は和食」で夕食が決まった。
千代はバードストリートにある評判のいい店を予約できたと、みんなに六時半ホテルに集合の連絡を入れた。シェーン、ローリーも同じホテルなので一緒にどうかと誘った。
人が多く集まる場所が嫌いなロビーも日本食なら、と合流することになった。ただし、千代の隣の席を空けておくようにとの指示があったらしい。
中田社長の乾杯の音頭で夕食会が始まった。確かに刺身やお寿司はとても美味しいかった。ロビーは大トロばかりを口に入れ、千代と楽しい会話を楽しんでいる。ページはタヨの隣にすわった。
恋人同士ともユニットの相棒とも取れるような距離感で。彼らも静かに大トロばかりを食べていた。一人取り残された感のある沙良が、大きめな声で誰に話かけるでもなく発した一言に、私たちはみんな固まってしまった。
ロビーには千代が、シェーンとローリーには私が通訳した。
「今日ページに水着を買ってもらったの。漆黒のエグイビキニ」
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