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第一章(後)【これがスキルなのか?】
10.世界の果てがあるのならば、それは空の上だろうか
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ナナが死んだ。
その知らせを受けた時、俺はテントで寝ていた。
辺りに広がる紫色の炎。空高く飛ぶ竜の群れは夜を明るく照らしていた。
後ろから誰かの走る音。俺の後ろに立ち、息が上がっている。
「君は、何をする」
勝手に体が動き始める。空に手を伸ばし視界が白く、そして一瞬で赤色に変化した。
何かが這い出してくるような、あの感覚。爪が剥がれ落ちて指先に魔力が収束する。自分の能力が分かる。使い方を理解できる。この能力の大きさが、形が、声が。
開いた手を思い切り握り込む。地鳴りは地面を砕いて、亀裂から光と矢が空高くへ登っていく。
勢いのままに力を込めると光は大きく膨らみ、轟音ともいえる悲鳴を出して空に広がった。
直後、眩い光が世界を照らし、竜を飲み込んだ。
体が不自由になる感覚。竜が落ちてくる。翼は焼けこげて香ばしい匂いが風に流れて山をかけ行く。
次々と重なる竜の姿を見て、俺が俺でなくなって行く。心臓が跳ね上がり苦しい。
不思議な感覚。動こうとしても動くことができない。一歩踏み出そうとしても、それはできなかった。
身に覚えのある感覚。
「あなたの力は……これほどに……」
その声を最後、空が割れるように白の世界が広がる。
俺は、これは夢であると気がついた。
意識ははっきりとしない。揺れる荷台でウルミのパーティは運ばれる。
コングはプラキスを巧みに操り砂漠を駆けている。
夢で、俺は彼に殺された。そのトラウマは恐ろしいもので、現実の世界で助けられたとはいえ近づきたくない。
「どうした?」
ウルミが怪訝そうな顔で詰め寄る。その時、俺は息が荒く、冷や汗をかいていると気がついた。
悪夢。あの光景が目に焼き付いて離れない。俺ははっとして荷台を見回して、ナナがいることに安心した。
「悪夢でも見たのか?」
ナナは頭を上下に動かしながら寝ている。ほっとため息をついて再び確認すると、ウルミ以外寝ているらしかった。みな泥だらけで傷だらけだ。
「おい。君、聞いてる?」
返事していなかったと思い出して、大丈夫だと答えた。ウルミは俺が見た悪夢をどうしても知りたいようであった。仕方がなく見た夢を伝えると、目を丸くして驚いていた。
「君は、案外すごいのかもしれないな」
そんなわけの分からないことを言って、ウルミは体勢を変えてそっぽ向いてしまった。
少しだけ口元が緩んで、心の中で拳を握った。
砂漠を抜けて道らしいものが見えた時、俺はふとあの夢のことを思い出した。夜空に向かって何かの力を放ったあの夢を。
荷台の中、手のひらを上に向けて掲げる。夢の中の光景を思い出して、指先に意識を集中した。
何か分からない感情。重たいようで、実は軽い感じ。心の中、光と闇の筋が混ざり合い渦を成した。雲のように広がり、回り続ける渦はその果ては見えない。
ピリピリと、頬に乾いた痛みを感じた時、湿った空気に体を包まれた。深い海の中にいるような感じ。
渦の中心、雲がない穴が空いているところ。光が、真っ直ぐに上に伸び始める。
稲妻を帯びたその光はやがて雷鳴を轟かせ、闇の中で砕け散る。
直後、全身から汗が吹き出す感覚。全てが熱くなり意識が後ろに去った後、下から突き上げるような力を感じた。
悲鳴と叫び声。
コングは両手に魔法陣を多重に覆い警戒する。ウルミは剣を抜いた。
何も分からない。頭が白く何も考えることができない。
コングが俺に近づく。見たことがない顔。「その力……」そう言うコングはまるで、俺があの竜を見た時のような、そんな顔をしていた。
我に返り辺りを見回すと、バラバラに砕け散った荷台に、黒い色の炎が燃えていた。
その知らせを受けた時、俺はテントで寝ていた。
辺りに広がる紫色の炎。空高く飛ぶ竜の群れは夜を明るく照らしていた。
後ろから誰かの走る音。俺の後ろに立ち、息が上がっている。
「君は、何をする」
勝手に体が動き始める。空に手を伸ばし視界が白く、そして一瞬で赤色に変化した。
何かが這い出してくるような、あの感覚。爪が剥がれ落ちて指先に魔力が収束する。自分の能力が分かる。使い方を理解できる。この能力の大きさが、形が、声が。
開いた手を思い切り握り込む。地鳴りは地面を砕いて、亀裂から光と矢が空高くへ登っていく。
勢いのままに力を込めると光は大きく膨らみ、轟音ともいえる悲鳴を出して空に広がった。
直後、眩い光が世界を照らし、竜を飲み込んだ。
体が不自由になる感覚。竜が落ちてくる。翼は焼けこげて香ばしい匂いが風に流れて山をかけ行く。
次々と重なる竜の姿を見て、俺が俺でなくなって行く。心臓が跳ね上がり苦しい。
不思議な感覚。動こうとしても動くことができない。一歩踏み出そうとしても、それはできなかった。
身に覚えのある感覚。
「あなたの力は……これほどに……」
その声を最後、空が割れるように白の世界が広がる。
俺は、これは夢であると気がついた。
意識ははっきりとしない。揺れる荷台でウルミのパーティは運ばれる。
コングはプラキスを巧みに操り砂漠を駆けている。
夢で、俺は彼に殺された。そのトラウマは恐ろしいもので、現実の世界で助けられたとはいえ近づきたくない。
「どうした?」
ウルミが怪訝そうな顔で詰め寄る。その時、俺は息が荒く、冷や汗をかいていると気がついた。
悪夢。あの光景が目に焼き付いて離れない。俺ははっとして荷台を見回して、ナナがいることに安心した。
「悪夢でも見たのか?」
ナナは頭を上下に動かしながら寝ている。ほっとため息をついて再び確認すると、ウルミ以外寝ているらしかった。みな泥だらけで傷だらけだ。
「おい。君、聞いてる?」
返事していなかったと思い出して、大丈夫だと答えた。ウルミは俺が見た悪夢をどうしても知りたいようであった。仕方がなく見た夢を伝えると、目を丸くして驚いていた。
「君は、案外すごいのかもしれないな」
そんなわけの分からないことを言って、ウルミは体勢を変えてそっぽ向いてしまった。
少しだけ口元が緩んで、心の中で拳を握った。
砂漠を抜けて道らしいものが見えた時、俺はふとあの夢のことを思い出した。夜空に向かって何かの力を放ったあの夢を。
荷台の中、手のひらを上に向けて掲げる。夢の中の光景を思い出して、指先に意識を集中した。
何か分からない感情。重たいようで、実は軽い感じ。心の中、光と闇の筋が混ざり合い渦を成した。雲のように広がり、回り続ける渦はその果ては見えない。
ピリピリと、頬に乾いた痛みを感じた時、湿った空気に体を包まれた。深い海の中にいるような感じ。
渦の中心、雲がない穴が空いているところ。光が、真っ直ぐに上に伸び始める。
稲妻を帯びたその光はやがて雷鳴を轟かせ、闇の中で砕け散る。
直後、全身から汗が吹き出す感覚。全てが熱くなり意識が後ろに去った後、下から突き上げるような力を感じた。
悲鳴と叫び声。
コングは両手に魔法陣を多重に覆い警戒する。ウルミは剣を抜いた。
何も分からない。頭が白く何も考えることができない。
コングが俺に近づく。見たことがない顔。「その力……」そう言うコングはまるで、俺があの竜を見た時のような、そんな顔をしていた。
我に返り辺りを見回すと、バラバラに砕け散った荷台に、黒い色の炎が燃えていた。
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