奇跡の世代の「汚点」と呼ばれた男、魔法の才能がありません。

おにぎり

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一章 (ミステリーダンジョン編)

1.クソ勇者

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 ミステリーダンジョン最深部ーー


「おい!お前は右目だって言っただろ!」

「分かってるわよ!今やってるじゃない!」
 勇者とパーサーカーが喧嘩をしている。

「お二人とも落ち着いてください!これは遊びではないのですよ!」
 援護する魔法使いが叫ぶ。


 勇者の名はケイト。自分勝手の上に、非を認めようとしない。正直、俺の嫌いなタイプだ。
 パーサーカーの名はミラン。普段は勇者と仲が良いのだが、戦闘が始まると途端に仲が悪くなる。
 魔法使いの名はマイラ。魔法を放つその姿は美しい。いつも俺を気遣ってくれて、荷物を持ってくれることもある。俺はそんなマイラが好きだった。
 奥で面倒くさそうにしている忍はコタロウ。何を考えているのかよく分からない。影を薄くしてサボっている。

 無茶苦茶な勇者パーティであるが、そう呼ばれるだけの実力はある。連携が取れていなくても簡単にダンジョンボスを倒してしまった。


 ケイトが俺の方を見て舌打ちをする。
「あーいいよなぁ、荷物持ちさんはよ。立ってるだけでいいんだもんなぁ」
 いつものように笑顔で対応する。
「それが仕事ですから」

 舌打ちが聞こえる。
「まぁまぁ、ケイト。どうせあんな奴、戦っても邪魔しかしないんよ。、な」

「ま、それもそうだな!」
 いつの間にか仲直りしたのか、ケイトとミランが大笑いしている。

「可哀想ですよ?仮にも私たちの荷物を持ってくれてるのですから」
 ありがとう、マイラ。やっぱり君は優しいね。


 俺が勇者パーティに荷物持ちとして雇われたのは半年前。
 30半ばにもなってC級冒険者から抜け出せない俺は二つ返事で承諾した。

 俺は魔術大学卒、12期生だ。
 実は、この世代は「奇跡の世代」と呼ばれている。
 卒業した後はA級冒険者が当たり前。S級冒険者として名を馳せるものや、宮廷魔術師として仕えるもの。どれをとっても才能あるものばかりだ。
 一方、まだC級冒険者である俺は「奇跡の世代」のと呼ばれていた。

 だから、今勇者パーティを追放されるわけにはいかない。
 どれだけ悪口を言われようと、どれだけ酷いことをされようと、「勇者パーティの荷物持ち」という地位を死守しなければ。

「じゃ、準備も整ったしそろそろ帰ろう。」
 ケイトが言う。
「はーい」
 ミランもそれに従う。
 俺も、大きく膨らんだリュックを背負って歩き始める。


ーーー
「お前、クビ」
 細く人通りがない道でそう言ったのはケイトだ。
 暗い道の先を見て、独り言のように呟いた。しかし、その言葉は俺に向けて言ったものだと瞬時に理解した。

「え?」

「二度も言わせんなよ、おっさん」

「なんで……」

「なんでって?ケイト、こいつ何も分かってないよ!」
 ミランが笑いながら言う。
「だって、お前をこのパーティに入れたの、お前の必死な姿を見て笑うためなんだよ!」
 ケイトとミランが笑う。

「それは……一体」

「まだ分からないの?『奇跡の世代』のさん?」

 そんな……うそだ……俺だけが才能なくて、馬鹿にされて……。

「あぁ。滑稽こっけいだったなぁ。ねぇ?マイラもそう思わない?」
 マイラ?君は俺のことそんなふうに思っていないよな?
「……そうですね。地位にしがみつこうと必死な人間の心を落とすのって、意外と簡単なんですね」

「うわ、コイツやっぱサイテーだわ」

「あらあら、あなたも楽しんでいたじゃないですか」

「あたしはまだ人の心持ってるよーだ」

「と、まぁそんなわけだから。じゃあ、死んでくれ」

 そう言うとケイトは剣で俺の腹を刺した。
 激痛が走り膝をつく。


「ああ………ガ……………」

「ほぇー。コイツも痛み感じるんだねぇ?」

「きっと我慢していたのですよ」

「くだらねえ。早く行くぞ。死亡手当山分けしよーぜー。」

「死亡……手当?まさか………そのために?」

 ケイトはニヤリと笑うと転移石を出してミランとマイラを掴んだ。
「おい、コタローもはやくしろよー」

 コタロウは動こうとしない。それどころか、俺のことを哀れみの目で見ると、俺にだけ聞こえる声で言った。

「すまない。あなたを救えなかった……。私には守るべきものが、あるんだ。……不甲斐ない私を許してくれ……」

「お、おまえ……」

「コタロー?はやくー」
 コタロウはケイトの元へ走った。

「くれぐれも呪わないでねー?」

くんの想いが天に届くきますように」

「じゃあな、奇跡になれなかったザコ」

「……無念」

 勇者一行が光を放って転移した。
 俺の意識はそれから数秒後に途絶えた。
 そして、死んだ。


 ……はずだった。
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