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二章 (ポーディングの街編)
12.救い出せ
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ゴブリンの巣は酷い惨状だった。肉片や血溜まりが散らばっている。
しかし、それらは全てゴブリンのものであった。討伐部隊がゴブリンたちを蹂躙した痕跡が生々しく残っている。
何かがおかしい。そう感じたのは、入り口からだいぶ歩いて来た時だった。討伐部隊の亡骸がどこにもないのだ。亡骸どころか、人間のものと思われる武器も、血もない。
一体どういうことなんだ?
討伐部隊の足跡は奥に向かって続いている。
少し怖くなった。藁にもすがる思いで刀を抜いて、前に構える。
すると突然、前方で一閃の光が見えた。
目を凝らして見ると、剣で体を支えて、何とか立っている剣士だった。
薄目を開け、小さな息をしている。
すぐに駆け寄る。
「おい!大丈夫か!何があったんだ!」
「……あ………トロール」
「やっぱりトロールなんだな?他の人たちは、無事なのか?」
剣士は小さく頷いた。俺が肩を貸して出口へ引き返そうとした時、剣士は膝から崩れて倒れてしまった。
呼びかけても、もう返事はない。拳には、小さな女の子と奥さんと思われる人の絵が握られていた。
俺は悔しさと憎しみを抱きながら奥へ進む。
しばらく歩くと、何かの声が聞こえてきた。火が灯っていて、いくつかの影が見える。
慎重に声のする方を覗くと、そこには恐ろしく大きなトロールと、一回り小さなトロールが3体、焚き火を囲んでいた。
そのトロールたちは何かを焼いて食べているようだった。
それはゴブリン・ロードだった。
一般に、トロールは人や魔物を襲って食べる。しかし、火で焼いて食べることはないはずだ。
このトロールは高い知能を持っているのかもしれない。
焚き火のすぐ横、数体のゴブリンの死骸の横で、何か動いているものがある。
それは人間だった。芋虫のようにクネクネ動いている。最悪の事態を想像する。しかし安心した。彼は縄で縛られているだけだった。
生きているのはあの人だけだろうか。他に生存者は……。いや、まずはあの人の命を救うことが優先だ。
俺は足元にあった石で、小さなゴーレムを作った。即興のものでふらつくが、ゆっくりと近づける。
あと少しまで歩いたところで、縛られた人がゴーレムに気が付いた。そして、壁に隠れている俺とも目が合った。
目をパチパチさせている。何かを伝えたいのだろうか。
これは……モールス信号か?
ー部隊は生きている。隣の部屋で縛られている。ー
こちらも返す。
ー了解した。死者はいるか。ー
ー今のところいない。敵は俺たちを保存食にしているようだ。ー
ー了解した。ー
ー仲間を先に助けてくれ。俺が敵を引きつける。ー
ー了解した。ー
急いで隣の部屋に行く。そこには縄で縛られた部隊が並べられていた。
トロールは本当に保存食を作ろうとしているようで、部隊全員に塩が塗られている。
俺は入り口に一番近い人の縄を、刀で切った。
縄を解かれた人が驚きつつも、感謝をしてくる。レンという名前だそうだ。
俺はレンとともに残りの部隊の縄を解く。
自力で歩ける人はそのまま出口へ向かい、歩けないものや、意識を失っているものは、応援を待つことになった。
その後、レンの指示によって部屋にいる全員の生存が確認された。山場は超えたようで、ほっとため息をつく。
しかし、心残りは焚き火にいた人だ。
レンにその人について聞いた。
名はガラク。自警団1班の副リーダーで斧使いだという。
とても良い人で、頼りになるという。
彼が自分の命よりも部隊の避難を優先したと言うと、レンはうっすらと涙を浮かべていた。
しかし突然、空を切ったように叫び声が聞こえた。隣の、焚き火が焚かれている部屋からだ。
しかし、それらは全てゴブリンのものであった。討伐部隊がゴブリンたちを蹂躙した痕跡が生々しく残っている。
何かがおかしい。そう感じたのは、入り口からだいぶ歩いて来た時だった。討伐部隊の亡骸がどこにもないのだ。亡骸どころか、人間のものと思われる武器も、血もない。
一体どういうことなんだ?
討伐部隊の足跡は奥に向かって続いている。
少し怖くなった。藁にもすがる思いで刀を抜いて、前に構える。
すると突然、前方で一閃の光が見えた。
目を凝らして見ると、剣で体を支えて、何とか立っている剣士だった。
薄目を開け、小さな息をしている。
すぐに駆け寄る。
「おい!大丈夫か!何があったんだ!」
「……あ………トロール」
「やっぱりトロールなんだな?他の人たちは、無事なのか?」
剣士は小さく頷いた。俺が肩を貸して出口へ引き返そうとした時、剣士は膝から崩れて倒れてしまった。
呼びかけても、もう返事はない。拳には、小さな女の子と奥さんと思われる人の絵が握られていた。
俺は悔しさと憎しみを抱きながら奥へ進む。
しばらく歩くと、何かの声が聞こえてきた。火が灯っていて、いくつかの影が見える。
慎重に声のする方を覗くと、そこには恐ろしく大きなトロールと、一回り小さなトロールが3体、焚き火を囲んでいた。
そのトロールたちは何かを焼いて食べているようだった。
それはゴブリン・ロードだった。
一般に、トロールは人や魔物を襲って食べる。しかし、火で焼いて食べることはないはずだ。
このトロールは高い知能を持っているのかもしれない。
焚き火のすぐ横、数体のゴブリンの死骸の横で、何か動いているものがある。
それは人間だった。芋虫のようにクネクネ動いている。最悪の事態を想像する。しかし安心した。彼は縄で縛られているだけだった。
生きているのはあの人だけだろうか。他に生存者は……。いや、まずはあの人の命を救うことが優先だ。
俺は足元にあった石で、小さなゴーレムを作った。即興のものでふらつくが、ゆっくりと近づける。
あと少しまで歩いたところで、縛られた人がゴーレムに気が付いた。そして、壁に隠れている俺とも目が合った。
目をパチパチさせている。何かを伝えたいのだろうか。
これは……モールス信号か?
ー部隊は生きている。隣の部屋で縛られている。ー
こちらも返す。
ー了解した。死者はいるか。ー
ー今のところいない。敵は俺たちを保存食にしているようだ。ー
ー了解した。ー
ー仲間を先に助けてくれ。俺が敵を引きつける。ー
ー了解した。ー
急いで隣の部屋に行く。そこには縄で縛られた部隊が並べられていた。
トロールは本当に保存食を作ろうとしているようで、部隊全員に塩が塗られている。
俺は入り口に一番近い人の縄を、刀で切った。
縄を解かれた人が驚きつつも、感謝をしてくる。レンという名前だそうだ。
俺はレンとともに残りの部隊の縄を解く。
自力で歩ける人はそのまま出口へ向かい、歩けないものや、意識を失っているものは、応援を待つことになった。
その後、レンの指示によって部屋にいる全員の生存が確認された。山場は超えたようで、ほっとため息をつく。
しかし、心残りは焚き火にいた人だ。
レンにその人について聞いた。
名はガラク。自警団1班の副リーダーで斧使いだという。
とても良い人で、頼りになるという。
彼が自分の命よりも部隊の避難を優先したと言うと、レンはうっすらと涙を浮かべていた。
しかし突然、空を切ったように叫び声が聞こえた。隣の、焚き火が焚かれている部屋からだ。
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