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無糖カフェオレと甘いイチゴ
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2月の終わり。
ある保険会社の支部では事務員の女性がパソコンに向かい、猛スピードでキーボードを叩いている。
内勤職員の菅谷 愛美。
入社5年目、この支部に配属になって7か月。
来月、27歳の誕生日を迎える。
2月は保険会社にとって保険契約の増産月だ。
営業職員たちは通常月の3倍ほどのノルマが課され、目標契約件数と売上額を達成するために奔走する。
内勤事務員の愛美は、営業職員たちが成果を挙げるほど、その契約のデータ処理に追われ忙しくなる。
今月分の契約の最終締め切りの今日、彼女のデスクには、滑り込みで契約を取った営業職員から受け取った書類が山のように積まれている。
(あーもう!!なんでこんなギリギリになってから頑張るんだ!!取れる契約ならもっと早く取っとけ!!)
最終締め切り日なのだから仕方ないと言えば仕方ないのだが、通常月と違って増産月ともなると、その仕事量は尋常ではない。
心の中では毒を吐きながらも、社内では『仕事が速い上に明るく優しい内勤さん』で通っている愛美は、極限に達しそうなイライラを顔に出さないようにしながら入力作業を進めた。
夕方になり、頑張った甲斐あって入力作業も残りわずかとなった。
(よし、あと少し!さすが私!!)
愛美が余裕を持って定時に上がれるペースで仕事を進められたとホッと胸を撫で下ろした時、長身の男性が支部に戻ってきた。
緒川政弘、3週間前に33歳になったばかり。
社内でも評判のイケメン、異例の若さで出世したエリートで、愛美が所属する川南第二支部の支部長を務めている。
おまけに独身で、多くの女性職員が、その俺様ぶりにときめくと言う。
しかし愛美は『俺様』タイプが大嫌いで、緒川支部長の事も大嫌いだ。
「ただいま」
「お帰りなさい、お疲れ様です」
営業職員のオバサマたちがにこやかに緒川支部長の帰りを出迎えた。
緒川支部長は内勤席でひたすらキーボードを叩いている愛美の横に立った。
「ただいま」
「お帰りなさい、お疲れ様です」
愛美がパソコン画面から視線を移す事なくキーボードを叩きながら無愛想にそう言うと、緒川支部長は愛美のデスクの上にバサッといくつもの封筒を置いた。
(え……?)
愛美は驚き、目を丸くして緒川支部長を見上げた。
「これ今月分に間に合うようによろしく」
封筒の中身を確かめて、その数を数えた。
(え……えーっ、こんなに?!)
思わず時計を見る。
締め切りまで残り1時間。
どう考えても間に合う量じゃない。
「菅谷ならもちろん出来るよな?」
ニコリともせず挑発的な態度を取る緒川支部長を、愛美は歯を食いしばって睨み付ける。
「当・然・です!」
いつもの事ながら緒川支部長は、無愛想に大量の急ぎ仕事を愛美に押し付けて涼しい顔をしている。
(ああもう!!あの俺様男マジでムカつく!!意地でも終わらせてやる!!)
締め切り3分前。
愛美は入力内容を確認して、最後のエンターキーを押した。
(よしっ、終わった……!!)
椅子から立ち上がり大きく伸びをすると、緒川支部長が愛美に視線を向けた。
「終わったか」
「終わりました」
愛美がドヤ顔で答えると、緒川支部長は笑いをこらえて立ち上がった。
「それじゃあみんな席に着いて。夕礼始めるぞー」
緒川支部長の一言に、愛美はしかめっ面で再び椅子に座り込んだ。
(お疲れ様の一言もなしか!!)
夕礼を進める緒川支部長の声を聞きながら愛美がデスクの上を片付けていると、若い男性が両手に大きなビニール袋を提げて支部に戻ってきた。
高瀬 諒25歳。
見た目はそこそこイケメン、愛美好みの草食系眼鏡男子と言ったところだろうか。
入社3年目、この支部のファイナンシャルプランナーを務めている。
「高瀬FP、お帰りなさい」
「ただいま帰りました……。もう夕礼始まっちゃいましたね」
高瀬FPは小声でそう言って、休憩スペースのテーブルの上にビニール袋を置き、静かに自分の席に着いた。
愛美はケーキ屋の物と思われるその袋をじっと見てため息をついた。
(締め切り日だったからな……。支部長からの差し入れか……)
ある保険会社の支部では事務員の女性がパソコンに向かい、猛スピードでキーボードを叩いている。
内勤職員の菅谷 愛美。
入社5年目、この支部に配属になって7か月。
来月、27歳の誕生日を迎える。
2月は保険会社にとって保険契約の増産月だ。
営業職員たちは通常月の3倍ほどのノルマが課され、目標契約件数と売上額を達成するために奔走する。
内勤事務員の愛美は、営業職員たちが成果を挙げるほど、その契約のデータ処理に追われ忙しくなる。
今月分の契約の最終締め切りの今日、彼女のデスクには、滑り込みで契約を取った営業職員から受け取った書類が山のように積まれている。
(あーもう!!なんでこんなギリギリになってから頑張るんだ!!取れる契約ならもっと早く取っとけ!!)
最終締め切り日なのだから仕方ないと言えば仕方ないのだが、通常月と違って増産月ともなると、その仕事量は尋常ではない。
心の中では毒を吐きながらも、社内では『仕事が速い上に明るく優しい内勤さん』で通っている愛美は、極限に達しそうなイライラを顔に出さないようにしながら入力作業を進めた。
夕方になり、頑張った甲斐あって入力作業も残りわずかとなった。
(よし、あと少し!さすが私!!)
愛美が余裕を持って定時に上がれるペースで仕事を進められたとホッと胸を撫で下ろした時、長身の男性が支部に戻ってきた。
緒川政弘、3週間前に33歳になったばかり。
社内でも評判のイケメン、異例の若さで出世したエリートで、愛美が所属する川南第二支部の支部長を務めている。
おまけに独身で、多くの女性職員が、その俺様ぶりにときめくと言う。
しかし愛美は『俺様』タイプが大嫌いで、緒川支部長の事も大嫌いだ。
「ただいま」
「お帰りなさい、お疲れ様です」
営業職員のオバサマたちがにこやかに緒川支部長の帰りを出迎えた。
緒川支部長は内勤席でひたすらキーボードを叩いている愛美の横に立った。
「ただいま」
「お帰りなさい、お疲れ様です」
愛美がパソコン画面から視線を移す事なくキーボードを叩きながら無愛想にそう言うと、緒川支部長は愛美のデスクの上にバサッといくつもの封筒を置いた。
(え……?)
愛美は驚き、目を丸くして緒川支部長を見上げた。
「これ今月分に間に合うようによろしく」
封筒の中身を確かめて、その数を数えた。
(え……えーっ、こんなに?!)
思わず時計を見る。
締め切りまで残り1時間。
どう考えても間に合う量じゃない。
「菅谷ならもちろん出来るよな?」
ニコリともせず挑発的な態度を取る緒川支部長を、愛美は歯を食いしばって睨み付ける。
「当・然・です!」
いつもの事ながら緒川支部長は、無愛想に大量の急ぎ仕事を愛美に押し付けて涼しい顔をしている。
(ああもう!!あの俺様男マジでムカつく!!意地でも終わらせてやる!!)
締め切り3分前。
愛美は入力内容を確認して、最後のエンターキーを押した。
(よしっ、終わった……!!)
椅子から立ち上がり大きく伸びをすると、緒川支部長が愛美に視線を向けた。
「終わったか」
「終わりました」
愛美がドヤ顔で答えると、緒川支部長は笑いをこらえて立ち上がった。
「それじゃあみんな席に着いて。夕礼始めるぞー」
緒川支部長の一言に、愛美はしかめっ面で再び椅子に座り込んだ。
(お疲れ様の一言もなしか!!)
夕礼を進める緒川支部長の声を聞きながら愛美がデスクの上を片付けていると、若い男性が両手に大きなビニール袋を提げて支部に戻ってきた。
高瀬 諒25歳。
見た目はそこそこイケメン、愛美好みの草食系眼鏡男子と言ったところだろうか。
入社3年目、この支部のファイナンシャルプランナーを務めている。
「高瀬FP、お帰りなさい」
「ただいま帰りました……。もう夕礼始まっちゃいましたね」
高瀬FPは小声でそう言って、休憩スペースのテーブルの上にビニール袋を置き、静かに自分の席に着いた。
愛美はケーキ屋の物と思われるその袋をじっと見てため息をついた。
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