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同期の仲間としてなら
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その後も志信は、飲み会が終わるまで薫の向かいの席に座っていた。
一緒にお酒を飲みながら時々料理を食べて、タバコを吸いながらどうでもいい話をした。
同期の女性社員がほとんど退職してしまい、男性社員も最初の3分の2ほどの人数になっているらしい。
同期とは言え、本社の各部署だけでなく、たくさんの支社やSSなどに配属されているので、社内行事や研修などがないとなかなか会う機会はない。
薫と志信は同期だからと言って特別仲が良かったわけではないが、志信が本社勤務になる前の配属先のSSで薫がカウンセラーとして面談したり、年末年始の繁忙期に高速道路のSA(サービスエリア)のヘルプに行った時に一緒になったりしたので、多少の面識はあった。
浩樹との一件から社内の人間との積極的な人付き合いを避けてきた薫にとって、一緒に飲みに行くために同期の志信と連絡先を交換した事は、自分でも意外な行動だった。
「同じ本社勤務でも、なかなか顔合わせたりしないもんだね」
「私はあまり本社にいないからね。朝と夕方だけって日がほとんど。私が本社にいる時は、たいていSS部か喫煙室にいる」
「なるほど、喫煙室ね。今度会いに行こう」
志信がやけに楽しそうにそう言ったので、薫は不思議そうに首をかしげる。
「なんでよ。フロアも部署も違うのに」
「だからだよ。喫煙室くらいしか顔見られる場所ないじゃん。同期の卯月さんが頑張ってる姿見て、オレも頑張るよ。だから、たまに顔見に行くくらいはいいでしょ」
「喫煙室では頑張ってる姿なんて見られないけど……。私がタバコ吸ってコーヒー飲んでる姿なんか見て、どうすんの」
「オレの原動力にするの」
飲み会が終わりに近付いて来た頃、志信が焼酎のお湯割りを飲み干して、一緒に二次会に行こうと薫を誘った。
薫はタバコの煙を吐き出しながら少し考える。
「やめとく。私が行っても浮いちゃうし、後輩たちにも気を遣わせるから」
薫がそう言うと、志信がジッと薫の目を覗き込むように見つめた。
「じゃあ……二人だけで飲み直す?」
少し呆れながら、薫はタバコを灰皿の上でもみ消した。
「一応聞くけど、そこに深い意味はないよね?」
「んー……それはどうかな?」
志信は笑いながら薫の右手を左手で握った。
「なんなら付き合っちゃう?オレたち、けっこううまくいくかもよ?」
こんな軽いノリで付き合おうなんて、この男はおそらく、ずいぶん遊び慣れているのだろう。
いかにも浮気をしそうな男と付き合う気なんてないし、もし彼が真面目で誠実な人柄であったとしても、社内恋愛なんて二度とごめんだ。
薫はため息をつきながら、空いている左手で志信の左手を掴んで、自分の右手から引き剥がした。
「さっきも言ったけど……同期の仲間以上の事を期待されても困る」
「なんで?」
不思議そうに尋ねる志信から視線をそらすように、薫はうつむきがちに答える。
「社内恋愛なんて、絶対に有り得ない。だから、そういう関係を期待するなら他を当たって。笠松くんと恋愛したい女の子は社内にいっぱいいるはずだから」
「別にオレは、どうしても社内恋愛がしたいってわけじゃないよ。さっきのあれは……卯月さんと仲良くなれたのが嬉しくて、ちょっと調子に乗り過ぎた。ごめん」
「うん……なら良かった。貴重な同期だもんね」
薫が少し笑みを浮かべると、志信はわざとらしく笑って薫の肩を叩いた。
「じゃあ、同期同士、仲良く二次会行こうよ。オレ途中参加だから、全然飲み足りないんだ。もうしばらく付き合って」
「仕方ないな」
「そうだ、あれ歌って!!去年の研修旅行の時にスナックで歌ってた……」
「ALISON?」
「そう!卯月さんのALISON聞きたい!!」
「ハイハイ……」
どこか憎めない志信のペースに乗せられて二次会に参加する事になった薫は、志信の隣に座らされ、ハイボールを飲みながら若い後輩たちの歌を聞いていた。
(うーん……。若い子達の歌がよくわからん。最近はこんな歌が流行ってるのか……)
「卯月さん、これ歌える?」
「ALISONなら全部歌える」
「じゃあ、予約入れるよ」
カラオケの予約を入れると、志信は楽しそうに笑ってテーブルの上のハイボールを飲んだ。
「それ、私のなんだけど」
「知ってる。でも飲みたかったから。オレの、もうカラなんだよねぇ」
「はぁ?飲みたかったら自分で頼みなよ」
「ハイ、返す」
「要らん。全部やる」
「ごめんって。お詫びに新しいの注文するから」
「当然でしょ」
一緒にお酒を飲みながら時々料理を食べて、タバコを吸いながらどうでもいい話をした。
同期の女性社員がほとんど退職してしまい、男性社員も最初の3分の2ほどの人数になっているらしい。
同期とは言え、本社の各部署だけでなく、たくさんの支社やSSなどに配属されているので、社内行事や研修などがないとなかなか会う機会はない。
薫と志信は同期だからと言って特別仲が良かったわけではないが、志信が本社勤務になる前の配属先のSSで薫がカウンセラーとして面談したり、年末年始の繁忙期に高速道路のSA(サービスエリア)のヘルプに行った時に一緒になったりしたので、多少の面識はあった。
浩樹との一件から社内の人間との積極的な人付き合いを避けてきた薫にとって、一緒に飲みに行くために同期の志信と連絡先を交換した事は、自分でも意外な行動だった。
「同じ本社勤務でも、なかなか顔合わせたりしないもんだね」
「私はあまり本社にいないからね。朝と夕方だけって日がほとんど。私が本社にいる時は、たいていSS部か喫煙室にいる」
「なるほど、喫煙室ね。今度会いに行こう」
志信がやけに楽しそうにそう言ったので、薫は不思議そうに首をかしげる。
「なんでよ。フロアも部署も違うのに」
「だからだよ。喫煙室くらいしか顔見られる場所ないじゃん。同期の卯月さんが頑張ってる姿見て、オレも頑張るよ。だから、たまに顔見に行くくらいはいいでしょ」
「喫煙室では頑張ってる姿なんて見られないけど……。私がタバコ吸ってコーヒー飲んでる姿なんか見て、どうすんの」
「オレの原動力にするの」
飲み会が終わりに近付いて来た頃、志信が焼酎のお湯割りを飲み干して、一緒に二次会に行こうと薫を誘った。
薫はタバコの煙を吐き出しながら少し考える。
「やめとく。私が行っても浮いちゃうし、後輩たちにも気を遣わせるから」
薫がそう言うと、志信がジッと薫の目を覗き込むように見つめた。
「じゃあ……二人だけで飲み直す?」
少し呆れながら、薫はタバコを灰皿の上でもみ消した。
「一応聞くけど、そこに深い意味はないよね?」
「んー……それはどうかな?」
志信は笑いながら薫の右手を左手で握った。
「なんなら付き合っちゃう?オレたち、けっこううまくいくかもよ?」
こんな軽いノリで付き合おうなんて、この男はおそらく、ずいぶん遊び慣れているのだろう。
いかにも浮気をしそうな男と付き合う気なんてないし、もし彼が真面目で誠実な人柄であったとしても、社内恋愛なんて二度とごめんだ。
薫はため息をつきながら、空いている左手で志信の左手を掴んで、自分の右手から引き剥がした。
「さっきも言ったけど……同期の仲間以上の事を期待されても困る」
「なんで?」
不思議そうに尋ねる志信から視線をそらすように、薫はうつむきがちに答える。
「社内恋愛なんて、絶対に有り得ない。だから、そういう関係を期待するなら他を当たって。笠松くんと恋愛したい女の子は社内にいっぱいいるはずだから」
「別にオレは、どうしても社内恋愛がしたいってわけじゃないよ。さっきのあれは……卯月さんと仲良くなれたのが嬉しくて、ちょっと調子に乗り過ぎた。ごめん」
「うん……なら良かった。貴重な同期だもんね」
薫が少し笑みを浮かべると、志信はわざとらしく笑って薫の肩を叩いた。
「じゃあ、同期同士、仲良く二次会行こうよ。オレ途中参加だから、全然飲み足りないんだ。もうしばらく付き合って」
「仕方ないな」
「そうだ、あれ歌って!!去年の研修旅行の時にスナックで歌ってた……」
「ALISON?」
「そう!卯月さんのALISON聞きたい!!」
「ハイハイ……」
どこか憎めない志信のペースに乗せられて二次会に参加する事になった薫は、志信の隣に座らされ、ハイボールを飲みながら若い後輩たちの歌を聞いていた。
(うーん……。若い子達の歌がよくわからん。最近はこんな歌が流行ってるのか……)
「卯月さん、これ歌える?」
「ALISONなら全部歌える」
「じゃあ、予約入れるよ」
カラオケの予約を入れると、志信は楽しそうに笑ってテーブルの上のハイボールを飲んだ。
「それ、私のなんだけど」
「知ってる。でも飲みたかったから。オレの、もうカラなんだよねぇ」
「はぁ?飲みたかったら自分で頼みなよ」
「ハイ、返す」
「要らん。全部やる」
「ごめんって。お詫びに新しいの注文するから」
「当然でしょ」
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