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飲み過ぎたつらい夜と二日酔いの甘い朝
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「ところで支部長……。つかぬ事をお聞きしますが、どうして私はここに寝ていたんでしょうか……」
愛美は緒川支部長の期待には応えず、この部屋に来た経緯を尋ねた。
緒川支部長は残念そうに小さなため息をつく。
「覚えてないの?」
「まったく」
「そっか、相当酔ってたもんな……。車の中で寝ちゃって家もわからなくて、仕方ないから俺んちに連れてきて寝かせた」
「そうなんですか?まさか……私が酔って寝てる間に変なとこ触ったりしてないですよね?」
「してないよ!!……あ、でも……」
「でも……?」
愛美がおそるおそる尋ねると、緒川支部長は少し照れくさそうに小声で呟く。
「キスはした……」
「えぇっ?!」
「おでこに」
「なんだ……おでこか……」
愛美がホッとして息をつくと、緒川支部長はいたずらっぽい目で愛美の顔を覗き込んだ。
緒川支部長の整った顔が愛美の眼前に迫る。
「酔って寝てる愛美にそんな事するのもどうかと思ったんだけど……もっと違うとこにしても良かったの?」
「えぇっ?!」
「俺はしたいんだけど……」
緒川支部長は愛美の顔に口元を寄せた。
愛美は職場にいるときの緒川支部長には感じたことのない色気に戸惑い、身動きが取れない。
「キス、してもいい?」
「いや、あの……」
愛美が返事をする間もなく、緒川支部長の唇が愛美の唇に重なった。
優しく触れるだけのキスなのに、頭の中が真っ白になり、全身の力が抜ける。
(何これ……?気持ちいいかも……)
緒川支部長はゆっくりと唇を離して、愛美をギュッと抱きしめた。
「愛美、かわいい……。大好きだよ」
緒川支部長の腕の中で、愛美は何も考えられなくなって目を閉じた。
(これはヤバイよ……。甘過ぎる……)
それからしばらく経って愛美の二日酔いが少し落ち着いた頃、緒川支部長が用意したコーヒーやトーストなどで軽い食事をした。
支部にいる時は顔を見るのもイヤなはずの緒川支部長の部屋で、二人で向かい合って食事をしている事が不思議で仕方がない。
今日の緒川支部長はいつものスーツ姿とキチッと整えた髪型ではなく、カジュアルな服装で、少し長めの前髪を自然に下ろした髪型で、黒いフレームの眼鏡を掛けている。
ただ見た目がいつもと違うだけなのに、声や話し方、表情や仕草まで別人のように柔らかい。
愛美が向かいに座っている緒川支部長の顔をしげしげと眺めていると、緒川支部長は少し照れくさそうに笑った。
「ん……何?」
「別人……じゃ、ないですよね?」
「え?」
本人にその自覚はないのか、緒川支部長が不思議そうに首をかしげている。
「だって……支部で仕事してる時と全然違うから……」
「ああ……あれはね……作ってるから、ある意味別人かも」
「作ってる……?」
「俺、ホントは人の上に立つようなタイプじゃないから。ただでさえほとんどの職員さんたちより歳下なのに、頼りない上司だと職員さんたちに示しがつかないと思って……。数字も上げなきゃいけないし、じつは結構必死」
本人の口からそれを聞くと、今目の前にいる緒川支部長が、マスターの言っていた本来の緒川支部長なんだなと、愛美は妙に納得した。
「そのせいで愛美には大嫌いって言われて、かなりヘコんだんだけど……」
緒川支部長の思わぬ一言に愛美はうろたえた。
「えっ……それは……」
(その通りなんだけど……。そんな直球で……)
緒川支部長はうろたえる愛美を見て笑みを浮かべながらコーヒーを飲んだ。
「猫アレルギーで猫は飼えないのに、俺より猫の方がましだとか言われたし……」
「仕事してない時の支部長は猫じゃないですね。犬猫どちらかと言うと、むしろ犬です」
「じゃあ犬は生理的に受け付けないって事はないの?」
愛美が勢いで放ってしまった言葉を、緒川支部長は愛美が思っていた以上に気にしていたようだ。
『生理的に受け付けない』と緒川支部長に言い放った事を思い出し、愛美はばつの悪そうな顔で目をそらした。
「犬は好きです」
「ホント?」
愛美の言葉を聞いて、緒川支部長は嬉しそうな顔をしている。
また耳立てて尻尾振っている犬の姿が見えた。
緒川支部長本人ではなく犬は好きだと言っただけなのに、この喜びようにはさすがの愛美も笑わずにはいられない。
「……犬の話ですよ。昔、実家で大型犬飼ってたんです。毛の色が栗色だったからマロンって名前で」
「マロン?」
「マロン」
「俺は?」
一体何が言いたいんだろう?
愛美は緒川支部長の言わんとしていることの意味がわからず、思わず首をかしげた。
「……支部長ですよね?」
「いや……政弘だから、マロンとちょっと似てるかなぁって」
「『マ』と『ロ』だけですけど」
「政弘が4文字で呼びにくいなら、この際だからマロンでもいい」
愛美は緒川支部長の期待には応えず、この部屋に来た経緯を尋ねた。
緒川支部長は残念そうに小さなため息をつく。
「覚えてないの?」
「まったく」
「そっか、相当酔ってたもんな……。車の中で寝ちゃって家もわからなくて、仕方ないから俺んちに連れてきて寝かせた」
「そうなんですか?まさか……私が酔って寝てる間に変なとこ触ったりしてないですよね?」
「してないよ!!……あ、でも……」
「でも……?」
愛美がおそるおそる尋ねると、緒川支部長は少し照れくさそうに小声で呟く。
「キスはした……」
「えぇっ?!」
「おでこに」
「なんだ……おでこか……」
愛美がホッとして息をつくと、緒川支部長はいたずらっぽい目で愛美の顔を覗き込んだ。
緒川支部長の整った顔が愛美の眼前に迫る。
「酔って寝てる愛美にそんな事するのもどうかと思ったんだけど……もっと違うとこにしても良かったの?」
「えぇっ?!」
「俺はしたいんだけど……」
緒川支部長は愛美の顔に口元を寄せた。
愛美は職場にいるときの緒川支部長には感じたことのない色気に戸惑い、身動きが取れない。
「キス、してもいい?」
「いや、あの……」
愛美が返事をする間もなく、緒川支部長の唇が愛美の唇に重なった。
優しく触れるだけのキスなのに、頭の中が真っ白になり、全身の力が抜ける。
(何これ……?気持ちいいかも……)
緒川支部長はゆっくりと唇を離して、愛美をギュッと抱きしめた。
「愛美、かわいい……。大好きだよ」
緒川支部長の腕の中で、愛美は何も考えられなくなって目を閉じた。
(これはヤバイよ……。甘過ぎる……)
それからしばらく経って愛美の二日酔いが少し落ち着いた頃、緒川支部長が用意したコーヒーやトーストなどで軽い食事をした。
支部にいる時は顔を見るのもイヤなはずの緒川支部長の部屋で、二人で向かい合って食事をしている事が不思議で仕方がない。
今日の緒川支部長はいつものスーツ姿とキチッと整えた髪型ではなく、カジュアルな服装で、少し長めの前髪を自然に下ろした髪型で、黒いフレームの眼鏡を掛けている。
ただ見た目がいつもと違うだけなのに、声や話し方、表情や仕草まで別人のように柔らかい。
愛美が向かいに座っている緒川支部長の顔をしげしげと眺めていると、緒川支部長は少し照れくさそうに笑った。
「ん……何?」
「別人……じゃ、ないですよね?」
「え?」
本人にその自覚はないのか、緒川支部長が不思議そうに首をかしげている。
「だって……支部で仕事してる時と全然違うから……」
「ああ……あれはね……作ってるから、ある意味別人かも」
「作ってる……?」
「俺、ホントは人の上に立つようなタイプじゃないから。ただでさえほとんどの職員さんたちより歳下なのに、頼りない上司だと職員さんたちに示しがつかないと思って……。数字も上げなきゃいけないし、じつは結構必死」
本人の口からそれを聞くと、今目の前にいる緒川支部長が、マスターの言っていた本来の緒川支部長なんだなと、愛美は妙に納得した。
「そのせいで愛美には大嫌いって言われて、かなりヘコんだんだけど……」
緒川支部長の思わぬ一言に愛美はうろたえた。
「えっ……それは……」
(その通りなんだけど……。そんな直球で……)
緒川支部長はうろたえる愛美を見て笑みを浮かべながらコーヒーを飲んだ。
「猫アレルギーで猫は飼えないのに、俺より猫の方がましだとか言われたし……」
「仕事してない時の支部長は猫じゃないですね。犬猫どちらかと言うと、むしろ犬です」
「じゃあ犬は生理的に受け付けないって事はないの?」
愛美が勢いで放ってしまった言葉を、緒川支部長は愛美が思っていた以上に気にしていたようだ。
『生理的に受け付けない』と緒川支部長に言い放った事を思い出し、愛美はばつの悪そうな顔で目をそらした。
「犬は好きです」
「ホント?」
愛美の言葉を聞いて、緒川支部長は嬉しそうな顔をしている。
また耳立てて尻尾振っている犬の姿が見えた。
緒川支部長本人ではなく犬は好きだと言っただけなのに、この喜びようにはさすがの愛美も笑わずにはいられない。
「……犬の話ですよ。昔、実家で大型犬飼ってたんです。毛の色が栗色だったからマロンって名前で」
「マロン?」
「マロン」
「俺は?」
一体何が言いたいんだろう?
愛美は緒川支部長の言わんとしていることの意味がわからず、思わず首をかしげた。
「……支部長ですよね?」
「いや……政弘だから、マロンとちょっと似てるかなぁって」
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