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偽誕生日作戦 1
「俺、もうすぐ誕生日なんだ」
入社2年目の8月の蒸し暑い夜、仕事のあとに同期のみんなと飲みに行った帰り道で、俺は葉月に嘘をついた。
本当は4月生まれなのに、葉月と同じ8月生まれだと嘘をついて近付こうなんて、今になって考えてみると、なんて浅はかで馬鹿らしい作戦なんだろう。
俺が本当は4月生まれであることなんて、俺の営業事務を担当している葉月にはすぐバレそうなものなのに、葉月は俺の方をチラッと見て「へぇ、そうなんや」と呟いた。
「8月生まれってさ、子どもの頃は『誕生日おめでとう』って友達に言ってもらえないんだよな、夏休みだから」
その名前から葉月は8月生まれに違いないと勝手に決めつけ、8月生まれの友達が昔言っていたことを自分のことのようにもっともらしく言って共感を得ようとすると、意外なことに葉月は少し笑いながら首を横に振った。
「私は毎年、幼馴染みが家までプレゼント持って『おめでとう』て言いに来てくれてた。家近いし、私も毎年その子の誕生日にはプレゼント渡してたから。年中行事みたいなもんやねん」
大阪出身の葉月は、いつも懐かしそうに笑って地元の友達の話をする。
今年も幼馴染みが誕生日を祝ってくれるのかと思ったけど、恋人でもあるまいし、さすがに幼馴染みの誕生日を祝うためだけに大阪から出てくることはないだろう。
「へぇ……いいなぁ、幼馴染みか。俺なんか今年も誰かに祝ってもらう予定ないよ」
本当は毎年いとこたちが祝ってくれるし、今年の4月9日ももちろん祝ってもらったのだけど、『誕生日を祝ってくれる彼女はいません』とアピールするためにまた嘘をついた。
他の同僚たちも一緒に食事をしたり酒を飲んだりしているときは楽しそうにたくさん話す葉月が、帰り道が同じ方向の俺と二人きりになると、いつもなんとなくそっけないというか、明らかに口数が少なくなる。
もしかして俺のことは苦手なのかなとか、あまり好きなタイプではないのかもとか、嫌われていたらどうしようかと思ったりもした。
だけど俺は、どうにかして葉月に近付きたかったし、もっと仲良くなりたかった。
いろいろ悩んだ末、誕生日が近いと言えば親近感が湧くのではないかと思いつき、あわよくば二人でお祝いをして、いい感じになりたいと思ったのだ。
葉月は口元に手を当てて少し笑った。
「そら寂しいなぁ。誕生日いつなん?」
「えっと……今週の土曜日」
「今週の土曜日言うたら……11日か。その日から盆休みやし、どっちにしても会社休みやから『おめでとう』言うてもらわれへんな」
もちろんそれを狙って誕生日だと言ったのだ。
「じゃあ二人で飯でも行かない?一緒に誕生日のお祝いしようよ」
思いきって食事に誘うと、葉月は少し首をかしげた。
もしかしたら『そんなに親しくもないのになんで私を誘うの?』とか、変に思われているのかも……。
それによく考えると、休みの日にわざわざ俺と会ってくれるだろうかと不安になってきた。
本当の誕生日でもないし、この際だから二人で会えるならいつだっていいや。
「あー……もし休みの日は都合悪いなら前日の仕事のあとでもいいし……」
なんとか断られないように焦ってそう言うと、葉月はまた少し首をかしげながら何か考えるそぶりを見せた。
「別になんも予定ないし、土曜日でええけど……」
断られなくて良かったとホッと胸を撫で下ろし、葉月と二人だけで会う約束ができることが嬉しくて、心の中で高々と拳を突き上げた。
こうなったら何がなんでもチャンスをものにしたい。
入社2年目の8月の蒸し暑い夜、仕事のあとに同期のみんなと飲みに行った帰り道で、俺は葉月に嘘をついた。
本当は4月生まれなのに、葉月と同じ8月生まれだと嘘をついて近付こうなんて、今になって考えてみると、なんて浅はかで馬鹿らしい作戦なんだろう。
俺が本当は4月生まれであることなんて、俺の営業事務を担当している葉月にはすぐバレそうなものなのに、葉月は俺の方をチラッと見て「へぇ、そうなんや」と呟いた。
「8月生まれってさ、子どもの頃は『誕生日おめでとう』って友達に言ってもらえないんだよな、夏休みだから」
その名前から葉月は8月生まれに違いないと勝手に決めつけ、8月生まれの友達が昔言っていたことを自分のことのようにもっともらしく言って共感を得ようとすると、意外なことに葉月は少し笑いながら首を横に振った。
「私は毎年、幼馴染みが家までプレゼント持って『おめでとう』て言いに来てくれてた。家近いし、私も毎年その子の誕生日にはプレゼント渡してたから。年中行事みたいなもんやねん」
大阪出身の葉月は、いつも懐かしそうに笑って地元の友達の話をする。
今年も幼馴染みが誕生日を祝ってくれるのかと思ったけど、恋人でもあるまいし、さすがに幼馴染みの誕生日を祝うためだけに大阪から出てくることはないだろう。
「へぇ……いいなぁ、幼馴染みか。俺なんか今年も誰かに祝ってもらう予定ないよ」
本当は毎年いとこたちが祝ってくれるし、今年の4月9日ももちろん祝ってもらったのだけど、『誕生日を祝ってくれる彼女はいません』とアピールするためにまた嘘をついた。
他の同僚たちも一緒に食事をしたり酒を飲んだりしているときは楽しそうにたくさん話す葉月が、帰り道が同じ方向の俺と二人きりになると、いつもなんとなくそっけないというか、明らかに口数が少なくなる。
もしかして俺のことは苦手なのかなとか、あまり好きなタイプではないのかもとか、嫌われていたらどうしようかと思ったりもした。
だけど俺は、どうにかして葉月に近付きたかったし、もっと仲良くなりたかった。
いろいろ悩んだ末、誕生日が近いと言えば親近感が湧くのではないかと思いつき、あわよくば二人でお祝いをして、いい感じになりたいと思ったのだ。
葉月は口元に手を当てて少し笑った。
「そら寂しいなぁ。誕生日いつなん?」
「えっと……今週の土曜日」
「今週の土曜日言うたら……11日か。その日から盆休みやし、どっちにしても会社休みやから『おめでとう』言うてもらわれへんな」
もちろんそれを狙って誕生日だと言ったのだ。
「じゃあ二人で飯でも行かない?一緒に誕生日のお祝いしようよ」
思いきって食事に誘うと、葉月は少し首をかしげた。
もしかしたら『そんなに親しくもないのになんで私を誘うの?』とか、変に思われているのかも……。
それによく考えると、休みの日にわざわざ俺と会ってくれるだろうかと不安になってきた。
本当の誕生日でもないし、この際だから二人で会えるならいつだっていいや。
「あー……もし休みの日は都合悪いなら前日の仕事のあとでもいいし……」
なんとか断られないように焦ってそう言うと、葉月はまた少し首をかしげながら何か考えるそぶりを見せた。
「別になんも予定ないし、土曜日でええけど……」
断られなくて良かったとホッと胸を撫で下ろし、葉月と二人だけで会う約束ができることが嬉しくて、心の中で高々と拳を突き上げた。
こうなったら何がなんでもチャンスをものにしたい。
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