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本当の誕生日は…… 1
沈んだ気持ちで過ごした夏期休暇が明けても、葉月とは相変わらずただの同期のままで、どんなに好きでも俺は葉月の眼中にはないんだなと落ち込む日が続いた。
それでも葉月にはカッコ悪いところを見せたくなくて、仕事だけはなんとか自分を奮い起たせて頑張ったけれど、一度へし折られた恋心はそう簡単に立ち直れない。
こんな状態でヘタに告白なんかしてフラれたら、せっかくここまで築き上げた同僚としての関係まで揺るぎかねないだろう。
葉月に好きになってもらうには、ただの同僚ではなく男としての俺の存在を認めてもらうしかない。
そのためにはもっともっと頑張らなければ。
俺は自分にそう言い聞かせ、以前にも増して仕事に精をだし、少しでも葉月と接する機会を増やすために食事や飲み会をしようと、懲りずに声を掛け続けた。
そんなひそかな努力を続けているうちに、あっという間に入社3年目に突入してしまった。
その頃には葉月ともたまには二人だけで食事に行けるくらいは仲良くなれていたけれど、このままずっと『ちょっと仲の良い同僚』と呼べる程度のポジションでいいのかと焦り始めた。
そんな気持ちで新年度が始まったばかりの4月3日火曜日、偶然仕事の終わる時間が同じだった佐野が、週末でもないのに飲みに行こうと誘ってくれた。
葉月との仲はたいして進展していないのに、よく帰り時間が一緒になる佐野とは二人で食事なんて珍しくもないほど仲良くなっていた。
佐野は同期の中でも気が合って一緒にいてラクだし、男友達と同じような感覚だったから異性として意識したことは一度もなかったけれど、たまに『佐野と仲がいいみたいだけど付き合っているのか』と同僚に尋ねられることがあった。
他の同僚はともかく、葉月にも誤解されていたりはしないかなと少し気になり始めていたのでどうしようかとも少し考えたけれど、理由もなく断るのもおかしな話だなと思っていると、『伊藤くんも誘って』と葉月が言ったと佐野が言うので、二つ返事でOKした。
佐野とは帰る方向が違うので、帰りの電車は葉月と二人きりになる。
これまで一度も告白なんてしたことはなかったけれど、このまま黙っていてもきっとただの同僚で終わるだろうし、遠回しにアプローチしても葉月には通用しないと『偽誕生日作戦』で学んだ俺は、どうせフラれるなら悔いのないように、ダメ元で潔く『好きだ』と伝えて玉砕しようと決心した。
佐野と二人で会社の近くの居酒屋に行くと、葉月が一人でテーブル席に座って待っていて、このあと告白するのだと思うと、ただ葉月が目の前にいるだけでいつもに増してドキドキした。
いくつかの料理とビールを注文して、いつものように仕事のことや世間話など、他愛ない会話をしたけれど、その間も葉月は相変わらず俺とは目を合わせようとしなかった。
──玉砕確定だな。
そんなことを考えながらビールを飲んだ。
本当は余計なことを考えなくて済むように思いきり飲みたかったけれど、ベロベロに酔って告白しても真剣に受け止めてもらえそうにないので、あまり飲みすぎないようにセーブした。
こんなときはいくら飲んでも酔わないザルの佐野が羨ましいと思った。
佐野は新人の歓迎会で誰よりも多く酒を飲まされても涼しい顔をしていた上に、酔ってしまった先輩たちをやけに慣れた様子で介抱していたから、相当酒に強いんだと思う。
葉月は少し赤い顔をしていたけれど意識はハッキリしていたし、俺が告白しても明日になったら『伊藤くんはなんて言うてたんやっけ?忘れたわ』などと言うほど酔ってはいなさそうだった。
その日も佐野は俺と葉月の倍以上は飲んでいたのに、顔色ひとつ変えることなく店を出た。
居酒屋から3人で駅までのんびり歩き、駅の改札を通り抜けて別の路線に乗る佐野と別れ、葉月と二人で同じ電車に乗った。
それでも葉月にはカッコ悪いところを見せたくなくて、仕事だけはなんとか自分を奮い起たせて頑張ったけれど、一度へし折られた恋心はそう簡単に立ち直れない。
こんな状態でヘタに告白なんかしてフラれたら、せっかくここまで築き上げた同僚としての関係まで揺るぎかねないだろう。
葉月に好きになってもらうには、ただの同僚ではなく男としての俺の存在を認めてもらうしかない。
そのためにはもっともっと頑張らなければ。
俺は自分にそう言い聞かせ、以前にも増して仕事に精をだし、少しでも葉月と接する機会を増やすために食事や飲み会をしようと、懲りずに声を掛け続けた。
そんなひそかな努力を続けているうちに、あっという間に入社3年目に突入してしまった。
その頃には葉月ともたまには二人だけで食事に行けるくらいは仲良くなれていたけれど、このままずっと『ちょっと仲の良い同僚』と呼べる程度のポジションでいいのかと焦り始めた。
そんな気持ちで新年度が始まったばかりの4月3日火曜日、偶然仕事の終わる時間が同じだった佐野が、週末でもないのに飲みに行こうと誘ってくれた。
葉月との仲はたいして進展していないのに、よく帰り時間が一緒になる佐野とは二人で食事なんて珍しくもないほど仲良くなっていた。
佐野は同期の中でも気が合って一緒にいてラクだし、男友達と同じような感覚だったから異性として意識したことは一度もなかったけれど、たまに『佐野と仲がいいみたいだけど付き合っているのか』と同僚に尋ねられることがあった。
他の同僚はともかく、葉月にも誤解されていたりはしないかなと少し気になり始めていたのでどうしようかとも少し考えたけれど、理由もなく断るのもおかしな話だなと思っていると、『伊藤くんも誘って』と葉月が言ったと佐野が言うので、二つ返事でOKした。
佐野とは帰る方向が違うので、帰りの電車は葉月と二人きりになる。
これまで一度も告白なんてしたことはなかったけれど、このまま黙っていてもきっとただの同僚で終わるだろうし、遠回しにアプローチしても葉月には通用しないと『偽誕生日作戦』で学んだ俺は、どうせフラれるなら悔いのないように、ダメ元で潔く『好きだ』と伝えて玉砕しようと決心した。
佐野と二人で会社の近くの居酒屋に行くと、葉月が一人でテーブル席に座って待っていて、このあと告白するのだと思うと、ただ葉月が目の前にいるだけでいつもに増してドキドキした。
いくつかの料理とビールを注文して、いつものように仕事のことや世間話など、他愛ない会話をしたけれど、その間も葉月は相変わらず俺とは目を合わせようとしなかった。
──玉砕確定だな。
そんなことを考えながらビールを飲んだ。
本当は余計なことを考えなくて済むように思いきり飲みたかったけれど、ベロベロに酔って告白しても真剣に受け止めてもらえそうにないので、あまり飲みすぎないようにセーブした。
こんなときはいくら飲んでも酔わないザルの佐野が羨ましいと思った。
佐野は新人の歓迎会で誰よりも多く酒を飲まされても涼しい顔をしていた上に、酔ってしまった先輩たちをやけに慣れた様子で介抱していたから、相当酒に強いんだと思う。
葉月は少し赤い顔をしていたけれど意識はハッキリしていたし、俺が告白しても明日になったら『伊藤くんはなんて言うてたんやっけ?忘れたわ』などと言うほど酔ってはいなさそうだった。
その日も佐野は俺と葉月の倍以上は飲んでいたのに、顔色ひとつ変えることなく店を出た。
居酒屋から3人で駅までのんびり歩き、駅の改札を通り抜けて別の路線に乗る佐野と別れ、葉月と二人で同じ電車に乗った。
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