キミガ ウソヲ ツイタ

櫻井音衣

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本当の誕生日は…… 2

平日の夜なのに電車は思ったより混んでいたので、俺と葉月は座席には座れずドアのそばに並んで立ち、電車が発車するまで無言で窓の外を眺めていた。
そのときの俺の頭の中は、話をいつ切り出そうかということでいっぱいだった。
電車の中でそんな話をしたら恥ずかしいかな。
もしかしたら葉月に嫌がられるかも知れない。
だけどこのチャンスを逃したら、次はいつになるかわからない。
いきなり好きだと言ってフラれたら、葉月が電車を降りるまでずっと気まずくなるだろうから、葉月の降りる駅の少し手前で切り出そうかな。
そんなことを考えていると、発車のベルが鳴った。
電車が走り出すと少し酔いが回り始めたのか、葉月はドアに頭をくっ付けて、体を支えるようにしてもたれた。

「大丈夫か?もしかして気分悪い?」

俺が尋ねると、葉月は小さく首を横に振った。

「大丈夫……。伊藤くん、じつは私な……今日、誕生日やねん」
「えっ……今日?」

葉月は頭をわずかに俺の方に向けて、少し照れくさそうに笑ってうなずいた。
『葉月』という名前だから8月生まれだと勝手に思い込んでいたけれど、嘘などつかなくても葉月も俺と同じ4月生まれだったらしい。

「でも『葉月』って8月のことだよね?」
「うん……。でも私の名前の由来、生まれた月とちゃうねん。私のひいばあちゃんら、 曾孫の私が生まれて来るの楽しみにしとったのに、 二人とも私が生まれる少し前に続けて亡くなって会えんかったんよ。オトンのばあちゃんの名前が『葉子』で、オカンのばあちゃんの名前が『月子』やから、二人の名前を取って『葉月』にしたんやて。だから私、4月生まれやのに『葉月』やねん」
「そうだったんだ……。俺、木村は『葉月』って名前だから8月生まれなんだと思ってた。だから去年の盆休みの前に誘ったんだけど……」

勝手な思い込みを暴露すると、葉月はまた前髪に隠れた額を押し付けるようにして、ドアにもたれた。

「8月生まれと間違われんのはしょっちゅうやし、伊藤くんもそうなんやろなぁとは思てたけど……『私、8月生まれちゃうで』って、わざと言わんかったんよ」
「……わざと?」
「うん、わざと。伊藤くんが一緒にお祝いしようて言うてくれてめっちゃ嬉しかったから、8月生まれのふりしてん」

めっちゃ嬉しかったってどういうことだ?
もしかして……もしかすると、葉月も俺のことが好き……?
いや、そんな都合のいいことがあるもんか。
俺のことが好きなら、言葉には出さなくても少しくらいは態度に出るはずだろ?
でも葉月はこれまで俺には素っ気なかったし、目も合わせようとしなかったじゃないか。
自分にとって都合のいいことを期待しないように、ダメだったときのための言い訳を頭の中でいくつも並べ立てていると、葉月が俺のジャケットのすそを軽く握った。
一体何事かと思いながら葉月の方を見ると、少し息を荒くしてつらそうにうなだれている。

「伊藤くん……」
「えっ、何、どうした?」
「私、酔いが回ってきた……。ちょっとヤバイかも……」
「ええっ?!」

葉月の体を支えながら、一旦次の駅で電車を降りた。
ベンチに葉月を座らせて、自販機で買ってきたミネラルウォーターを差し出すと、葉月はそれを受け取りゆっくりと口に含んだ。
葉月の少し気だるそうな横顔や、まだ少し肌寒い春の夜風になびく長い髪、形の良い唇がペットボトルの飲み口に触れるのを見ているだけでドキドキした。
こんなときまで色気が駄々漏れだ。
酔った女の子に襲い掛かるような卑劣な送り狼にだけはならないと心に誓い、隣に座って葉月の背中をさする。

「木村、顔色悪いぞ。大丈夫か?トイレ行く?」
「ううん、少し落ち着いたし大丈夫。ごめんな……ちょっと飲みすぎたみたいやわ」

居酒屋にいたときは自分のことで頭がいっぱいだったけど、あとになってよくよく考えてみると、葉月はかなりの量のビールを飲んでいたように思う。

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