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第1章

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お爺さん神官の挨拶が始まる。

「皆さんようこそお越しいただきました。二歳という人生最初の節目を当教会で迎えることを嬉しく思います。
私はローランド神教会、クタナツ寺院の神官長ネイチェルと申します。
では、早速『ヴィルーダ様の祝福』の儀を始めましょう。さあ子供達は立ち上がって、手を胸の前で合わせましょう。」

挨拶が短いのはありがたい。
手を合わせるとは、いわゆる合掌だ。
ここではこれが普通なのだろう。

「さあ、そのまま目を閉じて。祈りの言葉を唱えましょう。私の後に続いて声を出してくださいね。そして神の声を聞くのです。」

『ガンニーシー クードーク
ビョードーセー イッサーク
ドーホーツー ボーダーク
オージョーアン ラーク』

すごい。
初めて聞いた言葉なのにするりと頭に入ってくる。
そしてすんなりと口に出すことができる。
他の子供達も同じようだ。


そのまま祈りの言葉を繰り返すこと約五分。

「うわー聞こえた!」
「すごい!神様だー」
「しゅくふくだって!やったー!」
「やさしそうな声だったね!」

お、おかしい……
私には聞こえない……
目を閉じたまま姿勢を保つ。
どんな祝福かは知らないが、貰えるものは欲しい。
これはもしかして、かなやにカス教師と言われたことに関係するのか?
くそぅ、悔しいな。

「さあ、みなさん。目を開けていいですよ。だいたい毎年五名程度が祝福を貰えています。今年は四名ですね。
ただし貰えなかったからと言って悔やんではいけません。祈りの言葉を思い出すのです。
毎日唱えることで、ある日突然祝福を得ることもあります。なぜならみなさんはすでに神々の子だからです。
これからも神を畏れ敬い親孝行をし、友達を大事にしなさい。そして学問、剣術、魔法など打ち込めるものを見つけて立派な人間になるのです。
悩める時はまたここに来て、神の声を聞いてみましょう。きっと道が開けるはずです。」


おお、まともなことを言っている。
これが『徳』が高いということなのか。
素直に聞きたくなるし、その通りにしようと思える。
よし、今日から頑張ろう。
魔法は楽器と同じって話しだし、早く始めるに越した事はないだろう。
帰ったら母親に頼んでみよう。

「さあカースちゃん、帰りましょうね。マリーも待っているわ。」

「あらイザベル様、もうお帰りですか? どこかでお茶でもどうかと思いましてお声かけしてみましたの。」

「まぁシメーヌ様、嬉しいわ。それはいいですわね。この辺りでお茶でしたら二番街の『タエ・アンティ』なんていかがかしら。ケーキも美味しいお店ですし。」

「やっぱりイザベル様とは気が合いますわ。私もそこ大好きですの。早速行きましょう!」

そこに何人かの親子連れが集まってきた、

「私達もご一緒してもいいかしら? みんなで行きましょうよ。」

たぶん父の同僚の家族だろう。
結局四家族八人で向かうことになった。
馬車は別々、御者は人数にカウントしていない。

店内では、ムリス家の長女サンドラとメイヨール家の三男スティードが合流し子供同士で甘いものを食べながらおしゃべりに興じている。

「私は学問をがんばるんだよー」
サンドラは言う。
くりくりした目に輝く金髪が印象的な女の子だ。

「ぼくは剣術かな。やっぱり騎士になりたいよねー、かっこいいよねー」
スティードは騎士になりたいらしい。
伏し目がちだが意志の強そうな眼差しをした男の子だ。

「それよりみんなでゴースト退治しようよ。ぜったいおもしろそう!」
セルジュ…

「ぼくはまだわからないや、二人ともすごいね!狼ごっこは騎士になるための体力をつけるのにいいんだよ。みんなでやろうよ。ゴースト退治も!」

こうして私達は友達となった。
これで楽しく遊べそうだ。
再会を約束してそれぞれの家路についた。

そう言えば、祝福ってどんな効果があるのだろう。
説明してくれなかったな。
個別に説明したのだろうか。
これも帰ったら聞いてみよう。
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