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第1章

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あれから一ヶ月、庭の大きな岩の上に鉄塊で作った金属の塊を置いて頑張っている。
放射熱がすごいものだから、岩の周りを水壁で囲っている。
その壁から木刀を突っ込んで先から火を出している。さすがのエビルヒュージトレントも先が焦げつつある。これは制御が甘いから無駄が出ているのか?
何度も加熱しているので、金属の塊も徐々に小さくなっていく。その度に鉄塊を使い金属を追加している。今、岩の上にあるのは純度高めの鉄が二十キロムほどだ。

鉄が溶けて岩から流れ落ちたら達成と考えてるが、中々難しい。
そこで今日は趣向を変えて循環阻害の首輪を外し、オディ兄に助けも頼んだ。

「こんな感じで厚めに水壁を使ってもらえる?強めの点火を使うから熱の照り返しを防いで欲しいんだ。」

「いいよ、たまには兄弟で力を合わせて何かするのも面白そうだよね。」

オディ兄が水壁を岩の周りに分厚く配置する。そこに木刀を突っ込み点火の魔法を発動する。
ガスバーナーのような勢いで木刀の先から火が吹き出して鉄の塊を赤く染めていく。

次の瞬間、水壁が煙のように消えた。そして私達は放射熱に晒される。
私は慌てて水壁を使い防御する。
危なかった、もう少し遅かったら火傷をしていたかも知れない。

「オディ兄どうしたの? 危なかったね。」

「いやごめん、まさかカースの火がこんなに強いとは思わなかったよ。僕の水壁では耐えられないんだよ。」

なるほど、同じ水だから厚ければいいと思ったら、使う人間によって性質すら変わるのか。困ったな、驚かせたいから母上には頼まないつもりだったが。

「じゃあ母上に頼んでみようかな。オディ兄も居てくれると嬉しいな。」

「ああ、さっきみたいな事態に備えて気休めに水壁を使うよ。」

早速母上を呼んできた。キアラはマリーに任せて出てきてくれた。

「あらあらオディロンの水壁でもだめなんてすごいわね。さすがカースね! じゃあいくわよ。」
『水壁』

よし、同じように木刀の先から火を吹かせる。鉄の塊が赤く染まる。
いけそうだ、魔力をガスのように送り込み、空気もガスの内外に送り込む。
きた! 鉄が溶け出した! チーズが溶けてパンを覆うように溶けた鉄が岩を垂れていく。
私は水壁から木刀を抜き一息つく。

「母上ありがとう。次からは自分でできるように上手くやるね。」

我ながら役に立たないことにマジになったものだ。子供だからいいよね。やりたいことをやろう。

「すごいわカース! ちゃんと危険を予測して私に助けを求めたことが素晴らしいわ!
火の魔法ってね、結構事故が多いのよ。大きい火を出そうとして自分を焼いたり家を焼いたりね。」

「初めて点火を使った時に指とか手が熱かったから危ないって思ったんだよね。
自分で水壁を使ってたら火の温度が上がらなくなって、そこで火に集中してみたらできたんだよね。」

「カースはすごいな。鉄をこんなに溶かせる魔法使いなんているの? 母上?」

「聞いたことがないわ。鍛冶屋さんならできるでしょうけど魔法でやるなんて聞いたことがないわ。」

「すごい! 凄すぎて自慢できないのが残念だよ。カースは天才だよ!」

「えへへーそう? でもこれ役には立たないと思うよ?」

「それは確かにそうかもね。でもそんなのはこれから考えればいいことよ。
今度街の外に連れて行ってあげるから色々やってみましょうね。」

「うん! 行きたい! ずっと出てみたかったんだよ! オディ兄も行くよね?」

「もちろんだよ。僕もあんまり出たことがないから楽しみだよ。」

「じゃあ近いうちにお父さんと四人でピクニックね! マリーとキアラはお留守番ね。
お母さんの魔法も見せてあげるわね。」

ついにクタナツの外に出られるのか。
ドキドキする。
いつかの社会科見学より楽しみだ。
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