上 下
61 / 240
第1章

61

しおりを挟む
七歳になって一ヶ月も経たない頃、領都の兄上から手紙が届いた。
ついに王都の近衛学院への進学を決めたらしい。
そこで優秀な成績を修めると王族の近衛にもなれる超エリートコースだ。
何でも先に王都に行って魔法学院に行くであろう姉上を待つらしい。
ついにあの二人デキてしまったのか?
それにしても王都か、両親の影響でいいイメージがないんだよな。
貴族は盆暗ばっかりらしいし。

さらに手紙によると兄上より優秀なあのウメールは複数の女性に同時に刺されて死んだらしい。
よくあることだな。やはり兄上が王国一か。

私は魔法の調子がよくなり、自分が熱くない火を扱うことができるようになった。
ただし『点火つけび』の小さいやつに限るが。

それにより使う魔力は少なくても威力が向上した。母上の言う効率がよいとはこのことだった。
コツは風操を使わず火を操ることだった。火や水を直接操ることで無駄な魔力を使わないで済むようだ。
物体の下半分だけを燃やすことも多分できるだろう。
やはり魔法に物理を考えても仕方ないのか。
これができるなら重い物を浮かせることもできそうだ、つまり空を飛べる!
でも誰も飛んでないのはなぜだ?



もうすぐ冬になることだし、今日から露天風呂作りを始める。
家の中にお風呂はあるのにわざわざ外に作るなんて我ながら物好きだ。いいんだ、冬の星空を見ながら風呂を堪能するのだ。
熱燗はないから、ホットミルクでも飲むさ。

今回は保温が重要ではあるが、長風呂をするわけでもないので、気にせずプールの鉄で作ってみる。
一旦全部溶かして一塊りにし、そこから風呂釜の形成に入る。座ったり寝たり出来るよう段差を付ける。
容量はプールの三割もあればいい、少し厚めに作って保温を確保だ。
一応風呂の周囲は土で固めて気持ち程度の保温効果をアップさせておく。


「もうすぐ寒くなるのにまだプールで遊ぶのかい?」

オディ兄だ、弟の頭がおかしくなったのか心配なのだろうか。

「いやいや、これはお風呂だよ。冬になったら星を見ながら入るんだよ。」

「お風呂!? 家の中にもあるのに? 寒い中わざわざ外に出てお風呂に入るの?」

「その通り、寒い時に外でお風呂に入るのが贅沢なんだよ。オディ兄も入ったら分かると思うよ。」

「嫌だよ! 今度は完全に裸になるんだよね? そりゃ嫌だよ。カースは本当に変わってるよね。」

変わってると言えばうちの家族は全員変わってないか?

「星を見ながらホットミルクでも飲みながら寒い中で暖かいお湯にゆったり浸かるのさ。隣にはマリーもいて『星が綺麗だね。でもマリーの方がずっと綺麗さ。』なんて言ってみてよ? マリーもドキドキかもよ?」

「それはいいなぁ、でもプールも入ってくれなかったし風呂は裸になるから尚更入ってくれないよな……」

「まあオディ兄は冒険者になるんだし、外で活動することの方が多いよね。野宿する時にこんな風呂があったら便利かもね。」

「そりゃあったらいいけど、魔力庫に入れるにしても現地で作るにしても馬鹿みたいな魔力がいるよ。まあうちのパーティーには僕がいるから衛生面では問題ないけどさ。」

「あーオディ兄の洗濯魔法はそこでも役に立ちそうだよね。血まみれになっても大丈夫だよね。」

「そこは自信があるよ。武器は研げないけど汚れを落とすのはバッチリだよ。人間だって丸ごときれいにできるしね。」

「それって他の冒険者にやってあげたら儲かったり貸しにできたりする?」

「いい考えかもね。街に戻ってからも一稼ぎできるかも。カースは頭もいいね。えらいな。」

「えへへーそう? まあ何にしてもこの風呂は僕一人で楽しむってことで。」

この世界に露天風呂の習慣はないのか。
うちの家族でこれならアレックスちゃんやサンドラちゃんは絶対入らないだろうな。
両親からやめろと言われないのが不思議なぐらいかな。
しおりを挟む

処理中です...