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第1章

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四時間目、社会だ。
再びエロー校長先生がやってきた。

「さあさあ社会のお勉強をしましょうね。
実は今日何をするか聞く前にウネフォレト先生が帰ってしまいましてね、そこで今日は質問タイムといきましょう。
勉強のことから魔法のことまで、何でも聞いてくださいね。」

「はい!」

「いい声ですね! はい、アレクサンドルさん。」

「校長先生は魔境のどのぐらいまで行かれたことがありますか?」

「いい質問ですね。
あれは私がまだ若い頃でした。仲間達と魔境を攻略しようと準備を整え挑戦しました。
その結果、ノワールフォレストの森のさらに北、山岳地帯まで到達いたしました。」

「え、そんなにですか! すごい!
まだ誰も行ってないんじゃないですか!?」

「ふふふ、そうなのです。あれ以来誰も到達してないらしいですよ。
つまりここ、二十年ぐらい未踏というわけです。」

教室が騒つく、みんなその凄さが分かるのだろう。草原、砂漠、森、この三つの難所を越えて到達できるわけなのだから。

「しかし皆さん、実はこれは私達の実力ではなかったりします。通常は歩きか馬車で陸路を行くわけですが、サヌミチアニの北から大型船で海路を進んだのです。
このルートだとグリードグラス草原やヘルデザ砂漠をスルーできるわけですね。
そうして海岸線から離れすぎないよう海路を進みました。
ちなみに本当はもっと北まで海路を進むつもりでしたが、この辺りで大型の海の魔物に襲われましてね、何とか逃げることができまして、ノワールフォレストの森の北西部に上陸したわけです。
そこからは海岸線沿いを歩いて北上し、山岳地帯に到着、そんな旅でした。」

そう言って校長は白板に地図を描き、海の魔物に襲われたポイント、上陸したポイントに印を付けた。

「通常ローランド王国の北部に大型船が来ることなどまずありません。
南の国々との交易にしか使わないためです。
その時はたまたま物好きな方がおられましてね。サヌミチアニまで来られて、そこで乗船者を募集していたわけです。
そこに私達パーティーが立候補し乗り込めたというわけです。
このようなタイミングで都合がよいことが起こることを古い言葉で『渡りに船』と言います。そのまんまですね。」

こうして社会の時間は校長の話で全て終わった。質問は一つだけだったけど、とても有意義だった。これもきっと青春の一場面なのだろう。


五時間目、体育。

「よーし、昨日の続きをするからなー。
メイヨール君とマーティン君、今日はしっかりやるよな?」

「「押忍!」」

そして私達は昨日と同じ隅に行き、真面目に剣を振るのだった。

「スティード君、先生に叱られるのも青春だけど、こうやって一心不乱に汗を流すのも青春だよね。」

私は手を止めずに口を動かした。
スティード君も同様だ。

「そうだね。もう青春がどうとかよく分からないけど、きっと青春なんだろうね。」

スティード君は諦めたような表情で答える。
まだまだだな。

「それよりもカース君、この水壁ってだいぶ頑丈じゃない? さっきから全然剣が地面に着かないよ。」

「そう? 確かに僕も腰より下に木刀が行かないね。じゃあ少し薄くしようか。」

元々の奥行きが半メイルなのでさらに半分にしてみる。

「これならなんとか下まで着くよ。カース君の魔力はやっぱりすごいんだね!
そんなに魔力を込めたわけじゃないんだよね?」

「うん、先生の水壁みたいにしようとしただけだよ。でもまあこれなら僕ももう少し下まで行けそうだよ。」

こうして会話を挟みつつも真面目に体育の授業を終えた。
しっかり汗をかいたので、早く帰って露天風呂だな。
冬の夜もいいけど、春の夕方に露天風呂に入るのも風流なものだ。
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