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第1章

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春の終わり頃、珍しく雨が降っている。
こんな日は走って行けないため、大人しく馬車に揺られて学校に向かっている。

ちなみに歴史に名を残す個人魔法使いについてはマリーに何人か教えもらった。

なんと勇者ムラサキとその仲間だった。
マリーも聞いた話らしく誰にも言ってはいけないと口止めをされている。
歴史に名が残ってるんじゃないのか?

勇者ムラサキには四人の仲間がいるのだが、四人とも魔法使いなのは有名だ。
マリーによると四人中、三人が個人魔法も使えたらしい。

一人目、ロッド・ナスティ
声が裏返る代わりに魔法の威力が上昇する。

二人目、イタヤ・バーバレイ
七色の魔法使いと呼ばれ、あらゆる種類の魔法を使えるが、実際は魔法を変化させる個人魔法による。

三人目、セプト・リブレ
紅一点。目鼻立ちが整った外見に似合わず幼さの残る声で回復魔法を唱え、パーティーの危機を幾度となく救った。
個人魔法は魔法を使う度に黒い髪が血のように禍々しい赤に染まること。
当時はしばしば天女か魔女か論争の種になったらしい。

四人目、キョウバ・クライスラ
一種類の魔法しか使えず制御も甘かったことで、当時の王からは下手くそ扱いを受けていたが、その一種類を磨くことで勇者の仲間になり得た。個人魔法は使えない。

どれも初めて聞く話ばかりだった。
全員英雄として有名なので名前だけは知ってはいたが。
内緒にしておかないといけない話をマリーは一体誰から聞いたのやら。
誰にも言わない約束で聞いたのだからもちろん守る。
やはり個人魔法は有効活用すれば魔王も倒せるということだな。
でも髪が赤くなるとか声が裏返るって副作用とは違うのか?
魔法に副作用なんてあるものなのか?
こんなことを考えていると、酔わずに学校に着いた。

「マリーありがとう。行ってくるよ。」

「行ってらっしゃいませ。」
顔も無表情、言葉も冷淡だが心は暖かい。
と、思う。

「おはよーカース君。」

「あっおはよセルジュ君。たまには雨も風流でいいよね。」

「風流? 青春じゃないの? ところで風流って何?」

「あはは。僕もよく分からないよ。分からない言葉を使ってみたくなるのも青春かも。」

「やっぱり青春なんだね。
ところでカース君のとこのメイドさんってキリッとしててかっこいいよね。」

「そう? そうかも。セルジュ君のとこのメイドさんは可愛らしいよね。何歳ぐらい?」

「確か18歳ぐらいだったかな。最近御者をできるようになったんだよ。」

「おお、若いんだね。腕はどう?
僕は馬車に酔いやすいから気になるんだよね。」

「腕? たぶん普通だよ。それよりカース君て馬車に酔うの? 意外だね。街中をのんびり走る馬車で酔う人なんていないよ?」

「そうなの? 普通は酔わないの?」

うーん、こんなところでも変人ぶりを発揮してしまったのか……

それにしても普通は馬車に酔わないのか。
では船ならどうなんだろう。
空を飛びたいが自分の魔法で飛んで酔うなんてことはないよな?
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