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第1章

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父上とオディ兄が帰ってきた。
うまくいったのかな?
「おかえり。どうだった?」

「ただいま。いやー参ったぞ。あそこの長男、いや二男かな? かなりのボンクラだわ。あいつクタナツ育ちじゃないわ。ダキテーヌ卿がまだ領都にいた頃生まれたって話だったか。」

「すごかったよ。挨拶もなしにドアを開けて、自己紹介もなしにいきなり文句を言うんだから。僕達がベレンちゃんを隠してるんだってさ。」

父上もオディ兄も呆れているようだ。

「へ、へー。それは大変だったね。それでどうなったの?」

「家の人に縛られて連れて行かれたよ。剣を抜こうとしたんだよ? もう少しで死ぬ所だったよ。危ないよね。」

なるほど、貴族が剣を抜いたら殺すか殺されるかしかないのか。
父上に一撃で斬られるかオディ兄によってミイラにされるか、そんな未来しか見えない。
これはパスカル君も困るだろうな。
貴族が貴族を招いた上での不祥事、父上がわざわざ上に報告するとも思えないが黙秘する必要もなさそうだ。
どうなることやら。

「それは怖いね。そんな場合って普通はどうするの?」

「それはもちろん剣を抜いたら決闘だな。その場で斬り捨てられても文句は言えん。
私が言うのもおかしいが、せめて貴族なら貴族らしく宣誓の元で決闘するならまだ名誉は保てるんだがな。」

「ふーん大変なんだね。ところでそのお兄さんは強そうだったの?」

「そんなわけないだろ。私でもオディロンでも一瞬で終わってしまうぞ。あぁ剣は良い物を持ってたかな。あれは高いぞ。」

「ふーん、そんな物を持ってるから調子に乗ってるのかもね。ちなみに父上の剣は高いの?」

「いや、安物だ。騎士団の支給品だからな。切れ味はよくないが、まあまあ折れないことが取り柄さ。」

「カース、勘違いしたらいけないから言っておくけど父上の言う安物って下級冒険者からすれば高級品だからね。金貨三枚はするよ?」

「ははは、まあ騎士団だしな。もちろん自前で用意してもいいんだが私はケチなもんでな。そんな物に金を使う気がないだけだ。支給してもらえるんだからな。」

「へー、じゃあフェルナンド先生の剣だといくらぐらいするの? 見たことないけどきっと凄いんだよね?」

「ふむ、兄貴の剣は値段が付けられないな。いくつかあるんだが、普段腰に帯びているやつは安物だ、金貨十枚もしない。
強敵にしか使わないやつが高いんだ。行く先々で魔物を討伐してるからな、その素材で色々作ってるのさ。かなりの業物だぞ。」

父上は自分でケチと言う割には金貨十枚を安物呼ばわりか。やはり剣には拘りがあるのかな。
ならば高いっていくらぐらいなんだ?

ちなみにクタナツで平民一家四人が一年間暮らす食費は金貨四枚ぐらいらしい。
農村ならもっと少ないだろう。
ちなみに学費は下級貴族なら一年間で金貨二枚、上級貴族なら金貨五枚、平民以下は五年間で金貨一枚となっている。

領都の騎士学校だと特待生以外は一年間で金貨十枚、魔法学校も同額だ。
ウリエン兄上はもちろん特待生だ。姉上は違うが。

さて、紆余曲折あったが、このままお兄さんは大人しくしているのだろうか。
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