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第1章

138 グレートマザー

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「ようこそ我が家へ。アレクサンドリーネの母親、アルベルティーヌです。カース君の話は何度も聞いてますのよ。」

何だこの格下感は……彼女は私の前でも平気で服を着替えたりトイレに行ったりできるだろう。
ペットの視線を気にする飼い主がいないように。そんな感覚に襲われる……
これが本当の上級貴族なのか……

「お初にお目にかかります。アラン・ド・マーティンが三男、カースと申します。ご挨拶が遅れたこと心よりお詫び申し上げます。」

無理だ、育ちの悪いガキのふりなんかできない。この母親の前では全力で礼儀に気を遣ったところで大差ないだろうが。
気軽に『アルベールちゃん』なんて絶対呼べない……
みんながアレックスちゃんを普通は名前で呼べないと言っていたのがようやく理解できた気がする……

「まあ、ご立派なご挨拶ね。アレクサンドリーネにも見習わせないと。」

「とんでもございません。お嬢様はいつも私達の手本となり導いてくださります。」

「カース?」

「そう、それは重畳ね。それよりその話し方は何とかならないのかしら?」

うっ、だめか……
やはり最上級貴族からすると私など礼儀知らずの山猿か……

「辺境育ちの不調法者にて……ご不快な思いをさせた由、なればこれにて失礼させていただきましょう。」

「そんな! カース!? 母上!」

「ごめんなさいね。言い方が悪かったわ。普段通りに話して欲しいだけよ。貴方のことは何度も聞いているって言ったわね? もう耳にアザができそうなのよ? ふふっ……」

普段通りだと? これはファンタジーあるあるだ!
王様とかにタメ口で話して、周りが激昂する中で王様だけがその威勢を褒めるアレだ!
この場合はどっちが正解なんだ!?
くそ、分からん!

もうどうでもいいや。

「それは失礼しました。おば様の威光に飲み込まれてしまいまして。騎士の小倅には荷が勝ち過ぎるってものです。」

「まだ固いわね。まあ初対面だし良しとしましょう。で、どうするの? うちに婿に来る? それとも嫁に貰っていく?」

「ははは母上!? そそその話は!?」

いきなり何言ってんだ? 付き合う気すらないってのに。たぶん。

「話がよく分かりません。私には既に心に決めた女性が……いる訳ではありませんから一考の余地ぐらいあるかも知れませんが。」

「そんな! カース、心に決めた女性……」

「本当にアレクサンドリーネのことをよく分かっているのね。女の子をからかうなんて悪い子。この子ったら話を聞かないことがよくあるのよ。」

「いえ、おば様が意地悪をなされたものでつい。」

「姉上はお前なんかに渡さないからな!」

おっ、弟君か。かわいいな。キアラより年上だな。お姉ちゃんが大好きなんだろうな。

「初めまして。お姉ちゃんのただの友達、カースだよ。名前を聞いていいかな?」

「ふん! アルベリックだ! 魔法だって使えるんだからな!」

「すごい! どんなのを使えるの! すごいね! 何歳?」

「七歳だ! 火球ひのたまだって使えるんだからな!」

「てことは二年生? すごいね! 頑張ってるんだね! えらい!」

たった二つ下だったのか。それにしてはえらくかわいく感じてしまう。
そうか、今まで後輩と交流することがなかったからか。小さい頃は近所の子達と年齢問わず遊んでいたけど、いつのまにか遊ばなくなったもんな。
褒められて満更でもなさそうなところもかわいいぞ。

「さあさあお夕食にしますよ。お祈りをしましょう。」

夕食はさらに豪勢だった。
私が気に入ったのはバジリスクの軟骨をクイーンオークの油脂で揚げたものだ。バジリスク一匹から少ししか取れないらしい。嗚呼ビールが飲みたいなぁ……

夕食の席ではアレックスちゃんの口数が少なかった。照れてるのかな。全く、可愛いやつめ。
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