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第1章

146 やがて来るそれぞれの

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冒険者登録をした翌日、ヴァルの日。
いつも通り学校へ向かう。我ながら薄情だと思うが心身ともに元気だ。

「おはよ。聞いたわよ。冒険者やるんですって?」

「おはようサンドラちゃん。ついつい勢いで登録しちゃったよ。なぜかアレックスちゃんまで。」

「なぜかじゃないでしょう? 責任取ってあげなさいよ。」

「あはは、どうなるんだろうね。まあ僕は一人でやるけどね。」

さあ授業が始まる。

「皆さんおはようございます。今日は先日の『黄鶴楼にて』の続きをしますよ。
まずはみんなで声を出して読んでみましょう。」

『故人西の方、黄鶴楼を辞し
煙花三月古都に下る
弧帆の遠影、碧空につき
惟だ見る大河に流るるを』

「はい、よくできました。」

「ではバルテレモンさん、この歌の作者は誰ですか?」

「はい、リーハク・タイハクです。」

「お見事、正解ですね。
ではクールセルさん、故人って誰のことでしょう?」

「はい、モウコ・ネーンです。」

「バッチリですね! 以前勉強しました『春暁』のモウコ・ネーンですね。
ではテシッタール君、大河ってどこの何ですか?」

「え、ええと大きい河だと思います。」

「確かにそうなんだけどそれだけだと正解とは言いにくいですねー。
ではイヘンナさん、どうですか?」

「ムリーマ山脈から南東に向かって流れるアブハイン川のことだと思います。」

「よく覚えてますね。正解です!
ではミシャロン君、この詩はどんな内容ですか?」

「はい。友達が帰っていくのを見送る詩です。たしか田舎から都に帰るのを。春は旅立ちの季節だし。でもすごく広いアブハイン川に船がポツーンと一隻だけってところが別れの悲しさを表現してます。
最後の行ではもう船は見えないのにぼーっとずっと川と空を見てて、友達の無事が心配なんだと思います。」

「素晴らしいですね! ミシャロン君に拍手ー! お見事でした!」

ウネフォレト先生の話は続く。

「現在でもそうですが、この広いローランド王国で旅は命懸けです。船だろうと馬車だろうとです。この作者リーハクの二度と会えないかも知れない友との別れ、悲しみを読み取ってください。
そして皆さんもあと一年と少しで卒業です。
このように見送ってくれる友達はいますか?
見送ってあげたい友達はいますか?
クタナツで生きる者にとって生死をかけて戦うことは珍しくありません。その中で深い友情が生まれることもあります。
皆さん、命の使い道をよく考えてくださいね。」

珍しくウネフォレト先生が深い話をしてくれた。やがて来るそれぞれの分岐点ってやつだな。


二時間目、算数。
割り算もほぼ終わり、二桁のかけ算・割り算に入った。


三時間目、魔法
久々の魔力測定だ。今回は千まで測れる。
私達五人組はみんな千だった。
エルネスト君も千、イボンヌちゃんは六百ぐらい。
他の貴族達は五百程度、平民達は三百程度だった。
やはり埋めることのできないぐらい差が開いている。


昼休み。
いつもの分担で弁当をつつき合う。日常って素晴らしい。
ギルドの話題で盛り上がった。
スティード君がやたら食いついてきたな。


四時間目、社会。
結構遅れたけどサンドラちゃんに教えてもらったので追いつけた。
季節にもよるが天測はばっちりだ。
これで夜の魔境で困ることもないだろう。曇ってなければ。


五時間目、体育。
槍で水壁に向かって突いたり薙いだりしている。これはきつい。
当たった瞬間は剣より威力があるが、そこから槍を戻したり振り上げたりするのに意外と手間取る。槍を使う冒険者が少ないのはこの辺りにも理由がありそうだ。


今日も平和な一日だった。
週末は落とした鉄板を回収しに行かないとな。
鉄の量的には痛くないが、磨くのに時間をかけたから失うには惜しいのだ。
見つかればいいが……
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