上 下
150 / 240
第1章

150 カース、金貸しデビュー

しおりを挟む
翌日、パイロの日にも関わらずギルドはちょっとした騒ぎになっていた。

「おはようございます先輩! 何事ですか?」

「おうオメーか。大したことじゃねぇ。コカトリスのつがいがクタナツを襲うんじゃねーかって騒いでるバカがいるだけだ。」

「番いですか? もしかして片割れが?」

「おーそうそう、片割れだ。昨日コカトリスが一匹討伐されたらしくてよ? その片割れだってよ。」

「へー、コカトリスって番いでいるものなんですか?」

「おお、絶対じゃないがよぉ。昨日番いのコカトリスに逃げられたヘタレ共が騒いでやがんのよ。手負いの魔物は厄介だからなぁ。」

「おかしいですね? 僕は一匹しか倒してませんよ? 一匹しか見てないもので。」

「ほお、オメーがやったのか。さすがオディロンの弟だ。どこでやった?」

「クタナツから真北に四十~五十キロル辺りですね。手負いには見えませんでした。
昨日解体を頼んでおいたので今日は軟骨を楽しみにしてるんです。」

「お、おお、渋い趣味してんのな。まあがんば「お前か! 俺らの獲物を横取りしたのは!」

突然の乱入者だ。乱入者だから突然なのは当たり前か?
若いな。私の方が余程若いけど。オディ兄達より年上に見える。

「意味が分かりません。あの時見渡す限り近くに誰もいませんでしたが?」

「うるさい! あのコカトリスは俺らが瀕死に追い込んだ! あと少しで倒せるところをおまえが横取りしたんだ!」

「やはり意味が分かりません。僕が倒したコカトリスはたぶん無傷でしたよ? 後で解体した方に確認されたらどうですか?」

「そんなもん証拠にならん! お前が治したかも知れんだろうが!」

魔物をわざわざ治す? 治してから討伐するってのか?

「先輩助けてください。こんな言い掛かりにはどうやって対処したらいいですか?」

「全く……オメーって奴は。
おうテメーら、あの番いは俺が一週間前から目ぇ付けてたんだぜ? それに手ぇ出してどうしようってんだ? お?」

「な、何を! 獲物は早い物勝ちだ! 倒した者が取るに決まってるだろ!」

「テメーもそう思うか。俺もそう思うぜ。分かったらさっさと行って片割れを狩ってこいや。」

さすが先輩! クタナツ男! 頭も切れる!
頼りになるぜ!

「ねぇスコット、もう行こうよぉ。」
「お前は黙ってろ! おいガキ! お前がやったなら証拠を見せろ! 立ち会え!」

「だから意味が分かる言葉を喋ってくださいよ。僕が昨日納品したんですからそれで終わりですよ?」

「いや、お前は弱って瀕死のコカトリスをとどめだけ刺してまんまと持って帰ったんだ! そうじゃないなら俺とコカトリスを賭けて立ち会え!」

こいつイカれてるのか。
先輩のお言葉も通じてないのか?
先輩相手ではどうにもならないから私のみを標的にするのか……

「立ち会えと言われましても決闘は困るんですが。こんな無駄なことをしてないでさっさと片割れを探した方が建設的ってもんですよ。」

「ねぇスコットったら! みんなも止めてよ。」
「おお、放っておいて行こうぜ。まだ近くにいるかも知れないんだから。」
「そうだよ。子供相手に決闘ってカッコ悪いよ。」
「どうせ負けるんだからやめとけよー」

最後のセリフは誰だ?

「うるさい! 決闘が怖いのか! この臆病者め!」

「怖いに決まってるじゃないですか。それにゴネても分け前はあげませんよ。」

この手の奴が因縁を付けてくる目的は九割方金だからな。
今後誰かがコカトリスを討伐してきてもお零れが狙えるように派手に騒いでただけだろ。
そんなの凄腕が揃ってるクタナツで通用するはずがないのに。まさか他所者か?

「お前俺が金欲しさにやってるってのか! バカにしやがって!」

周りからは……
「子供に負けるなよー」
「図星だなー」
「痛いとこ突かれたなー」
「みんな知ってたけどなー」
なんてヤジが飛んでいる。

そろそろ偉い人が「やかましい!」とか言って止めに入るのがパターンだが、一向に来ない。

クタナツでもギルドでもケンカは禁止ではないからか。ケンカなら……

小物は口先で言いくるめろと言われてはいるが何て難しいんだ。言葉がまるで通じてない。これもファンタジーあるあるなのか。

まあいいか。昨日の母上との話で命の軽さと儚さを学んだことだし。

「非常に気が進みませんが決闘を受けてもいいですよ? 何を賭けてくれるんですか?」

「あのコカトリスに決まってんだろ!」

「あれは僕のものです。だから僕が負けたら差し上げましょう。それに見合う物を掛けられないなら決闘はできませんね。」

段々敬語キャラも面倒になってきた。
いつかやめよう。

「じゃあ有り金賭けてやるよ!」

「はあ? どうせ少ししか入ってないんでしょ? あのコカトリスは金貨十五枚ですよ? それだけ用意できないんならこの話は終わりですね。いや、お金がないなら借金でいいですよ。」

「ふん! いいだろう! どうせ俺が勝つんだからな!」

「では確認です。貴方が勝ったらコカトリスは差し上げます。
僕が勝ったら貴方達パーティーは僕から金貨十五枚の借金をしたことにします。利息はトイチの複利、約束です。いいですね?」

「いいだろう! うっ、なにっ!?
今の魔力は!? お前契約魔法を使いやがったな!?」

「約束したんだから当たり前でしょう? まさか口約束が通るとでも?
さあ訓練場に行きましょうか。」

「このクソガキがー!」

マジかよ、ギルド内で剣を抜きやがった!
じゃあ金操で……

自分の剣を自分の足の甲に刺させてやった。その隙に木刀で頭を軽く叩く。
この木刀は子供でも本気で叩くと頭なんか簡単に割れてしまうからな。

「さあ返済方法について相談しましょうか。これはパーティーの借金ですので、この返済が終わるまで抜けることも解散することもできません。死なないよう手加減した僕に感謝してくださいね。正式に決闘を宣言してなくてよかったですね。」

金貨十五枚は大金だ。
こんな奴らに払えるとは思えんが。まあ実験台になってもらうとしよう。

「払えるわけないでしょ! スコットが勝手にやったことよ! 私は知らないわ!」
「俺もだ! 絶対払わないからな!」
「訴えてやる!」

ちなみにスコットは気絶している。

「踏み倒せるかどうかやってみたらどうですか? 契約魔法を甘く見ない方がいいですよ。
ちなみに私を殺せば契約魔法は解けますよ。
また決闘してみますか?」

「いや、やらないわ。お願い! 何でもするから私だけは許して!」
「てめ、スージー!」
「自分だけ助かるつもりか!」

「何でもしてくれるんですか? それなら話が早いですね。約束です。何でもしてくださいね。」

「ええ、いいわよ。だから私だけは助けて! うっ、また契約魔法を?」

「ええ、何でもしてくれるんですよね? 金貨十五枚払ってください。そしたら許してあげます。」

二重にかけてもあんまり意味はないだろうが実験だしな。
だから今回も罰則をつけてない。

「では十日後を楽しみにしてますよ。金貨十六枚と銀貨五枚ですね。」

「何言ってるの! 何で増えてるのよ!」

「約束しましたよ? 利息はトイチだって。冒険者なら知ってますよね? 知らないでは済まないってことを。頑張って返済しないとドンドン増えますよ?」

「待って! お願い! 体で払うわ! だから私だけは許してよ!」

「だからきちんと返済してくれたら許しますって。僕は子供ですから体で払うって言われても困りますよ。
そうだ。一つ提案があります。全員で金貨十五枚払うのが嫌ならお一人ずつ別々にしましょうか? それなら無能な仲間に足を引っ張られることもないでしょう。一人金貨四枚で済みますね。」

「お願い! 私それがいい!」
「俺もだ!」
「俺も頼む!」

「分かりました。気絶してるスコットさんは放っておきまして、皆さん一人一人が僕から金貨四枚を借りた。利息はトイチの複利。約束です。いいですね?」

「いいわ!」
「分かった!」
「う、わかった……」

女がスコットに向かって走り出した。何をするつもりか……
スコットの財布を漁っている。
白昼堂々とスリ? 強盗?
「スージーお前! それはパーティーの金だぞ!」
「パーティーは解散よ! この金は私の物よ! あんた受け取って!」

「はい。確かに。金貨三枚と銀貨が五枚。これで貴方の借金は残り銀貨九枚ですね。」

私の借金は借りた段階で利子が付くのだ。

「ちょっと待て! それは俺らの金だぞ!」

「そんなこと私は知りません。彼女から受け取ったから彼女の借金が減っただけです。それよりいいんですか? 」

そう言って私は指差す。

「あ? 何がだよ!」

その女、スージーはスコットの身包みを剥いで外に出た。売っ払って返済に充てるのだろう。女は魔物だね。

残された男たち二人はしばし呆然としていたが、すぐに女を追いかけ外に出た。

罰則がないから死ぬまで借金を膨らませ続けるって逃げ道もあるんだがね。今後の課題だな。

ちなみにギルド経由で返済もできる。
むしろ今後はそうさせるつもりだ。
銀行のように受付を通じてギルドの私の口座に返済金を入金させる。すると税金として自動的に一割引かれる。
報酬以外の入金があるとそうなってしまうのだ。便利だがひどい。
そのため十日以内に返済されると儲けがないのがこれまた今後の課題だな。
だが、こうやってギルドを通しておくと変に目を付けられることもないだろう。
脱税的な意味でも、ギルドの面子的な意味でも。ショバ荒らしをする気はないのだ。

さあ軟骨とコカトリス代を受け取って帰ろう。
しおりを挟む

処理中です...