上 下
172 / 240
第1章

172 最後の四天王の最期

しおりを挟む
そして翌朝。昨日から春休みなので私はスティード君の家に走って行った。
朝早くから申し訳ないが、メイドさんに取り次いでもらう。

「おはよ! すごい知らせがあるよ! 無尽流のえらい先生がクタナツに来るんだって!だいたい半年後だって!」

「おはよう。早いね。それは武者修行とか?」

おお、やはり私より発想がストイックだ……

「いや、それが半分引退してクタナツで小さい道場を開くんだって! それで僕は決めたんだ! 弟子入りして剣鬼様みたいになるんだよ!」

「さすがカース君。判断が早いんだね。半年後なら僕も習ってみたいな。」

「そこで相談なんだ。入門希望者がたくさんいると思うから、試験を突破するために稽古をつけて欲しいんだよね!」

「なるほど。僕でよければ力になるよ。じゃあ早速やろうか。せっかくだから僕と同じメニューでいいよね。基礎が大事だし。」

「ありがとう! がんばるね!」

そうして私達は午前中いい汗を流した。
お昼はそのままメイヨール家でご馳走になった。肉が多くて大満足だ。

午後からは形稽古が中心となった。
スティード君はいつもプールでやっているらしい。ならば私の出番だ。二メイル四方だったプールを五メイル四方に拡大。日々の研鑽により、これぐらい十分とかからず行える。

「やっぱりカース君の魔法は凄いね。これで僕一人の時も広々とできるよ。ありがとう。」

こうして午後からは二人してプールで形稽古を行った。これはきつい。スティード君はいつもこんなことをしているのか。



もう夕方か。日が暮れる前に帰らなければ。

「今日はありがとう! 次はあさってお願いしてもいい?」

「いいよ。せっかくだからみっちりやろう。泊まりの準備をしておいでよ。」

「おおっ、ドキドキだね。がんばるよ。じゃあまたね。」

スティード君も燃えてるな。春休みだし時間はたくさんある。
帰ったら魔力放出もしないとな。練魔循環だって欠かしてないぜ。



「おかえり。どこ行ってたの? アレックスちゃんが来たわよ。」

「しまった。勢いで飛び出したからスティード君ちに行くって言うの忘れてた。母上ごめんね。アレクのとこには明日行くよ。」

「そうだったのね。すごい勢いで飛び出すものだからどこに行ったのかと思ったわ。お昼には帰ってくると思ったら……」

「いやースティード君と稽古してたら白熱しちゃってさ。あさっては泊まりで厳しく稽古をすることになったよ。」

「本当カースは思い立ったら即行動するわね……悪いことじゃないからいいけど。あさってはスティードちゃんにこれを持って行ってあげなさい。」

そう言って母上は私にペイチの実を二つ渡した。

「疲れたら二人で食べるのよ。」

「おおー! ありがとう! これ大好き!」

さすが母上! 何でも持ってるな!
さて、今夜は家の風呂に入ってもう寝よう。
と思っていたら「カー兄、本読んでー!」

おっとキアラだ。最近読んであげてなかったからな。
「よーし、じゃあ風呂で読んであげるよ。おいで。」

「わーい、読んで読んでー!」

どこまで読んでたっけな?



『残る四天王は炎のハイブリッジのみ。彼は焦っています。
「うぬぅ勇者め、やりおるな。しかし私は負けん! 私の炎は地獄の炎、勇者など焼き尽くしてくれるわ。」
そこに息子のコンケイツがやって来ました。
「父上、いよいよ勇者との決戦ですね。そこで良い物を手に入れて参りました。何でも滋養強壮に良いとか。勇者との決戦前にお食べください。」
炎のハイブリッジも言いました。
「おおコンケイツ。ありがとうな。きっと勝ってみせようぞ。」
そしてついに勇者一行がやってきました。
決戦はブドゥーカン大森林です。
炎のハイブリッジは息子にもらった食べ物を嚙る。妙な味だ、むしろ苦い。
良薬口に苦しと言うのでハイブリッジは気にもしませんでした。
そしてついに勇者と対峙した時、彼を異変が襲います。寒気がする上に足が震えます。
「なっなんという魔力だ! さすが勇者! しかし私は負けん! 私には勝利を信じる我が子がいるのだ!」
炎のハイブリッジは勇者の魔力に気圧されています。それどころかどんどん調子がおかしくなりました。呼吸は荒く汗が止まりません。
「くっ、これが勇者の魔力か。見事だ。戦わずして私をここまで追い詰めるとは。しかし私に勝ったからと言って調子に乗るなよ! 魔王様は偉大なお方! 貴様ごときに勝てるはずもない!」
ついに炎のハイブリッジは立つことすらできなくなりました。
「ぐふっ、ま、魔王様、万歳!」
ついに倒れてしまいました。
そしてあっさり勇者に首を刎ねられてしまいました。
実はコンケイツが手に入れた滋養強壮に良い食べ物は勇者の仲間が扮する商人により渡された物。中身は最悪の毒物『死汚危神だいおきしん』だったのです。神すら殺す猛毒なのです。四天王は勇者の知力に負けたのです。しかし魔王は強い。どうする勇者!
勇者の冒険はこれからだ!』

風呂で読んでるだけあってキアラが全然寝ない。せっかくなので髪と体を洗ってあげよう。

「よーし、きれいになった。さあ先に上がりな。マリーに拭いてもらうといい。」

「カー兄ありがとー!」

ふう。それにしても四天王にすら効く毒があるんだよな。油断できないじゃないか。
神にすら効く毒って怖すぎだろ。

ふーう、ようやく眠れる。
今夜はいい夢が見れそうだ。
しおりを挟む

処理中です...