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第1章

181 営業許可書を持つ男

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冒険者グループは誰も寝ていなかった。
みんな元気に解体をしている。あれだけの蟻だもんな。いい稼ぎになりそうだ。

「兄上、オディ兄! 戻ったよ。」

「カース、もう戻ってきたのか。父上はどうだった?」

「問題なかったよ。あっちに蟻は行かなかったみたい。兄上も解体してるんだね。」

「ああ、せっかくだから小遣いぐらい稼いでおこうと思ってな。お代官様の計らいで蟻の素材は全て冒険者の物になったんだよ。」

それはいいことだ。
ならば私は後方の焦げた蟻を全て貰っていいはずだ。まあそんな気はないけど。

「僕は取り分要らないから寝るね。朝になったら起こしてもらえる? それから一緒に帰ろうよ。オディ兄はやっぱりしばらくここにいるの?」

「うん、もう三日ぐらいここにいるよ。」

「そっか、頑張ってね! ベレンガリアさんにもよろしく! おやすみ。」

こうして私は石畳の端っこに鉄ボードを置いてその上に横になる。以前夜にクタナツ上空を飛ぶ時に愛用していたローブのおかげで寒くない。そして上から湯船を逆さに置いて蓋をする。
これで魔物が攻めてきてもバッチリだ。
下に隙間があるから虫が入って来そうだが、塞ぐわけにもいかない。気にせず寝よう。
明日はスティード君と約束があるからな。



そして朝、湯船を激しく叩かれる音で目が覚めた。鉄だからかなりうるさい。
あくびを我慢しつつ湯船を収納した。

「おはよう。よく眠れたかい?」

「おはよ兄上。意外と静かだったもんでよく眠れたよ。じゃあ帰ろうか。もう出発していい?」

「少し待ってくれ。カースが起きたらお代官様の所に来て欲しいそうなんだ。どうする?」

「えー、面倒だね。でも行かないわけにもいかないよね。兄上も一緒だよね?」

「ああ、一緒に行こう。」

「それなら行くよ。」

私達は騎士団詰所へとやって来た。代官はこんな朝早くから起きているのか?

「ウリエン・ド・マーティン、及びカース・ド・マーティン。お召しにより罷り越しました。」

「入り給え。」

「「失礼いたします。」」

「早朝からよく来てくれた。私は代官のレオポルドン・ド・アジャーニ。短剣直入に言おう。昨夜の火球はカース君、君だな?」

なぜバレた?

「そうです。よくお分かりになりましたね。」

「理由はいくつかあるが、そんなことはどうでもいい。呼んだ理由は褒賞だ。あれのお陰で勝てたと言ってもいい。 金貨でも進路でも思い付くことを言って欲しい。」

うーん、思い付かない……
ならば…….

「ではお言葉に甘えてまして……
このことをお代官様だけの秘密にして頂きたいです。既にどなたかにお伝えされましたか?」

「いいや、これは私の判断だ。他の者が信じるとも思えないので言っていない。君の話を聞いてからだとも思ったしな。」

「それならよかったです。ではもう一つ、営業許可書をください。僕は金貸しです。クタナツや領都で金貸しをするのに許可は必要ありません。それでもお代官様が直々に許可を出したという事実が欲しいです。」

「そんなことでいいのか? 褒美になってないのではないか?」

「いえいえ、お代官様の一言、一筆は千の褒美にも匹敵するかと。それを持ちまして改めて『金貸しカース』と名乗ろうかと思います。」

「そうか。それならばよい。後日届くであろう。本日は大儀であった。」



ふう、緊張した。こんな時ウリエン兄上はビシッとしててカッコいいんだよな。
まあいいや、帰ろう。

「何でバレたんだろうね?」

私は鉄ボードの上で話しかける。

「たぶん他にいなかったからかもな? 位置的に騎士でも冒険者でもない。後から来たのは僕とカースだけだしね。」

すごいな。
よくそこまで自分の判断を信じられるな。世の中には、自分ほど信じられんものはないって言葉もあるのに。これが代官にまでなる人間と凡人との違いなのだろう。それともすでに何人かに同じ質問をしたのかも知れないな。

徹底して隠そうとまでは思わないが、なるべく知られたくはないものだ。



城壁北東部に到着、さて城門まで歩いて帰ろう。

「ところで兄上、今日はヒマ?」

「昼まではヒマかな。どうした?」

「今日からスティード君と一緒に稽古をするんだよね。よかったら兄上にも教えて欲しいと思ってさ。スティード君も喜びそうだし。」

「いいよ。たまには兄らしいこともしないとな。」

ありがたい。兄らしいことは結構して貰っていると思うが。
一旦帰って朝食、そしてメイヨール家へと向かう。
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