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第1章

186 事件の真相

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この度の蟻事件、原因はやはり冒険者であった。どうせ新人の仕業かと誰もが考えていたところ、他所のパーティー二組がやらかしていたのだ。

バランタウン側の原因となったのは領都の結成五年になるパーティー『パンクラスタ』。彼らはクタナツで一旗あげることを目標に日々励んでいた。
そんな時、開拓の話を聞き勇んでやってきたのだが、グリーディアントの獲物に手を出してしまった理由は……無知ゆえだった。
彼等は蟻の習性を知らなかったのだ。
しかしクタナツに生きる者、そして冒険者としても知らなかったでは済まされない。全員奴隷役三年の刑となった。ただしこのまま開拓業務に従事し、働き次第ではそれより早く解放されることも有り得る処置となった。



クタナツ側の元凶となったもう一組は厄介だった。
王都の五等星パーティーを名乗っていたものの実態は違法奴隷の集まり。リーダーのみ王都の七等星冒険者『劇斧のスメルニオフ』。上層部も憲兵隊もこの件には大きな裏が有ると見ている。このような小物に奴隷を五人も扱えるはずがないことも一因である。
しかも奴らは蟻の獲物をクタナツの治療院に放置していた。明らかに意図的な行動だ。



そして現在、魔法尋問の真っ最中である……

「お前の名前は?」

「劇斧のスメルニオフ」

「自称ではない、姓名を正確に言え。」

「スメルニオフ・ストロミング」

「出身地は?」

「ドナハマナ伯爵領」

「そこのどこだ?」

「テノヌ村」

「お前の年齢は?」

「三十九」

「いつクタナツに来た?」

一月ひとつきぐらい前」

「何しに来た?」

「護衛ついでに、開拓で沸いてるからいい仕事があると思った」

「クタナツに着いてから今日までのことを詳しく話せ。」

「南の城門で割り込みをする生意気なガキがいた。貴族みたいでいい気になっていやがった。ギルドでまた会ったから後ろから殴ってやった。なぜか当たらなかった。物言いがイラつくガキだった。軽く教えてやろうと思ったら俺は治療院にいた。両方の肘と膝が砕けてると言われた。治った後で治療代は金貨六枚と言われたから逃げた。なぜか金も無かった。城門を通れないから街の中を適当に逃げた。そしたら紫の鎧を纏った男がいた。助けてやるから自分を手伝えと言われた。他にも奴隷がいた。俺がリーダーだと言われた。蟻のような魔物が持ってた何かを奪えと言われた。蟻は弱かったから簡単に奪えた。それを治療院に持っていけば金をやると言われた。なのにここ最近体がおかしい。肘が曲がらなくなった。指も曲がらない。足首も曲がらない。どんどん曲がらなくなる」

「男の名前は?」

「ムラサキ・イチロー」

「そいつがそう名乗ったのか?」

「そうだ」

「なぜ治療院にいた?」

「分からん、俺があんなガキに負けるわけない」

「その子供の名前は?」

「分からん、生意気なウエストコートを着てやがった」

「奴隷の名前は?」

「分からん」

「なぜ蟻から獲物を奪った?」

「頼まれたからだ」

「なぜ頼みをきいた?」

「金をくれると言った」

「そいつはどこにいる?」

「分からん、金を払わず逃げやがった」

「お前はなぜ逃げなかった?」

「逃げようとしたが、クタナツの城門が突破できない」


憲兵隊の面々はうんざりしていた。
尋問魔法により本音しか喋れないのだが、どいつもこいつも分からんと言うばかり。
完全に捨て駒だった。それだけに大きな裏があることが伺える。

ギルドの子供とは?
ムラサキ・イチローとは一体何者なのか?
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