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僕らは戦う戦士
しおりを挟む「僕たちは戦う戦士です。」
この世に悍ましい怪物が現れたのは今からおよそ一年前。隣の国が無作為に製造し送り込んできた。増え続ける怪物と共に私たちは生き続けなければならない。形も見えないその怪物が体内に浸透した時、その体は生き絶えるらしい。恐怖に耐えられぬ者も、怪物の悍ましさを薄っぺらに思う人ほど最期は近い。生き残るのは武器を手に取ったものだけである。
戦士No.1
僕はこの怪物と戦う戦士である。奴らは乾燥と寒さ、それに密度が大好きらしい。昨年の1月、寒さと共に流れ込んできた。最初は戦い方も向き合い方もわからなく、弱い高齢者ばかり亡くなった。我が身を守る戦利品は次から次へと在庫がなくなり、緊迫した状況が続いた。
そんなとある日のこと、国を代表する者が鎖国ならぬ自宅鎖国状態を強制した。人間が密集する場所を狙い攻撃してくることが判明したからだ。この命令が下り誰しもが家に籠る生活を強いられた。学生の本業である学業はオンライン化となり、社会人はリモートワークを推奨された。
僕はまだ初期のころ、その怪物を目にしたことも、周りの知人がこの怪物によって亡くなったという実例があるわけでもなく、本当に実在する怪物なのか理解ができなかった。ただ国が支持する命令を素直に受け止めていた。でも、そんなある日のこと、僕が大好きだった田舎のじいちゃんが亡くなった。怪物にやられた。死を見届けることも、葬式を挙げることも叶わぬ最期になってしまった。心がえぐられる思いとはこのことだ。21年間生きてこんなに苦しい思いをするとは思わなかった。まだ見ぬ怪物が実在し、どれだけ恐ろしい者なのか、そしてどれだけ憎い者なのか細胞レベルで実感した。
僕は奴らと真に向き合う覚悟ができた。国が推奨する戦うためのガイドを読み返し、武器を手に取った。
そうして、月日は流れ、気温が暖かくなる夏、奴らは静まり帰った。僕は第一次怪物戦争を無事に勝ち抜いた。しかし油断はしてはいけない。気温が高く静まり返ったようだが、奴らは死んだ訳ではない。いつどこで襲いかかってくるかわからない。
僕らの武器はもうどこにでも手に入るような社会になった。愚かなる戦士に告げたい。お願いだから油断するな。いつどこで襲いかかるかわからない奴らを薄く考えてはいけない。必要最低限の距離を保って奴らと向き合おう。
戦士No.2
私の夢はあの怪物が根こそぎ奪った。この春、念願のラジオ局でサブパーソナリティを任されることになっていた。放送は私にとっての生き甲斐で、声だけで伝えるラジオは魅力の
塊だった。オーディンを勝ち抜いてようやく活動ができるはずだった。
だが、奴らは全部を壊した。
奴らは人間を殺すのに、私たち人間は奴らを殺せない。テレビやラジオからはエンドレスで奴らの情報が流れる。もう聞きたくない程に、付き纏う音声と文字媒体の情報の山々。
密を好む奴らに密集を作らぬよう国から自宅待機の命令が下ってから、窮屈な生活が始まった。我が家は個性の塊が集まる家族がいる。同じ屋根の下にいると必ずストレスが溜まる。もともと引きこもりだった弟を除いて皆、限度を超えるギリギリのラインにきていた。普段から家にいることは少なく、今春からはラジオ局での活動が始まる予定だったのでずっと家にいる生活は監獄の生活そのものだった。一見この怪物の情報を発信するのには人材の需要がありそうなラジオ局だったが、蜜を作らぬようメインパーソナリティ数人のみが報道することと決定し、私の出番は完全になくなった。
死んで欲しいと思った。
人間は奴らのせいで夢や生命を殺されるのに奴らは得るものも失うものもない。
奴らの目的はなんだ?
もちろん奴らに意思はない。ただ増えて途絶えることを知らない怪物なのだから。
でもやっぱり、
誰も責任を問うものはいないが、
隣の国が憎い。
根本に怪物が死ねばいいのに。
私は決めた。奴らに生命だけは壊させないと。そして今日も武器を持って戦うのだ。
戦士No.3
僕は奴らに救われた身。
だけれども僕は戦う戦士の一人である。彼らは人間であれば容赦なく攻撃する。最近は人間だけじゃない、全ての動物にも著しく襲いかかる。そういえばカリフォルニア州のニシローランドゴリラも奴ら怪物に攻撃されたらしい。
社会人3年目の僕に取って今年は大切な時期だった。就職して3年、使えなければ打ち切りになるブラックな仕事。上司からのパワハラやモラハラは日常茶飯事。奴ら怪物が我が国に侵入してくる数カ月前の生活は、睡眠時間、二時間が平均だった。体力の限界を迎え、ストレス性胃腸炎になったくらいだ。
そんな生活から奴らは救った。
リモートワークを強制されるようになり、規則正しい生活をようやく手に入れることが出来たのだ。上司からのパワハラ発言は一向に厳しいが画面上ということもあり、精神および肉体的に楽になった。世間にこの発言をしたら間違いなく叩かれるだろう。誹謗中傷が増え続けるこの世の中だから「怪物に救われた」などとコメントしたら僕は怪物に殺される前に消されるだろう。
それはさておき、僕は奴らに救われたのだ。
だが奴らに気を許してはいけないことは知っている。
救われたのは環境だけである。
身体に侵入されれば最期。
もう何人も人間が殺されている。
僕も人並みに、いや、それ以上に警戒はしている。
今年は社会人4年目。僕は運命の3年間を生き抜いた。同期の8割りが消えていく中で耐えた。こんなところで何の事情も知らない怪物に殺されたくはない。
だから今日も武器を持って戦うのだ。
明日を生きるために。
戦士No.4
私と彼の関係を壊した奴らを許さない。
私には付き合って半年の恋人がいた。まだお互いに少し照れ臭い仲でこれからが楽しい時期だった。
そんなある日のことだった。
テレビから聞こえた宣言。聞きたくなかった国からの御達し。私と彼の環境を引っくり返した。
無駄に出歩いてはいけない規則が出来て私たちはもはや織姫様と彦星様。
毎週のように出かけていた日々が幻の世界へと移行する。時間だけが流れる日々。電車に乗れば一時間で会える距離なのに、それが叶わない。
そんな自粛生活を送っていたある日のこと。
「付き合っている意味がわからない、別れよ」
と、たった一本の電話で関係が終わった。
彼は社会人一年目を迎えて慣れないリモートワークとの戦いもあり、精神的に限界がきてしまったらしい。
私はただ疲れている彼を文字媒体でのやり取りでしか支えることが出来なかった。きっとこれがさらに彼を苦しめていたのかもしれない。曖昧なエールが、届かない文字の裏が、彼と私を引き離したのだろう。
ただ並ぶ文字のやり取りが作業化にされてしまった。
私たちは怪物が仕組んだ環境トリックについていけなかった。
向い合い方が分からなかった。
奴らを憎む気持ちは世間一般並みに持っていて、関係がうまくいかなかったのも奴らのせいにしてしまいたい。間違っているかもしれないけれども奴らは人間関係すら破壊する悍ましい怪物。許したくはない。
聞くところによると、彼らは人間を 半殺しにすることがあるという。
味覚や視力を餌食にし、毟り取る。
もうそろそろ奴らが我が国に侵入して一年が経つ。
私は決して奴らを許したりしない。
そして自分の楽しみをこれ以上奪って欲しくはない。
私は自分自身を守るために戦うのだ。
*********
我々は、今日も怪物と戦っている。
勝利の目処はない。
次から次へと病院に運ばれる負傷者。
今日は一体、何人の人間や動物が奴らにやられたんだろう。
憎い。懲らしめたい。死んで欲しい。殺したい…
最初は誰しもが思ったことだろう。
奴らのせいで、生活は一変した。
それでも、新しい発見も報告されている。
戦士No.2はラジオ局を諦めなければならなかったが、新しくソーシャルメディアを活用して自身のチャンネルを持った。戦士No.4は彼氏と別れてしまったが、リモートでの恋活を利用して上手な生き方を模索している。
僕たち私たちは、奴らの犠牲になったが、新しい道を歩む力を持っている。描いていた未来とは違うけれども、僕らは生きている。僕らは強くなるために奴らと戦うんだ。
今日も見えない怪物と向き合っている。
ゴールが見えないこの戦いで、希望と武器を持ったものが生き抜く。いつかこの戦いが終わるのを夢見て立ち向かう。
「僕らは戦う戦士です。」
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