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ちょうどイルカショーの時刻が迫っていたため、二人は観覧席に急いで向かう。そこには既に大勢の人が集まっていて、後ろの方の席しか空いていなかった。
「ここだと全体が見渡せて良いねっ」
隣に並んで座ると、秀は無言で頷いた。程なくして始まったショーは、アップテンポの曲に合わせていきなり大迫力のジャンプから幕を開ける。
すると曲が変わった。有名なバイオリニストが作曲したその曲は、テレビ番組のオープニング曲になっていて、情熱的なダンスを踊るイルカたちを盛り上げる。冬哉はその演出に、思わず声を上げた。
「情熱的ー! 僕もフルート吹きたいっ」
ここにフルートがあったなら、すぐにでも楽器を取り出して吹いているところだ。
しかしすぐにハッとして隣の秀を見る。彼はじっと冬哉を見ていた。気恥しさに口を噤むと、秀はまた視線をイルカショーに向ける。
「ご、ごめん、うるさかったね……」
「……いや」
秀はそれだけを言うと黙ってしまう。何だか気まずくなってしまって、大人しくイルカショーを見ていると、秀はポツリと呟いた。
「……ここの生き物はみんなイキイキしてる。管理が良いんだろうな」
冬哉はその言葉に同意を示した。
「そっか、だから見ていて楽しいんだねっ」
すると秀はゆっくりまばたきをする。前髪でほぼ隠れているけれど、秀の目は彼の中で一番お喋りなんじゃないかと思って、彼をじっと見た。
「……どうした?」
「ううん、何でもないっ」
というか、トレーナーさんも楽しそうで、こっちまで楽しくなるよね、と微笑むと、秀はまたまばたきをしてイルカたちに視線を向ける。
「……お互い信頼し合ってるって、なんか憧れるなぁ」
冬哉は何となく呟いた言葉が、すごく感傷的になってしまって慌てた。イルカとトレーナーの信頼関係まで羨むとか、どれだけなの、と苦笑する。
しかし秀は無言でイルカショーを見ていた。また意識がどこかへ行ってしまっているらしい、と冬哉は独り言のつもりで話を続ける。
「僕、付き合ってもいつも振られちゃうんだよね……。僕は好きだと思ってても、相手からは信頼されてなくて……」
気持ちを疑うような事も結構言われた。その度に大好きだと伝えていたのに、結局その言葉も信用されてなかった事が悲しくて、肝心な所で臆病になってしまっている。
「だから想いが通じ合うって事に、僕は憧れちゃうんだ」
冬哉はある事を思い付き、秀を呼んだ。
「秀くん」
すると彼はこちらを向いた。相変わらず無表情で何を考えているのか分からないので、少し無茶なお願いをしてみる。
「僕の告白の練習台になってよ」
我ながら唐突にも程があると思うけれど、そんな提案をしてみた。冬哉はあわよくばと考えていたし、それとなく秀の反応を見るのに良い手だと思ったのだ。もしネガティブな反応をするなら、無かった事にすればいい、と。
冬哉は一つ深呼吸をすると、秀を上目遣いで見上げる。一気に顔が熱くなってきたけれど、それを表に出さないように微笑んだ。そして自分の中で最高に甘い声を出す。
「秀くん、好きです。付き合ってください」
賑やかな音楽と、観客の歓声の中で、二人の間だけにはしんとした空気が流れた。冬哉は彼の反応を待つけれど、秀は表情を変えないまま、冬哉をじっと見ている。なんの反応も無いのが悔しくて、冬哉は誤魔化すために彼の腕を叩いた。
「ちょっと! 反応が無いから照れちゃったじゃん! どうだった? ちょっとはドキドキした?」
冬哉はトレーナーを乗せて泳ぐイルカたちに目を向けた。秀は無言で冬哉をじっと見ている。決死の覚悟で言ったセリフは、自分で台無しにしてしまった。けれどこれが冬哉の限界で、今の忘れて! と両手を振る。
「っていうか、男から告白されても嬉しくないよね。あはは、何でこんな事思い付いたんだろ!」
秀からの反応が無いのが悲しくなってきて、冬哉は一人で話し続けた。そうでもしないと気まずくて……泣いてしまいそうで必死に言葉を紡ぐ。
「秀くんも、何か言ってくれれば笑い話になるのに。もうっ、僕一人でバカみたいじゃんっ」
「冬哉」
乾いた笑い声を上げていた冬哉を、秀は呼び止めた。見ると、やはり感情の読めない顔で彼は冬哉を見ている。なぁに? と笑顔で振り返ると、秀は視線を落とした。
「……そういう事は、ふざけてやらない方が良いと思う」
「……っ」
もっともなことを言われて、冬哉は羞恥心で顔が熱くなった。それならそうと、ちゃんと嫌な顔をするなり、ハッキリ言葉にするなりしてよ、と冬哉は勝手ながら思って拳を握った。
(あ……ダメだ……)
冬哉の視界が急に滲んだ。慌てて秀に背中を向けると、溢れた涙がボロボロと床に落ちていく。
分かっている。自分で冗談だと言ったのだ、そう言われるのは当然だ。だから泣くのも筋違いなはずなのに、何かが壊れてしまったかのように、涙は止まらなくなってしまった。
「ごめん帰る。じゃあね」
これ以上秀といたら、精神が持ちそうにない。冬哉は顔を見せないように立ち上がると、逃げるように走り去った。
秀の反応は、やはり無かった。
「ここだと全体が見渡せて良いねっ」
隣に並んで座ると、秀は無言で頷いた。程なくして始まったショーは、アップテンポの曲に合わせていきなり大迫力のジャンプから幕を開ける。
すると曲が変わった。有名なバイオリニストが作曲したその曲は、テレビ番組のオープニング曲になっていて、情熱的なダンスを踊るイルカたちを盛り上げる。冬哉はその演出に、思わず声を上げた。
「情熱的ー! 僕もフルート吹きたいっ」
ここにフルートがあったなら、すぐにでも楽器を取り出して吹いているところだ。
しかしすぐにハッとして隣の秀を見る。彼はじっと冬哉を見ていた。気恥しさに口を噤むと、秀はまた視線をイルカショーに向ける。
「ご、ごめん、うるさかったね……」
「……いや」
秀はそれだけを言うと黙ってしまう。何だか気まずくなってしまって、大人しくイルカショーを見ていると、秀はポツリと呟いた。
「……ここの生き物はみんなイキイキしてる。管理が良いんだろうな」
冬哉はその言葉に同意を示した。
「そっか、だから見ていて楽しいんだねっ」
すると秀はゆっくりまばたきをする。前髪でほぼ隠れているけれど、秀の目は彼の中で一番お喋りなんじゃないかと思って、彼をじっと見た。
「……どうした?」
「ううん、何でもないっ」
というか、トレーナーさんも楽しそうで、こっちまで楽しくなるよね、と微笑むと、秀はまたまばたきをしてイルカたちに視線を向ける。
「……お互い信頼し合ってるって、なんか憧れるなぁ」
冬哉は何となく呟いた言葉が、すごく感傷的になってしまって慌てた。イルカとトレーナーの信頼関係まで羨むとか、どれだけなの、と苦笑する。
しかし秀は無言でイルカショーを見ていた。また意識がどこかへ行ってしまっているらしい、と冬哉は独り言のつもりで話を続ける。
「僕、付き合ってもいつも振られちゃうんだよね……。僕は好きだと思ってても、相手からは信頼されてなくて……」
気持ちを疑うような事も結構言われた。その度に大好きだと伝えていたのに、結局その言葉も信用されてなかった事が悲しくて、肝心な所で臆病になってしまっている。
「だから想いが通じ合うって事に、僕は憧れちゃうんだ」
冬哉はある事を思い付き、秀を呼んだ。
「秀くん」
すると彼はこちらを向いた。相変わらず無表情で何を考えているのか分からないので、少し無茶なお願いをしてみる。
「僕の告白の練習台になってよ」
我ながら唐突にも程があると思うけれど、そんな提案をしてみた。冬哉はあわよくばと考えていたし、それとなく秀の反応を見るのに良い手だと思ったのだ。もしネガティブな反応をするなら、無かった事にすればいい、と。
冬哉は一つ深呼吸をすると、秀を上目遣いで見上げる。一気に顔が熱くなってきたけれど、それを表に出さないように微笑んだ。そして自分の中で最高に甘い声を出す。
「秀くん、好きです。付き合ってください」
賑やかな音楽と、観客の歓声の中で、二人の間だけにはしんとした空気が流れた。冬哉は彼の反応を待つけれど、秀は表情を変えないまま、冬哉をじっと見ている。なんの反応も無いのが悔しくて、冬哉は誤魔化すために彼の腕を叩いた。
「ちょっと! 反応が無いから照れちゃったじゃん! どうだった? ちょっとはドキドキした?」
冬哉はトレーナーを乗せて泳ぐイルカたちに目を向けた。秀は無言で冬哉をじっと見ている。決死の覚悟で言ったセリフは、自分で台無しにしてしまった。けれどこれが冬哉の限界で、今の忘れて! と両手を振る。
「っていうか、男から告白されても嬉しくないよね。あはは、何でこんな事思い付いたんだろ!」
秀からの反応が無いのが悲しくなってきて、冬哉は一人で話し続けた。そうでもしないと気まずくて……泣いてしまいそうで必死に言葉を紡ぐ。
「秀くんも、何か言ってくれれば笑い話になるのに。もうっ、僕一人でバカみたいじゃんっ」
「冬哉」
乾いた笑い声を上げていた冬哉を、秀は呼び止めた。見ると、やはり感情の読めない顔で彼は冬哉を見ている。なぁに? と笑顔で振り返ると、秀は視線を落とした。
「……そういう事は、ふざけてやらない方が良いと思う」
「……っ」
もっともなことを言われて、冬哉は羞恥心で顔が熱くなった。それならそうと、ちゃんと嫌な顔をするなり、ハッキリ言葉にするなりしてよ、と冬哉は勝手ながら思って拳を握った。
(あ……ダメだ……)
冬哉の視界が急に滲んだ。慌てて秀に背中を向けると、溢れた涙がボロボロと床に落ちていく。
分かっている。自分で冗談だと言ったのだ、そう言われるのは当然だ。だから泣くのも筋違いなはずなのに、何かが壊れてしまったかのように、涙は止まらなくなってしまった。
「ごめん帰る。じゃあね」
これ以上秀といたら、精神が持ちそうにない。冬哉は顔を見せないように立ち上がると、逃げるように走り去った。
秀の反応は、やはり無かった。
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