【完結】アイドル俳優は裏の顔を暴かれたい〜愛に飢えた僕をミーハー社長が囲って溺愛するまで〜

大竹あやめ

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1 幕開け

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 暗くなった舞台に、スポットライトが当たる。

 強い光に照らされたはるかは、滲む視界で倒れた男を抱き起こした。

『こんな……こんなことをした奴を許さない……っ』

 抱き起こした男は黙っている。遥はクッ、と嗚咽を堪え、顔を上げた。

 許さない。自分の中の憎しみ全てを、暗い空間に向けて全力でぶつける。

 観客が固唾を呑む気配がした。しんとした、けれど緊張の糸がギリギリまで張り詰められた空気。悪くない。

 遥は腹に力を込め、地を這うような声を出す。

『復讐してやる……俺と仲間をこんな目に合わせた奴を……殺してやる!!』

 そう叫んだ直後、舞台が暗転し緊張感がありながらもドラマティックな音楽が大音量で流れた。遥はふうふうと肩で息をしながら、殺された仲間役の男と舞台から捌ける。

 観客からは遥の演技に魅了されたのか、拍手が沸き起こっていた。曲がフェードアウトし、客席が明るくなって、休憩が入るアナウンスが流れる。

 そこでやっと、遥は緊張を解いた。

「さ、後編の準備っ」

 いそいそと楽屋に戻ろうとすると、この舞台の協賛スタッフが数人舞台袖に来ていて、遥は笑顔で近付いた。

「おはようございます! 来て頂いてたんですね、嬉しい」

 とびきりの笑顔に高めの声を意識して声を掛けると、彼ら彼女らは「さすがですね」とか「お客さんも喜んでますよ」と褒めそやしてくる。

「いえいえとんでもない! 原作の素晴らしさに助けられてるなって感じますよ。……では準備もあるので失礼します」

 そう言って笑顔で別れ、狭い廊下を早足で歩いた。

「……よく言うよ」

 すれ違いざま、殺された仲間役の男がボソリと呟く。遥はニコリと男に笑顔を見せると、何も言わずに楽屋に入った。

 楽屋は遥専用の一人部屋だ。主役なのも理由のひとつだけれど、遥の芸歴は今年で二十一年と、年齢イコール芸歴だ。役者内では三番目に長い。

 そっと扉を閉めると、その扉に凭れて深く息を吐いた。

(さすがですね? 当然でしょ。観客を別世界に連れて行くのが役者の仕事だっつーの)

 心の中で悪態をつき、先程すれ違いざまに言われた言葉も思い出す。

(やだねぇこれだから底辺役者は。おべっか使う相手くらい見極めろよなー)

 また声には出さずにイライラとそう心の中で呟き、遥は鏡の前の椅子に座った。

 丸い電球型LEDライトが付いた鏡には、黒髪の、優しそうな青年がいる。大きなキラキラした目は黒目がちで、鼻と口は小さい。童顔と言われればそれまでだけれど、元々は若い女性に人気がある遥である。今は原作に合わせたビジュアルをしていて、おおよそ復讐なんて言葉と縁がなさそうな主人公だ。

 この話の主人公は、仲間の死をキッカケに犯人を独自に探し当て、むごい制裁を加えたうえ、そこから殺人鬼へと変貌していく。何とも救いのない話だけれど、大御所作家の話題になった作品であり、遥としても主役に抜擢されるのはありがたい。実力からしてもこの配役は当然だと思う。

 ただ、気が乗らないのだ。

 ため息をつき、化粧台に突っ伏そうとしたところでドアが強くノックされた。叩き方からして歓迎したくない相手と分かり、無視をする。

「遥、いるんでしょ」
「……なに」

 予想通りの人物の声がして気だるげに返事をすると、ドアが開いて女性が入ってきた。五十代になったのにその見た目は若々しく、芸能人と見紛うほどの美貌の持ち主だ。タイトスカートとピンヒールを履いた長い足を、大股で動かしツカツカとやってくる。彼女は谷本たにもと。遥のマネージャーである。

「前半、お疲れ様。これ観客の感想」

 そう言って彼女はスマホ画面をしっかりとネイルを塗った手で持ち見せてきた。気乗りしないながらもそれを見ると、予想通りの文言が書いてある。

 ハッシュタグをつけた舞台の感想は、原作者のファンか、原作のファンが書いたものが多い。

『主人公役の役者が優男過ぎて狂気が感じられない』
『誰だよ顔でキャスティングしたやつ』
『遥くん目当てで来たのに話が暗すぎ。つまんない』
『役者目当て(誰とはいわないが)で来るやつウザい』

 もちろん、これが観客全ての意見じゃないことは知っている。原作の人気もあるし、自分のキャラクターイメージとはかけ離れていることは分かっていた。

 問題は、この仕事を持ってきたのが今目の前にいる谷本で、わざわざ幕間にまでこうしてダメ出しをしてくることだ。

「千穐楽っていうのに……打ち上げのあとで反省会します」
「……はーい……」

 遥は突っ伏そうと前かがみになると、「メイクが取れるでしょ!」と彼女は言って止めさせた。そしてまた来た時と同じようにツカツカとピンヒールを鳴らして楽屋を出ていく。

「……やる前から分かってたことだろ……」

 ポツリと遥は呟いて時計を見る。そろそろスタンバイしないと、とのそりと立ち上がり、伸びをした。

 谷本との不仲によるこの言いようのない苛立ちを、誰かに気付いて欲しい。けれど、自ら声を上げるには自分のプライドが邪魔をする。

 「助けて」と「放っておいて」が混在するこの気持ちを、遥は十数年抱え続けてきた。それでもそこから抜け出すことができず、今もなお、もがき続けている。

「さ、後半も頑張りますかー」

 力が入っていない緩い声で、遥は意識的に笑顔を作り、楽屋のドアを開けた。
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