なぁ白川、好き避けしないでこっち見て笑って。

大竹あやめ

文字の大きさ
2 / 34

しおりを挟む
 洋のバイト先は、コンビニだ。大学へは実家からも通えるものの、なんだか落ち着かないので一人暮らしをしている。なので生活費諸々を稼ぐため、空き時間はほぼ、バイトに費やしていた。
 そしてコンビニの立地的に、多くの人が訪れる場所で忙しいものの、色んな人と話せるので洋はそれなりに楽しんでいる。

「あ、いつもありがとうございまーす」
「今日もいるのか。精が出るね」

 常連客の初老の男性は、いつも煙草をカートンで買っていく。洋は「これですよね?」と確認しつつ、商品をレジに通した。

「遊ぶお金欲しさに働いてるようなものですよ」
「学生のうちは、そんなもんでいいと思うぞ」

 そんな会話をしつつ、代金を受け取る。好きなことをやれるのは今のうちだぞ、と笑いながら彼は店を出ていった。

(好きなことかぁ……)

 それなら恋愛がしたい、と洋はレジ対応しながら思う。哲也たちと遊ぶのも、グループで遊ぶのも好きだけれど、「好きな子と二人で遊ぶ」ことは経験がない。
 そういえば、白川は告白された子と遊びに行っていたらしいな、と思い出す。好きになれない子と、二人で遊びに行くというのはどういう心理なんだろう?

「篠崎くん」

 一段落ついたところで店長から声をかけられた。眉を下げているので良くない話かな、と思って笑顔を見せる。

「ゴールデンウィークなんだけど、お祭りもあるし人数多めに入れたいんだ」
「ですよね。大丈夫ですよ」
「本当? でも、お祭り行きたいんじゃなかったっけ?」

 そういえば、彼女が無事できたあかつきには、このゴールデンウィーク中にある祭りに行きたい、と店長に話していたんだった、と洋は思い出す。人が良い店長は洋の告白を応援してくれていたから、それで申し訳なさそうにしているのか、と苦笑した。

「……振られたんで。なんならフルで入ってもいいですよ」
「本当に? うわー助かる! みんな祝日はお祭り行くのか、入れないって断られちゃって……!」

 もしかしたら哲也たちと行くかも、と考えたけれど、いつものメンバーだし変わり映えしないからいいか、と思い直す。
 そしてそのまま五月のシフトを組まれ、ゴールデンウィークの昼間はすべて出勤となった。出てくれる人がいないと店長が言っていた通り、祝日は店長と洋、そしてもう一人と、繁忙期の割にはギリギリの人数だ。 

「あ、洋ちゃん今日もバイト?」

 するとまた、常連のおばあさんから声をかけられる。近くに住んでいるらしく、座れるショッピングカートを押して主に食料品を買っていくのだ。声をかけられるのはなぜか年上が多いけれど、話すのは好きだしおばあちゃん子だったので気にならない。

「こんにちは。夕飯の買い物?」

 洋はレジカウンターから出ると、そのおばあさんの元へ行く。腰が曲がっていて棚の上の方は届かないため、洋が手伝うことが常になっていた。

「そうそう。明日の朝のとね」
「それならいつものパンだね」

 洋は棚から食パンを取ると、カートの上に置かれたカゴにそれを入れた。それから飲み物や漬物、惣菜などを入れると、彼女は珍しく栄養ドリンクをカゴに入れた。

「おばあちゃん、それ飲むの?」
「これは洋ちゃんの」
「え、いや、いいよ……」
「いつも手伝ってくれるお礼。ほら、会計するよ」

 強引にレジへ向かうおばあさんに、洋は苦笑した。正直好みの栄養ドリンクではないけれど、気持ちはすごく嬉しい。
 会計を済ませ、マイバッグに入った商品をカートに入れると、急にレジが混みだした。

「おばあちゃんありがとう。また来てね!」

 慌ててレジに戻って、歩いていくおばあさんを見送ると、彼女は笑顔で手を振ってくれた。

「……こういうことってよくあるの?」
「え? あ、ごくたまーにですけど」

 見ていたらしいサラリーマン風の男性が、微笑ましそうにしている。この客も、時々来る人だ。

「人柄だね。いつも見ていて気持ちいいよ。……ありがと」

 男性は小銭をちょうど出して、商品を持ち去っていく。洋も元気よくお礼を言うと、今の言葉を思い出して自然と笑顔になる。
 そう、仲良くなることは好きだし、こういう仕事は自分に向いているのだと思う。忙しくて肉体的疲労は多いけれど、やっぱり楽しいな、と。
 そうこうしているうちに、あっという間に就業時間が過ぎた。退勤処理をして店長と夜勤シフトの人に挨拶をして店を出る。外は駅が近いからか人通りはあるけれど、深夜だからか昼間の活気はない。
 洋は、この静かな時間帯を歩くのも好きだった。今日あった楽しかったことを反芻してニヤニヤしても、暗いから誰にも咎められない。

「……言われるうちが花、かまってもらえるうちが花、だよな」

 もちろん、今日みたいにいいことばかりじゃない。洋が至らなくて叱責を受けたこともある。けれどいつも心にあるのは、洋の祖母が言っていたこの言葉だ。
 洋は、祖母に面倒を見てもらっていた。両親は共働きで、幼稚園の送り迎えや学校の参観日などは、いつも祖母が来ていたように思う。本当に、昔ながらの祖母と祖父で、洋は寡黙な祖父のことが苦手だった。
 何を考えているのかわからない。そんな祖父なのに、祖母はいつも穏やかに接していた。だからとても不思議だったのだ。どうして祖父が言う前に、祖母は彼の望むことをしてあげられるのだろう、と。
 すると祖母は馴れ初めから丁寧に教えてくれた。
 お見合い結婚だった二人は、初めから仲が良かった訳じゃない。長い時間をかけてお互いを知り、「ここはこうかな?」と試行錯誤してきたからだと。そして祖父は、尋ねたらきちんと教えてくれる、と。
 その時の洋はなるほど、と感動した。ただ祖父は話すのが苦手なだけで、ちゃんと祖母を愛していたのだと知り、洋も祖父と話してみようと思っていた矢先だった。
 その祖父が、突然亡くなったのだ。のちに闘病していたのだとわかり、洋はとても後悔した。そして後を追うように、祖母も亡くなった。
 大きくなって、祖父の病気を二人が黙っていたのは、心配をさせまいという、彼らなりの愛だったとわかる。
 そして洋は思ったのだ、人を知ることは大切なことなのだと。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる

ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。 そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。 「一緒にコラボ配信、しない?」 顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。 これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。 ※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

僕の部下がかわいくて仕方ない

まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

流れる星は海に還る

藤間留彦
BL
若頭兄×現組長の実子の弟の血の繋がらない兄弟BL。 組長の命で弟・流星をカタギとして育てた兄・一海。組長が倒れ、跡目争いが勃発。実子の存在が知れ、流星がその渦中に巻き込まれることになり──。 <登場人物> 辻倉一海(つじくらかずみ) 37歳。身長188cm。 若い頃は垂れ目で優しい印象を持たれがちだったため、長年サングラスを掛けている。 組内では硬派で厳しいが、弟の流星には甘々のブラコン。 中村流星(なかむらりゅうせい) 23歳。身長177cm。 ストリートロックファッション、両耳ピアス。育ててくれた兄には甘えん坊だが、兄以外の前では──。 表紙イラストは座頭狂様に描いて頂きました✨ ありがとうございます☺️

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

処理中です...