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洋のバイト先は、コンビニだ。大学へは実家からも通えるものの、なんだか落ち着かないので一人暮らしをしている。なので生活費諸々を稼ぐため、空き時間はほぼ、バイトに費やしていた。
そしてコンビニの立地的に、多くの人が訪れる場所で忙しいものの、色んな人と話せるので洋はそれなりに楽しんでいる。
「あ、いつもありがとうございまーす」
「今日もいるのか。精が出るね」
常連客の初老の男性は、いつも煙草をカートンで買っていく。洋は「これですよね?」と確認しつつ、商品をレジに通した。
「遊ぶお金欲しさに働いてるようなものですよ」
「学生のうちは、そんなもんでいいと思うぞ」
そんな会話をしつつ、代金を受け取る。好きなことをやれるのは今のうちだぞ、と笑いながら彼は店を出ていった。
(好きなことかぁ……)
それなら恋愛がしたい、と洋はレジ対応しながら思う。哲也たちと遊ぶのも、グループで遊ぶのも好きだけれど、「好きな子と二人で遊ぶ」ことは経験がない。
そういえば、白川は告白された子と遊びに行っていたらしいな、と思い出す。好きになれない子と、二人で遊びに行くというのはどういう心理なんだろう?
「篠崎くん」
一段落ついたところで店長から声をかけられた。眉を下げているので良くない話かな、と思って笑顔を見せる。
「ゴールデンウィークなんだけど、お祭りもあるし人数多めに入れたいんだ」
「ですよね。大丈夫ですよ」
「本当? でも、お祭り行きたいんじゃなかったっけ?」
そういえば、彼女が無事できたあかつきには、このゴールデンウィーク中にある祭りに行きたい、と店長に話していたんだった、と洋は思い出す。人が良い店長は洋の告白を応援してくれていたから、それで申し訳なさそうにしているのか、と苦笑した。
「……振られたんで。なんならフルで入ってもいいですよ」
「本当に? うわー助かる! みんな祝日はお祭り行くのか、入れないって断られちゃって……!」
もしかしたら哲也たちと行くかも、と考えたけれど、いつものメンバーだし変わり映えしないからいいか、と思い直す。
そしてそのまま五月のシフトを組まれ、ゴールデンウィークの昼間はすべて出勤となった。出てくれる人がいないと店長が言っていた通り、祝日は店長と洋、そしてもう一人と、繁忙期の割にはギリギリの人数だ。
「あ、洋ちゃん今日もバイト?」
するとまた、常連のおばあさんから声をかけられる。近くに住んでいるらしく、座れるショッピングカートを押して主に食料品を買っていくのだ。声をかけられるのはなぜか年上が多いけれど、話すのは好きだしおばあちゃん子だったので気にならない。
「こんにちは。夕飯の買い物?」
洋はレジカウンターから出ると、そのおばあさんの元へ行く。腰が曲がっていて棚の上の方は届かないため、洋が手伝うことが常になっていた。
「そうそう。明日の朝のとね」
「それならいつものパンだね」
洋は棚から食パンを取ると、カートの上に置かれたカゴにそれを入れた。それから飲み物や漬物、惣菜などを入れると、彼女は珍しく栄養ドリンクをカゴに入れた。
「おばあちゃん、それ飲むの?」
「これは洋ちゃんの」
「え、いや、いいよ……」
「いつも手伝ってくれるお礼。ほら、会計するよ」
強引にレジへ向かうおばあさんに、洋は苦笑した。正直好みの栄養ドリンクではないけれど、気持ちはすごく嬉しい。
会計を済ませ、マイバッグに入った商品をカートに入れると、急にレジが混みだした。
「おばあちゃんありがとう。また来てね!」
慌ててレジに戻って、歩いていくおばあさんを見送ると、彼女は笑顔で手を振ってくれた。
「……こういうことってよくあるの?」
「え? あ、ごくたまーにですけど」
見ていたらしいサラリーマン風の男性が、微笑ましそうにしている。この客も、時々来る人だ。
「人柄だね。いつも見ていて気持ちいいよ。……ありがと」
男性は小銭をちょうど出して、商品を持ち去っていく。洋も元気よくお礼を言うと、今の言葉を思い出して自然と笑顔になる。
そう、仲良くなることは好きだし、こういう仕事は自分に向いているのだと思う。忙しくて肉体的疲労は多いけれど、やっぱり楽しいな、と。
そうこうしているうちに、あっという間に就業時間が過ぎた。退勤処理をして店長と夜勤シフトの人に挨拶をして店を出る。外は駅が近いからか人通りはあるけれど、深夜だからか昼間の活気はない。
洋は、この静かな時間帯を歩くのも好きだった。今日あった楽しかったことを反芻してニヤニヤしても、暗いから誰にも咎められない。
「……言われるうちが花、かまってもらえるうちが花、だよな」
もちろん、今日みたいにいいことばかりじゃない。洋が至らなくて叱責を受けたこともある。けれどいつも心にあるのは、洋の祖母が言っていたこの言葉だ。
洋は、祖母に面倒を見てもらっていた。両親は共働きで、幼稚園の送り迎えや学校の参観日などは、いつも祖母が来ていたように思う。本当に、昔ながらの祖母と祖父で、洋は寡黙な祖父のことが苦手だった。
何を考えているのかわからない。そんな祖父なのに、祖母はいつも穏やかに接していた。だからとても不思議だったのだ。どうして祖父が言う前に、祖母は彼の望むことをしてあげられるのだろう、と。
すると祖母は馴れ初めから丁寧に教えてくれた。
お見合い結婚だった二人は、初めから仲が良かった訳じゃない。長い時間をかけてお互いを知り、「ここはこうかな?」と試行錯誤してきたからだと。そして祖父は、尋ねたらきちんと教えてくれる、と。
その時の洋はなるほど、と感動した。ただ祖父は話すのが苦手なだけで、ちゃんと祖母を愛していたのだと知り、洋も祖父と話してみようと思っていた矢先だった。
その祖父が、突然亡くなったのだ。のちに闘病していたのだとわかり、洋はとても後悔した。そして後を追うように、祖母も亡くなった。
大きくなって、祖父の病気を二人が黙っていたのは、心配をさせまいという、彼らなりの愛だったとわかる。
そして洋は思ったのだ、人を知ることは大切なことなのだと。
そしてコンビニの立地的に、多くの人が訪れる場所で忙しいものの、色んな人と話せるので洋はそれなりに楽しんでいる。
「あ、いつもありがとうございまーす」
「今日もいるのか。精が出るね」
常連客の初老の男性は、いつも煙草をカートンで買っていく。洋は「これですよね?」と確認しつつ、商品をレジに通した。
「遊ぶお金欲しさに働いてるようなものですよ」
「学生のうちは、そんなもんでいいと思うぞ」
そんな会話をしつつ、代金を受け取る。好きなことをやれるのは今のうちだぞ、と笑いながら彼は店を出ていった。
(好きなことかぁ……)
それなら恋愛がしたい、と洋はレジ対応しながら思う。哲也たちと遊ぶのも、グループで遊ぶのも好きだけれど、「好きな子と二人で遊ぶ」ことは経験がない。
そういえば、白川は告白された子と遊びに行っていたらしいな、と思い出す。好きになれない子と、二人で遊びに行くというのはどういう心理なんだろう?
「篠崎くん」
一段落ついたところで店長から声をかけられた。眉を下げているので良くない話かな、と思って笑顔を見せる。
「ゴールデンウィークなんだけど、お祭りもあるし人数多めに入れたいんだ」
「ですよね。大丈夫ですよ」
「本当? でも、お祭り行きたいんじゃなかったっけ?」
そういえば、彼女が無事できたあかつきには、このゴールデンウィーク中にある祭りに行きたい、と店長に話していたんだった、と洋は思い出す。人が良い店長は洋の告白を応援してくれていたから、それで申し訳なさそうにしているのか、と苦笑した。
「……振られたんで。なんならフルで入ってもいいですよ」
「本当に? うわー助かる! みんな祝日はお祭り行くのか、入れないって断られちゃって……!」
もしかしたら哲也たちと行くかも、と考えたけれど、いつものメンバーだし変わり映えしないからいいか、と思い直す。
そしてそのまま五月のシフトを組まれ、ゴールデンウィークの昼間はすべて出勤となった。出てくれる人がいないと店長が言っていた通り、祝日は店長と洋、そしてもう一人と、繁忙期の割にはギリギリの人数だ。
「あ、洋ちゃん今日もバイト?」
するとまた、常連のおばあさんから声をかけられる。近くに住んでいるらしく、座れるショッピングカートを押して主に食料品を買っていくのだ。声をかけられるのはなぜか年上が多いけれど、話すのは好きだしおばあちゃん子だったので気にならない。
「こんにちは。夕飯の買い物?」
洋はレジカウンターから出ると、そのおばあさんの元へ行く。腰が曲がっていて棚の上の方は届かないため、洋が手伝うことが常になっていた。
「そうそう。明日の朝のとね」
「それならいつものパンだね」
洋は棚から食パンを取ると、カートの上に置かれたカゴにそれを入れた。それから飲み物や漬物、惣菜などを入れると、彼女は珍しく栄養ドリンクをカゴに入れた。
「おばあちゃん、それ飲むの?」
「これは洋ちゃんの」
「え、いや、いいよ……」
「いつも手伝ってくれるお礼。ほら、会計するよ」
強引にレジへ向かうおばあさんに、洋は苦笑した。正直好みの栄養ドリンクではないけれど、気持ちはすごく嬉しい。
会計を済ませ、マイバッグに入った商品をカートに入れると、急にレジが混みだした。
「おばあちゃんありがとう。また来てね!」
慌ててレジに戻って、歩いていくおばあさんを見送ると、彼女は笑顔で手を振ってくれた。
「……こういうことってよくあるの?」
「え? あ、ごくたまーにですけど」
見ていたらしいサラリーマン風の男性が、微笑ましそうにしている。この客も、時々来る人だ。
「人柄だね。いつも見ていて気持ちいいよ。……ありがと」
男性は小銭をちょうど出して、商品を持ち去っていく。洋も元気よくお礼を言うと、今の言葉を思い出して自然と笑顔になる。
そう、仲良くなることは好きだし、こういう仕事は自分に向いているのだと思う。忙しくて肉体的疲労は多いけれど、やっぱり楽しいな、と。
そうこうしているうちに、あっという間に就業時間が過ぎた。退勤処理をして店長と夜勤シフトの人に挨拶をして店を出る。外は駅が近いからか人通りはあるけれど、深夜だからか昼間の活気はない。
洋は、この静かな時間帯を歩くのも好きだった。今日あった楽しかったことを反芻してニヤニヤしても、暗いから誰にも咎められない。
「……言われるうちが花、かまってもらえるうちが花、だよな」
もちろん、今日みたいにいいことばかりじゃない。洋が至らなくて叱責を受けたこともある。けれどいつも心にあるのは、洋の祖母が言っていたこの言葉だ。
洋は、祖母に面倒を見てもらっていた。両親は共働きで、幼稚園の送り迎えや学校の参観日などは、いつも祖母が来ていたように思う。本当に、昔ながらの祖母と祖父で、洋は寡黙な祖父のことが苦手だった。
何を考えているのかわからない。そんな祖父なのに、祖母はいつも穏やかに接していた。だからとても不思議だったのだ。どうして祖父が言う前に、祖母は彼の望むことをしてあげられるのだろう、と。
すると祖母は馴れ初めから丁寧に教えてくれた。
お見合い結婚だった二人は、初めから仲が良かった訳じゃない。長い時間をかけてお互いを知り、「ここはこうかな?」と試行錯誤してきたからだと。そして祖父は、尋ねたらきちんと教えてくれる、と。
その時の洋はなるほど、と感動した。ただ祖父は話すのが苦手なだけで、ちゃんと祖母を愛していたのだと知り、洋も祖父と話してみようと思っていた矢先だった。
その祖父が、突然亡くなったのだ。のちに闘病していたのだとわかり、洋はとても後悔した。そして後を追うように、祖母も亡くなった。
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そして洋は思ったのだ、人を知ることは大切なことなのだと。
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