なぁ白川、好き避けしないでこっち見て笑って。

大竹あやめ

文字の大きさ
14 / 34

14

しおりを挟む
 一緒に何かを成し遂げるという行為は、互いの距離を縮めるものらしい。

 洋はそう思いながら、机に頬杖をついて目の前に座る白川を眺める。
 カラオケで滅多に披露しない歌声を聞かせた洋は、哲也たちに、思ったより下手じゃないという微妙な評価をもらった。しかしそれより驚いたのは、白川の歌がとても上手かったことだ。普段から大声は出さない彼らしく、声量はそれほどなかったものの、白川らしい透き通った声に洋は気もそぞろになり、いつも以上に歌えなかったことは認めよう。

(奥手だけど相手のこと考えてて優しくて、髪もサラサラで、イケメンで、歌声も綺麗とか)

 これは女子も放っておかないだろう。洋も自分が女性なら完全に惚れている。押しに弱いところを克服すれば、寄ってくる女の子の質も変化するかもしれない。
 洋は押しが強くない、かわいらしい女の子が白川の隣にいるところを想像した。そしてその妄想の中ではその子のことを白川も好きで、照れながらも視線を合わせている。

「……」

 あれ? と思う。何か落ち着かない。それは白川と、想像上の彼女が見つめ合っていることに対する違和感ではなく、白川に「どうしてそっちを見てるんだよ」と文句にも近い感情だった。

(う、……ええええ……?)

 洋は戸惑う。自分は白川の恋を応援しているはずなのに、どうしてそんなことを思うのか。なぜ、白川と女の子が笑い合っているところを、想像するだけで落ち着かないのだろうか。

「洋」
「ぅわあ! はいっ!」

 そんなことを考えていたら、直樹に呼ばれた。

「手が止まってる」
「そっ、そうだなっ」

 洋は慌てて姿勢を正し、机に向かう。今は洋の自宅で、四人で課題をやっている最中だったことを思い出し、手元のレポート用紙に視線を戻した。

(くそ……直樹があんな例えするからだ)

 直樹にしてみれば言いがかりも甚だしいだろうが、実際彼の発言から、自身の様子がおかしいことはわかっている。
 白川は、洋に憧れていると言っている。それなら自分に彼女ができれば、白川も後に続こう、と勇気が出せるのではないだろうか。

「あ、あの……」

 また考えに耽っていた洋に、声をかけてきたのは白川だ。洋は顔を上げると、遠慮がちにこちらを見る彼がいる。

「ちょっと、休憩する?」
「だなー。集中力もたん」

 白川の意見に賛同したのは哲也だ。直樹がため息をついて机の上を片付け始めたので、残りの三人も倣って片付ける。

「あー、女の子と付き合いてぇなー」

 洋は机に突っ伏しながらそう言うと、哲也も「俺もー」と言う。男四人で真面目に課題とか、と口を尖らせる哲也に、やはり遠慮がちに言ったのは白川だ。

「お、俺は楽しいけどな……。こういうの、あまりしたことなかったし……」
「そっかー。俺ら三人は一緒にいるのが普通だもんな?」

 哲也はそう言って、直樹から渡されたペットボトルのジュースを、白川に渡す。洋も哲也からお茶のペットボトルを渡されると、それを開けて一気に半分ほど飲んだ。

「じ、じゃあ、また四人で遊ばない?」
「お、いいねぇ」

 珍しく積極的な白川の意見に、どこに行く? と哲也は乗り気だ。スマホを取り出し、遊びに出掛けられそうな場所を探し始める。

「お、ちょうど来週末、入場料無料の音楽フェスやってる」

 どれ? と直樹が哲也のスマホを覗き込んだ。あ、と声を上げた彼は、視線を白川に移す。

「確かこのアーティスト、白川好きだって言ってたよね?」
「え? あ、うん。……そっか、このフェス出るんだ」

 行きたいなぁ、と嬉しそうに呟く白川。洋はそんな情報いつ直樹に話したんだよ、と内心思いながら、行こうか、と提案する。

(……なんで直樹が知ってて俺が知らないんだよ)

 やはりどうやら、洋が思うより、白川と直樹の仲は良いらしい。自分の知らない白川の情報を、人から聞かされることにどうしてこんなに心を乱されるのか。

(でも、それを正直に言ったら雰囲気を悪くする……)

 洋としても、そんなことをしたいわけじゃない。楽しく、みんなが笑っていられるようにしたいだけだ。
 洋はあえて明るく振る舞い、ついでだから集合場所と時間まで決めようか、と提案する。そして話しながらも、気になるのはなんといっても白川の態度だ。彼が話していて一番リラックスしたような表情を見せるのは、やはり直樹なのだ。

(……俺のこと好きなんじゃないのかよ?)

 ふとそんな感情が降りてきてハッとする。そして慌ててそれを否定した。白川は緊張して上手く話せないと言っていたし、そこを乗り越えようと、頑張ると宣言もしていた。急かしてプレッシャーをかけるのは嫌だし、しつこくして本当に嫌われてしまったらもっと嫌だ。

(ただ、仲良くなりたいだけなのにな……)

 それなのに、どうしてこんなにあれこれ考えなくてはいけないのだろう? 洋が直樹と仲良くなったきっかけは、考える余裕なんてなかったころだし、哲也に至ってはいつの間にか一緒にいた。そして彼ら以外の友達だって、話せば大体すぐに打ち解けていく。
 要は白川の心の壁が、いつまでも消えないことが嫌なのだ。

(……堂々巡りだ)

 結局、白川本人が解決することを、洋がいくら悩んでも仕方がない。洋は洋で、どうしたらこのモヤモヤを解決できるか、そちらを模索したほうが建設的だ。
 フェスの話題で盛り上がる白川が、ふと洋の視線に気付いて落ち着かなくなり視線を落とす。それまで笑っていた彼の顔が曇ってしまい、洋は苦笑した。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる

ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。 そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。 「一緒にコラボ配信、しない?」 顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。 これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。 ※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

僕の部下がかわいくて仕方ない

まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

流れる星は海に還る

藤間留彦
BL
若頭兄×現組長の実子の弟の血の繋がらない兄弟BL。 組長の命で弟・流星をカタギとして育てた兄・一海。組長が倒れ、跡目争いが勃発。実子の存在が知れ、流星がその渦中に巻き込まれることになり──。 <登場人物> 辻倉一海(つじくらかずみ) 37歳。身長188cm。 若い頃は垂れ目で優しい印象を持たれがちだったため、長年サングラスを掛けている。 組内では硬派で厳しいが、弟の流星には甘々のブラコン。 中村流星(なかむらりゅうせい) 23歳。身長177cm。 ストリートロックファッション、両耳ピアス。育ててくれた兄には甘えん坊だが、兄以外の前では──。 表紙イラストは座頭狂様に描いて頂きました✨ ありがとうございます☺️

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

処理中です...