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第17話

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 その後、駿太郎と友嗣は揃って自宅に戻る。駿太郎は夕飯がまだだったので、友嗣が喜んで作ると言い出し、具沢山のお雑煮を作ってくれた。正月らしい食事を、と思って餅を買っただけなのに、こんなに美味しい料理になるなんてとホクホクしながら食べる駿太郎を、友嗣もニコニコしながら眺めていた。
 そしてそれぞれ風呂に入り、揃ってベッドに入る。駿太郎は抱きつかれて眠り、起きたら朝だった。

「……」

 あまりにも自然に二人でベッドに入ったな、と悶えていると、友嗣の腕に力が込められる。

「行かないで……」

 小さい声だったけれど、彼は確かにそう言った。寝言なのかな、と思って顔を覗くと、うっすらと目が開いている。

「どこにも行かない」

 そう言って頭を撫でると、心地よさそうに目を伏せる彼。もしかしてと思って、駿太郎は尋ねてみる。

「俺がいなくて寂しかったのか?」
「うん……」

 素直に頷く友嗣がかわいくて、胸が甘く締めつけられながらも「ごめんな」と謝った。すると友嗣は、ううん、とはにかんだように笑うのだ。

(かわいい……)

 甘えられると弱い駿太郎は、多分兄だからというのもあるのだろう。かわいがりたいという母性本能がムクムクと湧き上がってくるのだ。

「友嗣、今日は何する?」

 本来は今日、実家から帰ってくるはずだったので、今日の予定は何もない。光次郎に挨拶せずに帰ってきたから文句は言われるだろうが、父に背中を押してもらったからか、気分は軽い。

「ん? シュンのしたいこと」

 目を細め、柔らかく微笑む友嗣はやはり綺麗だ。その顔が近付いたので思わず両頬を掴んで止めると、途端に彼の唇が尖る。

「こら、手は出さないって約束だろ?」
「えー? ほんとにここではしないの?」

 しない、と言いながら、駿太郎は起き上がりざまに友嗣の唇にキスをする。すると素早く腕を掴まれ、引き寄せられた。バランスを崩した駿太郎は友嗣の上に倒れ込むと、後頭部を押さえつけられ唇が合わさる。

「ちょ……っ」

 ほんの冗談だ、と離れようとした頭をまた引き寄せられた。ぬるりとした感触に肩を震わせると、目の前の男は嬉しそうに目を細める。

「ん、……んん……っ」

 がっちりと頭を押さえつけられ、逃げることができないまま口内を蹂躙された。上顎を舌先でくすぐられ、うなじがチリリとして思わず身体を起こそうとするけれど、かなわない。

「……あは、敏感」
「……るさい……」

 口を離した友嗣は満足気に笑った。こんなことで、しっかりと反応してしまう自分が恨めしい。駿太郎は友嗣を睨むけれど、迫力がないのは自分でもわかっている。

「シュンがしたいこと、しよ?」

 そう言いながら、友嗣は頬を撫でてくすぐってきた。崩れそうな理性を保ちながら、駿太郎は勢いよく友嗣から離れる。

「そうだデートしようそうしよう!」

 このまま流されたら一日ベッドから出られない自信がある。新年早々、そんな爛れた生活は嫌だし、恋人ならお互いの休日が合った時くらいは、恋人らしいことを……。

(いや、だから朝からはなしだ!)

 思わずまた流されそうになって、駿太郎はベッドから降りる。
 しかし友嗣の反応はない。気になって彼を見ると、驚いたような顔をしていた。
 そういえば同棲して数日間しか経っていないにも関わらず、友嗣のこういう表情をよく見ているな、と思う。何をそんなに驚くことがあるのだろう、と声をかけると、彼は戸惑ったように目を泳がせた。

(これも……そういえばヤッた時に見たな)
「……でーと?」

 心底不思議そうな声が友嗣からする。もしかして、と思って駿太郎は再びベッドに座った。

「そう、デート。もしかして初めてか?」

 友嗣の元恋人とはどういう関係だったのか、駿太郎は詳しく知らない。けれど、身体の関係があったことはよく知っている。ひょっとすると、今までそういう関係でしか、恋人を作ったことがないのかも、と思ったのだ。

「でーとって、なにするの?」

 そう言った友嗣の声は、一気に幼くなったように舌っ足らずになった。やはり今までの恋人は、恋人ではなくセフレだったのかな、と駿太郎は彼の頭を撫でる。

「二人で外に遊びに行くんだよ」

 あそびに、とオウム返しをする友嗣。どこに行きたい? と聞くと、それまで戸惑っていたようだった彼はにっこりと笑った。

「シュンが行きたいところ」
「……俺じゃなくて。友嗣が行きたいところを聞いてるんだけど」

 駿太郎はそう言うと、友嗣はあからさまに狼狽えた表情をした。二人でやりたいことはないかと問えば、シュンがしたいことならなんでも、と返ってくる。
 大きなため息が出た。すると友嗣は縋るようにこちらを見たのだ。

「シュン? ごめん、おこっちゃった?」

 ゆるして、と言う友嗣はやはり実年齢よりだいぶ幼く見える。上目遣いで見てくるのでかわいいと思うけれど、絆されているのを表に出すのは憚られた。代わりに、こほん、とわざとらしい咳払いをする。

「じゃ、ショッピングモールでも行くか? 混んでると思うけど」
「……っ、うん!」

 友嗣の顔がぱあっと明るくなった。背景に花でも飛びそうな勢いなので、駿太郎は思わず笑う。無意識に手を伸ばし、彼の頭を撫でると、友嗣はまた驚いたように目を見開いた。
 駿太郎はそれに気付き、パッと手を離す。

「あ、いや、悪い……」
「シュンー! 好きー!」
「ぅわ……っ!」

 抱きつかれてベッドに引き倒される。自分より体格がいい友嗣には、やはり力ではかなわない。

(ほんと、図体がでかいだけの子供って感じだな……!)

 ちゅうちゅうと顔に吸い付いてくる友嗣を放置し、彼の愛情表現が終わるまで、駿太郎は遠い目をしながら待っていた。
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