【完結】生真面目インキュバスは襲われたい〜だから飢えてなんていませんってば!〜

大竹あやめ

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5 やっぱり僕は、インキュバスです★

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 ニコが学校に着くと、早速風紀委員としての仕事が待っていた。

 バーヤーンがまた『洗礼』をしていたのだ。しかも校庭の真ん中で、堂々と。複数人で行わないのは正々堂々としていると思うが、相手はもう気を失っている。それ以上暴力を加える必要はないだろう、とニコは急いで止めに行った。

「またあなたですか! 『洗礼』は禁止だと……!」
「あ? うるせぇ。昨日大人しく俺に蹴られていたくせによく言う」

 バーヤーンは掴んでいた相手を投げ捨てると、案の定ニコに向かって拳を突き出してくる。耳元でシュッと風を切る音がして、遅れてニコの髪が揺れた。微動だにしなかったニコを見て、バーヤーンはなぜか嬉しそうに笑う。

「黒髪黒目を倒せば、俺も王になれるよな?」
「僕を倒しても王にはなれません。そんなことをすればあなたが魔王様に殺されますよ」
「……ふーん?」

 そう呟いたバーヤーンの青い目が怪しく光った。咄嗟に両腕をクロスさせて振り上げると、やはりその腕の間にはバーヤーンの腕がある。まったく、油断も隙もない。

「ったく! 何でこう毎回毎回邪魔しに来るんだよっ?」
「それはこちらのセリフです! 僕は僕の信条があって行動しているだけですから!」

 ババババッと素早く蹴りと拳が飛んでくる。ニコはそれを全ていなし、バーヤーンの片腕を掴んだ。

「何だよその信条ってのは……よっ!」

 ニコは、言葉と同時にもう片方の手で突きを繰り出してきたバーヤーンの手を止めた。両腕を掴んだ状態で腕を離せともがくバーヤーンに、ニコは押されつつも腕を抑える。

「あなたに言う義理はありませんっ」
「じゃあ俺と戦え!」
「嫌だ!」

 腕を振り離すとニコは走り出した。そして今のバーヤーンの言葉に違和感を持つ。『洗礼』がしたいなら自分より弱い者を捕まえて殴ればいい。もしかして彼がしたいのは弱い者を蹂躙することではなく、戦うことなのでは、と。

「あなたは、なぜそうまでして暴力を振るいたがるんですかっ!」
「うるせぇ! それこそお前に話す義理はねぇよ!」
「うわっ!」

 後ろからこぶし大の石が飛んできた。間一髪避けたものの、当たっていたら流血どころの話じゃなくなる。

「ちょこまかと……目障りな奴だ!」

 ザッ! とバーヤーンが地面を蹴る音がした。振り返るとバーヤーンが一直線に飛んできて、こぶしを振りかぶっているのが見える。

(……! 間に合わない!)

 とっさに受け身をすると強い衝撃がきた。少しの浮遊感があって背中を強打し、息が詰まる。

「ケホッ……ゲホゲホ……ッ」

 咳き込んで顔を上げると即座にまた息が詰まった。バーヤーンが壁に凭れたニコにのしかかり、首を絞めているのだ。

「俺はな、お前みたいなのが一番嫌いだ」

 綺麗なグレーブルーの髪が、サラリと落ちてきた。同じ色の瞳は憎悪に満ちていて、何がそんなに彼を怒らせているのか、とニコは首を絞めている手を掴む。

 しかし、バーヤーンの手は緩まない。容赦なく気道が狭まり、ニコは喘いだ。

 だめだ、落ちる。

 そう思った瞬間、フッと手が緩んで入ってきた空気に噎せた。どうしていきなり手を離したのかと彼を見ると、彼は全裸で大の字になって倒れている。

 どうして裸? と見回すと、朝方見た夢と同じ景色が広がっていた。

 雲ひとつない快晴、地平線まで続く草原──。

「……っ、僕まで裸!? 何で!?」

 自分の姿に驚き声を上げる。確かバーヤーンとやり合っているうちに首を絞められて、そのまま落ちたのだろう。ここが夢だというのは分かっているから、死んではいないようだけれど、とバーヤーンの様子を見る。

「う……」

 よかった、彼も生きているようだ、とホッとしていると、バーヤーンはのそりと起き上がった。

 ニコは慌てて自分の股間を両手で隠す。そして、尻を見せるのも何だか気が引けたので、中途半端に横を向いたところで、バーヤーンがニコに気付いた。

「あれ……何でお前、裸……」

 彼は眠りから覚めたようなぼんやりとした声で、グレーブルーの髪をわしわしと掻く。ニコはチラリと彼を見たけれど、やはり目を合わせられなくて視線を前に戻した。

「じっ、……自分の状況も確認してから言って欲しいですね……」

 ボソボソとニコが言うと、バーヤーンは「あ?」と不機嫌そうな声を上げる。

「……なんで俺も裸?」
「しっ、知りませんよ!」
「まあいいや、続きヤろうぜ」
「この状況でよく言えますねぇ!?」

 どうやらここがどこなのかも、なぜ自分が裸なのかも、バーヤーンは気にしていないらしい。少しは気にしろよと思うけれど、彼にとって戦闘こそが一番らしいと、仕方なく納得した。

 すると、バーヤーンがスンスンと鼻を鳴らす。

「何か、すげーいい匂いがする」
「へ? 何を呑気にそんなこと……」

 ニコは前を向いたまま、この夢から覚める方法を考えた。いずれ覚めるだろうけれど、この男と二人でいると戦闘になるだろう。それは嫌だ。

(現実で起こされない限り、覚めないのか?)

 まずいな、とニコは思う。これではお祖母様が持っていた「〇〇しないと出られない部屋」の御本のような展開になってしまう。そうなれば一体、何をしたら出られるのだろう。

 そんなことを考えていると、スン、と耳元で匂いを嗅ぐ音がした。驚いて耳を押えて振り返ると、やはり真後ろにバーヤーンがいる。

「な、なななななな何してるんですかっ!?」

 真後ろに立たれたのに気付かないなんて、と自分自身に愕然としていると、バーヤーンがいきなり腰に手を回して抱きしめてきた。

 ギク、とニコの身体が固まる。そしてこの夢の正体も分かってしまった。

「やっぱり……お前からいい匂いがする」

 バーヤーンの声は少し上擦っていた。ニコは腰に当たる硬くて熱いものの正体を、知りたくないと思う。できれば夢であって欲しいと願ったけれど、そもそもここが夢だ。

 認めたくない。ここが淫夢だなんて。

 そう、ここはニコの淫夢の中。セックスしないと覚めない夢なのだ。
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