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第137話
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先ほど思い出した我が師の薫陶に従うなら、原則として殺めた野生動物は余さず綺麗に頂かなければならないが… 巨大な熊だけあって肉の量が多すぎる。
各部位ごとに捌いた肉を獲物用の麻袋へ収め、運搬用の土橇で持ち帰るにしても、ある種の限度と言うものがあろう。
「已むを得まい、残りは此処を訪れる獣達に任せよう」
『ん、大神の眷属を呼ぶ。冬場の助け合い、大事』
こちらの意図を汲み、魔装具の首輪経由で念話を飛ばしてきた狼姿のウルリカは一家の事業失敗に伴い、借金奴隷となる以前は都市暮らしだったと聞くにも拘わらず、森人族のような台詞など宣って何度も遠吠えを響かせる。
そもそも、群れに属さない余所者を森の狼達が受け入れるのか、多少の疑問を抱いたところで黒毛の狼が鳴き止み、空に向けている顔を降ろした。
『これで何匹か偵察にくるはず、“縄張り” を主張した』
「…… 長居は無用だな、牙剥き出しで威嚇される未来しか見えない」
仮に相応の誘因力があっても、いきなり喧嘩を売ってどうするんだと戒め、横槍が入るのを避けようと迅速な撤収準備に取り掛かる。
傍に落ちている歯形付きのサケ科魚類や、ばらした熊肉に火と水の複合魔法による熱操作を施して、気化熱冷却と似た現象を引き起こせば、その表面が凍り付いた。
「これで鮮度は保たれるし、血の汚れも防げる」
『流石、ご主人… さすごしゅ?』
「省略する意味が微塵も分からん」
何故か、唐突に聞き慣れない造語を生み、自らの小首を捻らせた黒狼に突っ込んでから、次々と半冷凍の肉塊を大きめな麻袋に放り込でいく。
機嫌良さげにモフモフな尻尾を振る相棒に見守られつつ、せっせと詰め込んだそれらを袋ごと土橇の荷台に載せて、落ちないよう荒縄で括り付けて踵を返した。
俄かに降雪量が増えてきた王都郊外の森林地帯を黙々と歩き、待ち合わせ場所のある街道付近まで辿り着けば、外套を纏うリィナとフィアの姿が見えてくる。
大熊の解体に時間を弄したこともあって、随分と待たせてしまったのか、彼女達は拾い集めたと思しき枯れ木を焚火に焼べ、寒空の下で暖を取っていた。
「ダーリン、遅い!!」
「うぅう~、立ってるだけだと身体が冷えるんですよぅ」
こちらを睨んでくる琥珀色の吊り目や、蜂蜜色のジト目に迎えられるも華麗にスルーして、森の出口で人の姿へ戻ったウルリカが胸を張る。
「大物、仕留めた、褒めてもいい」
「いや、腰が引けてたじゃないか、お前……」
巨大な熊相手に尻尾が丸まっていた事実を告げてやると、人狼娘は “ぐぅ” の音を漏らして、ぴんと立てていた獣耳を伏せた。
女子修道院で育ち、年下の面倒も多くみてきた半人造の少女は微苦笑など浮かべ、表情を和らげながら励ますように話し掛ける。
「まぁ、羆なら仕方ないよね、怖くておっきいし」
「二人とも怪我が無くて何よりです」
「あぁ、確かにな… で、そっちは何が獲れたんだ?」
幼馴染と一緒に妹分を労っていた司祭の娘に問えば、やや得意げな表情となって、少し離れた場所にある土橇を一瞥した。
各部位ごとに捌いた肉を獲物用の麻袋へ収め、運搬用の土橇で持ち帰るにしても、ある種の限度と言うものがあろう。
「已むを得まい、残りは此処を訪れる獣達に任せよう」
『ん、大神の眷属を呼ぶ。冬場の助け合い、大事』
こちらの意図を汲み、魔装具の首輪経由で念話を飛ばしてきた狼姿のウルリカは一家の事業失敗に伴い、借金奴隷となる以前は都市暮らしだったと聞くにも拘わらず、森人族のような台詞など宣って何度も遠吠えを響かせる。
そもそも、群れに属さない余所者を森の狼達が受け入れるのか、多少の疑問を抱いたところで黒毛の狼が鳴き止み、空に向けている顔を降ろした。
『これで何匹か偵察にくるはず、“縄張り” を主張した』
「…… 長居は無用だな、牙剥き出しで威嚇される未来しか見えない」
仮に相応の誘因力があっても、いきなり喧嘩を売ってどうするんだと戒め、横槍が入るのを避けようと迅速な撤収準備に取り掛かる。
傍に落ちている歯形付きのサケ科魚類や、ばらした熊肉に火と水の複合魔法による熱操作を施して、気化熱冷却と似た現象を引き起こせば、その表面が凍り付いた。
「これで鮮度は保たれるし、血の汚れも防げる」
『流石、ご主人… さすごしゅ?』
「省略する意味が微塵も分からん」
何故か、唐突に聞き慣れない造語を生み、自らの小首を捻らせた黒狼に突っ込んでから、次々と半冷凍の肉塊を大きめな麻袋に放り込でいく。
機嫌良さげにモフモフな尻尾を振る相棒に見守られつつ、せっせと詰め込んだそれらを袋ごと土橇の荷台に載せて、落ちないよう荒縄で括り付けて踵を返した。
俄かに降雪量が増えてきた王都郊外の森林地帯を黙々と歩き、待ち合わせ場所のある街道付近まで辿り着けば、外套を纏うリィナとフィアの姿が見えてくる。
大熊の解体に時間を弄したこともあって、随分と待たせてしまったのか、彼女達は拾い集めたと思しき枯れ木を焚火に焼べ、寒空の下で暖を取っていた。
「ダーリン、遅い!!」
「うぅう~、立ってるだけだと身体が冷えるんですよぅ」
こちらを睨んでくる琥珀色の吊り目や、蜂蜜色のジト目に迎えられるも華麗にスルーして、森の出口で人の姿へ戻ったウルリカが胸を張る。
「大物、仕留めた、褒めてもいい」
「いや、腰が引けてたじゃないか、お前……」
巨大な熊相手に尻尾が丸まっていた事実を告げてやると、人狼娘は “ぐぅ” の音を漏らして、ぴんと立てていた獣耳を伏せた。
女子修道院で育ち、年下の面倒も多くみてきた半人造の少女は微苦笑など浮かべ、表情を和らげながら励ますように話し掛ける。
「まぁ、羆なら仕方ないよね、怖くておっきいし」
「二人とも怪我が無くて何よりです」
「あぁ、確かにな… で、そっちは何が獲れたんだ?」
幼馴染と一緒に妹分を労っていた司祭の娘に問えば、やや得意げな表情となって、少し離れた場所にある土橇を一瞥した。
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