悪役皇子、ざまぁされたので反省する ~ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ~

shiba

文字の大きさ
88 / 155

第88話

しおりを挟む
 成り行きで王都及び直轄領に於ける兌換だかん紙幣の導入、厳格な製造工程の管理にたずさわることが決まり、昨夜から学院生との二足の草鞋わらじ懸念けねんしていれば、目の前に焼き菓子が差し出される。

「大抵の悩みごとなんて、甘い物を口に入れると忘れますよ、若君わかぎみ
「一時的なものに過ぎないがな……」

「ん~、食べないなら、私がもらうけど?」
「待て… 何故、おごった挙句あげく、俺の分まで献上せねばならん」

 そそくさと円卓越しに伸ばされたリィナのフォークを自身の物で払い退け、元修道女シスターの店主が営む “女王蜂の巣レジナアプス ニードゥス” の代名詞でもあるワッフルに突き刺す。

 輸入品の砂糖や鶏卵、発酵させたパン屑、牛乳などを小麦粉に混ぜて練り上げ、二枚の鉄板で挟み焼いた生地にかじり付くと、優しい味が口腔こうくうにとめどなく広がった。

「確かに気はまぎれる、染みたバターとメープルシロップの味が絶妙だ」
「ふふっ、領主家の御贔屓ごひいきで新鮮な食材の仕入れには困らないのです」

「だからと言って無性にれば売値が高くなり、むしろ需要を減らすのでは?」

 もうすっかり、母と妹の御用達になっているため、やや高級志向にかぶれた印象はぬぐえないと指摘するも、ほがらかな笑顔で切り返される。

「そこは御客さんの懐具合ふところぐあいに合わせていますから、大丈夫ですよ」

 くるりと身をひるがえして、店の奥へ引っ込んだ女店主が茶表紙の品書きを手に戻り、こちらに手渡してくれたので目を通すと… いつも見せられているの品書きよりも、随分と良心的な価格帯の商品が並んでいた。

 異なる客層を意識した対応は商売の基本であるが、実際のところ良いかもにされていたと言えなくもない。

 勿論もちろん、常連客のリィナが知らない訳もなし、責めるように無言のまま見つめれば、そっと琥珀色の瞳をらされた。

「少しくらい、手加減しておごらせろ」
「うぐっ、だってさ、美味しいもの食べたいじゃない」

 あざと可愛い仕草しぐさで情状酌量を求めてくる彼女にほだされないよう、眉宇を引き締めながらも本日の用件を済ませるべく、9×19㎜ パラベラム弾の複製物が装填されたマガジンを円卓に載せる。

 それを認めた相手は瞠目どうもくして、感嘆の声を漏らした。

「凄っ、もうできたの!?」
「帰路の手慰みにたしなんでいたからな、一発あたり小金貨一枚、大事に扱えよ」

「え゛、なに、その高級な消耗品……」
「多分、火薬の湿気しけてない発掘物と同等か、まだ安いはずだ」
 
 驚くほど精緻な金属加工が求められる都合上、マナを魔力へえて干渉させれば自在に成型できる私物のミスリル銀も使ったが、何とか原物の価格以下に収めている。

 なお、複製弾の薬室には華国伝来の方法で調合した火薬が詰まっており、着火薬は硝酸液に水銀を溶かし込み、酒精エタノールも足して精製する雷酸水銀を採用した。

「商品化して売れないことは… あるな」
「うん、先史文明の自動式拳銃を持ってる人、極少数だからね」

 貴重な逸品いっぴんが手に入って嬉しいのか、ほくほく顔で弾倉を仕舞うリィナの言葉は事実であるものの、銃撃より身を護る対策は講じておいた方がいい。
 
 帝国に数体だけ現存する装甲騎兵ヒトガタが扱う短機関銃サブマシンガン擲弾筒バズーカなどの遺物も踏まえて、一枚一枚が強固な多層型魔法障壁の研究に着手しようと、二枚目のワッフルを食べつつ決心した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。 彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。 そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。 死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。 その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。 しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、 主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。 自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、 寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。 結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、 自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……? 更新は昼頃になります。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸
ファンタジー
異世界「エデンズガーデン」。 広大な大地、広く深い海、突き抜ける空。草木が茂り、様々な生き物が跋扈する剣と魔法の世界。 ダンジョンに巣食う魔物と冒険者たちが日夜戦うこの世界で、ある冒険者チームから1人の男が追放された。 彼の名はレッド=カーマイン。 最強で最弱の男が織り成す冒険活劇が今始まる。 ※この作品は「小説になろう、カクヨム」にも掲載しています。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

処理中です...