102 / 155
第102話
しおりを挟む
閑話休題、過去より今だと意識を切り替え、同輩らに傾注すべき在野の猛者がいないか、あてどなく視線を彷徨わせるも、空気を読まないオルグレンは続けざまに語り掛けてくる。
「個人的には右端の樹牢にいる猫虎人のセリアとか、見どころあると思うよ」
無視しても良かったが、肩を並べてきた相手の指さす場所を見遣ると、間断なく飛び掛かるカブ頭の精霊らを闘牛士のように躱す、猫耳と尻尾以外は只人と変わらない姿の獣人少女がいた。
振るわれた火爪や焔弾を危なげなく、俊敏な動きで避ける姿を眺めていたら、唐突に糸が切れたかの如く二体のジャック・オー・ランタンが静止する。
一拍挟んだ次の瞬間、彼らは互いに爪撃を仕掛け合って同士討ちした。
「獣霊支配の魔法、獣人なのに貴種の身なり… ランベイル家のご令嬢か」
「ご明察、優秀なものだよね、双子の妹はそうでもないけどさ」
苦笑交じりの言葉を受けて、右隣の樹牢へ意識を移せば瓜二つな猫娘が苛立ちつつ、ただ只管に攻撃から逃げ廻っている。
散発的に叫ばれる悲鳴が風に乗り、マナ制御で聴覚強化済みの耳にまで届いた。
「うぐッ、尻尾の毛が焦げたじゃない! 二対一とか聞いていないし!!」
これは不合格だろうなと見切りを付け、這う這うの体で降り注ぐ青焔を凌いでいる少女から意識を逸らした刹那、やけくそ気味な甲高い声が鼓膜を打つ。
「あぁ、もうッ、やってらんない! ご先祖様、きてきて、Come here!!」
荒ぶる呼び声に応じて、猫娘の前面にある空間が揺らぎ、発達した牙や肉裂歯を持つ巨大な猛獣の顎が忽然と現れるや否や、青い焔を纏いながら体当たりしてくるカブ頭の片方に齧り付いた。
光の粒子に変わった精霊が消えていく最中、虚空より顔だけ覗かせた幻獣 “白虎” が現状を把握して、若き頃に人と交わった末の子孫を訝しげな琥珀眼で一瞥する。
『くだらん、昼寝の続きに戻る。後は自分で始末しろ、セリカ』
「あ、ちょっと、まだ一体残って……」
思念波で呟いて引っ込む巨顔を遠目に眺め、魔獣の調教や育成販売で財を成したブリーダーの名門も後継者に難ありだなと、そんなことを考えている間に多くの樹牢で勝敗が着き、半数ほどの学生が樹上へ登ってきた。
少し焼けたドレスを気にするエミリア嬢や、湾曲短刀と櫛状刃を握り締めた侍女のイングリッド、口火を切ったものの精霊らに翻弄されて出遅れた不機嫌なレオニスも健在で、見知った顔に欠けはない。
「うちの公子も課題を乗り越えたようだし、雑談は此処までかな」
「お前、第二王子の “子飼い” だったのか?」
さらりと離れ際の言葉を切り出したオルグレンに問えば、はぐらかさずに然《しか》りと頷《うなづ》いて頭を掻いた。
「腐れ縁の付き合いだし、皆が諦めた学友らの捜索を傍仕えの騎士に命じ続けるような、義理堅い奴だからさ。もし、君が一緒に来てくれるなら、歓迎するよ?」
「いや、現王の跡目争いに関わるつもりはない」
「だろうね、分かっていたけど残念だ」
素気なく誘いを断られ、気まずそうに立ち去る拳闘士の背中を見送って、再び眼下の様子を窺うと… 最後の一人になっていた猫娘のセリカが奮闘しており、魔弾の乱れ打ちを重ねることで、徐々にカブ頭の精霊を追い詰めていく。
やがて狙い澄ました一撃が脳天を貫き、“探索許可証” をもらうための試験は終わりを迎えて、続けざまに合格者名簿への記帳と仮交付書の発行が行われた。
「個人的には右端の樹牢にいる猫虎人のセリアとか、見どころあると思うよ」
無視しても良かったが、肩を並べてきた相手の指さす場所を見遣ると、間断なく飛び掛かるカブ頭の精霊らを闘牛士のように躱す、猫耳と尻尾以外は只人と変わらない姿の獣人少女がいた。
振るわれた火爪や焔弾を危なげなく、俊敏な動きで避ける姿を眺めていたら、唐突に糸が切れたかの如く二体のジャック・オー・ランタンが静止する。
一拍挟んだ次の瞬間、彼らは互いに爪撃を仕掛け合って同士討ちした。
「獣霊支配の魔法、獣人なのに貴種の身なり… ランベイル家のご令嬢か」
「ご明察、優秀なものだよね、双子の妹はそうでもないけどさ」
苦笑交じりの言葉を受けて、右隣の樹牢へ意識を移せば瓜二つな猫娘が苛立ちつつ、ただ只管に攻撃から逃げ廻っている。
散発的に叫ばれる悲鳴が風に乗り、マナ制御で聴覚強化済みの耳にまで届いた。
「うぐッ、尻尾の毛が焦げたじゃない! 二対一とか聞いていないし!!」
これは不合格だろうなと見切りを付け、這う這うの体で降り注ぐ青焔を凌いでいる少女から意識を逸らした刹那、やけくそ気味な甲高い声が鼓膜を打つ。
「あぁ、もうッ、やってらんない! ご先祖様、きてきて、Come here!!」
荒ぶる呼び声に応じて、猫娘の前面にある空間が揺らぎ、発達した牙や肉裂歯を持つ巨大な猛獣の顎が忽然と現れるや否や、青い焔を纏いながら体当たりしてくるカブ頭の片方に齧り付いた。
光の粒子に変わった精霊が消えていく最中、虚空より顔だけ覗かせた幻獣 “白虎” が現状を把握して、若き頃に人と交わった末の子孫を訝しげな琥珀眼で一瞥する。
『くだらん、昼寝の続きに戻る。後は自分で始末しろ、セリカ』
「あ、ちょっと、まだ一体残って……」
思念波で呟いて引っ込む巨顔を遠目に眺め、魔獣の調教や育成販売で財を成したブリーダーの名門も後継者に難ありだなと、そんなことを考えている間に多くの樹牢で勝敗が着き、半数ほどの学生が樹上へ登ってきた。
少し焼けたドレスを気にするエミリア嬢や、湾曲短刀と櫛状刃を握り締めた侍女のイングリッド、口火を切ったものの精霊らに翻弄されて出遅れた不機嫌なレオニスも健在で、見知った顔に欠けはない。
「うちの公子も課題を乗り越えたようだし、雑談は此処までかな」
「お前、第二王子の “子飼い” だったのか?」
さらりと離れ際の言葉を切り出したオルグレンに問えば、はぐらかさずに然《しか》りと頷《うなづ》いて頭を掻いた。
「腐れ縁の付き合いだし、皆が諦めた学友らの捜索を傍仕えの騎士に命じ続けるような、義理堅い奴だからさ。もし、君が一緒に来てくれるなら、歓迎するよ?」
「いや、現王の跡目争いに関わるつもりはない」
「だろうね、分かっていたけど残念だ」
素気なく誘いを断られ、気まずそうに立ち去る拳闘士の背中を見送って、再び眼下の様子を窺うと… 最後の一人になっていた猫娘のセリカが奮闘しており、魔弾の乱れ打ちを重ねることで、徐々にカブ頭の精霊を追い詰めていく。
やがて狙い澄ました一撃が脳天を貫き、“探索許可証” をもらうための試験は終わりを迎えて、続けざまに合格者名簿への記帳と仮交付書の発行が行われた。
41
あなたにおすすめの小説
序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた
砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。
彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。
そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。
死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。
その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。
しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、
主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。
自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、
寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。
結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、
自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……?
更新は昼頃になります。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
(更新終了) 採集家少女は採集家の地位を向上させたい ~公開予定のない無双動画でバズりましたが、好都合なのでこのまま配信を続けます~
にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
突然世界中にダンジョンが現れた。
人々はその存在に恐怖を覚えながらも、その未知なる存在に夢を馳せた。
それからおよそ20年。
ダンジョンという存在は完全にとは言わないものの、早い速度で世界に馴染んでいった。
ダンジョンに関する法律が生まれ、企業が生まれ、ダンジョンを探索することを生業にする者も多く生まれた。
そんな中、ダンジョンの中で獲れる素材を集めることを生業として生活する少女の存在があった。
ダンジョンにかかわる職業の中で花形なのは探求者(シーカー)。ダンジョンの最奥を目指し、日々ダンジョンに住まうモンスターと戦いを繰り広げている存在だ。
次点は、技術者(メイカー)。ダンジョンから持ち出された素材を使い、新たな道具や生活に使える便利なものを作り出す存在。
そして一番目立たない存在である、採集者(コレクター)。
ダンジョンに存在する素材を拾い集め、時にはモンスターから採取する存在。正直、見た目が地味で功績としても目立たない存在のため、あまり日の目を見ない。しかし、ダンジョン探索には欠かせない縁の下の力持ち的存在。
採集者はなくてはならない存在ではある。しかし、探求者のように表立てって輝かしい功績が生まれるのは珍しく、技術者のように人々に影響のある仕事でもない。そんな採集者はあまりいいイメージを持たれることはなかった。
しかし、少女はそんな状況を不満に思いつつも、己の気の赴くままにダンジョンの素材を集め続ける。
そんな感じで活動していた少女だったが、ギルドからの依頼で不穏な動きをしている探求者とダンジョンに潜ることに。
そして何かあったときに証拠になるように事前に非公開設定でこっそりと動画を撮り始めて。
しかし、その配信をする際に設定を失敗していて、通常公開になっていた。
そんなこともつゆ知らず、悪質探求者たちにモンスターを擦り付けられてしまう。
本来であれば絶望的な状況なのだが、少女は動揺することもあせるようなこともなく迫りくるモンスターと対峙した。
そうして始まった少女による蹂躙劇。
明らかに見た目の年齢に見合わない解体技術に阿鼻叫喚のコメントと、ただの作り物だと断定しアンチ化したコメント、純粋に好意的なコメントであふれかえる配信画面。
こうして少女によって、世間の採取家の認識が塗り替えられていく、ような、ないような……
※カクヨムにて先行公開しています。
転生先の説明書を見るとどうやら俺はモブキャラらしい
夢見望
ファンタジー
レインは、前世で子供を助けるために車の前に飛び出し、そのまま死んでしまう。神様に転生しなくてはならないことを言われ、せめて転生先の世界の事を教えて欲しいと願うが何も説明を受けずに転生されてしまう。転生してから数年後に、神様から手紙が届いておりその中身には1冊の説明書が入っていた。
最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。
棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる