《戦》いの《鳥》と《少女》たちは二つの世界を舞う

たくみ

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23. 翼の追憶(前編)

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 今日は、我が家に世良さんがやって来る。
 前回、厄災の襲来で録に会話出来なかった為だ。
 ひいばあと世良さんが帰って来た時、勇馬くんは入れ違いに部屋に戻って行ったが、あの時の悲しそうな表情は忘れる事が出来ない。
 ひいばあも感じる所があったのだろう。
 なので、家に呼んだのだと思う。

 「羽音、テーブルを拭いておいて」

 「はい」

 ひいばあはいつになく張り切っているようだが、世良さんにとってもこちらで他所の家を訪れるのは初めてだし、まあ、ちゃんと"おもてなし"しなければならないというのは分かる。

 「母さん、忙しいとこ済まないけど」

 「浩平? どうしたの」

 (じいじ……)

 「株主総会の案内が来ているよ」

 「もうそんな時期なのね。 この成りでは人前には出られないから欠席するしか無いか……」

 「うーん、俺が変わりに行ければ良いのだけど、我が家は経営から一切手を引いたからねぇ。 前社長が行くのはちょっとはばかられるかな」

 結局、株主総会は欠席するしか無いようだが、こうなってしまうと、山代フーズの株をどのように処分するか頭の痛い問題だろう。
 今は考えても使用が無いのだが、そうこうしている内にインターホンが鳴る。

 「いらっしゃい、世良」

 「こんにちは、世良さん」

 「こんにちは、理音さん、羽音、今日は宜しくお願いします」

 玄関に立つ世良さんを家に招き入れ、客間に案内しようとするが、出掛けようと玄関に現れた人物がいる。

 「おにい、何処行くの?」

 「バイトだよ」

 「そっか」

 「この女性ひとがお客さんだね。 はじめまして、羽音の兄のーー……」

 どうかしたのだろうか、おにいは途中で固まってしまったのだが、世良さんもおにいを見つめたまま動かない。

 「どうやら私達、初めまして、では無いみたいですね」

 「うん、ちょっとびっくりかも。 こんな偶然あるんだ」

 「ええ! おにいと世良さん知り合いなの? なんで!」

 「いや、知り合いって程でも無いんだけどさ……」

 「朝に川沿いを走っているといつも途中で会うの、それから暫く一緒に走るのよ」

 二人の思わぬ接点に驚くが、いつまでも玄関に居ては何なので、世良さんは軽く会釈してひいばあと共に客間に移動する。

 「まさか、あの女性ひとがひいばあの知り合いだったなんて……。 そういえば何処に住んでいるんだろう?」

 「隣区だよ。 緑地の近くにあるタワーマンション」

 「マジか! そうなると十キロ以上走っている計算になるぞ。 あのペースで十キロ以上走っているのか……」

 世良さんの鍛え方は尋常では無い。
 バリバリ体育会系のおにいが驚いているのをして、その片鱗が見える。

 「キレイな人だな。 だけど結構痩せてるし、ちゃんと食べれてるのかな」

 「おにい、バイト」

 「あっ、そうだった」

 時間がギリギリなのか慌て玄関を出て行く。
 世良さんが痩せているのを気にしていたが、女性目線では羨ましいと思えるくらいでも、男性からすれば痩せすぎなようだ。


 「ここに座るのかしら?」

 「そうよ、でもその前に仏壇のある家では座る前にお参りをするの」

 「ああ、これが死者を祀る祭壇なのね」

 世良さんの言い方には違和感があるのだが、まだまだ日本の風習は勉強中という事なのだろう。

 「ふふ、仏壇、ね」

 ひいばあが見本を見せるので、それに習い世良さんもお参りする。

 「写真が飾ってあるわね。 この二人は?」

 「男性の方は私の夫よ。 女性の方は娘ね。 義理の、だけれど」

 「こうやって飾っておけば、何時でも故人を偲ぶ事が出来るという訳ね。 でも、思い出して辛くならない?」

 「流石にもう大丈夫よ」

 「羽音はどうなの?」

 「私は……」

 私と、ひいばあの二人に対する思いは違う。
 ひいじいは私が生まれた年に亡くなったので、当然思い出も何も無い。
 だが、ばあばは違う。
 小さい頃の思い出は、ばあばとのものが殆どで良く一緒に遊んで貰ったものだ。
 毎日、美味しいご飯を作ってくれた。
 雨の日も、風の日も保育園に送り迎えしてくれた。
 優しかったばあば……怒られた事など殆ど無い。
 まだまだ、一緒にいたかった。

 「羽音?」

 世良さんの声に「ハッ」となる。
 泣いてはいないだろうが、きっとそういう顔になっていただろう。

 「ごめんなさい。 私はもう少し、時間が掛かりそうですね」

  「あ、でも」

 私はある事を思い出した。

 「キレイさっぱり忘れてしまった人もいますね」

 ひいばあは一瞬険しい顔になるが、誰の事か直ぐに察しがついたのだろう。
 私は黙って視線を逸らす。
 絶対に訂正はしない。
 間違った事は言ってないからだ。

 「お茶を入れてくるわ」

 やれやれといった表情のひいばあは、席を立つ。
 後で説教タイムかもしれないが、一応覚悟の上での発言だ。

 二人きりになってしまったが、世良さんは特に話掛けては来ずに遺影を見ている。
 このまま黙っているのも何なので、話しかけてみる。

 「あの、世良さん」

 「ん、どうしたの?」

 「アスレアさんはどんな人だったんですか?」

 「んー、どんな人、か……」

 世良さんは腕を組んで考え込んでしまう。
 しまった、質問が抽象的すぎたかもしれない。
 だが、やがて世良さんは、思い立ったように返答する。

 「そうね。 顔はこんな顔よ」

 そう言うと、片方の手で豚の鼻を作りもう片方でタレ目を作る。

 思わず「ぶっ」と吹き出してしまった。
 ダメだ、こういった顔立ちなのであれば笑うのは失礼になってしまうのだが、正直この容姿では恋愛には発展しなかったのかもしれない。
 世良さんの美人な顔も台無しだ。

 「あとは、そう。 こんな顔」

 世良さんは顔をつぶしたり、広げたり変顔作りを始めてしまった。
 私は笑いを堪えて質問する。

 「フフ、世良さん? あのそれは一体……」

 「あちらに転移したばかりの時、気を失っていた私が目覚めると彼が居たの。 両親の姿が見えずに不安になって泣きじゃくると、彼はいないいないばあで、私の気を紛らわせてくれたのよ」

 そういう事だったのか。

 「優しい人なんですね」

 「そうね、でもそれだけでは無いの。 強くて逞しく、どんな逆境でも決して諦めない人。 彼のそういう所に惹かれて大勢の人達が集って帝国と戦う勢力は大きくなっていったの」

 世良さんは一呼吸おいて話を続ける。

 「私もその一人よ。 彼の夢を叶える為に共に戦った。 戦鳥の力を持つ事で私は常に彼の傍で戦い、そして、彼の夢が叶うその時を誰よりも傍で見る事が出来たの」

 「……世良さんはアスレアさんの事を好きだったんですか?」

 好奇心に負けて思わず聞いてしまった。
 好きな筈なのに、戻って来たのは家族の事だけが理由なのだろうか。

 「そう、好きだった。 愛していたわ。 でも……」

 でも、何だろうか。
 気になる、でも……ダメだ、ここから先は聞いてはいけない、そんな気がしてならない。

 「彼には婚約者がいたの。 神託によって定められた王妃が、私の恋は初めから実らないものだったのよ」

 ……私はバカだ、大バカ者だ。
 戻って来た時点で、何かがある事を察するべきだったのだ。
 それなのに、後先考えずに聞いてしまった。

 「ごめんなさい。 つらい事を思い出させてしまって」

 「いいのよ、彼の夢は叶ったの、それで十分。 それに、私には帰りを待つ家族がいたの、こうしてまた会えて本当に良かったと思っているわ」
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