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49. 共闘

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 「……ヒナ、あれは?」

 「そう……あれこそが、私達の真に望む力……」

 「大きな力だ」

 「ノーマ、貴女にも感じられたのね……あの力さえ、彼女さえいれば私達の勝利は間違いない」

 「……」

 「間もなく、不死鳥も戦いの神もやってくる。 それまで、露払いといこうかしら? フフフ」





 「ひいばあ! 大丈夫!?」

 強敵との激闘の後、辛くも勝利した死の翼……だが、その代償は大きいように思う。 何とか地上に降り立つもその翼は殆ど機能しておらず、落下するように地に足を付けた。
 そして、鳥の形態に戻ろうとするのだが、その動きはこれまでのように滑らかなものでは無く、どうにかやっと鳥の形態になり魔法陣に消えていく。
 魔法陣が消失すると緊張の糸が切れてしまったのだろうか。 ふらついて、前のめりに倒れこもうとするので、慌てて駆け寄り支えようと正面から抱き着いた。

 「お、重い……」

 何とか支えて持ちこたえるが、初めて厄災が現れた時今と似たような事があったなとふと思い出した。 あの時はひいばあに庇って貰ったから、これで仮を返す事が出来ただろうか……。 最大の危機が去ったので、私の中にも若干そんな事を考える余裕が生まれたように感じる。

 「う……ん……」

 「ひいばあ、どう? ケガしてない? 気分は……」

 「……大丈夫よ」

 私の肩に手を掛けて何とか自分の足で立つ。 自力で立つことが出来るようだが、まだ肩に手を掛けたままで、じっと私の目を見つめる。

 「どうしたの?」

 私の問いに対して肩の手を静かにどけるのだが、何かを言いたげな表情の後、ひいばあは軽くため息をつく。

 「……帰ったら説教よ」

 「……はい」

 本当は言いたい事があるのだろう。 だが、それを聞いてしまったが最後……もう元には戻れないようなそんな感覚に陥りながら、目を合わせづらくなってやや下をむく。


 「おーい」

 聞きなれた声が遠くから聞こえて来る。

 「大丈夫だった? あれ……その人は?」

 駆け寄ってくる人物の疑問は最もだ。 かつて私と一緒に居たところを見た事がある為、知り合いだと思っている事は間違いない。

 「この人は私の姉です。 実を言うと家族に内緒でここに来てたんですが、お姉ちゃんには行き先がバレてたみたいで……」

 「なるほど、それで気になって追いかけてきたんだね」

 上手く誤魔化す事が出来そうだ。 しかし、彼は今まで四階のフロアで何をしていたのだろうか。

 「それよりも一体何してたんですか? こっちは大変だったのに……」

 「え? ああ、ごめん。 実を言うとこれを探してたんだ」

 彼が手に持っていたのは普段は余り使用しない為、お目にかかる事のない道具である双眼鏡。 これを探し回っていた訳だが、ちゃっかりしていると言うか何というか……。

 「無断で借りる事になるけど、まあ、状況が状況だからさ。 後でちゃんと元に戻すし、キミの分もちゃんと用意してあるよ」

 「余り良い行いでは無いですけど……仕方ないですね」

 「あっ、お姉さんの分が無いね。 取ってこようか?」

 「いや、必要ないです。 これ以上黙って借りるのはマズいですよ」

 「そうだね……」

 こうして私達はあの巨大な厄災に対して、どのように戦鳥の戦士達が立ち向かうのか固唾を飲んで見守ることになった。




 「全く、倒しても倒しもキリが無い!」

 炎の翼で周囲の敵を焼き払っても次から次へと敵がやって来る為に遅々として本体に近づくことが出来ない。
 そんな中でもあの白き戦鳥、破邪の大翼は持ち前の突進力を生かして敵陣に切り込んでいくが、あれだけの敵に囲まれていても、回避を怠らずに次々と撃破していけるのは、やはりその性能を十二分に生かしているからに違いない。

 『私達も負けてはいられないね。 キア』

 「ええ……」

 『戦いの神の動きは必要最小限。 あの動きをモノに出来ればキミの稼働時間も更に伸びる。 そうは思わないかい?』

 己のまとう不死鳥の言葉に耳を傾けながらも、上位体を切り捨て鞭でコウモリを溶断する。 確かに近接格闘をメインとする戦いの神と私とは戦闘のレンジは同じだから学ぶところも多い。
 更には、あの自暴自棄に戦っていた時とはまるで違う、冷静で狡猾な戦闘スタイル……。 挙動に無駄が無いのだが、あのように効率の良い戦い方を習得出来れば自身にとっても更なる飛躍となるはずだ。 少なくとも今までのように稼働時間の短さであの二人に劣る事は無い。 強靭な再生能力の代償……いや、これは私の復讐の炎。

 この業火は時に己の身をも焼かんとするのだが、あの時……代々収めた領土を奪われた祖父の無念を晴らす為に私は戦鳥の戦士となったのだ。

 「炎よ! 我が敵を焼き払え!」

 再び、炎の翼で周囲の敵を焼き払う。 徐々に蓄積されていく熱を感じながらも大翼に追いつくべく、炎を熱く吹上ながら本体へと向かう。



 「たあっ!」

 敵の斬撃を身を丸めて躱し、その後回転しながら、かかと落としで上位体を頭から両断する。 この戦いで何体の厄災を倒したのか……だが、過去の戦いを含めればやはりあの時が一番の山場だったと思う。 あちらでの最後の戦いは総力戦だった。 皇帝を倒し新たな秩序を造る……その想いの一心で皆戦い、そして勝利したーー

 「私の想いは……彼の想いは果たされた。 そう思っていた」

 『そうだったな……だが、戦いは続いていた……まだ終わりは先のようだ』

 「そのようね」

 『……世良、これだけは言わせてくれ。 お前が戦い続ける限り、私も共に飛び続ける……例え何があってもだ』

 「ありがとう。 私はもう迷わないわ。 そう! 何があってもこの空に舞い、戦い続ける!」

 更に加速し、敵を屠りながら本体へと近づくとその大きさが改めて分かる。 これを撃破しなければこの国に、この世界に未来は無い。 そして、それには戦鳥の力を集結させる事が必須だが、あの蒼と翠の戦鳥は何処を飛んでいるのか……。

 「世良殿!」

 キアが無事に追いついて来たが、彼女の稼働時間にも限りがある。 もしかしたら、二つの翼は反対側で戦っているのかもしれないと思い、移動しようとしたその時ーー

 『世良! 塔の反対側から、来るぞ!』

 その言葉に回避行動を取ると、轟音と共に塔を貫通して雷撃がこちら側にも降り注ぐ。

 「くっぅ!」

 「うわっ!」

 私自身は大き目に回避したのだが、キアは回避が十分では無く雷撃を掠めてしまった。 だが、そこは不死鳥、直ぐにダメージは再生するのだが、タワーの上階とはいえまさか表体をも貫通する程の威力を持つとは……。

 「くぅ! よくも!」

 「落ち着きなさい! キア」

 ここで争っても仕方が無いので、急いで攻撃の放たれた方へ向かう。 すると、程なくして二つの翼を発見するのだが、こちら側が圧倒的に敵の数が多い事に気付く。 どうやらあちら側はあらかた殲滅して、新な敵が生み出されるまでタイムラグが発生していたようだ。 近づくにつれて敵の攻撃が弱まっていたのは、どうやらこの戦鳥が近づきやすいようにお膳立てしてくれたらしい。

 「彼女達と話がしたいわ。 繋げて頂戴」

 『了解』


 「貴女達、聞こえるかしら? 私の名は世良、まとう戦鳥の名は破邪の大翼よ。 ……それとも戦いの神、と言った方が伝わるかしら?」

 「……初めまして、お初お目にかかるわね。 私の名はヒナ、まとう戦鳥は堅牢なる護りの翼よ。 以後お見知り置きを」

 そこまで言うと翠の翼は丁寧にお辞儀をするが、この戦いのさ中でも随分と余裕に見える。

 「そこの、蒼い戦鳥は?」

 「彼女の名はノーマ。 まとう戦鳥は蒼き雷鳴の翼。 こちらもどうか、お見知り置きを」

 何故、彼女が変わりに紹介したのかは分からないが、とにかく二人に敵の倒し方の説明を行わねばならない。

 「あの本体は今のまま攻撃を加えていても倒す事は出来ないわ。 あの四つの赤いコアを破壊しなければ、永久に不可能よ」


 「断る……と言ったら?」

 「何をふざけた事を!」

 「キア、落ち着きなさい……。 ノーマと言ったかしら? 貴女にその選択肢は存在しないわ」

 「……ほう?」

 「あれがあちらの世界から来た事は間違いない。 こちらで人々を食い尽くした後、あちらに戻ればどうなるか……分からないとは言わせないわ」

 「……」

 「ノーマ、彼女の言う通りよ。 ……ここは一時休戦と行きましょう。 戦いの神、貴女の提案に従います」

 「分かったわ、ありがとう。 さ、行くわよキア。 理音さんの分まで頑張りましょう」

 「ええ、納得したわけではありませんが……このままでは本当にマズいですからね」

 
 ここに今、翼もつ少女たちの戦いの火ぶたが切って落とされた。 
 
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