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99. 王都探求(後編)
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「ここがアシャのうちか~」
聖獣の助言により王都へと繰り出し、人々の暮らしぶりを見て回っていたのだが、付き人である彼女の家が近いと言うので、立ち寄ってみたいと願い出で今に至る。
家とは言いつつ、そこは十階建ての集合住宅であちらでは所謂マンション、と呼ばれる建物内の一室がそうなるのだが、ここ王都バナンには背の高い建物が多く、都民の殆どは一軒家では無く、このような場所に住むのだと言う。
それにしても、外観は余りあちらと変わらないように見えるとして、建材として使用されているのは石のようでコンクリートのような材質であり、詳しくない為判然としない…。 そしてもう一つ気になる事があるのだが…。
「何か、どの建物も全体的に色が白いよね。 何でだろう?」
「建材に使用する塗料が中々手に入らないんです。 主に材料が産出される土地が真王国領なので…」
「そうだったんだ…」
都を設立した当初から、塗料不足に悩まされている間にも住む人は増える一方なので、止む無く建築を優先した結果、このように白い建物でひしめき合う事になってしまった。 総督府から眺めている時から、何となく味気ない風景だとは思ってはいたがまさかこのような事情があったとは…しかし、白い色は汚れが目立ち経年による劣化を隠しにくいので、実際の築年数より古ぼけて見えてしまうようにも思う。
「とにかく、上がりましょう」
「そうだね」
エレベーターで五階まで上がり、手前から四番目の扉の前で彼女は歩みを止めてカギを取り出す。
(カギも扉も仕様は大して変わらないか…でも、カードとかで開くようになってないという事は、この建物は意外と古いのかも…)
扉を開けると、まずがそこは玄関となるのだがこれはまあ、流石に何処でもそうだろう。 そして…。
「まずはここで履物を脱いで、室内履きに変えます」
「玄関で靴を脱ぐんだ…」
あちらと同じ共通点を見つけられたかもと思ったが、必ず室内履きに変えないといけないのでそこは違うと感じる。 因みに今履いている靴は生地を網目状に編んで、くるぶしまで覆うサンダルで通気性を優先しており、室内履きはというと、伸縮性のある素材でメッシュのような造りになっているので、これもまた通気性に重点を置いているようだ。
「ただいま、とは言っても誰も居ないか…」
アシャの呼びかけに答える者とは即ち家族となるのだろうが、その構成はどうなているのだろうと疑問に思ったまさにその時、奥の部屋から廊下を掛けて来る人物が現れる。
「お姉ちゃん、お帰りなさい!」
「トット! 学校はもう終わったの?」
「うん! 今日は午前中だけだから」
奥から出て来たのは幼い少年…。 彼女の事を姉と呼ぶので弟で間違いないだろうが、黒い髪に褐色の肌は健康そのものに見え、活発そうでいたずら小僧といったような雰囲気を醸し出している。
「お姉ちゃんはどうしたの?」
「ちょっと、お休みが貰えたのよ」
まだまだ甘えたい盛りなのだろう、しかし抱っこされているさまは弟というよりは息子といった感じなのだが、それは決して彼女が老けているとかでは無く、母性溢れる様相がそのように見せているのだ。
「…ねえ、この人だあれ?」
「私の職場の友達よ、仲良くしてね」
「うん!」
「こんにちは、私の名前は羽音、宜しくねトット」
「宜しく羽音ねえちゃん!」
言うが早いか、手を差し出してくるので握手かと思いきや、両の手を思い切り開いており、それは一直線に私の胸を目指していて、そして……。
「ターッチ!」
「ひやぁぁ!!」
余りの出来事にあ然としてしまうのだが、直ぐに身を引いて胸を抑える。 当然胸を鷲づかみにされた事などある訳が無いとして、まさかこのような小さい子供にこんな事をされるなんて、考えもしなかった。
「何するのよ!」
応える訳でもなく胸を揉んだ当人は手を突き出したまま、驚きの表情をうかべているのだが…。
「…ない!」
「無い? ……そんなわけあるかぁ! 少しだけとちゃんとあるわい!」
「え~…」
「こらっ! 私の大切なお友達に何てことするの!」
「ふえっ、ごめんなさい…」
「ああっ、よしよし分かればいいのよ」
「…なんかアシャ、弟に甘いんじゃない?」
「も、申し訳ございません、ついつい甘やかしてしまって…」
姉としてちゃんと叱ったかと思えば、弟が泣き出しそうになると直ぐに許してしまうという、激甘振りを露呈してしまうのだが、こちとら胸を揉まれた上に無いとまで言われたのだから、どのようにして落とし前を付けて貰おうかと思ってしまう。
「…おねいちゃん、ごめんなさい。 もうしません」
「うん? …まあ、分かればいいけど…」
深々と頭を下げるので、それ以上何も言えなくなってしまうのだが、反省しているようなので、ここは一つ気を取り直して、当初の目的である暮らしぶりを見る為に、部屋へと案内して貰う。
「ここがリビングかな?」
テーブル等の家具が置いてある比較的広い部屋に案内されると、少年は椅子に座り、ペンを持って本をめくる。 どうやら、学校の宿題のようだ。
「おっ、ちゃんと勉強してるんだ、えらいなあ」
「そうかな? へへっ」
褒められて照れくさそうにしているのだが、聞けば彼の年は五歳であちらで言えば、幼稚園か保育園に通っている年齢になる。 しかし、こちらではあちらで言う所の小学校に幼児クラスがあり、彼はそこで学んでいるのだという。
(この年から勉強を始めるんだ…にしても教育の制度というか仕組みはやっぱり違うんだな…)
「さあ、おやつにしませんか?」
「わーい、やった」
「ありがとう、頂きます」
羊羹のような菓子を食べながら部屋の説明を聞くと、リビングの他に部屋が二つあり、後はトイレとバスがあるのだが、これはユニット式では無く別々なのだという。
「あれ? そういえば台所は?」
「台所? ああ、あれですね」
アシャの指さす方は、リビングの片隅なのだが、一見しただけではキッチンとは分からない、何故なら…。
「ええ、こんなスペースしか無いの? 人ひとり分だよ…」
ベランダに通じる窓の一角には、IHヒーターのような物が備え付けてあるのだが、この下はオーブンになっているとして、まな板を置くようなまともなスペースは存在しない。 果たしてこれで台所と呼べるのだろうか…。
「料理はしないの?」
「皆屋台で買った物を食べるので、料理は基本的にしないです」
「えっ、三食とも?」
「私たち庶民は二食で済ませるんです。 三食食べるのは王侯貴族の習慣ですね」
「二食だけ…。 それじゃ、お腹空かない?」
「なので、このようにしておやつを摘まむんです。 昼休みの他に、午前中と午後に休憩を入れるんですよ」
「そうなんだ…」
こちらに来てから、今の今まで三食だったことを気にも留めていなかったのだが、二食だけというのは、よくよく思い出してみるとあちらでも江戸時代だかは確かそうだったはずだ。
それこそおやつの語源も昔の時間の数え方で、八つ時に食べていたからそう言うのであって、今の話にあったおやつは翻訳でそのように変換されているだけに過ぎない。
しかし、それとなるともう一つ疑問が沸いてくる。
「ねえ、お母さんの手料理というか、おふくろの味とかも無いの?」
「おふくろの味?」
聞けば、一般的な世帯は基本的に共働きであり朝から晩まで働くので、どちらか一方が家事を負担するという事は無いのだという。 故に母の手料理云々といったものは存在しないのだ。
「料理の為の台所を家に持っているのは、お金持ちの人です。 主にお手伝いさんを雇って作るんですよ」
まさか、台所を持っている事がお金持ちのステータスになるとは考えてもいなかった。 あちらでは当たり前の事もこちらではまるで違って来るのだ…。
「何か、学ぶことはまだまだ沢山あるんだろうな…」
「そうですね…でも、こちらの事を色々知って、好きになって貰えたら嬉しいです」
「うん、私頑張るよ」
「ふーん…おねいちゃん、この世界の事が知りたいの?」
「うん? うん、そうだよ」
「じゃあ、いいものを見せてあげる!」
言うが早いか、椅子から飛び降りると少年は一目散に隣の部屋に向かう。 なんでも一つは子供部屋のようなのだが、アシャが家を離れてからは、一人で使用しているそうだ。 部屋に入ると直ぐに戻って来るのだが、その手に何かを持っているのが確認出来るとして、それは何やら丸めた画用紙のようにに見える。
「じゃん、はいこれ」
「あっ、これってもしかして世界地図?」
「うん、おれの宝物なんだ! 凄いでしょ?」
「うん、凄い…のかな?」
世界地図は別段珍しいものでも無いように思うのだが、こちらではまだ全ての大陸が解明されていないのかもしれない。 そう思うのは、地図の一部に黒く塗りつぶされている箇所があるからなのだが…。
「この地図は、父の残したものなんです…」
「お父さん?」
「そうだよ、俺もいつか父さんのような探検家になるんだ!」
「探検家…」
何でも、二人の父親は探検家であり、世界地図を作る為にそれこそ世界中を回ったのだと言う…そして、未踏の地と呼ばれた北半球の最果て、あちらで言えば北極に相当する箇所を制覇すれば地図は完成するはずだった…。
しかし、探検の途中で仲間と共に行方不明になってしまったのだという…。
「そうだったんだ…何年前の話なの?」
「…二年前です」
「…父さんは生きているよ。 だから、おれが必ず見つけるんだ!」
「トット…」
「…そうだね、見つかると…いいよね」
この地図にまさかそのような経緯があるとは…。 二人の父親がそれこそ命を賭して作製したこの地図は間違い無く彼にとって宝物なのだろうが、見せてくれた事を有難いと思いつつ、地図を眺めていると、とある重大な事に気付く。
「あれ? これって…」
「どうしたのですか?」
「これって、これってもしかして……この地図、陸と海が逆転している!!」
「…陸と海が逆転?」
「うん、そうなの! ここと、ここ…それにこっちも海になっているけど、あちらでは大陸なんだよ!」
「一体どういうことですか?」
「え、なに? おねいちゃんたち何の話をしているの?」
何と言う事だろうか…見間違いかもしれないと思ったが、見れば見るほどそう思えてならない…。ユーラシア大陸やアメリカ大陸、南アメリカもそう、アフリカ大陸も、オーストラリアも全て海の底…変わりに太平洋や大西洋、インド洋等に大陸が存在するのだが、ここラウ王国がある大陸は太平洋に相当する。
勿論、海洋の面積が大陸を上回っているのはこちらも変わらず、南半球には小島が点在しており、全てが陸と言う訳では無い。 当然南極には大陸は存在していないのだが、それ即ち北極には大陸が存在していると言う事になる。
そう言えば以前、母がかつて購読していたオカルト雑誌を読ませて貰ったのだが、そこには幻と呼ばれる大陸が存在していたとまことしやかに書かれていた…。
正にラウ王国はあちらであれば、幻と呼ばれた大陸に存在する事になるのだが、それにしても大陸と海洋の逆転現象は、果たして何を意味するのだろうか…。
(あちらと、こちら、二つの世界には何か共通点のようなものがある…というの…?)
聖獣の助言により王都へと繰り出し、人々の暮らしぶりを見て回っていたのだが、付き人である彼女の家が近いと言うので、立ち寄ってみたいと願い出で今に至る。
家とは言いつつ、そこは十階建ての集合住宅であちらでは所謂マンション、と呼ばれる建物内の一室がそうなるのだが、ここ王都バナンには背の高い建物が多く、都民の殆どは一軒家では無く、このような場所に住むのだと言う。
それにしても、外観は余りあちらと変わらないように見えるとして、建材として使用されているのは石のようでコンクリートのような材質であり、詳しくない為判然としない…。 そしてもう一つ気になる事があるのだが…。
「何か、どの建物も全体的に色が白いよね。 何でだろう?」
「建材に使用する塗料が中々手に入らないんです。 主に材料が産出される土地が真王国領なので…」
「そうだったんだ…」
都を設立した当初から、塗料不足に悩まされている間にも住む人は増える一方なので、止む無く建築を優先した結果、このように白い建物でひしめき合う事になってしまった。 総督府から眺めている時から、何となく味気ない風景だとは思ってはいたがまさかこのような事情があったとは…しかし、白い色は汚れが目立ち経年による劣化を隠しにくいので、実際の築年数より古ぼけて見えてしまうようにも思う。
「とにかく、上がりましょう」
「そうだね」
エレベーターで五階まで上がり、手前から四番目の扉の前で彼女は歩みを止めてカギを取り出す。
(カギも扉も仕様は大して変わらないか…でも、カードとかで開くようになってないという事は、この建物は意外と古いのかも…)
扉を開けると、まずがそこは玄関となるのだがこれはまあ、流石に何処でもそうだろう。 そして…。
「まずはここで履物を脱いで、室内履きに変えます」
「玄関で靴を脱ぐんだ…」
あちらと同じ共通点を見つけられたかもと思ったが、必ず室内履きに変えないといけないのでそこは違うと感じる。 因みに今履いている靴は生地を網目状に編んで、くるぶしまで覆うサンダルで通気性を優先しており、室内履きはというと、伸縮性のある素材でメッシュのような造りになっているので、これもまた通気性に重点を置いているようだ。
「ただいま、とは言っても誰も居ないか…」
アシャの呼びかけに答える者とは即ち家族となるのだろうが、その構成はどうなているのだろうと疑問に思ったまさにその時、奥の部屋から廊下を掛けて来る人物が現れる。
「お姉ちゃん、お帰りなさい!」
「トット! 学校はもう終わったの?」
「うん! 今日は午前中だけだから」
奥から出て来たのは幼い少年…。 彼女の事を姉と呼ぶので弟で間違いないだろうが、黒い髪に褐色の肌は健康そのものに見え、活発そうでいたずら小僧といったような雰囲気を醸し出している。
「お姉ちゃんはどうしたの?」
「ちょっと、お休みが貰えたのよ」
まだまだ甘えたい盛りなのだろう、しかし抱っこされているさまは弟というよりは息子といった感じなのだが、それは決して彼女が老けているとかでは無く、母性溢れる様相がそのように見せているのだ。
「…ねえ、この人だあれ?」
「私の職場の友達よ、仲良くしてね」
「うん!」
「こんにちは、私の名前は羽音、宜しくねトット」
「宜しく羽音ねえちゃん!」
言うが早いか、手を差し出してくるので握手かと思いきや、両の手を思い切り開いており、それは一直線に私の胸を目指していて、そして……。
「ターッチ!」
「ひやぁぁ!!」
余りの出来事にあ然としてしまうのだが、直ぐに身を引いて胸を抑える。 当然胸を鷲づかみにされた事などある訳が無いとして、まさかこのような小さい子供にこんな事をされるなんて、考えもしなかった。
「何するのよ!」
応える訳でもなく胸を揉んだ当人は手を突き出したまま、驚きの表情をうかべているのだが…。
「…ない!」
「無い? ……そんなわけあるかぁ! 少しだけとちゃんとあるわい!」
「え~…」
「こらっ! 私の大切なお友達に何てことするの!」
「ふえっ、ごめんなさい…」
「ああっ、よしよし分かればいいのよ」
「…なんかアシャ、弟に甘いんじゃない?」
「も、申し訳ございません、ついつい甘やかしてしまって…」
姉としてちゃんと叱ったかと思えば、弟が泣き出しそうになると直ぐに許してしまうという、激甘振りを露呈してしまうのだが、こちとら胸を揉まれた上に無いとまで言われたのだから、どのようにして落とし前を付けて貰おうかと思ってしまう。
「…おねいちゃん、ごめんなさい。 もうしません」
「うん? …まあ、分かればいいけど…」
深々と頭を下げるので、それ以上何も言えなくなってしまうのだが、反省しているようなので、ここは一つ気を取り直して、当初の目的である暮らしぶりを見る為に、部屋へと案内して貰う。
「ここがリビングかな?」
テーブル等の家具が置いてある比較的広い部屋に案内されると、少年は椅子に座り、ペンを持って本をめくる。 どうやら、学校の宿題のようだ。
「おっ、ちゃんと勉強してるんだ、えらいなあ」
「そうかな? へへっ」
褒められて照れくさそうにしているのだが、聞けば彼の年は五歳であちらで言えば、幼稚園か保育園に通っている年齢になる。 しかし、こちらではあちらで言う所の小学校に幼児クラスがあり、彼はそこで学んでいるのだという。
(この年から勉強を始めるんだ…にしても教育の制度というか仕組みはやっぱり違うんだな…)
「さあ、おやつにしませんか?」
「わーい、やった」
「ありがとう、頂きます」
羊羹のような菓子を食べながら部屋の説明を聞くと、リビングの他に部屋が二つあり、後はトイレとバスがあるのだが、これはユニット式では無く別々なのだという。
「あれ? そういえば台所は?」
「台所? ああ、あれですね」
アシャの指さす方は、リビングの片隅なのだが、一見しただけではキッチンとは分からない、何故なら…。
「ええ、こんなスペースしか無いの? 人ひとり分だよ…」
ベランダに通じる窓の一角には、IHヒーターのような物が備え付けてあるのだが、この下はオーブンになっているとして、まな板を置くようなまともなスペースは存在しない。 果たしてこれで台所と呼べるのだろうか…。
「料理はしないの?」
「皆屋台で買った物を食べるので、料理は基本的にしないです」
「えっ、三食とも?」
「私たち庶民は二食で済ませるんです。 三食食べるのは王侯貴族の習慣ですね」
「二食だけ…。 それじゃ、お腹空かない?」
「なので、このようにしておやつを摘まむんです。 昼休みの他に、午前中と午後に休憩を入れるんですよ」
「そうなんだ…」
こちらに来てから、今の今まで三食だったことを気にも留めていなかったのだが、二食だけというのは、よくよく思い出してみるとあちらでも江戸時代だかは確かそうだったはずだ。
それこそおやつの語源も昔の時間の数え方で、八つ時に食べていたからそう言うのであって、今の話にあったおやつは翻訳でそのように変換されているだけに過ぎない。
しかし、それとなるともう一つ疑問が沸いてくる。
「ねえ、お母さんの手料理というか、おふくろの味とかも無いの?」
「おふくろの味?」
聞けば、一般的な世帯は基本的に共働きであり朝から晩まで働くので、どちらか一方が家事を負担するという事は無いのだという。 故に母の手料理云々といったものは存在しないのだ。
「料理の為の台所を家に持っているのは、お金持ちの人です。 主にお手伝いさんを雇って作るんですよ」
まさか、台所を持っている事がお金持ちのステータスになるとは考えてもいなかった。 あちらでは当たり前の事もこちらではまるで違って来るのだ…。
「何か、学ぶことはまだまだ沢山あるんだろうな…」
「そうですね…でも、こちらの事を色々知って、好きになって貰えたら嬉しいです」
「うん、私頑張るよ」
「ふーん…おねいちゃん、この世界の事が知りたいの?」
「うん? うん、そうだよ」
「じゃあ、いいものを見せてあげる!」
言うが早いか、椅子から飛び降りると少年は一目散に隣の部屋に向かう。 なんでも一つは子供部屋のようなのだが、アシャが家を離れてからは、一人で使用しているそうだ。 部屋に入ると直ぐに戻って来るのだが、その手に何かを持っているのが確認出来るとして、それは何やら丸めた画用紙のようにに見える。
「じゃん、はいこれ」
「あっ、これってもしかして世界地図?」
「うん、おれの宝物なんだ! 凄いでしょ?」
「うん、凄い…のかな?」
世界地図は別段珍しいものでも無いように思うのだが、こちらではまだ全ての大陸が解明されていないのかもしれない。 そう思うのは、地図の一部に黒く塗りつぶされている箇所があるからなのだが…。
「この地図は、父の残したものなんです…」
「お父さん?」
「そうだよ、俺もいつか父さんのような探検家になるんだ!」
「探検家…」
何でも、二人の父親は探検家であり、世界地図を作る為にそれこそ世界中を回ったのだと言う…そして、未踏の地と呼ばれた北半球の最果て、あちらで言えば北極に相当する箇所を制覇すれば地図は完成するはずだった…。
しかし、探検の途中で仲間と共に行方不明になってしまったのだという…。
「そうだったんだ…何年前の話なの?」
「…二年前です」
「…父さんは生きているよ。 だから、おれが必ず見つけるんだ!」
「トット…」
「…そうだね、見つかると…いいよね」
この地図にまさかそのような経緯があるとは…。 二人の父親がそれこそ命を賭して作製したこの地図は間違い無く彼にとって宝物なのだろうが、見せてくれた事を有難いと思いつつ、地図を眺めていると、とある重大な事に気付く。
「あれ? これって…」
「どうしたのですか?」
「これって、これってもしかして……この地図、陸と海が逆転している!!」
「…陸と海が逆転?」
「うん、そうなの! ここと、ここ…それにこっちも海になっているけど、あちらでは大陸なんだよ!」
「一体どういうことですか?」
「え、なに? おねいちゃんたち何の話をしているの?」
何と言う事だろうか…見間違いかもしれないと思ったが、見れば見るほどそう思えてならない…。ユーラシア大陸やアメリカ大陸、南アメリカもそう、アフリカ大陸も、オーストラリアも全て海の底…変わりに太平洋や大西洋、インド洋等に大陸が存在するのだが、ここラウ王国がある大陸は太平洋に相当する。
勿論、海洋の面積が大陸を上回っているのはこちらも変わらず、南半球には小島が点在しており、全てが陸と言う訳では無い。 当然南極には大陸は存在していないのだが、それ即ち北極には大陸が存在していると言う事になる。
そう言えば以前、母がかつて購読していたオカルト雑誌を読ませて貰ったのだが、そこには幻と呼ばれる大陸が存在していたとまことしやかに書かれていた…。
正にラウ王国はあちらであれば、幻と呼ばれた大陸に存在する事になるのだが、それにしても大陸と海洋の逆転現象は、果たして何を意味するのだろうか…。
(あちらと、こちら、二つの世界には何か共通点のようなものがある…というの…?)
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