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102. 不死鳥覚醒:絶体絶命編

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 「うーん…」

 「羽音様大丈夫ですか? 水と酔い止めの薬です、どうぞ」

 「ありがとう…ごめんね、迷惑かけて…」

 「いえいえ、お気になさらないで下さい」

 目的地までの道中、少しも時間は無駄に出来ないと思い、医療マニュアルを読んでいたのだが恐竜の牽引するバスのような乗り物内で、てき面に酔ってしまい今に至る。 文字が読めないので、アシャに訳してもらい書き込んでいたのがまずかったとして、とにかく薬を飲んで落ち着かねば、周囲の人々にも迷惑を掛けてしまう…。
 
 「あーあ、自分で言うのも何だけど、これじゃ先が思いやられるよねぇ」
 
 「頑張って下さい、羽音様ならきっとやれますよ」

 「アシャ…」

 そうだ、アシャの助言のおかげで今ここに居られるのだ…。 その想いを無駄にしない為にも、私はやらなければならない。

 (そうだよね、頑張らなきゃ…)

 決意も新たにし、体調の回復を優先する為にまずは少し休もうと思い、目を閉じる…が、そこへけたたましい警報音と共に、厄災の襲来を告げる声が聞こえてくる。

 「伝令ー! 厄災の襲来! 繰り返す! 厄災襲来!」

 「そんな!」

 まだ出発して間もないというのに、またしても厄災はその行く手を阻む。 とにかく進行は止まり、民間人は安全確保の為に軍隊に囲まれたこの場所から動かずにやりすごす事になるとして、兵士は私たちを守るように展開して襲撃に備え、段取り良く配置が進む。
 もしかしらた、このような自体は想定の範囲内なのかもしれない。 そんな事を考えていると、上空を飛来する影が見えるので、空を見上げると白と赤の翼が飛んで行くのがハッキリと見えた。 
 
 「世良さん、キア…もう行ったんだ」

 「羽音様、私たちもバスの中に…と言いたいところですが」

 「ところですが…?」

 

 「はぁ…思ったよりも早いわね」

 『すんなり行くとは考えていなかったが…』

 「隊列は伸び切っているので、側面に回り込まれたら厄介です」

 『地上部隊はそのつもりだろうね、最もそれはこちらも想定内…』

 (このタイミング…厄災は何かを仕掛けようとしている気がする。 出来れば地上は任せておきたい)

 『おっ、来たぞ!』

 正面から飛来する物体はどれも見たようなシルエットであるとして、人型の飛行体は何処にも見当たらない。

 『全て戦闘機型、なのか?』

 今回の飛行部隊には人型、所謂人形のようなタイプは存在しないのだが、機動力を優先したのかもしれない。 しかし、その形状がこれまでとは少し異なるのは、これまでの戦いのデータを元に改修を行った可能性がる。

 「形状がこれまでとは少し違う…何か仕込んでいるかもしれないら、気をつけて」
 
 「ええ…でも、余り速度が速いとは感じません、何故でしょう?」

 お互いに接近している筈なのだが、思ったよりも接触に時間が掛かっているように思う。 それ即ち厄災の飛行速度が遅いという事になり、機動力もそうでも無ければ前回の爆弾を搭載していた時と同じ過ちを繰り替えしてしまう事になる。 

 (あの形…あれはもしかして?)

 『来る!』

 こちらに向かって無数に飛んで来る物体があるのだがそれは…。

 「!あれは機雷です」

 「機雷? あの触れると爆発すると言っていた?」

 「はい、でもこれはサイズが小さい?」

 機雷を放出すると戦闘機型は反転し、機雷の外からの攻撃に転じようとしている。 どうやら、囲んでこちらの機動力を奪う作戦のようだが、それは爪が甘いとしか言いようがない。

 「突破する!」

 「応!」

 大翼は防御壁を展開し、機雷を物ともせずに突進して行く。 前回に比べてサイズが小さく威力が大幅に劣るので、防御する術を持っていれば脅威とは言い難いようだ。 だが、接近する大翼から逃げ回るようにして、十体の戦闘機型は機雷をばら撒いている。

 「私たちも続きましょう!」

 『うん、けどあの攻撃は厄介だね…地味にダメージは喰らう』

 「炎で焼き尽くせば問題ありません」

 それはそうかもしれない、だが力を消費し稼働時間を狭めながらの戦いは改善する必要があるにしても、一朝一夕にはいかないのが現実だ。 他に良い提案も無いので採用するしかない…。

 「さあ、行きましょう!」

 『待った、新手だ! 真上から!』

 「!?」

 上空を見上げると、接近してくる戦闘機型二体が見えるのだがこの二体、他とは様子がかなり違う。

 「撃って来た!?」

 光の矢を放ってくるので回避すると、すれ違いざまにその形容があからさまに違う事が改めて確認出来る。 まず一回り大きく、これまでと違い出力の高い光の矢を放つ事が出来る。 だが、撃ってきたのは一体のみで、もう一体は特に射撃用の武器を備えているようには見受けられなかったのだが、隠しているだけかもしれないので油断は出来ない。

 『撃ってきた、ミサイルか!』

 「くっ!」

 全てを回避出来ずに被弾してしまうが、これ位ならば問題は無いとして、この二体はこれまでとはまるで異なる。 少なくとも、光の矢とミサイルの両方を備えている厄災はこれまで存在しなかった。

 「やはり油断なりませんね…」

 何も仕掛けてこない方が気になるとして、まずは攻撃してくる方を撃破する。 こちらから、離れて距離を取るのは遠距離攻撃に徹しようということなのだろうが、相手の思い通りにさせまいと接近すると、その動きに変化が現れるのだが。

 『何だ?』

 「あれは…変形した!?」

 折りたたまれていた手足を展開し、人型に変形するとその容姿はかつて戦った事のあるタイプと酷似している事が判明する。

 「あれは…変異体に似ている!」

 手足は異なるが、あの肋骨の中に不気味に光る赤いコアと、むき出しの頭蓋骨はかつて死の翼を追いつめた個体そのものだ。 武装も同じだが、それに加えて背中にはミサイルを備えているので、以前より火力が向上している。

 「厄介ですね…」

 『見ろ、もう一体も!』

 何もしてこなかった個体も変形すると、変異体と同じような形状になるが、決定的に違う部分もある。

 「なっ、腕が六本!?」

 六本の腕が展開し、その先端はいつぞやの光の刃を回転させる武器を備えており、砲のような物は見当たらない。 恐らくあれは接近戦に特化したタイプのようだが、二体共ほぼ変わらない形状をしているように見えて、六本腕はやや装甲が厚ぼったく感じる。 

 「…一方は火力を向上させた遠距離攻撃型で、もう一方は接近戦用の武器を増やした近距離攻撃型、と言う訳ですね」

 『二体で一対という事かな?』

 変形したての近距離攻撃型は回転する六つの刃を振り回しながら接近し、六方向から一斉に攻撃を繰り出す。

 「甘い!」

 「ギン」という音と共に、背中から生えている右上の腕を本体から切り離す。 大振りでモーションが丸見えという何ともお粗末極まりない攻撃だったので、居合いの要領で斬撃を繰り出すと容易に一本を無効化する事に成功する。

 「腕が多ければ良いというものではありません!」

 素早く距離を取り、他の腕の攻撃を回避すると剣を構える。 このままヒットアンドウェイで戦えば、他の腕を切り落としてしまうのもそう難しい事では無いだろうと思ったその時、光の矢とミサイルの波状攻撃が襲ってきた。

 「ぐっ!」

 『この為の遠距離型か』

 近距離型との戦闘に集中しすぎれば、遠距離型の餌食になってしまうのだが、何とか攻撃を避けると再び近距離型が襲ってくる。 

 「まだまだ!」

 先ほどと同じようにして、次は左上と左中央の腕を切を落とすのだが欲張りすぎたせいで、回避が間に合わず残り三本の腕を受け止める。

 「くっ!」

 ここは流石に押し切れないとは思うのだが、攻撃を受け止め押しあいをしていると、次の瞬間信じられない光景を目の当たりにしてしまう…。

 「パキン」

 「なっ! そんな!!」

 乾いた金属音と共に、何と剣が折れてしまった…。 最早攻撃を受け止める事は出来ずに後ろに下がるが、そこに光の矢の攻撃を受ける。

 「うわっ!」

 『大丈夫か、キア!』

 「…そ、それよりも、剣が…」

 『何と言う事だ…』

 剣は根元から折れてしまい、柄だけを握りしめている状態になってしまうのだが、攻撃の要でありメインの武器である剣を失ってしまった…。
 正に絶体絶命のピンチ…果たして今回も戦いに勝利する事が出来るのだろうか…。
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