《戦》いの《鳥》と《少女》たちは二つの世界を舞う

たくみ

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114. 分かり合える翼、分かり合えぬ翼

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 「理音さんは、己の半身を失おうとしているのよ」

 その言葉にやや戸惑ってしまうのだが、半身とは何を指すのか…その答えは言わずもがなかもしれないが、念のために確認してみる。

 「まさか、戦鳥に何かあったんですか?」

 「…死の翼は、もうすぐ力尽きてしまうわ」

 「そんな!?」

 確かに戦える状態では無かったのだろうが、まさかそこまで事態が深刻だとは思わなかった。 しかし疑問は尽きない、何故ならばこの世界であれば、戦鳥を修理する事が出来るのでは無いかと考えていたからだ。

 「トヨテテさんは翼は蘇ると予言しました。 あれは間違いなんですか?」

 「そう、死の翼は蘇る筈だったの…でも計算が狂ってしまった」

 「計算が…狂う」 
 
 「ここに来る途中に見た、雲に覆われた高い山を覚えてる?」

 「…はい、あの山が何か関係あるんですか?」

 「そうよ、あそこには唯一戦鳥の傷を癒す事の出来る神の住まう家が存在するの」

 「神の住まう…家」

 世良さんは話を続ける。 あの山は、神の住まう聖なる山として信仰されているのだが、先ほども言われた通りこの世界で唯一、戦鳥の修理を行う事が出来る施設が存在するのだ。
 山頂にあるその施設に行けば、死の翼を修理し復活させる事が出来たのだが、そうは出来なかったさる理由があり、それは山頂を覆うあの厚い雲が関係している。

 「あの雲が侵入を阻んでいるのよ」

 「阻む?」

 あの雲は、重要な施設を守るべく張られた結界であり、まともに雲に侵入しても必ず外に出すような仕組みになっているのだと言う。 恐らく内部は空間がゆがめられおり、どうやっても辿り着けないようになっているとして、当然そのままでは戦鳥の修理を行う事は不可能だ。

 「では、神の住まう家に行くにはどうすればいいんですか?」

 「雲を払うのよ」

 辿り着く為には雲を払う必要があるのだが、その唯一の方法として古来より伝わる、祈りの儀式が存在する。 そして、この儀式は誰でも行えるものでは無く、長年修行を積んだ雲払いの神官によって執り行われ、祈りが通じて初めて施設に立ち入る事が出来るようになるのだ。
 しかし、実施出来ていないという事は、何らかしらのトラブルがあったという事だろう。
  
 「雲が払えていないのは、何か原因があるんでしょうか」

 「神官が何者かの襲撃を受けてしまったの」

 「!?」

 儀式が執り行われる神殿に侵入した人物に襲われてしまい、神官は帰らぬ人となってしまった。 残されたのは修行中の者ばかりであり、正王国は雲を払う儀式を行う事が出来なくなってしまったのだが、それにしても神官を襲うという卑劣極まりない蛮行は一体何処の誰によるものなのだろうか。

 「神官を襲ったのは…」

 「真王国の手の者と見て間違いないわ」

 「…卑怯だと思います」

 「そうね、でも手段を選んでいられないのもまた事実よ、私たちは戦争をしているのだから」

 戦鳥の修理が不可能となれば、数の上で不利になる事は無い上に自陣が有利になるという算段があったのだろう。 それこそ、戦いには卑怯も汚いも無く、どんな手を使ってでも勝つ事が出来ればそれで良いのだ。

 「でもね、妙なのよ」

 「妙、とは?」

 「雲は真王国の祈りに対しても反応しないの」

 「えっ! どうしてですか?」

 「分からないわ、でも諜報部の報告によると、何度祈りを捧げても雲に変化が無かった為に、かなり問題になっているそうよ」

 「でも、それって…」

 「このような状態が続くのであれば、いずれ全ての翼は飛べなくなってしまうわ」

 「!……」

 「私たちは見放されてしまったのかもしれない…人の争いに戦鳥の力を使ってしまったのだから」

 「そんな……」

 翼を全て失えば、厄災に対抗する有力な手段は失われてしまう。 そうなった時、いやそうならない為にも私は…。


 「羽音!」

 「!ひいばあ…」

 片腕を自由に動かす事が出来ない状態にも関わらず、全力で走ってきた為か肩で息をしている。 私の事を心配してくれているのだと思うのだが、先ほどの事もあり今は正直気まずいというのが本音だが…。

 「さっきはごめんなさい、言い過ぎてしまったわ」

 「ううん、私の方こそごめんなさい、酷い事を言ってしまって…」

 「私は自分の事で手一杯になってしまって、貴女の事をちゃんと考えてあげれて無かった…守るだなんて偉そうな事を言って…」

 「そんな事無いよ、私もひいばあが辛いって知らなかった…ずっと一緒だった翼を失うのは耐えられないよね」

 「羽音、本当にごめんなさいね」

 それだけ言うと、片腕でも私の頭に腕を回して抱きしめてくれる。 幼い頃、辛い事があるとこうやって私を抱きしめてくれていた…ばあばとの思い出に隠れてしまいがちになってしまうが、ひいばあもちゃんと想ってくれているのだ。

 「うんうん、雨が降って地固まる、で合っているかしら?」

 私たちが仲直り出来た事で、世良さんも一安心といった所なのだろう。 その笑みにつられて私もひいばあも笑ってしまうのだが、ようやく戦いに勝利した安堵が訪れたように感じた、筈だったのだがーー


 「世良殿!!」

 突如として辺りに響く大きな声の主はこちらをジッと見つめているが、その視線の先にいるのは叫んだ名前の持ち主だ。 キアの様子はただならぬ様相だが、私たちの知らない間に何かあったのだろうか。

 「やはり納得がいきません! 何故あの二人を見逃したのですか!?」

 「キア?」

 「圧倒的だった!! どちらかを仕留める事が出来れば、真王国に完全に勝利出来たのに!」

 「圧倒的?」

 その言葉には戸惑いしかない…確かに世良さんは強い、それは間違いないのだがあの二人もそれなりの強さは備えている筈なのだ。 それなのに終始優位に戦い退かせたというのであれば、それは一体どういう方法なのだろうかと考えずにはいられない。
 

 「……そうね、本当の事を言うわ…私はもう人を殺さないと誓ったの、だから見逃したのよ」


 世良さんの真剣な眼差し…しかし、それとは打って変わって、キアの表情は真逆へと転じる。

 「ハッ、ッハハ……戦いの神が? 不殺の誓い?」

 「…そうよ、貴女ももう、人を殺めてはいけない」

 「ッ! 馬鹿馬鹿しい!!」

 掴みかかろうとしたその手は逆に掴まれてしまい、微動だに出来なくなったのであろうキアは、半ば呆気にとられてしまい、困惑している。

 「キア、聞きなさい…貴女もいつか愛する人と結ばれて新しい命を授かる時が来るの…我が子を血にまみれた手で抱く事があってはならないのよ」

 「なっ!」

 「世良さん…」

 「そんな…そんな先の事! 分かるものですか!!」

 掴まれた手を振りほどき、踵を返えしてこの場を離れ立ち去ろうとするキアの複雑な表情は、自身に向けられた言葉を全否定しているようには見えなかった。 世良さんもまた、憂いを帯びた表情でキアを見送るのだがあの言葉は、単に倫理観や道徳といったものから発せられたものでは無く、己の経験則から得た最適解のように思う。
 それはつまり……。

 「私たちのこの手は、人の命を奪う為では無く、新しい命を育む為にある…そうじゃない?」

 「……」

 「世良…」

 三人共、暫く無言で佇んでしまうのだが、やがて世良さんに動きがある。 

 「まだ、行く所があるから失礼するわ」

 「行く所? 疲れているんじゃありませんか? 余り無理しない方が…」

 「確かめたい事があるの」

 確かめたい事、が気になるのでひいばあと共に何となく後をつけて行く。 当然気付いているとして特に何も言わないという事はついて行っても問題無いのだろう。 
 中庭沿いの外回廊を抜けて更に屋敷内の廊下を移動すれば、別館へと繋がる廊下に辿り着くのだが、そこが今どのような使い方をされているのかは、別館から出て来た人物によって察する事が出来る。

 (!あの人はさっきの…)

 今しがた世良さんとすれ違いこちらへ来るあの赤い髪の女性は、あの時私が選べなかった男性に付き添っていた人物…。 黒のタグを渡された男性が見当たらないのは、あの別館内に居るからなのだろうが、こちらの視線に気づいた女性兵士はこちらに目を見やるが、直ぐに視線を外してしまう。
 私とすれ違う時も何も無かったのだが、何か言われるのでは無いかと思ってしまい緊張してしまった。 振り向いて見ても、その距離はどんどん離れて行くにも関わらず、その後ろ姿から視線を外す事が出来ない。 
 
 「羽音」

 「うん…」

 気を取り直して別館の扉の前まで移動すると、そこに世良さんも佇でいたのだが扉の横にある立て看板に何が書いてあるのかは、読めずとも察する事が出来る。 恐らくはこのように書かれているだろう。

 死体安置所、と…。
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